時をこえて、またキミに恋をする。

中小路かほ

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幕末剣士、学校へ

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「じいちゃんばあちゃん、戻る方法はあるんだろ?教えてくれよ」


立ち上がっていた宗治は、いったん冷静になって座りなおす。


「宗治くんが元の時代へ戻るには、都美の救い人の力が必要じゃ」

「救い人の力…?」

「要は、都美が持つ特殊な力で宗治くんを救うことができるということじゃよ」


おじいちゃんとおばあちゃんの話を聞いて、宗治は隣に座っていたわたしに目を向ける。

そして、めちゃくちゃ嫌そうな表情を浮かべた。


「え~…。なんでこいつが…」

「…ちょっと!そんなにいやなら、協力してあげないよ!?」

「なんだよ、ニセ姫のくせにっ」

「わたしはお姫さまの偽物じゃなくて、都美!」


たしかに都子姫と瓜二つの顔かもしれないけど、なにも偽物じゃなくてわたしはわたしという1人の人間なんだからっ。


「つまり都美なくして、宗治くんは元の時代には戻れないということじゃな」


救い人は、過去からやってきた人を救う力があるというけど、それは元の時代に返すことができるということだった。


「じゃあ、その救い人の力ってやつで、どうやったら戻れるんだ?」

「それは、古文書によると…」


おばあちゃんは、また違う古文書に目を通す。

そんなおばあちゃんの姿を食い入るように見つめる宗治。


「ここには、『桜が狂い咲く夜、時をこえる』…と書いてあるの~」

「…桜が狂い咲く?…そういえば!火事の日も、冬なのに桜が咲いていて…」


宗治は、火事のお屋敷から都子姫を外へ連れ出したあと、庭にあった桜の木の根元で倒れてしまったんだそう。

そのとき、木の幹にあったうろが赤紫色にぼんやり光っていたとか。


つまり、宗治は狂い咲きした桜の木のうろに吸い込まれ、再び現代の桜の木のうろから現れたのだ。

わたしが見たのはそれだった。


そして宗治の話からすると、神社にある御神木の桜の木は、宗治がいた時代から存在していた。

同じ桜の木からタイムスリップしたとすると、わたしたちがいるこの夜月神社は、その昔、都子姫が暮らしていた公家のお屋敷があった場所なのだ。


「同じ場所で、同じ桜の木があるなら、なんだか帰るのも簡単そうだね」


救い人がまだいまいちよくわかってないけど、幕末の剣士がこっちの世界で暮らしていけるわけないだろうから、早く返してあげたいし。

本音としては、わたしに対して失礼すぎる宗治をすぐにでも返却したいだけ。


「そうとなれば、次はいつ桜が咲くんだ!?」


宗治も、元の時代へ帰れるかもと思って前のめりだ。

戻ったら、自分は生きていることを都子姫に伝えて、壱さんとの結婚を阻止したいみたいだし。


――しかし。


「次にいつ桜が咲くかなんて、それはわからんの~」


キョトンとした顔のおばあちゃんは、ゆっくりと湯呑みに入った熱いお茶をすする。


「…はぁー!?わかんないってどういうことだよ!?」

「そのままの意味じゃよ。ここ最近は春にしか咲かんから、狂い咲きではなくて来年の春まで待つ必要があるかもしれんの~」

「「来年の春ー…!?」」


宗治の声と重なったのは、わたしの声だ。

てっきり、すぐにでも宗治を返せると思ったのに。


今はゴールデンウィーク。

季節通りに桜が咲くとなると、ほぼ1年後ということだ。


「…そんなのっ、待ってられっか!」


宗治は立ち上がると、居間の襖を開け放った。


「ちょっと…どこ行くの!?」

「戻る方法が他にないか、探しに行くんだよ!」

「探しにって…。ここは、宗治が住んでいた世界とは違うんだよ?」

「そんなことはどうだっていい!のんびり来年の春まで待てるわけねぇだろ!」


宗治はそう言うと、腰に刀をさして、所々が焦げてボロボロの袴姿のまま出ていってしまった。


「おじいちゃんおばあちゃん、止めなくてよかったの…!?本当にどこかに行っちゃったよ?」

「さすがにあのにいちゃん、…ヤベーんじゃねぇの?」


心配するわたしと朔だけど、おじいちゃんとおばあちゃんは焦る様子は一切なく、お茶を飲んでほっこりしている。


「なにも心配することはない。そのうち自分から帰ってくるからの~」

「自分から…帰ってくる?」


あの無鉄砲そうな剣士が、そんな素直に帰ってくるものなのかなぁ。

なにがなんでも、戻る方法を見つけるまでは帰ってこなさそうだけど…。


「…それに!宗治が腰にさしてた刀って、たぶん…本物の日本刀だよね?お巡りさんに見つかったらマズイんじゃないの?」

「まぁそうかもしれないが、おじいちゃんたちがああ言うんだし、しばらく待っておくことにしよう」


お父さんも落ち着いた様子で新聞を読み始めた。

お母さんは、「帰ってくるなら、ごはんは片づけないほうがいいかしら~」なんて、のんきなことを言っている。


あんな袴姿で歩いていたら絶対に目立つし、今頃お巡りさんに職務質問されてるんじゃないだろうか。

わたしはそんなことを考えていた。


…それから1時間後。

玄関の戸が開き、ドタバタとした足音が居間に近づいてくる。


「…おい!これは一体、どういうことだ…!?」


居間の襖が開けられ目をやると、息を切らした宗治が立っていた。


「ほんとに帰ってきた…!おかえり~」


おじいちゃんとおばあちゃんが言った通りになった。


だけど、…あれ?

なんだか宗治の体が透けて見えるような…。


「なんか、さっきと比べて…薄くなった?」

「…そうだよ!だから、どういうことなんだって聞いてんだよ…!」


どうやら出ていってしばらくして、徐々に体が透けてきていることに気づいたんだそう。

元には戻らず、さらに薄くなるものだから、慌てて帰ってきたらしい。


「そりゃ宗治くんはもともと現代にはいるはずがない存在じゃ。消えてなくなっても、なにもおかしくはないの~」

「このままだと…俺は消えちまうのか!?」

「そういうことじゃ」


おじいちゃんとおばあちゃんは、宗治の体が薄くなることを知っていたようだ。

だから、それに気づいた宗治がこうして戻ってくることを予想していたのだ。


「どうやったら、俺は消えなくてすむんだ…!?」

「簡単なことじゃよ。都美のそばから離れなければいいだけじゃ」

「「…へっ?」」


またしても、わたしと宗治の声が重なった。


「…待って、おばあちゃん。どういうこと?」

「救い人は、時渡りした者の姿を現代で保つ力も含まれているんじゃ。つまり、宗治くんは都美のそばにいれば消えてなくなることもない」

「なんだよそれ…!」


宗治は信じられないという顔をしているけど、そう叫びたかったのはわたしのほうだ。


救い人の力は、タイムスリップしてきた人を元の時代に帰すことは理解したけど、その人といっしょにいないといけないなんて聞いてない…!


「現に、こうして都美といっしょにいれば、徐々に元に戻ってきたじゃろう?」


おばあちゃんの言うとおり、さっきと比べたら宗治の体が濃くなってきた。


どうやら、嘘みたいなこの話は本当のようだ。


「それなら、どのくらいの時間なら離れても大丈夫なんだ?」

「それは、古文書によると…」


また別の古文書を開けるおばあちゃん。

見せられたページに目を移すと、たしかにおばあちゃんが言っていた救い人と離れると姿が消えてしまうという内容が書かれていた。


しかし、どのくらいの時間離れてしまってはいけないのか、どのくらいの距離にいなければいけないのか。

そういった肝心な文言は、文字が潰れていてまったく読めなかった…!
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