400字以内のダメ人間ショートショート

私が入ったメタバースが修羅場すぎる

　私は日々残業に追われていた。
　しかし家に返れば楽しみがある。
　メタバースだ。
　そこは仮想空間で、分身を使い、他のプレーヤーとコミュニケーションを取れる。私は自分の分身を、仮想の街の中で歩かせた。
　パソコンのキーボードで「あー平和だなー」と打ち、エンターキーを押す。その言葉は分身の頭上で吹き出しとなった。
　ここなら現世にあるイヤなことは、すべて忘れられる。

　しかしあるところで、男たちが3人ずつ向かい合うところに遭遇した。
「何じゃオラ！」
「ケンカ売っとんかオラ！」
　彼らの頭上には、そんな物騒な言葉ばかり並んでいた。
　そして吹き出しはこう発展する。
「（右拳で一発！）」
「（左拳で青い服の男の顔面を殴る）」
「（反対側の左端の男を果物ナイフで刺す）」
　暴力表現が文字で起こされ、現実の殺し合いのような雰囲気を醸し出した。

　私のアバターは怖くなり、無我夢中で逃げるしかなかった。