上 下
22 / 75
本編・アリスティア、新天地へ征く

女騎士と少年魔導師

しおりを挟む
幼少のいつの頃からかアリスティアは
魔法の威力と魔力量の調節とコントロールが
全く出来なくなっていた
0か100かそれ以上かの出力でしか
アリスティアは魔法が扱えないのだ。
それに伴って、魔導鉱石が仕込まれた
コンロやオーブンが全く使えず
火を使った料理に関しては毎回、鍋や
フライパンごと料理を消し炭にするか
もしくは設備を完全破壊してしまうかの
どちらかであった。

「…どうかしましたか?アリスティア」

「見て下さい、ジークハルト…編入試験に魔法の項目があります…」

「…なるほど、そう言う事ですか。」

アリスティアにそう言われてジークハルトは
ピンと来た、アリスティアは以前から
魔法のコントロールが苦手で
火を使った料理が作れないと言う話は
聞いていてジークハルト自身、魔法が
上手く扱えないアリスティアに代わり
家事や料理を特訓していたのだ
苦手なものが有るならば二人で
得意な分野を作って補って行けば良い
ジークハルトはそう考えていた。

「…確かにコントロールなら問題ですが
編入試験は、魔法の単純威力の
測定だと言う話を何処かで聞きました
念の為、裏付けを取りますが、もし不安であるならアルクスとミーティリア…そしてフィルに師事してもらいましょう」

「姫様、お任せ下さい、お二人が無事入学できる様に僕達がお手伝いさせていただきます」

「ありがとうございますフィル様」

「僕の事はフィルと…姫様。」

「はい、ありがとうございます!」

イスト王国には頼もしい魔導師が多く
アリスティアは少し気が楽になった

「…ふむ…男子には武術実技もある様だな、王子、不安なら私が手合わせするが?」

「…それも良いが、それよりもまず近衛と騎士団にライザ殿を紹介しなきゃいけないな
彼らが素直に話を聞いてくれると良いが…」

「"歓迎"があるならば、真正面から受けて立つのみ、私はこれでもメリディエス王国
最強の騎士と呼ばれた女だ」

ライザはメリディエス騎士団で最も強く
時期騎士団長にもなれる実力があり
爵位の拝命の話もあったが
彼女は二つ返事でそれらを全て蹴った
その理由は、弟にそれら全てを任せるのと
アリスティアの護衛を気兼ねなく行う為だと
言う話を、昔、ライザ本人から聞いたのだ
昔からずっと自分に対して尽くしてくれる
ライザに対しアリスティアはライザ自身も
少しは幸せになってほしいと思っていた。

「とにかく、やれる事をやろう…良いねアリスティア」

「…ジークハルト…はい、できる限り、頑張ります」

後日、ジークハルトの話の通り、王城に併設された訓練場へと騎士団全員が招集され
ライザの紹介が行われた。

「王子…ストディウム殿の件は解りましたが…いきなり近衛師団所属で姫の直属の護衛ですか?」

屈強な騎士団長のグレイスが怪訝そうにジークハルトに尋ねた

「ああ、何か問題でも?」

「ストディウム殿の実力の程が知りたい
この騎士団は男女問わず実力主義ですから」

「と、言う事らしい…ライザ殿よろしいか?」

「私は構いません。」

ライザの落ち着いた様子に何かを感じたのか
グレイスの片眉がぴくりと動いた。

「グレイス…十人選抜せよ、一人ずつライザ殿と刃を交えればわかる、だが…」

ジークハルトは真剣な目でライザを見た

「…一人目は私だ」

「えっ…ジークハルト…本気ですか?」

アリスティアは心配そうにジークハルトに
尋ねるが、ジークハルトは穏やかに微笑み返す

「アリスティア、私も君を護れるぐらい…それなりの剣の腕はあるのですよ、少し観てていただけませんか?君の目の前で格好付けてみたいのです」

ジークハルトの満面の笑みにアリスティアは何も言えなかった。

「わかりました、怪我しないでね…ジーク」

「ええ、頑張ります…誰かライザ殿に木槍を」

騎士の何人かがバタバタと動き出してライザに先端に槍を模った棒状の木を、ジークハルトにサーベルの様な形状をした木剣を
それぞれ手渡した。二人は訓練場の
白線の枠で囲われたフィールドの枠内へと入り向かい合って獲物を構える。

「…王子、私の槍の間合いに…そのサーベルで挑むと言うのか…面白い…受けて立とう!」

「アリスが観ていますからね、無様な負け方は避けたい所です」

一間、静寂が訪れる、アリスティアは祈る様に手を組み、真剣な表情で二人を見つめていた。グレイスは静かに右手を上げる。

「初め!!!」

グレイスの右手が下ろされた瞬間
ジークハルトは目にも止まらぬ速さで
一気にライザとの間合いを詰める
ジークハルトの眼は何時もの穏やかさが消え
獲物を仕留める狩人の様な鋭い眼光を放つ
普段見ることの出来ないジークハルトの
その姿に、見守るアリスティアは少し身震いする

(一国の王子がここまでやるか…!!)

間髪入れず胴を目掛け木剣を振り抜く
ライザはすかさず木槍の柄で受け
その威力を彼方へと流す
その勢いのまま、木槍でジークハルトを
狙い薙ぎ払う、木剣を翻しそのまま受け
流れに乗ってジークハルトは後方へと下り着地した、騎士達に歓声が上がる

「…イストの王族は皆この様なモノなのか?」

「まあ…大体はそうですね」

「…まったく…ジークハルト王子が
姫の思い人で、私は心底良かったと思う」

ライザは一歩踏み込み木槍をジークハルト目掛け突き出す、その速さは先程の飛び込みの
数倍の速さだった。ジークハルトは木剣の剣先をライザの方に向けてそのまま木槍目掛け、勢い良く木剣を突き出した、木槍と木剣が接触した時激しい炸裂音が訓練場に響いた
穂先の欠けた木槍を見てライザは呟く

「…これは…引き分けか…」

「…いいえ…私の負けです、流石ですライザ殿」

ジークハルトは刀身が砕け、ガードとグリップだけになってしまった木剣を、周囲に見せながら、少し残念そうな表情で言う
あまりに一瞬の出来事に唖然とし
アリスティアの脈は興奮で少し早い

「ごめんなさいアリス…負けてしまいました…」

「…凄い…ジーク…凄いです!」

ジークハルトの健闘を少し興奮気味に讃える
アリスティア、その二人の仲睦まじい光景を
見つめながらライザは思った。

(…仮に王子の剣がもし金剛鋼や
それらの類だったら、最初の一撃で私の胴は真っ二つだっただろうな…
模擬戦で助かったと言うことか…)

ライザは若き王子の底知れぬ才能に少し背筋が寒くなる気がした。

「さあ!残り9人…誰が私の相手をする?」

「…ライザ殿に新しい槍を渡せ。
 お前達…本気で戦え」

その後ライザは破竹の勢いで近衛騎士達を薙ぎ払う。イスト王国でも優秀で屈強な騎士が
一矢報いることなく一人の女に倒されてしまった事に騎士団長のグレイスも驚きを隠せなかった。九人目を倒したところでライザはグレイスに振り向き静かに言う

「さあ…残り一人」

「…最後は私が相手だ」

グレイスは木槍を取りフィールドへと上がる
ライザとグレイスの戦いは熾烈を極めた
互いの力と技をぶつけ合う
アリスティアはライザの実力の程が
かなり高いと理解していたものの
他国でも通用するライザのその実力に
アリスティアは心の底から嬉しく思った。
遂に互いの木槍は互いの猛攻に耐えきれなくなって同時に砕け散った。
それを観てライザとグレイスは同時に立ち止まる。

「…引き分けだな」

「ああ…」

十人目で遂に引き分けにはなったものの
グレイスの中では先に9人を相手にしていた
ライザの完全勝利だと頭の中では考えていた
だが同時に、この様な使い手がイスト王国に
現れてくれた事を嬉しく思っていた。

「王子、目標の十人目が引き分けてしまったが…どうする?」

「…そうだな」

「…王子、僕がライザ殿のお相手をします
お互い相棒の実力は知っておいた方が良いでしょう」

そう言って前に出たのはフィルであった。
騎士達は口々に「蒼氷の魔導師殿が戦うぞ」
とざわめき始めたジークハルトは静かに頷くと
フィルはゆっくりとライザの目の前に移動しながら穏やかに言う

「…僕は魔法を使います、ライザ殿は槍以外にも使えるものは何でも使ってください」

「…わかった」

「では、行きます」

初手、氷の飛礫がライザに襲い掛かる
ライザは木槍で全てを弾き飛ばす
砕けた氷の破片が飛び散る。
フィルは右手に氷の刃を形成し
ライザへと果敢に斬り掛かる
木槍の柄で受け止めると氷の刃は砕けて散った

(…なんだ?木槍に合わせて魔力を調節してるとでも言うのか?フィル殿は何を狙っている?)

あまりに威力のない派手さだけの氷の攻撃に
少々ライザは不気味な感覚を覚えた
フィルはライザと距離をとった。
そしてライザの氷が付着する木槍に向かって手をかざす

「終わりです、"凍り"なさい」

バキバキと音を立てて木槍から氷が勢い良く伸びる。伸びた氷は地面と繋がり、そのまま氷の台座として木槍を完全に捉えた。

「…この様な芸当が出来るとは…」

「…さあ、僕の勝ちです、降参してください」

笑顔で勝利を確信したフィルに不敵に笑うライザ

「…フィル殿…果たしてそうかな?」

凍った木槍を手放し、ライザは物凄い速さで
フィルの背後へと回る、フィルの身体はライザの行動速度に全く反応出来ず振り返ることもなかった。

「うわっ!?」

フィルはライザに羽交締めにされて持ち上げられた。足が地面に届かずジタバタともがく

「ふふふ…どうだフィル殿!!私の勝ちだな!!」

「わかりました!わかりました!!私の負けです!!ですので早く降ろしてください!!」

何やらフィルは顔面を真っ赤にしてやたら焦っているように見えた。子供の様な扱いが
恥ずかしかったのだろうか?
ライザはフィルのその赤面して焦る表情が
とても気に入ったのか意地悪そうに言う。

「…そう嫌がるなフィル殿、私がこのまま場外まで連れてってやろう」

「違います!そうじゃなくて!!お願いですライザ殿、僕の話を聞いて!!」

「…なんだ?フィル殿?」

「…いや…あの…その…ライザ殿…ライザ殿の柔らかいのが…僕の背中に…当たっています…」

「ぅえっ!?」

フィルは赤面しながらライザだけに聞こえる様に
静かに言うと、ライザは頬を紅潮させて
フィルを落っことした。一連の出来事は
観ているギャラリーにとっては
とても不思議な光景だったが
細かい状況は当事者二人だけの秘密である
不可抗力とは言えライザの頭の中はオーバーヒート気味だった。

「た、助かった…」

フィルは地面にしっかりと着地し
赤面しながら自分の胸を押さえていた
緊張でとても脈が早かった。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ケーキを作る動画にまつわる一連のこと

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

「まがいもん」の村

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

異世界の平和を守るため、魔王に抱かれています!?

krm
BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:163

処理中です...