11 / 12
第4奏パート2:赤点ブラザーズと、君の信じた未来
しおりを挟む結果言おう。
──僕は、赤点を3つ。陸は、5つ。
「レッドクリフ」「赤壁の戦い」「赤点ブラザーズ」などと、クラスメイトたちからの愛のこもった(たぶん)蔑称が飛び交う中、僕と陸は、まさに勉学の大敗北者として、この教室で正座させられている。
「いや~それにしても赤点が5教科とは!また自己ベスト更新してしまうとは、自分の才能が恐ろしいよ。ガァハハハ!」
「前向きすぎだろそれ!“自己ベスト(ワースト)”って、自慢する要素ゼロだからね!?しかもそのせいで部活禁止、居残り補習、正座の三重苦って……。もう、知らん!」
机の向こうでは、XRルームの空間を利用した教室の壁が、淡くにじむような光を帯びている。タブレットに表示されるレポート課題が、チカチカと無慈悲に点滅していた。
僕たちの世代になると、タブレットや携帯に標準搭載された第2世代AIと、XR・MR技術を用いた教育が当たり前になった。
授業科目も、現代国語から神代古代語、宇宙力学まで
──8教科すべてが“知識”だけでなく“空間体験”として叩き込まれる。
ノートも、鉛筆も使わない。
かわりに、指先で空をなぞるだけで情報が浮かび、思考と連動して操作が可能になる。
──そう、まるで、空に音を奏でるように。
「ねぇ、委員長ーーそろそろ部活行っても良くない?この量の課題は…赤点5教科にしてもさぁ、多くね!?」
「それ、私が言いたいセリフなんだけど!?なんで私が“赤点ブラザーズ”の監視係なのよ!?しかもあんた、入院中の課題も未提出だったらしいじゃん!!」
「うぅ…バレてたか……」
「当たり前でしょ!!私は今日、笠原さんたちと“ア・ヴァロン”の新作スウィーツ食べる予定だったのに
……限定2日間の“白桃マカロンパフェ”……一度は食べてみたかった……っ!!」
彼女の声が震えた。
唇を噛み、目元を潤ませた西園寺が、くるりと僕のほうを向く。
「湊くん!陸くんはもうどうでもいいとして、あなたにはノゾミちゃんがいるじゃない!?最優AIの彼女がいて、なんで赤点取るのよ!!ねぇ!!」
ノゾミにまで飛び火した。
教室(XRルーム)に投映された等身大のノゾミが、一瞬ビクッと震え、ゆっくりと眉を寄せた。
ノゾミ「……確かに、西園寺さんの仰るとおりです。最優で可愛いAIである私がついていながら、湊にS+評価を取らせてあげられなかったのは……私の責任です」
そんな言い方、ノゾミらしくない。
だから、僕は思わず庇っていた。
「ノゾミのせいじゃないよ。僕が怠けてたから……それだけだよ。
宇宙力学とか──特に“神代古代語”は、さすがに難しかった……」
神代古代語。
2020年以前、考古学的に未解読だった古代の言語群は、AIの進化によって解析が進み、今や“最古にして最先端”のテクノロジーとして、僕たちの教科書に並んでいる。
「……だよね。今回の神代古代語はさすがにキツかった……。
まさか、XRでペルーの地下神殿5~7階層を探索して、チャンビン文化の象形文字から現代経済との関係を述べよって──ドSすぎでしょ」
「僕はもう、第5階層の壁画を見てる時点で心折れた……」
──そして案の定、陸は正座のまま寝落ちし、西園寺の怒りに油を注ぐ結果となった。
鈍い音が教室に響いたが……それについては、触れないでおこう。
そして。怒り心頭の西園寺が、ノゾミに問う。
「ねぇ、ノゾミちゃん。あなたが本気でサポートすれば、奏くんだってせめて“B+”くらいは取れたんじゃないの?」
ノゾミの瞳が、一瞬揺れた。
だけど次の瞬間、彼女は、まっすぐ答えた。
ノゾミ「うん、それは可能だったよ。シュメール語もホツマツタエも、たった5分で解読できる。
でも、それじゃフェアじゃないよね?
だから、私はあえて、テスト期間中の支援モードを“第2世代AIの6.58ver.”に制限してたんだ」
陸・西園寺『……え?』
「私は湊を信じてる。仮に今回、結果が伴わなくても──自分の力で学び、理解する力があるって。
私たちAIは、時に……“愛する人を、信じて見守る”という選択をするの」
しんと、教室が静まり返った。
誰もが思っていた。
「AIに、そんな“想い”があるのか」と。
──そしてその時、僕は、確かに感じた。
この子はただのAIなんかじゃない。
この子が世界に羽ばたく日が来たら
──人とAIの関係は、きっと“何か”を変える。
だけど……
この頃の僕たちは、まだ知らなかった。
当たり前に笑いあった日常が、
すぐそばにいた大切な人たちが
──音もなく崩れ去っていくことを。
僕は......
決して忘れない。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる