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幕末剣士、元いた時代へ
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「やっ…!やめて…!」
口を塞ぐ男の手を振りほどき、なんとか声を上げた。
「離してっ…!」
「おとなしくしろ!」
だれかに届けと叫んでみたけれど、今度は口にハチマキのようなものを噛まされた。
きっとあの麻袋にわたしを入れて、どこかへ連れ去る気だ。
なんで…わたしがこんな目にっ……。
――だれか。
助けて…!
そう心の中で叫んだ、…次の瞬間。
「そいつから離れろ」
そんな声が聞こえたかと思ったら、麻袋を抱えていた男が白目をむいて膝から崩れ落ちるようにして倒れた。
何事かと思い驚いて目を向けると、その男の背後には――ある人影が。
「びぃ!大丈夫か…!?」
なんとそれは、屋敷にいるはずの宗治だった。
「…てめぇ、よくもオレたちの仲間を!」
「ガキは引っ込んでろ!」
男たちはわたしを突き飛ばすと、宗治に向かって刀を引き抜いた。
太陽の光でギラリと不気味に反射して光る刀。
刀を握って向かい合う光景は、まるで映画のワンシーンかのようだけど、…違う。
ここは幕末。
あの刀は、おもちゃなんかじゃない。
斬られればケガでは済まない、…本物の刀だ。
宗治も鞘から引き抜いた桜華を構えるけど、分が悪い。
数でも1対2で不利だし、なにより相手は大人。
体格差が違いすぎる…!
「…宗治、無茶しないで!」
わたしが止めるのも聞かずに、宗治は斬りかかる男たちを正面から迎え撃った。
見ていられなくなったわたしは、とっさに強く目をつむる。
河原に響く、刀と刀がぶつかり合う甲高い金属音。
ドサッとすぐそばに人が倒れる音がして、体がビクリと反応した。
「…宗治!?」
慌てて目を開けると、わたしの足元に倒れていたのは薄汚れた着物を着た男――。
そして、その男の向こうには、もう1人の男の喉元に刀を突きつける宗治の姿があった。
「これでわかったなら、さっさと失せろ」
「ひ…、ひぃぃぃぃぃ…!!」
宗治に刀を突きつけられた男はごくりとつばを呑むと、倒れていたあとの男2人を叩き起こして、3人いっしょに一目散に逃げていった。
圧倒的なその光景に、わたしはぽかんとしてしまった。
「…今の、宗治がやったの?」
「ああ。藤門家に仕える剣士の俺が、あんなやつらに負けるわけねぇだろ。まぁ、峰打ちにしてやったけどな」
桜華を鞘に収める宗治。
「…そんなことよりも」
宗治はそう小さくつぶやいたあと、般若のような顔でわたしのほうへと振り返った。
「どうして勝手に屋敷を出た!しかも、包帯まで外して!!」
「ご…ごめ――」
「姫と同じ顔だっていう自覚がなさすぎる!!だから、ああいう金目当ての人攫いの標的になるんだよ!」
その宗治の迫力に負け、わたしは言葉に詰まった。
「俺が駆けつけたからよかったものの、普通ならあのまま――」
…グスンッ
鼻をすする音。
目の奥がじわりと熱くなって、涙があふれ出す。
「…おっ、おい。泣いてんのか…?」
「泣いてないっ…」
わたしは顔をプイッと背ける。
宗治の言うことも聞かないで、勝手な行動をしてあんなことに巻き込まれたのは全部わたしのせい。
宗治に怒られるのも当たり前だ。
――だけど。
そんなに、怒らなくてもいいじゃない…。
…宗治に迷惑かけてやろうと思ってやったわけじゃないんだから。
泣き止みたいわたしの意に反して涙が流れる。
泣けば許されると思ってるのかと思われそうだから、本当は宗治の前なんかで泣きたくないのにっ…。
宗治は歩み寄ると、わたしの前でしゃがみ込んだ。
「…少し言い過ぎた。悪かった」
そう言って、泣きじゃくるわたしの頭を優しくなでる。
そして、ゆっくりとわたしに背中を向けた。
「んっ」
「なに…?」
「乗れよ。そのケガじゃ歩けねぇだろ?」
宗治は、痛々しいくらいに擦りむいたわたしの膝に目をやる。
「屋敷までおぶってやる。…だから、もう泣くな」
その言葉に、わたしは指で涙をはらってこくんとうなずいた。
「重い」とか文句を言われるかと思ったけど、宗治はなにも言わずに軽々とわたしを背負った。
「包帯外して…ごめん。ちょっと暑かったから…その…」
「もういいよ。それに、俺もびぃの立場だったら、少しの間くらい外したくなっただろうし」
宗治にしては気を遣った言葉が返ってきて、少し驚いた。
だからこそ、悪気がなかったとはいえ、面倒なことに巻き込んでしまったなと反省…。
「でも、まただれに見られるかわからないから、ここで包帯つけるよ」
「今はいいんじゃね?屋敷の近くになるまではそのままで」
「そうは言ったって、もし見られたら――」
「見られなかったらいいだけだろ」
前を見つめる宗治が、横目でわたしに視線を移す。
「もっと俺に抱きつけ。それで、顔を埋めろ。そうしたら、だれにも顔は見られねぇから」
宗治のその提案に、わたしはポッと顔が赤くなる。
『もっと俺に抱きつけ』って…そんな言葉。
よく恥ずかしげもなく堂々と…。
わたしがためらっていると、宗治は早くしろと言わんばかりにもう一度わたしに視線を向ける。
「なにもしないほうが目立つから、さっさとしろ」
「はっ…、はい…!」
わたしは言われたとおりに、宗治の首にまわしていた腕をギュッと抱きつき直すと、その首元に顔を埋めた。
「俺が『いい』って言うまでそのままな」
宗治の問いに、わたしは顔を埋めたままうなずいた。
香る宗治の匂い。
わたしを支える丈夫な腕。
広い背中。
そして――。
『そいつから離れろ』
駆けつけてくれた、あのときの姿。
その1つ1つに…、ドキドキしてしまうっ。
――ダメ。
ダメなのに…。
宗治は、都子姫と結ばれる運命なのに――。
それでもわたしは、…宗治のことが好きだ。
今までごまかしていた自分の気持ちに…気づいてしまった瞬間だった。
口を塞ぐ男の手を振りほどき、なんとか声を上げた。
「離してっ…!」
「おとなしくしろ!」
だれかに届けと叫んでみたけれど、今度は口にハチマキのようなものを噛まされた。
きっとあの麻袋にわたしを入れて、どこかへ連れ去る気だ。
なんで…わたしがこんな目にっ……。
――だれか。
助けて…!
そう心の中で叫んだ、…次の瞬間。
「そいつから離れろ」
そんな声が聞こえたかと思ったら、麻袋を抱えていた男が白目をむいて膝から崩れ落ちるようにして倒れた。
何事かと思い驚いて目を向けると、その男の背後には――ある人影が。
「びぃ!大丈夫か…!?」
なんとそれは、屋敷にいるはずの宗治だった。
「…てめぇ、よくもオレたちの仲間を!」
「ガキは引っ込んでろ!」
男たちはわたしを突き飛ばすと、宗治に向かって刀を引き抜いた。
太陽の光でギラリと不気味に反射して光る刀。
刀を握って向かい合う光景は、まるで映画のワンシーンかのようだけど、…違う。
ここは幕末。
あの刀は、おもちゃなんかじゃない。
斬られればケガでは済まない、…本物の刀だ。
宗治も鞘から引き抜いた桜華を構えるけど、分が悪い。
数でも1対2で不利だし、なにより相手は大人。
体格差が違いすぎる…!
「…宗治、無茶しないで!」
わたしが止めるのも聞かずに、宗治は斬りかかる男たちを正面から迎え撃った。
見ていられなくなったわたしは、とっさに強く目をつむる。
河原に響く、刀と刀がぶつかり合う甲高い金属音。
ドサッとすぐそばに人が倒れる音がして、体がビクリと反応した。
「…宗治!?」
慌てて目を開けると、わたしの足元に倒れていたのは薄汚れた着物を着た男――。
そして、その男の向こうには、もう1人の男の喉元に刀を突きつける宗治の姿があった。
「これでわかったなら、さっさと失せろ」
「ひ…、ひぃぃぃぃぃ…!!」
宗治に刀を突きつけられた男はごくりとつばを呑むと、倒れていたあとの男2人を叩き起こして、3人いっしょに一目散に逃げていった。
圧倒的なその光景に、わたしはぽかんとしてしまった。
「…今の、宗治がやったの?」
「ああ。藤門家に仕える剣士の俺が、あんなやつらに負けるわけねぇだろ。まぁ、峰打ちにしてやったけどな」
桜華を鞘に収める宗治。
「…そんなことよりも」
宗治はそう小さくつぶやいたあと、般若のような顔でわたしのほうへと振り返った。
「どうして勝手に屋敷を出た!しかも、包帯まで外して!!」
「ご…ごめ――」
「姫と同じ顔だっていう自覚がなさすぎる!!だから、ああいう金目当ての人攫いの標的になるんだよ!」
その宗治の迫力に負け、わたしは言葉に詰まった。
「俺が駆けつけたからよかったものの、普通ならあのまま――」
…グスンッ
鼻をすする音。
目の奥がじわりと熱くなって、涙があふれ出す。
「…おっ、おい。泣いてんのか…?」
「泣いてないっ…」
わたしは顔をプイッと背ける。
宗治の言うことも聞かないで、勝手な行動をしてあんなことに巻き込まれたのは全部わたしのせい。
宗治に怒られるのも当たり前だ。
――だけど。
そんなに、怒らなくてもいいじゃない…。
…宗治に迷惑かけてやろうと思ってやったわけじゃないんだから。
泣き止みたいわたしの意に反して涙が流れる。
泣けば許されると思ってるのかと思われそうだから、本当は宗治の前なんかで泣きたくないのにっ…。
宗治は歩み寄ると、わたしの前でしゃがみ込んだ。
「…少し言い過ぎた。悪かった」
そう言って、泣きじゃくるわたしの頭を優しくなでる。
そして、ゆっくりとわたしに背中を向けた。
「んっ」
「なに…?」
「乗れよ。そのケガじゃ歩けねぇだろ?」
宗治は、痛々しいくらいに擦りむいたわたしの膝に目をやる。
「屋敷までおぶってやる。…だから、もう泣くな」
その言葉に、わたしは指で涙をはらってこくんとうなずいた。
「重い」とか文句を言われるかと思ったけど、宗治はなにも言わずに軽々とわたしを背負った。
「包帯外して…ごめん。ちょっと暑かったから…その…」
「もういいよ。それに、俺もびぃの立場だったら、少しの間くらい外したくなっただろうし」
宗治にしては気を遣った言葉が返ってきて、少し驚いた。
だからこそ、悪気がなかったとはいえ、面倒なことに巻き込んでしまったなと反省…。
「でも、まただれに見られるかわからないから、ここで包帯つけるよ」
「今はいいんじゃね?屋敷の近くになるまではそのままで」
「そうは言ったって、もし見られたら――」
「見られなかったらいいだけだろ」
前を見つめる宗治が、横目でわたしに視線を移す。
「もっと俺に抱きつけ。それで、顔を埋めろ。そうしたら、だれにも顔は見られねぇから」
宗治のその提案に、わたしはポッと顔が赤くなる。
『もっと俺に抱きつけ』って…そんな言葉。
よく恥ずかしげもなく堂々と…。
わたしがためらっていると、宗治は早くしろと言わんばかりにもう一度わたしに視線を向ける。
「なにもしないほうが目立つから、さっさとしろ」
「はっ…、はい…!」
わたしは言われたとおりに、宗治の首にまわしていた腕をギュッと抱きつき直すと、その首元に顔を埋めた。
「俺が『いい』って言うまでそのままな」
宗治の問いに、わたしは顔を埋めたままうなずいた。
香る宗治の匂い。
わたしを支える丈夫な腕。
広い背中。
そして――。
『そいつから離れろ』
駆けつけてくれた、あのときの姿。
その1つ1つに…、ドキドキしてしまうっ。
――ダメ。
ダメなのに…。
宗治は、都子姫と結ばれる運命なのに――。
それでもわたしは、…宗治のことが好きだ。
今までごまかしていた自分の気持ちに…気づいてしまった瞬間だった。
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