時をこえて、またキミに恋をする。

中小路かほ

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幕末剣士、現代へ

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そういうこともあって、お姫さまと見た目が似ているわたしには当たりが強かったというわけか。


「そもそも、俺と姫は幼い頃から想い合っていたんだ」


両想いだった宗治とお姫さまは結婚の約束をしていて、晴れてもうすぐ公家のお屋敷からも結婚相手として認められようとしていたんだとか。


「それじゃあ、じいちゃんばあちゃん!俺が元の時代へ戻れば、また姫に会えるってことか?」

「そういうことじゃな。宗治くんの強い想いが、また姫さまと巡り合わせるチャンスを与えてくれたのじゃよ」

「だったら、俺は姫に会って無事を伝えなければならない。きっと心配しているはずだ」


わたしにはまったく愛想はないけど、そんなわたしには見せないような真剣な表情をするものだから、宗治は本当にその都子姫のことが好きなんだろう。


すると、わたしはここでハッとした。

なにかが頭の中を駆け巡って、ひらめいたというような感覚だ。


「…もしかして!宗治って、いつもわたしの夢に出てきた剣士…!?」

「は?俺が…お前の夢に?」


そうだ…!

絶対そうだ!


黒髪に近い濃紺の短髪。

秘色色の着物に、錆浅葱色の袴。


見覚えがあると思っていたけど、度々見る夢の中の男の子と同じだ!


「宗治と同じ格好をした後ろ姿の男の子を、何度も夢で見たの。しかも、その夢は火に囲まれた火事の場面で…」


わたしの言葉に、おじいちゃんとおばあちゃんは顔を見合わせる。


「なるほど…。これはおもしろいのぉ」

「都美は救い人の力だけでなく、前世の記憶も受け継いでいたんじゃな」


そうして、おばあちゃんはまた別の古文書を取り出す。


「これを見てみなさい」


開かれたあるページに目をやると、そこから数ページに渡ってあみだくじのようなものが書かれている。


「おばあちゃん、これって…」

「この家の家系図じゃよ」


おばあちゃんが指さすところには、わたしと朔の名前も書き記してあった。


その指を滑らし、家系図をさかのぼっていくと――。


「“都子姫“…!?」


おばあちゃんが指を止めたところの名前を見て、声を漏らす宗治。


たしかにそこには、【都子】と名前が書かれてあった。


「つまり、都美は宗治くんが仕えていたという都子姫の生まれ変わりじゃな」

「わたしが…都子姫の生まれ変わり?」

「そうじゃ。都美が何度も見るという夢は、前世の都子姫の記憶じゃ」


にわかには信じがたいけど、そう説明されるとあの夢の内容にも納得がいく。


宗治とは今日初めて会ったものとばかり思っていたけど、どうやらわたしは前世ですでに出会っていたようだ。

都子姫として。


そして、あの夢の続きが宗治がタイムスリップするまでの話と繋がる。

あの火事の現場から都子姫を助け出したあと、宗治は一度そこで亡くなったのだ。


「この前世の記憶っていうのも、救い人の力と関係があるの?」

「それは関係ないのぉ。特殊な力がなくても、世の中には前世の記憶を持って生まれる者も存在するからのぉ」


わたしは都子姫の生まれ変わりだからこそ、姿かたちが同じで、運命的に似た名前をつけられたのだろうと。


「…ばあちゃん、ちょっといいか!?」


すると、宗治は家系図が書かれた古文書を取り上げた。

そして、険しい表情で古文書を見つめたあと、まるで魂が抜けたかのようにへたりこんでしまった。


「どうかしたの?」

「…俺じゃなかった」

「え?」

「都子姫の結婚相手は…、俺じゃなかった…」


宗治が力の抜けた手で握っている家系図に目をやると、【都子】と書かれた名前を線で結んだ隣にあった名前には、【壱】と書かれてあった。


「『イチ』って読むのかな…?」

「…違ぇよ。高倉はじめだ」

「“高倉”…!?」


宗治の口から『高倉』という言葉が出てきたから驚いた。

なぜなら、ここが高倉という名の家であることはまだ話していなかったから。


「…まさか。この家系図がここにあるということは…」

「そうだよ。うちの名字は『高倉』」


ということは、この高倉壱という人と都子姫が結婚したことによって、数百年後にわたしたちが生まれた。


つまり2人は、わたしたちのご先祖様だ。


「宗治くんが結婚相手に選ばれるはずだったかもしれんが、時渡りがきっかけで宗治くんが元の時代から姿を消し、かわりに都子姫はこの高倉壱と結婚することになったんじゃろうな」

「…そんな。俺じゃなくて、壱なんてっ…」


愕然とする宗治。

たしかに、結婚を約束していた人が自分ではない他の人と結婚したって知ったらショックだよね。


「宗治は、その『壱』って人のこと知ってるの?」

「壱も幼なじみだ。ただ、壱も都子姫の結婚相手の候補として、俺といっしょに都子姫に仕えていた」


宗治と都子姫と壱さんは、昔からの幼なじみ。

さらに、宗治と壱さんは都子姫を想う恋のライバルだったというわけだ。


宗治の話からすると、都子姫の気持ちも含めて、宗治が結婚相手に選ばれようとしていた。

だけど、宗治がいなくなったことによって、都子姫は壱さんと結婚することとなったのだ。


そうして、現在に至る。


「だったらなおさら、俺はすぐにでも元いた時代に戻らねぇと!みすみす、壱に都子姫を渡してたまるか!」


そう言って、食べかけのごはんの入ったお茶碗を座卓に置いて、勢いよく立ち上がる宗治。

しかし、そこで『…』と間が入る。


「…で、俺はどうやったら戻れるんだ?」


結局、自分では帰り方を知らないようだった…。
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