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ー 宗治side ー
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なにがあって燃える宿に戻ったかは知らねぇが、一歩間違ったら――。
と、怒り心頭中でアホなびぃの顔しか見えていなかったが、ふとびぃが胸に抱きかかえているものが目に入った。
一体なにをそんな大事そうに…。
そう思って目を向けると、なんとそれは…俺が預けた桜華だった。
「…まさか。これを取りにわざわざ…?」
「だってこれ…。宗治の命よりも大切なものなんでしょ…?」
ドクンと俺の心臓が鳴る。
たしかにこれは、俺の命よりも大切な桜華。
だけど、びぃにとってはただの刀でしかないだろ…?
なのに、どうしてこんなになってまで――。
…まさかっ。
『言っておくが、くれぐれも桜華だけは――』
『もう、わかってるって!安心して。責任持ってわたしが預かるから』
俺があんなことを言ったから…?
…俺のせいか。
だから、びぃは無茶してまで桜華を取りに戻って――。
「…バカ野郎!!そんなことのために、わざわざ命張るんじゃねぇ!」
…『バカ野郎』。
でも本当は、その言葉は自分に向けて言ったものだった。
バカは、俺のほうだった。
俺のせいで、びぃを危ない目にあわせることになるなんて…。
「…って、こんなところで無駄話してる場合じゃなかった。とりあえず、外に出るぞっ」
「…待って。わたし、足を…」
どうやらびぃは、足をくじいているようだった。
それがなんだよ。
そんなことで、俺がお前を置いていくわねねぇだろ。
俺はびぃの腰と膝の裏に手を添えると、そっとびぃの体を抱き上げた。
…急がねぇと!
そう思ったのに、なぜだかびぃが足をバタつかせて暴れ出した。
「おっ…下ろして、宗治!」
「下ろすか、バカ!しっかりつかまってろ!」
暴れるびぃの体を封じるように、ぐっと力を入れて抱き寄せた。
その後、俺たちは無事に外へ脱出することができた。
火事の現場へ荷物を取りに戻ったびぃは、消防隊員と先生たちからしこたま怒られていた。
いい気味だ。
だが俺も、火事の知らせを聞いて急遽駆けつけたびぃの父ちゃんに恐ろしいくらいに説教されることに…。
「なんで桜華を勝手に持ち出したんだ!!」
…びぃの父ちゃんには頭が上がらない。
だから俺は、ただただ平謝りするしかなかった。
次の日の夜。
縁側に座って、俺の時代と現代を繋ぐ御神木の桜の木をぼんやりと眺めていた。
虫が鳴く音しか聞こえない、静かな夏の夜だった。
昨日のあの緊迫した出来事が嘘のようだ。
「宗治はバカだよ」
すると、俺の後ろからそんな声が聞こえた。
振り返らなくたってわかる。
「だれがバカだって?」
「だから、宗治がだよ」
びぃが俺の隣に座る。
俺がバカか…。
知ってるよ、そんなもの。
昨日の火事で思い知らされたんだから。
自分にあきれて、思わず笑ってしまった。
でもな、それはお互いさまなんだよ。
「なに言ってんだよ。お前だってバカだろ。火事の現場に突っ込むなんて、丸焼きにされたかったのかよ?」
「宗治、あんたねー…。もう少し、わたしに――」
丸焼きにされなかったのは、俺が助けにきたおかげなんだからな。
そこは感謝しろよ?
…だけど。
あの状況で、桜華が無事だったのは――。
「ありがとう」
びぃのおかげだよ。
今まで、びぃに感謝することなんてなかったけど…。
この件に関しては、自然と素直な言葉が出てきた。
「宗治…、今…なんて?」
「聞こえなかったのかよ…。桜華を守ってくれて、『ありがとう』って言ってんだよ。何度も言わせるな」
なんだか頬が熱くなってきて、俺はびぃから顔を背けた。
…ったく、本当は聞こえてたくせに。
そもそも、びぃの女子部屋にまで火がまわる前に火事は消し止められた。
だから、結果的にはなにもしなくたって桜華は無事だったことだろう。
――でも。
「あのとき…、本当に肝が冷えた」
思い出すだけで未だに冷や汗がにじむ。
「…そうだよね。桜華がまだ火の中に残されたままだと知ったら――」
「そこじゃねぇよ」
「…え?」
キョトンとしたびぃの顔。
まったくもって意味がわかっていなさそうなまぬけ面だ。
だから、そんなびぃにもわかるように言ってやった。
「あのとき、菅さんからびぃがいないって聞いて、正直…生きた心地がしなかった」
…同じだった。
俺が死ぬ原因となった火事の日の出来事と。
「都子姫がいない」
屋敷の者からそう聞かされたとき、焦燥感と絶望感にかられた。
俺はどうなったっていい。
姫さえ助かればっ…。
そう思い、俺は都子姫を助けにいった。
その当時の思いと重なって、気がつけばびぃを探しに火事の現場に戻ってた。
「たしかに桜華は、俺の命よりも大切なものだ。…だけど、それよりもお前の命のほうが大切に決まってんだろ」
びぃが無事とわかって、どれだけ俺が安心したか知らねぇだろ。
ほんと、心配かけさせやがって。
…俺はあのとき思ったんだ。
桜華がなくなるなんて考えられない。
だがそれ以上に、びぃが俺のそばからいなくなるほうが考えられないって。
びぃの笑った顔が頭に浮かぶ。
俺はこの笑顔をいつまでも見ていたい。
と、怒り心頭中でアホなびぃの顔しか見えていなかったが、ふとびぃが胸に抱きかかえているものが目に入った。
一体なにをそんな大事そうに…。
そう思って目を向けると、なんとそれは…俺が預けた桜華だった。
「…まさか。これを取りにわざわざ…?」
「だってこれ…。宗治の命よりも大切なものなんでしょ…?」
ドクンと俺の心臓が鳴る。
たしかにこれは、俺の命よりも大切な桜華。
だけど、びぃにとってはただの刀でしかないだろ…?
なのに、どうしてこんなになってまで――。
…まさかっ。
『言っておくが、くれぐれも桜華だけは――』
『もう、わかってるって!安心して。責任持ってわたしが預かるから』
俺があんなことを言ったから…?
…俺のせいか。
だから、びぃは無茶してまで桜華を取りに戻って――。
「…バカ野郎!!そんなことのために、わざわざ命張るんじゃねぇ!」
…『バカ野郎』。
でも本当は、その言葉は自分に向けて言ったものだった。
バカは、俺のほうだった。
俺のせいで、びぃを危ない目にあわせることになるなんて…。
「…って、こんなところで無駄話してる場合じゃなかった。とりあえず、外に出るぞっ」
「…待って。わたし、足を…」
どうやらびぃは、足をくじいているようだった。
それがなんだよ。
そんなことで、俺がお前を置いていくわねねぇだろ。
俺はびぃの腰と膝の裏に手を添えると、そっとびぃの体を抱き上げた。
…急がねぇと!
そう思ったのに、なぜだかびぃが足をバタつかせて暴れ出した。
「おっ…下ろして、宗治!」
「下ろすか、バカ!しっかりつかまってろ!」
暴れるびぃの体を封じるように、ぐっと力を入れて抱き寄せた。
その後、俺たちは無事に外へ脱出することができた。
火事の現場へ荷物を取りに戻ったびぃは、消防隊員と先生たちからしこたま怒られていた。
いい気味だ。
だが俺も、火事の知らせを聞いて急遽駆けつけたびぃの父ちゃんに恐ろしいくらいに説教されることに…。
「なんで桜華を勝手に持ち出したんだ!!」
…びぃの父ちゃんには頭が上がらない。
だから俺は、ただただ平謝りするしかなかった。
次の日の夜。
縁側に座って、俺の時代と現代を繋ぐ御神木の桜の木をぼんやりと眺めていた。
虫が鳴く音しか聞こえない、静かな夏の夜だった。
昨日のあの緊迫した出来事が嘘のようだ。
「宗治はバカだよ」
すると、俺の後ろからそんな声が聞こえた。
振り返らなくたってわかる。
「だれがバカだって?」
「だから、宗治がだよ」
びぃが俺の隣に座る。
俺がバカか…。
知ってるよ、そんなもの。
昨日の火事で思い知らされたんだから。
自分にあきれて、思わず笑ってしまった。
でもな、それはお互いさまなんだよ。
「なに言ってんだよ。お前だってバカだろ。火事の現場に突っ込むなんて、丸焼きにされたかったのかよ?」
「宗治、あんたねー…。もう少し、わたしに――」
丸焼きにされなかったのは、俺が助けにきたおかげなんだからな。
そこは感謝しろよ?
…だけど。
あの状況で、桜華が無事だったのは――。
「ありがとう」
びぃのおかげだよ。
今まで、びぃに感謝することなんてなかったけど…。
この件に関しては、自然と素直な言葉が出てきた。
「宗治…、今…なんて?」
「聞こえなかったのかよ…。桜華を守ってくれて、『ありがとう』って言ってんだよ。何度も言わせるな」
なんだか頬が熱くなってきて、俺はびぃから顔を背けた。
…ったく、本当は聞こえてたくせに。
そもそも、びぃの女子部屋にまで火がまわる前に火事は消し止められた。
だから、結果的にはなにもしなくたって桜華は無事だったことだろう。
――でも。
「あのとき…、本当に肝が冷えた」
思い出すだけで未だに冷や汗がにじむ。
「…そうだよね。桜華がまだ火の中に残されたままだと知ったら――」
「そこじゃねぇよ」
「…え?」
キョトンとしたびぃの顔。
まったくもって意味がわかっていなさそうなまぬけ面だ。
だから、そんなびぃにもわかるように言ってやった。
「あのとき、菅さんからびぃがいないって聞いて、正直…生きた心地がしなかった」
…同じだった。
俺が死ぬ原因となった火事の日の出来事と。
「都子姫がいない」
屋敷の者からそう聞かされたとき、焦燥感と絶望感にかられた。
俺はどうなったっていい。
姫さえ助かればっ…。
そう思い、俺は都子姫を助けにいった。
その当時の思いと重なって、気がつけばびぃを探しに火事の現場に戻ってた。
「たしかに桜華は、俺の命よりも大切なものだ。…だけど、それよりもお前の命のほうが大切に決まってんだろ」
びぃが無事とわかって、どれだけ俺が安心したか知らねぇだろ。
ほんと、心配かけさせやがって。
…俺はあのとき思ったんだ。
桜華がなくなるなんて考えられない。
だがそれ以上に、びぃが俺のそばからいなくなるほうが考えられないって。
びぃの笑った顔が頭に浮かぶ。
俺はこの笑顔をいつまでも見ていたい。
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