クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ

文字の大きさ
3 / 23
年下男子に振りまわされたら

1P

しおりを挟む
「結果、楽しみに待ってるからね♪」


芽依はそう言うと、わたしを残して先に帰ってしまった。


1人じゃ心細いからいっしょについてきてほしかったのに、今日はこの前連絡先を交換した男の子と前々から遊ぶ約束をしてたとかで。


…仕方ない。

1人で行くしかない。


わたしは深いため息をつくと、意を決してユウヤくんが待つ屋上へ向かった。



屋上へ通じるドアをゆっくりと開けると――。


風に揺れる髪をかき上げる、ユウヤくんの後ろ姿があった。


…いた。

てっきり、遊びかなにかの冗談の告白と思っていたから、本当にいるとも思わなかった。



「あ…あの…」


わたしの声に反応すると、クルッとユウヤくんが振り返った。


「…よかった~。本当にきてくれた」


そして、わたしの顔を見るなり笑みをこぼす。


「きてくれないかもとも思ってたんです。でも、花岡先輩がそんなひどいことするわけないですよね!」


ユウヤくんは、無邪気に笑う。


「ここにきてくれたってことは、いい返事…期待してもいいですか?」


ユウヤくんがゆっくりと歩み寄ってきて、まん丸な目でわたしの顔を覗き込む。


それはもはや、ご主人様にかまってほしい子犬そのものだ。


…でも。

このあとのわたしの発するひと言で、きっとこの愛らしい表情は崩れてしまうことだろう。


そう思うと、胸が締めつけられた。


だけど、言わなければならない。



「…ユウヤくん」

「はいっ!」


眩しすぎる期待の眼差しが…痛いっ。


わたしは手をもじもじさせて、口を少しだけ開いて、小さな声を絞り出した。


「いろいろ考えたんだけど…。わたし…やっぱり、ユウヤくんとは付き合えません。…ごめんなさい」


…言った。

言ってしまった。


こんな地味なわたしが、ユウヤくんをフる権利なんてないと思うけれど…。


「初めて告白されたから、どうしたらいいのかわからなかったんだけど…。わたし、好きでもない人と付き合うなんてことはできないから…」


わたしはユウヤくんの顔を見ることができなくて、視線を落とすとそのまま頭を下げた。


「…だから、ごめんなさい」


これが、わたしの誠心誠意を込めた謝罪だ。


こんなわたしが、イケメンのユウヤくんをテキトーにフるなんてことはできないから、せめて丁寧にお断りしなければ。


頭を下げてはみたものの、ユウヤくんが悲しい表情をしているかと思ったら、なかなか顔を上げることができなかった。



――すると。


「さすがです、花岡先輩」


思っていたものとは違う言葉が返ってきて、わたしはキョトンとしてユウヤくんに目を向ける。


「花岡先輩なら、いい加減な気持ちで付き合ったり断ったりしない。そう思ってました。だからオレは、そんな花岡先輩の真面目さに惚れたんですっ」


なぜかユウヤくんは、ニッと笑みを見せていた。


まるで、わたしのことを知ったような言い方…。


「ユウヤくん。わたしと前に、どこかで会ったことがあるの?」

「やっぱり花岡先輩、覚えてませんよね~。…まぁ、そりゃ気づきませんよね」


ユウヤくんはそう言うと、制服のズボンのポケットに手を突っ込んだ。

中から出てきたのは、メガネ。


しかしそれは、ただのメガネではない。


まるで牛乳瓶の底をくり抜いたような、分厚いレンズの丸メガネ。


そのメガネをかけたユウヤくんを見て、わたしはハッとした。


この…お世辞でもオシャレとは言えないメガネをかけた少年と、わたしは以前会ったことがあった。


あれは、去年の秋のオープンスクールの日。


わたしは校内で案内の手伝いをしていたとき、この瓶底メガネの少年と話したことがあった。

方向音痴ですぐに迷うからと相談されたから、しばらくの間、学校の中を案内してあげた。


…それがまさか、ユウヤくんだったなんて。



「そのとき、花岡先輩に優しくしてもらって、絶対この中学に入るんだって思いました。それで告白しようって、ずっと思ってました」


わたしは、ユウヤくんと話したことなんてないと思っていたけど…。


…あのとき、すでに出会っていたなんて。



「告白してみたものの、花岡先輩にフラれることは、なんとなく予想はついていました」

「…ユウヤくん」


それでも、告白してくれたんだ。

本当に、『こんなわたしに告白してくれて、ありがとう』としか言えな――。


「でも、そう簡単に引き下がりませんよ」


……えっ…?


ユウヤくんの表情が変わった。

わたしを試すように、意地悪に笑っている。


「1つ聞きますけど、断る理由は『好きでもない人と付き合えない』ってことで、間違いないですか?」

「う…うん。そうだけど…」

「大丈夫です。オレ、好きにさせる自信、ありますからっ」


は…はい…?


困惑するわたしに、ユウヤくんが詰め寄ってくる。


わたしを壁に追い詰めると、わたしよりも少し背が高いユウヤくんが見下ろしてくる。


「よく知りもしないでフラれるなんて、心外です。付き合ったら、オレのこと絶対好きにさせてみせますからっ」


かわいい子犬からではわからなかった、すごい気迫を感じる。

自分に自信がないわたしとは、正反対だ。


「オレのこと知ってから、フるのも遅くないでしょ?」


ユウヤくんのまん丸い瞳に、わたしの戸惑う顔が映っている。


強引、だけどどこかかわいげのあるその質問に、わたしは無意識のうちに首をコクンコクンと縦に振っていることに気づいた。


「…あっ、待って!今のは…違う!」

「え?でも、確かに頷きましたよね?」

「それは、この場の空気に飲まれたというか…。だから、ユウヤくんとは付き合えな――」

「それじゃあ、…1週間だけっ!1週間だけ、お試しでオレと付き合ってくださいっ」


顔の前で手を合わせて、わたしに懇願するユウヤくん。


初めは断るつもりでいたのに、なんだかユウヤくんのペースに流されているような気がする。


でも、こんなふうにお願いされたら、なかなか断ることなんてできない。

それに、不本意だったとはいえ、わたしも一度は頷いてしまったわけだし…。


「じゃ…じゃあ、1週間だけ……ね?」


わたしがそう言うと、ユウヤくんの表情がパッと明るくなった。


「マジっすか!?…やっったーーー!!!!」


そして、大げさなくらいに喜んでくれた。



こうしてわたしは、1週間だけユウヤくんとお試しで付き合うことになった。


1週間たったら、ちゃんとお断りの返事をしよう。


そう心に決めて。



それがまさか、わたしには興味はないと思っていたクールな“彼”の、独占欲をくすぶることになるなんて。


このときは、思ってもみなかった。



次の日。


「しずく!昨日のメッセージ、どういうこと~!?」


昇降口で、ローファーから上靴に履き替えるわたしの姿を見つけるなり、あとから芽依が駆け寄ってきた。


「お…おはよ、芽依」


芽依の圧に、思わず後ずさりしてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...