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本編・アリスティアの新学期

新たな出会い

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イスト王国のエチュード学園で、丁度、入学式が行われている頃であった。
それは、唐突に起きた事だ。
メリディエス王城の王の間で、現国王ウーゼルが倒れた事は、近親縁者と精鋭部隊の近衛兵の間だけの秘密となっていた。
つい先日まで、いつも通りマクシミリアンを連れて、公務を取り仕切っていたにも関わらず、王の間にて突然、力を失った様に倒れ込んだのだ

王妃レスティア、王子マクシミリアン、そして、王子妃ヴリュンヒルデが心配そうに見守る中で、寝室の寝台の中で寝込むウーゼル、時折、悶え覚醒する彼のその顔は、死人の様に酷く青ざめ白い肌をしていた。彼の妻である王妃レスティアはウーゼルの額に浮き上がる脂汗を献身的に拭う、苦しむ夫の前で悲しい顔をすまいと、瞳に涙を溜めて。必死に堪えて。

「…マクシミリアンよ…」

「父上、ここにおります」
 
「…すまぬが…儂は、恐らくは長くはないだろう…マクシミリアン、鷲の身にもしもの事があったら、レスティアと国の事は頼んだぞ…」

「…父上、国や皆の事は、心配せず、今はどうか養生して下さい。」

「…そうですよアナタ、あまり暗い事は言うべきではありません。こんなもの、すぐに良くなりますわ」

ウーゼルはマクシミリアンとレスティアに微笑むと、視線をヴリュンヒルデへと移した。

「ヴリュンヒルデ…どうかマクシミリアンとレスティアの事を助けてやってくれ…」

「…はい、お任せ下さい、国王陛下…いえ、義父様…。」

ヴリュンヒルデはウーゼルに静かに頷く。
苦しむ様子のウーゼルに、遂に堪えられなくなったレスティアは、頬に大粒の涙をこぼすと、ウーゼルは優しくそれを掬い取った。

「…すまぬ、儂が不甲斐ないばかりに君を悲しませるなどと…。」

「…アナタ、きっと頑張りすぎたのですよ、今は、ゆっくりと、ゆっくりとお休み下さい。」

「ああ…そうしよう、おやすみレスティア」

「おやすみなさい、アナタ」

レスティアはウーゼルの額に優しく口付けをすると、ウーゼルはレスティアに穏やかに微笑むんだ、そして、静かに目を閉じて、彼は束の間の眠りについた。



アリスティアは今はただ、何かを振り切る様にして、愛するジークハルトの身体にしがみついて、彼の腕に抱かれている。今のこの時間だけは、全ての嫌なモノを考える事なく、アリスティアは彼を思い、彼女を思うジークハルトに心満たされて、静かに眠りにつくのであった。

アリスティアは自身が国々や色々な事を、何も知らなかった事を痛烈に実感していた。
昨日、微笑むサーリャが去り際に見せた、恐らくはアリスティアやジークハルトに向けた、殺意ある鋭いくすんだ深紅の瞳の視線が、特に気になってはいたものの、これと言って解決策の無いまま、二人は翌日の朝を迎えた。
アリスティアとジークハルトは支度を終えると、仲良く学園の大講義室へと向かった。
講義室へ向かう途中、生徒の其々が、卒業に向けて何かを決意したり、その後の事を今から悩んでをいたり、今から来年行われる卒業試験に向けての準備をしたり思いを新たにした清々しい表情をしていた。

今日から学園は新学期が始まる。
新学期開始初日は、新入生や編入生を交えた説明会が大講義室行われるのだ。
去年、編入生であるアリスティアとジークハルトが参加した説明会とは異なり、あの時は中級生の同学年の生徒だけだったのが、今回は学園に在籍する全ての生徒が集められ、学園での主なルールや年間の主なスケジュールもこの日に伝えられた。
それを考えると、アリスティアとジークハルトの編入時期はかなり特殊だった事が伺えた。
二人はこの講義室に初めて来たの時を思い出す。
それが、約半年以上前である事実を確認すると、アリスティアとジークハルトは中々感慨深いものを感じていたのだった。
この残り一年、アリスティアはジークハルトや仲間達と共に、最高の一年になる様に励んで行こうと、これから起こる事に心躍らせながら意気込んでいる様子である。

ソフィアからの一通りの説明が終わると、生徒会に在籍している生徒以外の在校生達は、大講義室から霧散する様に各々の教室へと向かって行く。
生徒会が新入生と編入生に挨拶する為、生徒会長ローゼリアをはじめ、副会長のレオン、一応生徒会役員である、アリスティアやジークハルト達も学園長や教師達と共に、その場に残って自己紹介を行うと、新入生も編入生もその場の全員が話を静かに聴いていた。

「それでは…私から、この度、中級生の編入生の紹介をいたします。」

するとマナフロアの隣にいた、二人の男女の生徒が一歩前へと出た。男女共にプラチナブロンドの頭髪を輝かせる。髪型や瞳の色や目元は違えど、その端正な顔立ちは、まるで生き写しの様であり双子を思わせた。

「私はアリーシャ、彼はヴァルハイト、見てお気付きかと思いますが、私達は双子の姉弟です。」

「ん?兄妹だろ?僕の方が年上のはずだ」

「どっちでも良いでしょう」

容姿がよく似た二人の喧嘩を見ていると、まるで自分同士が喧嘩をしている様に見え、とても不思議な光景であった。
アリーシャとヴァルハイトの特別な違いは瞳の色であった。アリーシャの瞳は煌々と空に輝く真昼間の太陽の様な明るい黄金色で、ヴァルハイトの瞳は夕闇に染まる茜色の様な真紅の様な赤色をしていた。

二人の光景を見ていた新入生達の一部はざわめき初め、所々で「これだから平民は」とか「田舎者の猿め」とか貴族出身の新入生からそう言った、二人に対する侮蔑の発言が聞こえ始めると、マナフロアは大きく咳払いをした。ざわめきは一気に静かになった。

「…二人とも、喧嘩はそこまでになさい、これから学園内の案内をします。生徒会の皆さんは編入生の二人を案内して下さい。」

「わかりましたですわ、では、アリーシャ、ヴァルハイト、私達について来て下さいませ。」

「わかりました。」

ローゼリアの言葉にアリーシャは頷き、何も言わずに付いて行く、アリスティア達もそれに続き、最後にヴァルハイトが大講義室を出る間際であった、彼は入り口前で立ち止まると、先程、悪口雑言を放った貴族達に鋭い視線で睨み付けた。彼の真紅の眼には魔力と怒りと殺気が宿り、まるで今からでも戦いに赴く者の様であった。
彼と目が視線が合った刹那、貴族達の背筋が言いようも無い恐怖と寒気に襲われ、恐れ慄くと。
ヴァルハイトは爽やかに微笑み、何も言わず、その場を後にした。
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