クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ

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年下男子に振りまわされたら

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「結果、楽しみに待ってるからね♪」


芽依はそう言うと、わたしを残して先に帰ってしまった。


1人じゃ心細いからいっしょについてきてほしかったのに、今日はこの前連絡先を交換した男の子と前々から遊ぶ約束をしてたとかで。


…仕方ない。

1人で行くしかない。


わたしは深いため息をつくと、意を決してユウヤくんが待つ屋上へ向かった。



屋上へ通じるドアをゆっくりと開けると――。


風に揺れる髪をかき上げる、ユウヤくんの後ろ姿があった。


…いた。

てっきり、遊びかなにかの冗談の告白と思っていたから、本当にいるとも思わなかった。



「あ…あの…」


わたしの声に反応すると、クルッとユウヤくんが振り返った。


「…よかった~。本当にきてくれた」


そして、わたしの顔を見るなり笑みをこぼす。


「きてくれないかもとも思ってたんです。でも、花岡先輩がそんなひどいことするわけないですよね!」


ユウヤくんは、無邪気に笑う。


「ここにきてくれたってことは、いい返事…期待してもいいですか?」


ユウヤくんがゆっくりと歩み寄ってきて、まん丸な目でわたしの顔を覗き込む。


それはもはや、ご主人様にかまってほしい子犬そのものだ。


…でも。

このあとのわたしの発するひと言で、きっとこの愛らしい表情は崩れてしまうことだろう。


そう思うと、胸が締めつけられた。


だけど、言わなければならない。



「…ユウヤくん」

「はいっ!」


眩しすぎる期待の眼差しが…痛いっ。


わたしは手をもじもじさせて、口を少しだけ開いて、小さな声を絞り出した。


「いろいろ考えたんだけど…。わたし…やっぱり、ユウヤくんとは付き合えません。…ごめんなさい」


…言った。

言ってしまった。


こんな地味なわたしが、ユウヤくんをフる権利なんてないと思うけれど…。


「初めて告白されたから、どうしたらいいのかわからなかったんだけど…。わたし、好きでもない人と付き合うなんてことはできないから…」


わたしはユウヤくんの顔を見ることができなくて、視線を落とすとそのまま頭を下げた。


「…だから、ごめんなさい」


これが、わたしの誠心誠意を込めた謝罪だ。


こんなわたしが、イケメンのユウヤくんをテキトーにフるなんてことはできないから、せめて丁寧にお断りしなければ。


頭を下げてはみたものの、ユウヤくんが悲しい表情をしているかと思ったら、なかなか顔を上げることができなかった。



――すると。


「さすがです、花岡先輩」


思っていたものとは違う言葉が返ってきて、わたしはキョトンとしてユウヤくんに目を向ける。


「花岡先輩なら、いい加減な気持ちで付き合ったり断ったりしない。そう思ってました。だからオレは、そんな花岡先輩の真面目さに惚れたんですっ」


なぜかユウヤくんは、ニッと笑みを見せていた。


まるで、わたしのことを知ったような言い方…。


「ユウヤくん。わたしと前に、どこかで会ったことがあるの?」

「やっぱり花岡先輩、覚えてませんよね~。…まぁ、そりゃ気づきませんよね」


ユウヤくんはそう言うと、制服のズボンのポケットに手を突っ込んだ。

中から出てきたのは、メガネ。


しかしそれは、ただのメガネではない。


まるで牛乳瓶の底をくり抜いたような、分厚いレンズの丸メガネ。


そのメガネをかけたユウヤくんを見て、わたしはハッとした。


この…お世辞でもオシャレとは言えないメガネをかけた少年と、わたしは以前会ったことがあった。


あれは、去年の秋のオープンスクールの日。


わたしは校内で案内の手伝いをしていたとき、この瓶底メガネの少年と話したことがあった。

方向音痴ですぐに迷うからと相談されたから、しばらくの間、学校の中を案内してあげた。


…それがまさか、ユウヤくんだったなんて。



「そのとき、花岡先輩に優しくしてもらって、絶対この中学に入るんだって思いました。それで告白しようって、ずっと思ってました」


わたしは、ユウヤくんと話したことなんてないと思っていたけど…。


…あのとき、すでに出会っていたなんて。



「告白してみたものの、花岡先輩にフラれることは、なんとなく予想はついていました」

「…ユウヤくん」


それでも、告白してくれたんだ。

本当に、『こんなわたしに告白してくれて、ありがとう』としか言えな――。


「でも、そう簡単に引き下がりませんよ」


……えっ…?


ユウヤくんの表情が変わった。

わたしを試すように、意地悪に笑っている。


「1つ聞きますけど、断る理由は『好きでもない人と付き合えない』ってことで、間違いないですか?」

「う…うん。そうだけど…」

「大丈夫です。オレ、好きにさせる自信、ありますからっ」


は…はい…?


困惑するわたしに、ユウヤくんが詰め寄ってくる。


わたしを壁に追い詰めると、わたしよりも少し背が高いユウヤくんが見下ろしてくる。


「よく知りもしないでフラれるなんて、心外です。付き合ったら、オレのこと絶対好きにさせてみせますからっ」


かわいい子犬からではわからなかった、すごい気迫を感じる。

自分に自信がないわたしとは、正反対だ。


「オレのこと知ってから、フるのも遅くないでしょ?」


ユウヤくんのまん丸い瞳に、わたしの戸惑う顔が映っている。


強引、だけどどこかかわいげのあるその質問に、わたしは無意識のうちに首をコクンコクンと縦に振っていることに気づいた。


「…あっ、待って!今のは…違う!」

「え?でも、確かに頷きましたよね?」

「それは、この場の空気に飲まれたというか…。だから、ユウヤくんとは付き合えな――」

「それじゃあ、…1週間だけっ!1週間だけ、お試しでオレと付き合ってくださいっ」


顔の前で手を合わせて、わたしに懇願するユウヤくん。


初めは断るつもりでいたのに、なんだかユウヤくんのペースに流されているような気がする。


でも、こんなふうにお願いされたら、なかなか断ることなんてできない。

それに、不本意だったとはいえ、わたしも一度は頷いてしまったわけだし…。


「じゃ…じゃあ、1週間だけ……ね?」


わたしがそう言うと、ユウヤくんの表情がパッと明るくなった。


「マジっすか!?…やっったーーー!!!!」


そして、大げさなくらいに喜んでくれた。



こうしてわたしは、1週間だけユウヤくんとお試しで付き合うことになった。


1週間たったら、ちゃんとお断りの返事をしよう。


そう心に決めて。



それがまさか、わたしには興味はないと思っていたクールな“彼”の、独占欲をくすぶることになるなんて。


このときは、思ってもみなかった。



次の日。


「しずく!昨日のメッセージ、どういうこと~!?」


昇降口で、ローファーから上靴に履き替えるわたしの姿を見つけるなり、あとから芽依が駆け寄ってきた。


「お…おはよ、芽依」


芽依の圧に、思わず後ずさりしてしまう。
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