クールな幼なじみが本気になったら

中小路かほ

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ある日突然告白されたら

2P

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「昨日の『Excellent』読んだっ!?」


やってきたのは、茶髪のロングヘアを緩くミックス巻きした女の子。

このクラスで一番仲がいいわたしの友達、篠田芽依しのだめいだ。


「ちょっだけ読んだよ。お母さんが忘れずに買ってきてたから」

「さすが、しずくママ!あたしも、お兄が買ってきたの読んでた」


芽依には、高校生のお兄さんがいる。

だから、『Excellent』も家にあるらしい。


それに、大学生のお姉さんもいる。

そのため、芽依はメイクやファッションには敏感だし、常に流行を取り入れているオシャレさんだ。


このクラスになって、初めて声をかけられたときは、わたしと真逆な雰囲気でびっくりした。

でも、話してみたらおもしろくて、仲よくなるのにそう時間はかからなかった。


だから、今のクラスになってまだ1ヶ月半ほどだけど、わたしたちはいつもいっしょにいる。


「ほんと律希くんって、普段もそうだけど、雑誌で見ると余計に同い年だって思えないっ」

「そうだよね。大人っぽいもんね」

「そういえば、しずくって律希くんと同じ小学校だったんだよね?小学生のときからあんな感じだったの?」

「うん。1人だけクールだし、そのときから人気だったよ」


芽依には、りっくんと同じ小学校という話はしたことはあるけど、『幼なじみ』ということまでは話していない。

わたしからあえて言うことでもないし、今は小学校のときみたいに、いっしょに帰るという仲でもないから。



そのとき、教室内がわっとざわついた。


女の子たちが、一斉にある方向に目を向けている。

そこにいたのは、廊下からわたしたちのいる教室内を見渡すりっくんだった。


女の子たちの視線を集めながら、りっくんはゆっくりと教室の中へ入ってくる。

そして、やってきたのはわたしの目の前。


「しずく、今大丈夫?」

「う…うん」

「あのさ、英語の教科書貸してくれない?家に忘れてきたみたいで」

「あ、そうなの?りっくんが忘れ物なんて珍しいね。…ちょっと待ってねっ」


わたしは机の中をごそごそと探ると、英語の教科書を取り出した。


「はいっ」

「サンキュ。1限が英語だから、終わったらすぐに返すから」


りっくんはそう言って、教科書を持った手を軽く挙げると、自分の教室へと戻っていった。


そのわたしたちのやり取りをポカンとした表情で見ていたのは、隣にいた芽依。


「なになに…今の!?しずく、律希くんとめっちゃ仲いいじゃん!」

「そっ…そんなことないよ!」

「いやいや!律希くんと教科書の貸し借りとか、すっごく憧れるんだけど!もしかして、2人って…付き合ってるの!?」


芽依がそんなことを大きな声で言うものだから…。

教室中の女の子の視線が、痛いくらいに一斉にわたしに突き刺さった。


「付き合ってないよ…!ただ、小学校がいっしょだったってだけだからっ」


この学校には、りっくんのことが好きな女の子と、モデルの律希のファンの女の子がたくさんいる。


だから、もしりっくんと付き合っているだなんて、嘘だったとしてもそんな噂が流れたら…。

…なにをされるかわからない。


それに、わたしとりっくんが付き合うだなんて――。

そんなこと、天と地がひっくり返ったってあるはずがない。



「ちょっと冗談で言ってみただけなのに、しずく必死すぎだよ~!」


芽依は、いたずらっぽく笑ってみせる。


「それに、律希くんって好きなコいるんでしょ?雑誌のインタビューコーナーに書いてあったの見た?」

「見たよっ。お母さんが騒いでた」


そう。

りっくんには、好きなコがいる。


だから、今わたしのことを頼ってくれてるのだって、きっと幼なじみだからに違いない。



わたしはというと、りっくんと違って好きな人はいない。


りっくんがそばにいるからだろうか。

どうしてもりっくんと比べてしまうと、なんか違う…となってしまう。


それに、わたしは他のコと違って地味だから。


こんなわたしと付き合いたいと思ってくれるような男の子なんて、いるはずがない。


――そう思っていたら。



それから、数日後。

お昼休み。


教室で、芽依とお弁当を食べていたときのことだった。


わたしが、最後のミートボールを口の中へ入れたとき――。


「…あれって、1年生じゃない?」


卵焼きをお箸で摘んだ芽依が、廊下のほうへ目をやる。


見ると、廊下からキョロキョロと教室内を見渡す小柄な男の子がいた。


ダークブラウンの地毛が特徴的な、1年生の男の子だ。


確か名前は…、『ユウヤ』くん。


新入生にカッコカワイイ男の子がいるって、2年生の間でも噂になっていたから。


背は決して高くないんだけど、整った顔に、まるで子犬のようなクリクリとした目がたまらないって。


同じイケメンでも、りっくんがクールなドーベルマンかシェパードだったとしたら、ユウヤくんは愛らしいチワワかトイプードルだ。


そんな1年生のユウヤくんが、どうして2年生の教室が並ぶこの階へ…?



「見て♪キョロキョロとしてるあの姿、まさにご主人様の帰りを待つ子犬って感じだよねっ」


芽依はユウヤくんのかわいげな姿に、自然と笑みが溢れている。


なにかを探しているような素振りのユウヤくんだけど、そのユウヤくんと目が合った。

そして、わたしと顔を合わせるなり、「あっ!」というように口を開ける。


「花岡先輩!ちょっと今いいですかっ!?」


…えっ。

えぇぇえ、…いきなり名指し!?


わたし、ユウヤくんの名前と顔を知っている程度で、…話したことなんてないんだけど。


「えー!しずく、どういうこと!?ユウヤくんと…どういう関係!?」


興奮気味の芽依。

でも、わたしが一番この状況を理解できていない。


「…いや。わたしも、なにがなんだか…」


と説明するわたしのところへ、ユウヤくんが一直線にやってくる。


間近で見ると、肌が白くてまつげが長くて、本当にきれいな顔立ちをしている。


…って、そうじゃなくて!


「ど…どうしたの?」


初めて話すから…緊張する。


「いきなりで、すみません…!でもオレ、花岡先輩に伝えたいことがあって!」

「伝えたいこと…?」


わたし、ユウヤくんになにかしたことがあっただろうか?


そう思って、今までのことを振り返っていると…。


「オレ、花岡先輩のことが好きです!一目惚れでした!よかったら、オレと付き合ってください!」


それを聞いて、思わず飲んでいたお茶を噴きかけた。

変な気管に入ってしまって、ゴホゴホとむせる。


…え、えっと……。

今、なんて…?


「今日の放課後、屋上で待ってます!そこで、返事を聞かせてください!」


ユウヤくんはそれだけ言うと、あっという間に教室から出ていってしまった。


まるで、嵐が過ぎ去ったかのような静けさ。


突然のことで頭がフリーズして、うまく思考がまわらない。


そんな心ここにあらずのようなわたしの目の前で、芽依がパタパタと手を振っている。


「お~い、しずく~!大丈夫?」


その声にハッとして、ようやく我に返る。


「ご…ごめん、ごめん!」

「いや、そうなるのも無理ないよ。だって、いきなり教室で告白されたんだもんっ」


告…白……。


「やっぱり今のって、告白…なのかな?」

「なに言ってんの~!『好きです!』『付き合ってください!』って、面と向かって言われてたじゃん!」


あ…あれが、…告白。

初めてされたよ…。


「しかも、相手は1年生のイケメン、ユウヤくんでしょ~!答えはもう決まったようなものじゃん♪」

「…答え?」

「もちろん『OK』で、返事するんでしょっ?」


『OK』って…。

それって、わたしとユウヤくんが付き合うってこと…!?


「し…しないよ!OKなんてっ…」

「なんで?ユウヤくんなら、断る理由なんてないじゃん」

「そもそも、話したこともないんだよ…!?相手のこともよく知らないし…」

「そんなの、付き合ってから知ればいいんだよ♪」


も~…。

芽依は、他人事だと思って楽観的だ。


…いや。

芽依は、今まで何人かの人と付き合ったことがあるらしいから、その経験からのアドバイスというのか。


「と…とにかくっ。わたし、ユウヤくんとは付き合わないよ…!」

「え~、もったいな~いっ」


そんな話をしていると、5限が始まる予鈴が鳴った。


芽依は、付き合ってから知ればいいって言うけど、好きでもない人と付き合うことなんて…できない。


そもそもどうしてこんな地味なわたしなんかに、イケメンで女の子に困っていなさそうなユウヤくんが告白してきたのだろうか…。


きっとユウヤくんのことを好きなコは多いはず。

わたしよりもかわいい女の子がたくさん。


そんな女の子たちを差し置いて…。

わたしなんかが、ユウヤくんをフってもいいのだろうか。


恋愛経験ゼロの地味なわたしが。


ユウヤくんだって、わざわざ2年生の教室まできて、みんなのいる前で告白してきて、きっと緊張していたはず。


そうまでしてくれたのに、わたしがあっさりとフってしまったら、ユウヤくんに失礼になるのかな…。


告白もされたことのないわたしにとって、経験したこともない事態だから、自分じゃどうしたらいいのかわからない。



お断りの返事をするつもりだったけど、5限、6限といろいろと考えていたら、徐々に気持ちが揺らいできた。


こんなとき…どうすれば。


芽依は、『OK』したほうがいいって言うし、他に相談できそうな人といえば――。


ふと、わたしの頭の中にりっくんの顔が浮かんだ。


りっくんなら、きっとなにかアドバイスをくれるはずだ。


でも、りっくんは今日から1週間、雑誌の撮影で学校を休んでいる。


電話やメッセージをしても、仕事中だったら迷惑だろうし…。


そうしてわたしは、なにもできないままその日の放課後を迎えた。
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