時をこえて、またキミに恋をする。

中小路かほ

文字の大きさ
6 / 33
幕末剣士、学校へ

2P

しおりを挟む
「なんだよ、大事なところがわかんねぇじゃねぇか!」 

「まあまあ。要するに、都美と離れなければいいだけじゃよ」

「ばあちゃん、俺は都子姫だけって心に決めてんだっ。それなのに、こんなニセ姫と…」

「言っとくけどね!好きでもない男の子といっしょにいないといけないなんて、わたしのほうこそ迷惑なんだから!」


なにもいっしょにいていやなのは、わたしだって同じだ。


だけど、現代で消えてしまうともう元の時代にも戻ることもできず、存在自体が消滅するとおじいちゃんから聞かされて、宗治は相当ビビっていた。

一度消えかけているからなおさら。


都子姫を一途に想う宗治は、なんとしてでも元の時代に戻りたいらしいから。


「…だったら、仕方なくお前のそばにいてやるよ」


悔しそうに、口の先を尖らせる宗治。

本来なら、『いてやるよ』じゃなくて、『いさせてください』が正解なんだろう。


「そういうことなら、宗治くんの部屋も用意しないとね!都美と同じ部屋でいいかしら?」

「なんでそんなことになるの…お母さん!?」

「だって~、そばにいないと宗治くんが消えちゃうんでしょ?だったら――」

「わたしの隣の部屋でいいじゃん…!ちょうど空き部屋なんだから」


宗治と同じ部屋なんて…ありえない!

同じ家の中にいる分には宗治は消えなさそうだから、隣の部屋で十分だ。


「それなら宗治くん、これからよろしくね~。もう1人、息子ができてうれしいわ♪」


突然タイムスリップしてきた幕末剣士を同居させるということになったのに、お母さんは実に楽観的だ。

まぁそういう天真爛漫なところがお母さんらしいのだけれど。


そんなこんなで、幕末剣士との不思議な同居生活が始まった。


宗治と暮らすことになって、この5日間のゴールデンウィークはあっという間だった。


現代ではなにもめずらしくない身の回りにあるものすべてが、宗治にとっては初めて見るものばかりで…。

電気、トイレ、お風呂、テレビなどなど、1つ1つ説明するのが大変だった。


でも宗治も物分かりはいいようで、一度教えればすぐに使い方を覚えていた。

意外と適応力があるようだ。


初めは袴じゃないと落ち着かないなんて言っていたけど、今じゃ家では着心地のいいスウェットが部屋着だ。


髪型は、ちょんまげと違って普通の黒髪短髪だから、スウェット姿でくつろぐところを見ると、とてもじゃないけど幕末からタイムスリップしてきた剣士には見えない。


そうして、ゴールデンウィーク明け最初の登校日を迎えた。


「びぃ、そんな格好してどこ行くんだよ?」


居間にやってきた宗治が、制服に着替えたわたしを不思議そうな顔をして眺める。


この間に、わたしは『びぃ』と呼ばれるようになった。

べつに呼び捨てでもかまわなかったのに、『都美』と『都子』じゃ響きが似ているから、名前では呼びたくないらしい。


そこで『みや』を取り除いて、『び』だけを取って『びぃ』と。


「今日から学校なの」

「ガッコウ?」

「勉強するところ。休み以外の日は毎日行くんだよ」

「寺子屋みたいなところか」


“寺子屋”…?

…歴史の授業で聞いたことがあるような。


「でも、そうなったら宗治はどうするの?わたしが学校に行っている間、宗治とは離れることになるけど…」

「それなら心配いらないわよ♪」


なぜかうれしそうに手をパチンと叩くお母さん。

そして、どこかへ行ったかと思ったら、なにかを持って居間に戻ってきた。


手にしていたのは、黒のブレザーにグレーのズボン。

それは、わたしが通う神代中学の男子生徒の制服だった。


「どうしたの…それ!?」

「手続きしてもらって、今日から宗治くんも通うことになったのっ」


聞くと、おじいちゃんの親友が神代中学の理事をしているとかで、特別に宗治の転校手続きをしてくれたとか。


「いつかは元の時代に戻るにしても、こっちでの勉強もいい経験でしょ?」


そう言って、お母さんは宗治に制服を押し付けた。


そうして、朝ごはんのあと、制服に着替えに部屋に向かった宗治。

だけど――。


「袴がずれ落ちてくる!どうしたらいいんだ…!」

「この長い布は、なにに使うんだ!」


ズボンをとめるベルトのやり方とネクタイの結び方がわからなくて、お父さんに教えてもらっていた。


「まぁ~!宗治くん、よく似合ってるわ~!」

「そ…そうか?」


神代中学の制服を着た宗治を見て、お母さんは感激していた。

おそらく、2年後の朔の姿を思い浮かべているのだろう。


「じゃあ、あとは都美と仲よく登校してねっ」

「行こ、宗治」

「待てっ。忘れ物がある」

「忘れ物…?」


制服に、リュックを背負って――。

転校初日だから、そんなに持ち物はないはずだけど…。


「これがそばにないと落ち着かないからな」


そう言って持ってきたのは、…なんと刀だった!


「このベルトとかいうやつが通っているところにさせばっ…」

「…無理だよ、無理!そんなことしたら、ズボンが破けちゃう!」

「だったら、どこにさせっていうんだよ」

「だから、ささなくていいんだって!」


それ…、真剣だよね?

そんなもの、学校に持っていったら大変なことになる!


「宗治くん。残念ながら、この時代では刀は持っては歩けないんだよ」

「だ…だが、これを手放すわけにはっ…」

「宗治くんがいないときはウチでちゃんと保管しておくから、心配しなくても大丈夫だよ」

「びぃの父ちゃんが言うなら…、安心できるが…」


とは言いつつ、内心は肌身離さず持ち歩きたいようで、腰にさしたい衝動をなんとか抑えながらお父さんに刀を手渡している。


「その刀は、俺の命よりも大切なものなんだ…!」

「宗治くんがこの刀をとても大切に思っているのは十分わかっているから。だから、責任持って預かるよ」


お父さんのその言葉に、宗治は渋々こくんとうなずいた。


「それじゃあ、いってきます!」

「いってくる」

「いってきまーす」


そうして、わたし、宗治、朔は、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんに見送られながら家を出た。


朔の小学校までは途中の道までいっしょ。

3人並んで歩道を歩く。


初めこそ、車やバイクを見て度肝を抜かれていた宗治だけど、この数日で徐々に見慣れてきたようだ。


「そういえば、宗治にいちゃん。命よりも大切って言ってたけど、あの刀ってすっげー高いものだったりするの?」

「あれは、都子姫からもらった『桜華おうか』という名前の刀だ。値などつけられない」

「つまり、好きな人からもらったものは大切ってこと?」

「そういうことだ。朔はいないのか?心に決めた人は」

「オレはいないなー。1人の女の子に好かれるよりも、大勢の女の子から好かれるほうがいいじゃんっ」


我が弟ながら、その発言にはびっくりだ。


朔にはプレイボーイ気質があるのだろうか。

姉としては、少し心配だったりする。


「朔はまだ、『この人だ!』と思える運命の人に出会っていないだけだな」

「宗治にいちゃんは、それが都子姫って人なんだ?」

「ああ、そうだ。都子姫はびぃと違って、聡明で品があって――」

「だから、それは前にも聞いたって…!」


わたしと都子姫は、顔以外は似ても似つかないのはよ~くわかってるから。

宗治がそこまで言うから、できるものならその都子姫に一度会ってみたいくらいだ。


そんな話をしている間に、小学校と中学校へ向かう丁字路に差し掛かった。

そこで朔を見送り、わたしは宗治を学校まで案内する。


「俺たちと同じ着物を着ている連中は、全員“ガッコウ”を目指しているのか?」

「そうだよ。学年は違うけど、みんな神代中学の生徒だよ」


興味津々で辺りを見回すと宗治。


――そこへ。


「おっはよー、都美!」


突然思いきり背中を叩かれ、驚いて振り返ると、それは七海だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里いちご
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

処理中です...