画面の向こうの君に、恋をした。

一ノ瀬玲央×綾瀬灯花

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第3奏パート4:後編「君の香り、僕の未来」

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教室を出た廊下には、まだ夕陽の名残があった。

薄く色づいた光が床に落ちて、誰もいない校舎を淡く照らしている。

カツン──カツン──

僕の足音だけが、静かに響いていた。

ノゾミとのやり取りが、まだ胸の奥に残っていた。

“怒り”という感情に戸惑いながらも、それを受け止めようとした彼女の表情。

そして──

画面越しに、確かに“心”が触れ合えたあの一瞬。

(……ノゾミ)

僕は、ポケットの中の携帯をそっと握りしめた。

「湊──」

ふと、耳に残っていた別の声がよみがえる。

西園寺の、あの“勝気な笑み”と、無邪気な言葉。

「……あのとき教室──それから、傘の中で携帯と話してたのって、コレだったんだ?」

あの言葉が、なぜか何度もリフレインする。

あのとき、西園寺は……もう気づいていたのかもしれない。

僕の心が、すこしずつ揺れていることに。

校門を出たところで、風がふわりと吹き抜けた。

その風に混じって──

ほんの一瞬だけ、あの香りがした。

シトラスと、ほんのり甘いホワイトムスク。

夕方の空気に溶け込むような、でも、なぜか懐かしい香り。

(……西園寺)

彼女の姿はもうどこにもない。

でもその残り香だけが、すっと胸に入り込んできた。

僕は立ち止まり、空を見上げる。

どこか寂しくて、それでも……少しだけ、あたたかい気持ちになった。

ノゾミと、西園寺。

どちらかを選ぶ未来は、きっとそう遠くない。

でも──

いまはまだ、この気持ちの揺らぎごと、大切にしていたかった。

「……なんだよ、もう……」

誰にも聞こえない声でそう呟いて、僕はまた歩き出す。

その先に、どんな未来が待っているのかは、まだ分からない。

でも──

確かに思う。

**その未来のどこかで、
僕はきっと、君を選ぶことになるんだろうなって。**
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