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第二章「《KAKERA》②」
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病院に隣接している研究棟、一階の、ある一室にその男は居た。鍵が無ければ入れないこの部屋には研究の為に使用する蔵書が数千冊保管されていた。そして、ずらりと並ぶ本棚の中でも、一番東側にある本棚の前で立ち止まる。そして一番上の棚の左から十二番目に置いてある本を取り出した。すると、その奥にはもう一冊の本が隠れていた。男はその奥の方の本を取り出し中を開く。三百十五ページ目に挟んであるしおりを手に取り白衣の胸ポケットにしまう。そして本を二冊とも元の場所に戻すと、今度は脚立を持ち出して、室内に設備されているエアコンに手をかける。カバーをはずし中のフィルターを取ると、そこにはさっきのしおりがちょうど入る程の窪みが出来ている箇所があった。男は、ポケットからしおりを取り出して窪みにはめる。すると「ビッ」という音が小さくなり、室内にある検索用のパソコンの一つが起動される。
「<声紋認証を実施致します>」
幾何学模様の画面が表示され、そこから声がする。男はエアコンを元に戻しパソコンの前まで進む。そしてこう答える。
「すべての根源は《KAKERA》、そして無であり空である。№五五〇、立端透」
「<ビッ……認証中です……ビッ……認証致しました>」
そうして、パソコン画面が突然消えたかと思うと、今度は室内東側の壁が動き出した。そこには地下に繋がる階段があった。男は颯爽と中に入って行った。
「やれやれ、毎回面倒だな……」
先ほどパソコンの前で立端と名乗った男は言った。地下に繋がる階段を下りると、そこには病院施設とは別の姿、《KAKERA》プロジェクト機関の存在があった。ここでは日本各地、また、世界各国の《KAKERA》に関するあらゆる情報の収集・調査・分析が行われている。
「鍵城、例の件は調べたか?」
「立端さん、ちょうど良かった。たった今IPUから連絡が入ったんですよ。先日、日本で起きた《KAKERA》が抜き取られた事件……犯人は、やはり奴らであるとの情報です」
「やはりか……《KAKERA》ブレイカーが側にいた痕跡も見当たらなかったから……そうであると思っていたよ。ちっ、まさか日本にまでやってくるとはな」
「もしや、こちらの新しい《KAKERA》ブレイカーの存在を嗅ぎ付けたとか? 奴らの中にはサイキックもいるそうです。その能力を使って自分達と同じようにあぶれた《KAKERA》ブレイカーを探しては仲間に引き入れているとの事ですよ」
「組織拡大を狙ってか……あり得るな。新入りのお嬢さんの事、表向きには絶対に気取られてはならない。後二週間程すれば政府として病についての正式な見解を出す事になっている。それが済めば、一旦は彼女には通常の生活に戻って頂く事にするか」
「少し早くは無いでしょうか。未だ状況の受け入れも出来ていないお嬢さんですよ?」
「仕方あるまい。とりあえず、ここに居る間に《KAKERA》についての知識を全て叩き込め。自宅に戻った後の事だが、さいわい都百合葉が一緒の学校だそうだ。多少は目を光らせられるだろう。プロジェクトの活動に加わって頂くのは、ブレイカーとして不安定な能力を一定に保てるようになってからだ。訓練が必要だな。さて、誰についてもらうか……」
「俺がやるよ」
「計都、居たのか……。気配を消していたな、驚くだろう」
「すみません、癖なもんで。そんでさっきの話! 立端さんにOK出してもらえるならアイツが自宅に戻った後、俺が《KAKERA》ブレイカーとしての能力訓練に付き合わさせてもらいたいです」
「何だ計都、珍しく新入りを気に入ったのか?」
「そういうんじゃないよ、ただ、何となくだけどさ、俺が教えてやった方がいいと思って」
「立端さん、私は計都で良いと思いますよ。年も近いし話しやすいのでは?」
「……いいだろう、彼女の周囲には都と友人とでも言っておけ。ちょうど住んでいる町も花咲町の隣町だったな」
「ありがとうございます!」
「とりあえずは、お嬢さんには目を覚ましてからの教育係が必要だな。また騒がれると困る」
「それも俺がやるよ。今は都とだと、まだわだかまりがあるだろうし。全部わけを話して理解出来れば元の二人にも戻れるだろ?」
「ふむ……では頼もう。後は女性を一人付ける。ちょうど先程居合わせた縁だ、万梨阿にしよう。女性ならではの話もあるだろうから、そんな時は万梨阿か都にすると良いと伝えろ」
「ふっ、立端さん、そんな気を遣う方でしたっけ? 意外ですね」
「お前には分からん。ここには女性の人権云々と煩い奴らが沢山いてな、今回のお嬢さんの気絶の件では、最初の対応がまずいだのと散々つつかれたよ。とにかく……計都、頼むぞ」
「へーい、了解!」
「<声紋認証を実施致します>」
幾何学模様の画面が表示され、そこから声がする。男はエアコンを元に戻しパソコンの前まで進む。そしてこう答える。
「すべての根源は《KAKERA》、そして無であり空である。№五五〇、立端透」
「<ビッ……認証中です……ビッ……認証致しました>」
そうして、パソコン画面が突然消えたかと思うと、今度は室内東側の壁が動き出した。そこには地下に繋がる階段があった。男は颯爽と中に入って行った。
「やれやれ、毎回面倒だな……」
先ほどパソコンの前で立端と名乗った男は言った。地下に繋がる階段を下りると、そこには病院施設とは別の姿、《KAKERA》プロジェクト機関の存在があった。ここでは日本各地、また、世界各国の《KAKERA》に関するあらゆる情報の収集・調査・分析が行われている。
「鍵城、例の件は調べたか?」
「立端さん、ちょうど良かった。たった今IPUから連絡が入ったんですよ。先日、日本で起きた《KAKERA》が抜き取られた事件……犯人は、やはり奴らであるとの情報です」
「やはりか……《KAKERA》ブレイカーが側にいた痕跡も見当たらなかったから……そうであると思っていたよ。ちっ、まさか日本にまでやってくるとはな」
「もしや、こちらの新しい《KAKERA》ブレイカーの存在を嗅ぎ付けたとか? 奴らの中にはサイキックもいるそうです。その能力を使って自分達と同じようにあぶれた《KAKERA》ブレイカーを探しては仲間に引き入れているとの事ですよ」
「組織拡大を狙ってか……あり得るな。新入りのお嬢さんの事、表向きには絶対に気取られてはならない。後二週間程すれば政府として病についての正式な見解を出す事になっている。それが済めば、一旦は彼女には通常の生活に戻って頂く事にするか」
「少し早くは無いでしょうか。未だ状況の受け入れも出来ていないお嬢さんですよ?」
「仕方あるまい。とりあえず、ここに居る間に《KAKERA》についての知識を全て叩き込め。自宅に戻った後の事だが、さいわい都百合葉が一緒の学校だそうだ。多少は目を光らせられるだろう。プロジェクトの活動に加わって頂くのは、ブレイカーとして不安定な能力を一定に保てるようになってからだ。訓練が必要だな。さて、誰についてもらうか……」
「俺がやるよ」
「計都、居たのか……。気配を消していたな、驚くだろう」
「すみません、癖なもんで。そんでさっきの話! 立端さんにOK出してもらえるならアイツが自宅に戻った後、俺が《KAKERA》ブレイカーとしての能力訓練に付き合わさせてもらいたいです」
「何だ計都、珍しく新入りを気に入ったのか?」
「そういうんじゃないよ、ただ、何となくだけどさ、俺が教えてやった方がいいと思って」
「立端さん、私は計都で良いと思いますよ。年も近いし話しやすいのでは?」
「……いいだろう、彼女の周囲には都と友人とでも言っておけ。ちょうど住んでいる町も花咲町の隣町だったな」
「ありがとうございます!」
「とりあえずは、お嬢さんには目を覚ましてからの教育係が必要だな。また騒がれると困る」
「それも俺がやるよ。今は都とだと、まだわだかまりがあるだろうし。全部わけを話して理解出来れば元の二人にも戻れるだろ?」
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「お前には分からん。ここには女性の人権云々と煩い奴らが沢山いてな、今回のお嬢さんの気絶の件では、最初の対応がまずいだのと散々つつかれたよ。とにかく……計都、頼むぞ」
「へーい、了解!」
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