占い師は嘘をつく

夏生 羽都

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6 私のせい?

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 私の婚約はデイヴィッド様の卒業を目前に控えた頃に無事に解消となった。

 豊穣祭直前でのお茶会以来、私は彼を避けていたので、婚約解消までは学園で遠くから彼らを見かけることはあっても近くで顔を合わせるような事はなかった。

 婚約解消は父と次期当主である姉が先導して行ってくれたので、ある日突然彼との婚約が解消されたのだと父から告げられただけで私の婚約は終わった。私にとってはあっさりした終わり方だった。

 しかし姉の話では彼の家への援助金等のお金の事で揉めていたらしく、予定よりも婚約解消に時間がかかってしまってごめんなさいと謝られてしまった。

 デイヴィッド様は後もう少しで学園を卒業する。同じ学年なのでベリンダ・ノースロット嬢とは学園で行き会ってしまうこともあるかもしれないが、卒業でデイヴィッド様との縁は全て切れるので、社交界で見かける事はあっても、もう彼と関わる事はこれからは無いだろう。

 私は婚約者をなくしてしまい嫁ぎ先もなくなってしまったが、デイヴィッド様の元へ嫁ぐよりは一人の方がずっといい。

 デイヴィッド様もこれから婚約者探しになるだろう。

 私が婚約をした時はノースロット様との事は知られていなかったけれど今は違う。

 婚約者としての彼を客観的に評価しようとすると、爵位も低く裕福ではない彼の良いところは美しい容姿だけだ。

 しかし彼が婚約者を蔑ろにしてノースロット様を優先している事は有名な話なので、幼い頃と違って今の彼は美しくても令嬢たちに人気が無い。学園の皆が私を憐れむような目で見ていた。あの視線に晒されてまで彼と一緒になろうと思う令嬢は少ないだろう。

 それに成長をしてみたら彼の細い体駆は男性らしさという点においては欠ける。幼い頃は際立っていた美しさは以前ほどの輝きを持ってはいなかった。

「――おい、」

 図書室で読書に熱中してた私は最初は自分が声を掛けられた事に気がつかなかった。

「おい、僕が呼んでいるんだ。顔を上げろジュディ」

 名前を呼ばれた事でようやく自分が呼ばれている事に私は気付いて読んでいた本から顔を上げたら、元婚約者のデイヴィッド・キース様が目の前に立っていた。

 彼から声を掛けられることはもちろん、彼と学園で話すことは初めてだった。それに今日はいつも隣にいたノースロッド様を連れていない。

 婚約者でもない今になって私に何の用があって来たというのだろうか?
 
 彼の性格を考えるとロクなことではないように思える。

 私はすぐに辺りに視線を動かす。入り口そばにある本の貸出カウンターには司書の先生がいるし、少し距離はあるが図書室の隅には本を探している男子生徒が一人いた。

 同じ室内に自分たち以外の人がいる事に安心した私は彼に話しかける。

「どのようなご用件でしょうか?」

「どうして僕との婚約を解消したんだっ」

 責める口調の彼に今さら何を聞いて来るのだと思いながら、私は貴族らしい解答を彼に伝える。

「私たちの婚約は政略です。婚約を結ぶのも解消するのも私ではなく父が決める事です」

「それでも一度結んだ約束を反故にするのは卑怯な事だとは思わないのかっ!」

 私には彼の言っている言葉の意味が分からなかった。婚約を結んだら必ず結婚をしないといけないという強制力はない。婚約とはどちらかの条件が変わればなくなってしまう家と家との約束事でしかないのに。

「キミのせいで、ベリンダは婚約を破棄された!」

 深く交流する友人のいない私はノースロッド様の事は初めて知ったのだが、「ああ、やっぱり」という気持ちしか湧きあがってこなかった。そして婚約破棄の原因が私にあるという彼の言葉に不快感を覚えた。

「ノースロッド様の婚約破棄は今知りました。その件と私とどういった関係が?」

「キミが僕との関係の改善をするための努力をしてくれなかったから、彼女は僕との不貞の嫌疑を理由に婚約破棄をされてしまったんだ!」

 ああ、この人は性格だけではなく頭の中身も残念な人だったのだと私は改めて思った。

「私の努力が、足りなかったと?」

「ああそうだ。大人しいと思ったからキミが婚約者でいいと思ったのに、とんだ期待外れだった。ノースロッド家では政略的な旨みは無いが、僕は責任を取らされてベリンダと結婚をさせられる事となったんだ。彼女は子爵家に嫁ぐのは嫌だと泣き始めるし、キミさえ私との婚約を続けていれば全てがうまくいったんだっ!どうして結婚まで待てなかった?」

 相変わらず彼の言っている意味は理解できなかったが、彼はノースロッド嬢と婚約を結び、彼女に駄々を捏ねられているのが嫌になったのだろう。私が結婚相手だったら結婚後に彼が不貞をしても文句を言わせないし、ウチから経済的な援助を受けられた上で好き勝手に出来ると思っていた未来が消えてしまったから怒っているのだろう。

「私は貴方にとって都合の良い道具ではありませんわ。それに私は感情を表に出す男性は好きではありませんの」

「……っ!」

 私の言葉に彼はぐっと息を呑む。強気な態度の私を初めて見た彼は驚いているのだろう。

 私は貸出しカウンターに座る司書の先生へ視線を送る。怒声まじりの彼の声は司書の先生にもよく聞こえていただろう。

「キース令息、ここは図書室です。大きな声を出すのは控えなさい」

 彼は司書の先生がいたことに初めて気づいたような驚いた表情を浮かべる。

 その隙に私は読んでいた本を閉じて席から立ち上がって図書室を出ようとしたら、彼も私に付いて行こうと動いたが、司書の先生が彼の行動を制してくれた。

「待ちなさい、キース令息は大声を上げた罰として書棚の整理をしてから退室しなさい」

 彼はしぶしぶといった雰囲気で書棚へ向かうが、まだ名残惜しそうに私を見ていた。

「さようなら、キース令息。もう私には話しかけないで下さい」

 最後にそう言って私は図書室の扉を閉めた。婚約者時代は言いたい事はほとんど飲みこんで我慢ばかりしていたが、最後に彼にはっきり拒絶の言葉を言う事が出来て良かった。
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