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第一章「彼女にしか見えないもの②」
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午前中のアキラは浮足立っていた。あの憧れの百合葉と話せて、しかも名前まで憶えてもらったのだから。
「すっごく優しかったの!」
「良いですね。私もお話ししてみたいなあ」
「アキラ、ラッキーだったじゃん!」
テンションの高いアキラの話に根気よく付き合ってくれるのは、親友の二人、閏寺ちこ と柚木瑠莉だ。
「本当ラッキーだったと思う。今度みんなで話せたらいいね」
「そうですね。でも私は生徒会長の藤堂薫様ともお話してみたいです」
夢見心地な顔をしながらちこが話す。パーマがかった髪の毛を編み込みにして二つ縛りにしている。
「あっ、ちこリンは薫派なんだー。私はどっちも好きだけどなぁ」
快活そうに話す瑠莉はパッツン前髪のボブカット。
「ま、でも私の一番はやっぱり俳優のSYO―GOだけどね!」
「出たー。最終的に瑠莉はいっつもそれだよね」
「本当に大ファンですものね」
「当たり前でしょ! あんなにかっこいい人はこの国中どこ探してもいないもん!」
「ちょっとミステリアスな所はステキかもね」
学院の人気者から全国的な人気者の話になった所で、丁度チャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。
「起立」
日直の当番が声をかける。
「おはようございます」
挨拶が済み、朝のホームルームが始まる。今日の予定を淡々と話すのは、越谷悠一郎先生。アキラ達の現在の担任だ。先生は本当は副担任だったのだけれど、4月の初っ端に元担任の森沢先生が産休に入ってしまい担任に昇格したのだ。結構ルックスも良く生徒達からは人気がある。
「そんなわけだがー、一つ注意喚起をしたい事がある」
予定を話終えた先生が突然何やら神妙な面持ちとなる。
「昨年から騒がれているから、皆はインターネットやテレビのニュースかなんかで一度は聞いた事があると思う。色々な事例はあるようだが、大きく分けて二つだ。人の皮膚がある日突然化膿したようにドロドロになる、また、目の前の物が突然歪んで使い物にならなくなる。ありえないような出来事だが、この二つの事件が事実、世界各地で起き始めている」
「知ってる~! こないだテレビで見たよ。皮膚がすごい気持ち悪い事になってる映像も出ててめちゃ怖かったぁ」
「ラインで“かかると怖いゾンビ病”とかってニュースになってたらしいよ」
先生の話が終わらない内に教室内では声が上がる。
隣の席のちこが話しかけてくる。
「アキラ知ってました?」
「うん、テレビで見た。うちのおじいちゃんは『我が国ではそんな奴出ないわい』とか何とか訳のわかんない自信に満ち溢れてる事言ってたけど……怖い病気かなんかだと思っていたよ」
「怖いですね…」
先生が皆の喧騒を遮って話を続ける。
「ははっ。皆他人事だよな。こんな昔読んだSF漫画みたいな出来事、実際に世の中で起こるとは先生は思わなかったし知った時は恐ろしかったぞ。まあ……話は戻るがこれらは皆ウイルス感染か何かだと言う見方と、何かの薬品を人体や物に注入して引き起こすテロだと言う見方もある。そうなってしまった人達は、はっきりした治療法も無く病院で廃人のような生活を送っているそうだ。物に関しては全く使い物にならなくなるらしくそのまま国の研究機関に送られている」
「そんな恐ろしい話なんだが、それがだな……今朝、うちの国でも初めての被害報告が出たらしい。花咲町とは全然離れた町ではあるが……」
ざわっと教室内が騒がしくなる。
「年齢は五十代くらいの男性だそうだ。朝、電車のホームで待っている間に突然皮膚が爛れ始め気を失ったそうだ。すぐに救急車で病院に運ばれたようだが……何とか一命を取り留めると良いな。現場は警察の捜査が入って騒然としているそうだよ」
「テロの可能性も否定しきれない状況だ、うちの国は自己防衛策を持っていない人がほとんどだから心配だよなあ。皆も決して夜の一人歩き等はしないようにするんだぞ。後、今のところはウイルス感染の線が強いので、感染対策にうがい手洗いなんかはしっかりするように心がけるように!」
「うちの国でもなんてどうしましょう…」
ちこがおびえている。
「ね、怖いね。早く治療薬見つかるといいな。テロとかじゃきっと無いよね」
そんなひそひそ話をしているうちに先生の話も終わりを迎えた。
「それではー、朝のホームルームを終わります」
何だかどんよりとした雰囲気のまま次の授業が始まる。教科は数学だった。
「今日は教科書百三十ページからだな」
先生が教壇に立つ。数学の北条先生は、授業中、特に誰かを指名したりせずに話を進めていくので、そんなに緊張感も無くアキラは授業に参加していた。ふ、と黒板に目をやると先生がチョークで数式を書きこんでいる。その背中に、何か黒いモヤモヤとしたものが漂っている事にアキラは気付いた。見間違えかと思い何度も目をこすったが、やはりモヤモヤは消えない。目を瞑ってから深呼吸をする。もう一度黒板に目をやると、モヤモヤは無くなっていた。それからは何度目を凝らしても先生の背中にモヤモヤを見る事は無かった。
「すっごく優しかったの!」
「良いですね。私もお話ししてみたいなあ」
「アキラ、ラッキーだったじゃん!」
テンションの高いアキラの話に根気よく付き合ってくれるのは、親友の二人、閏寺ちこ と柚木瑠莉だ。
「本当ラッキーだったと思う。今度みんなで話せたらいいね」
「そうですね。でも私は生徒会長の藤堂薫様ともお話してみたいです」
夢見心地な顔をしながらちこが話す。パーマがかった髪の毛を編み込みにして二つ縛りにしている。
「あっ、ちこリンは薫派なんだー。私はどっちも好きだけどなぁ」
快活そうに話す瑠莉はパッツン前髪のボブカット。
「ま、でも私の一番はやっぱり俳優のSYO―GOだけどね!」
「出たー。最終的に瑠莉はいっつもそれだよね」
「本当に大ファンですものね」
「当たり前でしょ! あんなにかっこいい人はこの国中どこ探してもいないもん!」
「ちょっとミステリアスな所はステキかもね」
学院の人気者から全国的な人気者の話になった所で、丁度チャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。
「起立」
日直の当番が声をかける。
「おはようございます」
挨拶が済み、朝のホームルームが始まる。今日の予定を淡々と話すのは、越谷悠一郎先生。アキラ達の現在の担任だ。先生は本当は副担任だったのだけれど、4月の初っ端に元担任の森沢先生が産休に入ってしまい担任に昇格したのだ。結構ルックスも良く生徒達からは人気がある。
「そんなわけだがー、一つ注意喚起をしたい事がある」
予定を話終えた先生が突然何やら神妙な面持ちとなる。
「昨年から騒がれているから、皆はインターネットやテレビのニュースかなんかで一度は聞いた事があると思う。色々な事例はあるようだが、大きく分けて二つだ。人の皮膚がある日突然化膿したようにドロドロになる、また、目の前の物が突然歪んで使い物にならなくなる。ありえないような出来事だが、この二つの事件が事実、世界各地で起き始めている」
「知ってる~! こないだテレビで見たよ。皮膚がすごい気持ち悪い事になってる映像も出ててめちゃ怖かったぁ」
「ラインで“かかると怖いゾンビ病”とかってニュースになってたらしいよ」
先生の話が終わらない内に教室内では声が上がる。
隣の席のちこが話しかけてくる。
「アキラ知ってました?」
「うん、テレビで見た。うちのおじいちゃんは『我が国ではそんな奴出ないわい』とか何とか訳のわかんない自信に満ち溢れてる事言ってたけど……怖い病気かなんかだと思っていたよ」
「怖いですね…」
先生が皆の喧騒を遮って話を続ける。
「ははっ。皆他人事だよな。こんな昔読んだSF漫画みたいな出来事、実際に世の中で起こるとは先生は思わなかったし知った時は恐ろしかったぞ。まあ……話は戻るがこれらは皆ウイルス感染か何かだと言う見方と、何かの薬品を人体や物に注入して引き起こすテロだと言う見方もある。そうなってしまった人達は、はっきりした治療法も無く病院で廃人のような生活を送っているそうだ。物に関しては全く使い物にならなくなるらしくそのまま国の研究機関に送られている」
「そんな恐ろしい話なんだが、それがだな……今朝、うちの国でも初めての被害報告が出たらしい。花咲町とは全然離れた町ではあるが……」
ざわっと教室内が騒がしくなる。
「年齢は五十代くらいの男性だそうだ。朝、電車のホームで待っている間に突然皮膚が爛れ始め気を失ったそうだ。すぐに救急車で病院に運ばれたようだが……何とか一命を取り留めると良いな。現場は警察の捜査が入って騒然としているそうだよ」
「テロの可能性も否定しきれない状況だ、うちの国は自己防衛策を持っていない人がほとんどだから心配だよなあ。皆も決して夜の一人歩き等はしないようにするんだぞ。後、今のところはウイルス感染の線が強いので、感染対策にうがい手洗いなんかはしっかりするように心がけるように!」
「うちの国でもなんてどうしましょう…」
ちこがおびえている。
「ね、怖いね。早く治療薬見つかるといいな。テロとかじゃきっと無いよね」
そんなひそひそ話をしているうちに先生の話も終わりを迎えた。
「それではー、朝のホームルームを終わります」
何だかどんよりとした雰囲気のまま次の授業が始まる。教科は数学だった。
「今日は教科書百三十ページからだな」
先生が教壇に立つ。数学の北条先生は、授業中、特に誰かを指名したりせずに話を進めていくので、そんなに緊張感も無くアキラは授業に参加していた。ふ、と黒板に目をやると先生がチョークで数式を書きこんでいる。その背中に、何か黒いモヤモヤとしたものが漂っている事にアキラは気付いた。見間違えかと思い何度も目をこすったが、やはりモヤモヤは消えない。目を瞑ってから深呼吸をする。もう一度黒板に目をやると、モヤモヤは無くなっていた。それからは何度目を凝らしても先生の背中にモヤモヤを見る事は無かった。
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