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第二章「《KAKERA》①」
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「それにしても、上手い事休校に出来て良かったですね」
「ああ、タイミングは非常に良かった。まあ、国の一大事が起きた、という点においてはあまり良くないのだが……」
気が付くとアキラは病室のような場所に居てベッドの上で眠っていた。そこには年齢は三十代半ばくらいの白衣を着た男と二十代くらいのスーツ姿のサラリーマンのような男が居て話をしている。その男の横には学生らしき少年もいるようだった。
国立南城都総合病院、アキラが連れて来られた場所、ここは国が管理する総合病院の一つである。南城都の中でも“田舎”と呼ばれる幸磨市にあり、四方を田畑で囲まれた場所に建つ。病棟の他に救命や人工透析等各センター、また、研究の為の施設も併設されており、全部で十数棟を構える巨大施設である。休診日は無く、毎日のようにあらゆる症状の患者が訪れ、診察・入院・手術等が行われている。
「よく眠る奴だなぁ、あいつ」
「もうそろそろ起きるだろう。そうだ、都にもここに来てもらうか」
「分かりました。では、呼んできましょう」
スーツ姿のサラリーマンが部屋を出ていく。アキラは“都”と言う言葉に反応するかのように目を開け、ゆっくりと起き上がる。
「おっ起きた!」
「やっとお目覚めか。具合はどうか、話せるか?」
アキラは言葉が出てこない。
「いきなり話しかけられても困るわよ☆ それにレディの寝室に男三人がいたら普通ビックリするわよねぇ?」
そう言いながらさっきの男とは別に新たに部屋に入って来た派手な格好の女がアキラの頬に手を触れる。
「はーい、ベイビィちゃん。オハヨウ☆」
「っっ一体皆さんどなたですかっ? お爺ちゃんはどこ? そう言えば、百合葉先輩がいたような気が……百合葉先輩っ!」
起き上がり、一気に声を発したアキラは興奮で顔が赤くなる。
「落ち着きなさい。まず、あなたには我々の話を聞いて頂かなくてはならない」
白衣の男がなだめるようにアキラの背中をぽんっと叩く。
「まずは突然こちらにお越し頂いた事を謝ろう。決まりとは言え、お嬢さんにはご迷惑をおかけしたな。随分怖い思いをさせてしまったようだ」
「………お爺ちゃんには何もしていませんよね? それに……百合葉先輩は……」
「君のご家族はもちろん無事だ。こちらにいる事もご存じだ。もっとも場所は病院という事になっているが」
「病院という事に……? ここは病院じゃないんですか?」
「ここは我が国の、ある重要な機密を扱っている機関だ。一般には病院施設という事になっている。君は巷で噂の人体や物体の損傷が突然に起こる病、ゾンビ病とも言われているらしいが……それに感染の疑いがあるという事になってここに来た。現在の所は体調の変化は無いが、安全の為、しばらく隔離させて頂くという旨にご家族皆様ご承知頂いている。であるが、君に感染の疑いは、無い」
「そんな……っ。皆に嘘をついたんですか?」
「守秘の為には仕方の無い事だ」
「一体この施設に私が連れてこられた理由は何なんですか?」
立て続けに話をされてアキラは困惑気味だった。
「それは…君に《KAKERA》が見えたからだ」
男は言った。
「カケラ……?」
気になる言葉であった。アキラはどこかで聞いた事があるようなその言葉に不思議な感覚を覚えた。
「あの……それって何の事ですか……? 「私に見えた」ってもしかして……」
話の途中で病室の扉が開く。中に入って来たのはさっき出ていった男と、そして百合葉だった。
「百合葉先輩っ!」
百合葉は白衣の男に一礼をし、アキラに話しかける。
「アキラさん、ごめんなさいね。私があなたの事を彼に報告したの。私のペンライトにあなたが見た光……あれは普通には見えないものなの。でも、ここには見える人達が沢山いるわ。本当はもっと早く分かる能力なのだけれど、あなたの場合は後天的に表れたのでしょう……」
「先輩……あの光、やっぱりライトが付いたわけじゃなかったんですね。うちに来たのも先輩ですよね? いきなり白い煙がモクモクと……」
「機関からの命であなたのお宅にお伺いさせて頂いたわ。いきなりあそこで私が理由を説明しても、あなたはきっと理解できなかったでしょう? だからちょっと乱暴なやり方だったけれど、一旦ここに来てから話す事にしたのよ」
「先輩……」
「本当にごめんなさい」
百合葉はアキラに頭を下げる。
「そんな風に謝って頂かなくても……。でも心の準備はちょっと欲しかったです……」
「普通ならそうだわ」
そんなやり取りを二人で繰り広げている際中、いきなり「~~~~だぁ~~っまどろっこしいなぁっ」
ここまで話を黙って聞いていた白衣の男の横にいた少年がいきなり叫ぶ。
「あんた! いきなりだか何だかでちょこっとムカついてんの分かるけどさ、見つけてもらって良かったんだぜ? もしこのまま何も分からず《KAKERA》を見たり見なかったり……ほっといたら、そのうち大きな事につながりかねない事が起きていたかもしれねーんだよっ! 周りに内緒にする理由だってあんたの為なんだぜ? もし知られたりしたら皆怖がってあんたに近寄らなくなるかもしれねーのに、何わちゃわちゃごねてんだよ! 分かったかっ!」
「計都、言い過ぎだぞ」
白衣の男がたしなめる。
「言い過ぎではあるが、彼の話は本当だ。君の為にこのような対応をさせて頂いた。都には選択権は無い。上の命に従ったまでだ」
アキラはクラクラと眩暈がしてきていた。もっとここの話と自分の事と《KAKERA》の話を聞かなくてはならない、そう思うのに、また視界が段々真っ白になっていく。今度は白煙のせいではなく、本当の気絶だった。
「アキラさんっ」
百合葉が駆け寄る。
「んも~男には女心が分からないからダメなのよ。《KAKERA》がどうのこうのとみんなで一気に話したって分かるわけないわよね☆ それに、今はもう少し休んだら良いんだわ。どうせしばらく帰れやしないんだし」
最初にアキラの頬に触れた女がそう呟いた。
「ああ、タイミングは非常に良かった。まあ、国の一大事が起きた、という点においてはあまり良くないのだが……」
気が付くとアキラは病室のような場所に居てベッドの上で眠っていた。そこには年齢は三十代半ばくらいの白衣を着た男と二十代くらいのスーツ姿のサラリーマンのような男が居て話をしている。その男の横には学生らしき少年もいるようだった。
国立南城都総合病院、アキラが連れて来られた場所、ここは国が管理する総合病院の一つである。南城都の中でも“田舎”と呼ばれる幸磨市にあり、四方を田畑で囲まれた場所に建つ。病棟の他に救命や人工透析等各センター、また、研究の為の施設も併設されており、全部で十数棟を構える巨大施設である。休診日は無く、毎日のようにあらゆる症状の患者が訪れ、診察・入院・手術等が行われている。
「よく眠る奴だなぁ、あいつ」
「もうそろそろ起きるだろう。そうだ、都にもここに来てもらうか」
「分かりました。では、呼んできましょう」
スーツ姿のサラリーマンが部屋を出ていく。アキラは“都”と言う言葉に反応するかのように目を開け、ゆっくりと起き上がる。
「おっ起きた!」
「やっとお目覚めか。具合はどうか、話せるか?」
アキラは言葉が出てこない。
「いきなり話しかけられても困るわよ☆ それにレディの寝室に男三人がいたら普通ビックリするわよねぇ?」
そう言いながらさっきの男とは別に新たに部屋に入って来た派手な格好の女がアキラの頬に手を触れる。
「はーい、ベイビィちゃん。オハヨウ☆」
「っっ一体皆さんどなたですかっ? お爺ちゃんはどこ? そう言えば、百合葉先輩がいたような気が……百合葉先輩っ!」
起き上がり、一気に声を発したアキラは興奮で顔が赤くなる。
「落ち着きなさい。まず、あなたには我々の話を聞いて頂かなくてはならない」
白衣の男がなだめるようにアキラの背中をぽんっと叩く。
「まずは突然こちらにお越し頂いた事を謝ろう。決まりとは言え、お嬢さんにはご迷惑をおかけしたな。随分怖い思いをさせてしまったようだ」
「………お爺ちゃんには何もしていませんよね? それに……百合葉先輩は……」
「君のご家族はもちろん無事だ。こちらにいる事もご存じだ。もっとも場所は病院という事になっているが」
「病院という事に……? ここは病院じゃないんですか?」
「ここは我が国の、ある重要な機密を扱っている機関だ。一般には病院施設という事になっている。君は巷で噂の人体や物体の損傷が突然に起こる病、ゾンビ病とも言われているらしいが……それに感染の疑いがあるという事になってここに来た。現在の所は体調の変化は無いが、安全の為、しばらく隔離させて頂くという旨にご家族皆様ご承知頂いている。であるが、君に感染の疑いは、無い」
「そんな……っ。皆に嘘をついたんですか?」
「守秘の為には仕方の無い事だ」
「一体この施設に私が連れてこられた理由は何なんですか?」
立て続けに話をされてアキラは困惑気味だった。
「それは…君に《KAKERA》が見えたからだ」
男は言った。
「カケラ……?」
気になる言葉であった。アキラはどこかで聞いた事があるようなその言葉に不思議な感覚を覚えた。
「あの……それって何の事ですか……? 「私に見えた」ってもしかして……」
話の途中で病室の扉が開く。中に入って来たのはさっき出ていった男と、そして百合葉だった。
「百合葉先輩っ!」
百合葉は白衣の男に一礼をし、アキラに話しかける。
「アキラさん、ごめんなさいね。私があなたの事を彼に報告したの。私のペンライトにあなたが見た光……あれは普通には見えないものなの。でも、ここには見える人達が沢山いるわ。本当はもっと早く分かる能力なのだけれど、あなたの場合は後天的に表れたのでしょう……」
「先輩……あの光、やっぱりライトが付いたわけじゃなかったんですね。うちに来たのも先輩ですよね? いきなり白い煙がモクモクと……」
「機関からの命であなたのお宅にお伺いさせて頂いたわ。いきなりあそこで私が理由を説明しても、あなたはきっと理解できなかったでしょう? だからちょっと乱暴なやり方だったけれど、一旦ここに来てから話す事にしたのよ」
「先輩……」
「本当にごめんなさい」
百合葉はアキラに頭を下げる。
「そんな風に謝って頂かなくても……。でも心の準備はちょっと欲しかったです……」
「普通ならそうだわ」
そんなやり取りを二人で繰り広げている際中、いきなり「~~~~だぁ~~っまどろっこしいなぁっ」
ここまで話を黙って聞いていた白衣の男の横にいた少年がいきなり叫ぶ。
「あんた! いきなりだか何だかでちょこっとムカついてんの分かるけどさ、見つけてもらって良かったんだぜ? もしこのまま何も分からず《KAKERA》を見たり見なかったり……ほっといたら、そのうち大きな事につながりかねない事が起きていたかもしれねーんだよっ! 周りに内緒にする理由だってあんたの為なんだぜ? もし知られたりしたら皆怖がってあんたに近寄らなくなるかもしれねーのに、何わちゃわちゃごねてんだよ! 分かったかっ!」
「計都、言い過ぎだぞ」
白衣の男がたしなめる。
「言い過ぎではあるが、彼の話は本当だ。君の為にこのような対応をさせて頂いた。都には選択権は無い。上の命に従ったまでだ」
アキラはクラクラと眩暈がしてきていた。もっとここの話と自分の事と《KAKERA》の話を聞かなくてはならない、そう思うのに、また視界が段々真っ白になっていく。今度は白煙のせいではなく、本当の気絶だった。
「アキラさんっ」
百合葉が駆け寄る。
「んも~男には女心が分からないからダメなのよ。《KAKERA》がどうのこうのとみんなで一気に話したって分かるわけないわよね☆ それに、今はもう少し休んだら良いんだわ。どうせしばらく帰れやしないんだし」
最初にアキラの頬に触れた女がそう呟いた。
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