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本編・アリスティアの学園生活

アリスティアと編入試験

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アリスティアとジークハルトは
イスト王国の学校"エチュード学園"への
編入試験の為に勉強に励んでいた
二人とも座学は特に問題なさそうだが
アリスティアはやはり魔法に不安がある様だ。
ジークハルトはアリスティアに
気を遣ってくれた様で、フィル
ミーティリア、そして仕事途中の
アルクスの三人にアリスティアの魔法を
見てもらう様に頼み込んでいた。

アルクスは「王子が自分の仕事を
手伝ってくれたら見る」との事
だったので、ジークハルトは
快くアルクスの仕事を引き受けた
と、言っても主に事務的な仕事である。

今はイスト王城の庭園にて
アリスティアの実力の程を
確かめる為に準備をしている所だ。

「姫様、魔力を込めると氷柱を
発生させる魔導鉱石を用意しました
これで一旦練習しましょう。」

フィルが拳大程の魔導鉱石を石床の上へと置く。
魔導師達はそれぞれ魔導鉱石から、距離を取りアリスティアの方へと身体を向けた。

「アリス…鉱石に向かって魔力を込めてごらん、何があっても大丈夫だから
…全力でやるんだ」

「はい、ジーク。私、頑張ります!」

ジークハルトに頭を撫でられて、俄然やる気が出たアリスティア。

(…集中…集中…。ジークが見ているもの…きっと大丈夫…!)

アリスティアは全精神を魔導鉱石に向けて集中する、魔導鉱石が七色に輝き始めた。

「…む…これは…」

ふとアルクスが何かに気付き口を開く。

「…フィル、ミーティリア、もう少し下がりなさい…そこに居ると巻き込まれます。これは二人とも、ちょっと驚きますよ?」

ニコニコと笑顔で言うアルクスにフィルとミーティリアは頷き、二人はその場からさらに距離をとった。

「"凍れ"!!!」

アリスティアが全力の魔力を込めて唱えた瞬間、鋭い音と共に一瞬にして、その場に氷山の様な、或いは氷柱の様に鋭い
一本の巨大な氷の塊が現れた。

その高さたるや、イストの王城を遥かに超えていた。氷柱の周囲にはキラキラと輝く冷気が漂う。

「…。」

魔導師やジークハルトはその光景をみて
しばらくの間沈黙していた。

(…私…何かやっちゃいました…?)

皆が黙って居る所為でアリスは不安になり始めていた。すると、ジークハルトや魔導師達は各々が拍手をしはじめた。

「…凄いじゃないかアリス!」

「…これは…戦闘魔導師が跋扈していた時代の全盛期でも、一戦級レベルの魔力ですね…」

「…姫様…凄い、…火力オバケ…」

「…流石に僕でも、ここまでは出来ないかなぁ…」

途中賞賛とは違った言葉も聞こえて来たが
何よりジークハルトには褒められている様で
アリスティアは少し嬉しくなった。

「アリスティア様は、ここまで強力で巨大な魔力を発揮しているにも関わらず、全然平気な様ですね。」

「はい、まだまだいけます!」

アリスティアの元気な表情を見て、アルクスは何か理解した様だった。

「…失礼、アリスティア様。一つ確認しますが、昔に精霊か、あるいはそれの類と、何かしら関わった事がありますか?」

「ええ、幼い頃に一度だけ。友人達と出かけた際に、妖精さんに出会った事があります…それが何か?」

「いえ…ありがとうございます…それでは…失礼して…。」

アルクスはパチンと指を鳴らす
するとアルクス以外の全ての時が止まった。空の雲も、羽ばたく鳥も、周囲を彷徨う冷気も、アリスティアもジークハルトもミーティリアもフィルも
全ての景色、風がその場で止まる。

『姿を表しなさい、私には見えていますよ?…大丈夫、私達以外の時間は、完全に止まっています。』

人には聞き慣れない発音、そして聞き取れない言葉で、アルクスは虚空へ向かって話しかける。するとアリスティアの後ろから輝く何かが現れた。

『…やはり…アナタ、聖霊ですか?…魔力の出力でアリスティア様を困らせていたのは、間違いなくアナタですね?』

『─困らせてはいない、助けようとしただけ』

聖霊の言葉にアルクスは深くため息をついた。

『…アナタ達の感覚で人に干渉しないでください、アナタ達のほんの少量の力でも、人には持て余す力なんですよ…他の令嬢にもアナタ達は憑いているようですが…ここまでやんちゃなのは、どうやらアナタだけな様ですよ?』

『─ならばワタシはどうすればいいのか?』

聖霊は困惑したように慌てているようだったその姿を見てアルクスは微笑んでいた。彼等には一切の悪気がない事をアルクスは確信していた。

『そうですねぇ…アナタ達"聖霊の加護"は紛れもなく祝福ですから、
皆、宿主に対して良かれと
思ってやっているんですよね…』

『─そうだ、我らの加護は全て宿主を護る為にある』

アルクスの言葉に聖霊はコクコクと頷く
悪意がないからこそアルクスは余計に悩む
聖霊の加護は紛れもなくアリスティアの力だが、その力が暴発する以上どう制限すれば良いのか、彼女が力を自然に制御出来るようになるにはどうしたらいいか、アルクスは深く考えていた。

『やはり私の力では、聖霊さんに
お願いするしか、出来無さそうですね
…このままだと、アリスティア様が危険ですし…』

『─そうなのか…?』

『ええ、アナタの力をアリスティア様が完全に制御するには、力が少し強すぎるのですよ。』

聖霊は少し寂しそうな表情だったが
アルクスは穏やかに言う。

『…ですので、アリスティア様から
アナタの力を求めたり、アリスティア様の危機の時以外には、なるべくアリスティア様に力を渡さないで下さい。
全てはアリスティア様の為です
…よろしく頼みますよ…聖霊さん。』

『─わかった、善処する』

聖霊がそう言い終えると、再びアルクスが指を鳴らす、すると周りの時は再び動き出した。

「…アリスティア様、再度作りたい形状の氷を思い浮かべて…出来ればパンぐらいの氷の塊が良いですかね…この鉱石に魔力を込めていただけませんか?」

アルクスは懐から魔導鉱石を取り出して再度、芝の上に置いた。

「わかりました…やってみます…!」

周囲が見つめる中でアリスティアは
先程の魔導鉱石に手をかざし集中する。

「"凍れ"!!!」

アリスティアが唱えた瞬間、食パン一斤程の氷の塊がその場に出来上がる。
周りからは「おぉー!」っと言う歓声が上がった。

「…アルクス…一体何があったんだ…?」

ジークハルトはアルクスに尋ねた。

「ちょっと魔法を司る聖霊さんにお願いして来ました…おそらくは、ほぼコントロールが出来るでしょう」

「…アルクス様、ありがとうございます」

「いや、と言っても私、何もしてないんですけどね…。」

アリスティアは笑顔で一礼するが
アルクスの表情は何処か濁っている。

「…正直、不完全な対処なので、その日の気分や、体調、状況次第では暴発の可能性もあります…魔法はくれぐれも気を付けて使って下さい…申し訳ありません、今の私の力ではこれが限界のようです」

「それでも、試験は何とかなりそうだ、ありがとう、アルクス」

「ええ!ミーティリアもフィルも付き合ってくれてありがとうございます」

ジークハルトとアリスティアは笑顔で
手伝ってくれた魔導師達に礼を言った。

数日後、エチュード学園にて
編入試験が行われた、今回編入生は
ジークハルトとアリスティアの二人だけの様で、試験官二人が学園の案内と試験内容の説明を行ってくれた。

座学試験の採点は人数が少ないのと
婚姻関係である事から二人の目の前ですぐに行われた、ジークハルト共にアリスティアはほぼほぼ満点の様で、採点者は相当驚いていたと言う。
その後二人は園庭に案内される。
これから行う魔導の実技試験に
アリスティアは少し緊張している様子だ。

「アリス…大丈夫ですよ…ほら、リラックス」

ジークハルトは緊張するアリスティアに気を遣ってくれているのだが、アリスティアは余計に意識している様だった
手足がかすかに震える。

「アリス。」

ジークハルトに手を握られると
次第にアリスティアの震えも止まった。

「ありがとう、ジーク。」

「頑張りましょう、アリス。」

そう言って、ジークハルトは爽やかに微笑んだ。
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