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幕末剣士、デートの尾行へ
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宿泊した旅館が火事になり、宗治が大切にしている桜華を取りに戻ったわたしは火事に巻き込まれ、危うく死にそうになった。
そこへ、宗治が助けにきてくれて――。
『…バカ野郎!!そんなことのために、わざわざ命張るんじゃねぇ!』
『たしかに桜華は、俺の命よりも大切なものだ。…だけど、それよりもお前の命のほうが大切に決まってんだろ』
あのときの宗治の言葉が今でも頭の中で繰り返される。
いろんな意味で、一生忘れることのない思い出となった修学旅行だった。
あれから1ヶ月後。
毎日セミが大合唱する夏休みに入っていた。
わたしは変わらない毎日を過ごしていた。
……いや、違う。
変わったところが…あった。
夜ごはんの時間。
今日はお父さんとお母さんの結婚記念日ということで、お寿司を取った。
「うまそー!」
テーブルの上に並べられた出前のお寿司に目を輝かせる宗治。
お寿司は宗治がいた時代にもあったらしいんだけど、あまり食べたことがなかったとか。
だけど、こっちにきてから改めて食べると、そのおいしさに感激して、それからお寿司が大好物になっていた。
「オレ、サーモン!」
そう言って、一度にサーモンを3貫取る朔。
「朔!わたしも食べたいんだから、1人で全部食べないでよね」
「わかってるってー。ねえちゃん、食い意地張りすぎだろー」
「どっちがよっ」
隣に座る朔にムスッとして軽くにらみ、その視線をお寿司に戻した。
「それじゃあ、わたしは~…」
まずは、まぐろにしようかな。
ゆっくりとまぐろにお箸を伸ばすと、横から伸びてきた別のお箸と重なった。
「…あっ、ごめ――」
と目を向けると、それは朔を挟んだ向こう側に座っていた宗治だった。
思わず、瞬時にお箸を握っていた手を引く。
「びぃもまぐろか?」
「…ううん!べつに」
なぜかわたしの口から勝手にそんな言葉が出てきて、そのまま何食わぬ顔でまぐろの向こうにあったイカを取った。
本当はまぐろを食べたかったのに、なんでイカを…。
そんなことを考えながら、小皿の上に置いたイカを見つめた。
「えっと、お醤油は…」
醤油を探すと、朔の前に置かれていた。
取ろうと手を伸ばしたとき、またしても同じタイミングでだれかと手が触れる。
ハッとして顔を上げると、わたしと同じような反応をした宗治と目が合った。
そして、どちらも醤油を取ることなく手を膝の上に戻した。
「なに?さっきから2人とも」
わたしと宗治に挟まれて座っている朔は、わたしたちに交互に目を向ける。
「ねえちゃんも宗治にいちゃんも息合いすぎだろ」
「「そ…!…そんなことっ!」」
否定する声すら同じタイミングで、まるで鏡に映しているかのようだ。
「仲がいいわね~」
とお母さんが言って、みんながクスクス笑うものだから、わたしは顔が真っ赤になった。
横目で見ると、宗治もわたしと同じように頬を赤くしてうつむいていた。
修学旅行が終わってから、宗治とのやり取りがなんだかぎこちない。
今まではどうでもいい話をしたり、さっきみたいなときだって「マネしないでよ~」なんて気軽に言えたはずだったのに。
へんに宗治を意識してしまって、…今までみたいな感じで宗治に接することができなくなってしまっていた。
それから、数日後。
今日は、剣道部の大会だった。
この大会を最後に、3年生の先輩たちは引退してしまう。
様々な思いが交錯する大事な大会だ。
神代中学は剣道部の強豪校のため、決勝戦の常連校。
ちなみに、去年、一昨年と2年連続で優勝している。
今いる3年生たちは、1年生の頃から優勝を飾る先輩たちを見てきた。
だから、今年は自分たちの手で3連覇を勝ち取ると意気込んでいた。
「古関先輩、おはようございます!」
「おはようございます、先輩」
「おはよう!」
試合会場に着くと、さっそく宗治といっしょに古関先輩にあいさつへ。
「春日井くん!今日は頼んだよ!」
「いや、俺なんかいなくたって、古関先輩たちだけで楽勝っすよ」
わたしには失礼な態度の宗治だけど、実は謙遜もできるということを、宗治が剣道部に入ってきてから知った。
宗治は入部したての2年生ながらにして、今大会の出場メンバーに入っている。
初めこそ、ルールの知らない宗治相手に古関先輩が勝ったけど、おそらく今では宗治のほうが上。
宗治に勝てる中学生なんていないだろうから、宗治が団体戦に出るだけでかなり有利なはずだ。
古関先輩が優勝旗を手にする姿――。
そんな光景が勝手に頭の中に浮かんだ。
団体戦の試合内容は、5人制。
先鋒・次鋒・中堅・副将・大将という順に試合が行われ、先に3勝したほうが勝ちだ。
神代中学は、安定的な強さで次々と勝ち進んでいく。
わたしはマネージャーだから試合には出られないけど、大きな声を出して応援した。
だけど、わたしの声なんてすぐにかき消されてしまう。
――なぜなら。
「宗治くーん!!」
「キャーーー!カッコイイー♪」
今大会から、学校の宗治ファンが応援にくるようになった。
古関先輩ももちろん人気だけど、宗治もそれに負けず劣らず。
宗治が一本先取すると、悲鳴に近いような歓声が上がる。
たしかに、竹刀を握る宗治はかっこよく見える。
タイムスリップした幕末の時代で、実際に刀を握って人攫いから守ってくれた宗治を目にしたからなおさらだ。
「宗治、準決勝お疲れさま」
わたしは、宗治にスポーツドリンクが入ったボトルを手渡した。
「ああ、ありがとう」
受け取る宗治と指先が触れただけで、思わずキュンとなってしまう。
「あ…えっと、次はいよいよ決勝だね…!」
なにか話さないとと思って、なんとか会話を投げかける。
「そうだな。古関先輩たちには有終の美を飾ってもらいたいし、ぜってぇ優勝しねぇとな!」
そう言って、宗治はニカッと笑ってみせた。
宗治の清々しいくらいの笑顔にドキッとする。
宗治のファンでもなく、ましてや都子姫でもない。
わたしだけに向けられた笑顔だ。
そして、いよいよ決勝戦が始まった。
勝っても負けても、3年生の先輩たちにとってはこれが最後の試合となる。
相手は、青柳中学校。
青中も剣道部の強豪校で、今大会で3年連続で決勝戦で対戦することとなった。
去年、一昨年とウチに負けて準優勝止まりだから、今年は悲願の優勝を狙っていてものすごい気迫だ。
だけど、こちらだって負けるわけにはいかない。
優勝旗を古関先輩の手に…!
剣道部全員がその想いを抱えて試合に臨んだ。
しかし、あと一歩のところで初めの先鋒戦に破れ、黒星スタートに。
これまでの試合では先鋒戦はすべて勝ってきたから、今回それを落としてしまったことで、少なからずチームに暗いムードが流れた。
「大丈夫!まだ始まったばかりだ!」
だけど、古関先輩の前向きな言葉に、そんなどんよりとした空気はすぐに晴れた。
「古関先輩の言うとおりです!これから挽回しましょう!」
わたしがそう声をかけると、古関先輩がこちらを向いてにっこりと微笑んでくれた。
次の次鋒戦では、見事勝利。
そのおかげで、こっちに流れがきた。
と思ったのもつかの間――。
中堅戦はあっという間に負けてしまい、再びいやな空気が流れる。
青中は、あと1勝で優勝。
そんな大事な副将戦。
任されたのは宗治だった。
相手は、青中剣道部の副部長。
あの人…知ってる。
小学生のときから、出場する大会すべてで優秀な成績を収めているとか。
そこへ、宗治が助けにきてくれて――。
『…バカ野郎!!そんなことのために、わざわざ命張るんじゃねぇ!』
『たしかに桜華は、俺の命よりも大切なものだ。…だけど、それよりもお前の命のほうが大切に決まってんだろ』
あのときの宗治の言葉が今でも頭の中で繰り返される。
いろんな意味で、一生忘れることのない思い出となった修学旅行だった。
あれから1ヶ月後。
毎日セミが大合唱する夏休みに入っていた。
わたしは変わらない毎日を過ごしていた。
……いや、違う。
変わったところが…あった。
夜ごはんの時間。
今日はお父さんとお母さんの結婚記念日ということで、お寿司を取った。
「うまそー!」
テーブルの上に並べられた出前のお寿司に目を輝かせる宗治。
お寿司は宗治がいた時代にもあったらしいんだけど、あまり食べたことがなかったとか。
だけど、こっちにきてから改めて食べると、そのおいしさに感激して、それからお寿司が大好物になっていた。
「オレ、サーモン!」
そう言って、一度にサーモンを3貫取る朔。
「朔!わたしも食べたいんだから、1人で全部食べないでよね」
「わかってるってー。ねえちゃん、食い意地張りすぎだろー」
「どっちがよっ」
隣に座る朔にムスッとして軽くにらみ、その視線をお寿司に戻した。
「それじゃあ、わたしは~…」
まずは、まぐろにしようかな。
ゆっくりとまぐろにお箸を伸ばすと、横から伸びてきた別のお箸と重なった。
「…あっ、ごめ――」
と目を向けると、それは朔を挟んだ向こう側に座っていた宗治だった。
思わず、瞬時にお箸を握っていた手を引く。
「びぃもまぐろか?」
「…ううん!べつに」
なぜかわたしの口から勝手にそんな言葉が出てきて、そのまま何食わぬ顔でまぐろの向こうにあったイカを取った。
本当はまぐろを食べたかったのに、なんでイカを…。
そんなことを考えながら、小皿の上に置いたイカを見つめた。
「えっと、お醤油は…」
醤油を探すと、朔の前に置かれていた。
取ろうと手を伸ばしたとき、またしても同じタイミングでだれかと手が触れる。
ハッとして顔を上げると、わたしと同じような反応をした宗治と目が合った。
そして、どちらも醤油を取ることなく手を膝の上に戻した。
「なに?さっきから2人とも」
わたしと宗治に挟まれて座っている朔は、わたしたちに交互に目を向ける。
「ねえちゃんも宗治にいちゃんも息合いすぎだろ」
「「そ…!…そんなことっ!」」
否定する声すら同じタイミングで、まるで鏡に映しているかのようだ。
「仲がいいわね~」
とお母さんが言って、みんながクスクス笑うものだから、わたしは顔が真っ赤になった。
横目で見ると、宗治もわたしと同じように頬を赤くしてうつむいていた。
修学旅行が終わってから、宗治とのやり取りがなんだかぎこちない。
今まではどうでもいい話をしたり、さっきみたいなときだって「マネしないでよ~」なんて気軽に言えたはずだったのに。
へんに宗治を意識してしまって、…今までみたいな感じで宗治に接することができなくなってしまっていた。
それから、数日後。
今日は、剣道部の大会だった。
この大会を最後に、3年生の先輩たちは引退してしまう。
様々な思いが交錯する大事な大会だ。
神代中学は剣道部の強豪校のため、決勝戦の常連校。
ちなみに、去年、一昨年と2年連続で優勝している。
今いる3年生たちは、1年生の頃から優勝を飾る先輩たちを見てきた。
だから、今年は自分たちの手で3連覇を勝ち取ると意気込んでいた。
「古関先輩、おはようございます!」
「おはようございます、先輩」
「おはよう!」
試合会場に着くと、さっそく宗治といっしょに古関先輩にあいさつへ。
「春日井くん!今日は頼んだよ!」
「いや、俺なんかいなくたって、古関先輩たちだけで楽勝っすよ」
わたしには失礼な態度の宗治だけど、実は謙遜もできるということを、宗治が剣道部に入ってきてから知った。
宗治は入部したての2年生ながらにして、今大会の出場メンバーに入っている。
初めこそ、ルールの知らない宗治相手に古関先輩が勝ったけど、おそらく今では宗治のほうが上。
宗治に勝てる中学生なんていないだろうから、宗治が団体戦に出るだけでかなり有利なはずだ。
古関先輩が優勝旗を手にする姿――。
そんな光景が勝手に頭の中に浮かんだ。
団体戦の試合内容は、5人制。
先鋒・次鋒・中堅・副将・大将という順に試合が行われ、先に3勝したほうが勝ちだ。
神代中学は、安定的な強さで次々と勝ち進んでいく。
わたしはマネージャーだから試合には出られないけど、大きな声を出して応援した。
だけど、わたしの声なんてすぐにかき消されてしまう。
――なぜなら。
「宗治くーん!!」
「キャーーー!カッコイイー♪」
今大会から、学校の宗治ファンが応援にくるようになった。
古関先輩ももちろん人気だけど、宗治もそれに負けず劣らず。
宗治が一本先取すると、悲鳴に近いような歓声が上がる。
たしかに、竹刀を握る宗治はかっこよく見える。
タイムスリップした幕末の時代で、実際に刀を握って人攫いから守ってくれた宗治を目にしたからなおさらだ。
「宗治、準決勝お疲れさま」
わたしは、宗治にスポーツドリンクが入ったボトルを手渡した。
「ああ、ありがとう」
受け取る宗治と指先が触れただけで、思わずキュンとなってしまう。
「あ…えっと、次はいよいよ決勝だね…!」
なにか話さないとと思って、なんとか会話を投げかける。
「そうだな。古関先輩たちには有終の美を飾ってもらいたいし、ぜってぇ優勝しねぇとな!」
そう言って、宗治はニカッと笑ってみせた。
宗治の清々しいくらいの笑顔にドキッとする。
宗治のファンでもなく、ましてや都子姫でもない。
わたしだけに向けられた笑顔だ。
そして、いよいよ決勝戦が始まった。
勝っても負けても、3年生の先輩たちにとってはこれが最後の試合となる。
相手は、青柳中学校。
青中も剣道部の強豪校で、今大会で3年連続で決勝戦で対戦することとなった。
去年、一昨年とウチに負けて準優勝止まりだから、今年は悲願の優勝を狙っていてものすごい気迫だ。
だけど、こちらだって負けるわけにはいかない。
優勝旗を古関先輩の手に…!
剣道部全員がその想いを抱えて試合に臨んだ。
しかし、あと一歩のところで初めの先鋒戦に破れ、黒星スタートに。
これまでの試合では先鋒戦はすべて勝ってきたから、今回それを落としてしまったことで、少なからずチームに暗いムードが流れた。
「大丈夫!まだ始まったばかりだ!」
だけど、古関先輩の前向きな言葉に、そんなどんよりとした空気はすぐに晴れた。
「古関先輩の言うとおりです!これから挽回しましょう!」
わたしがそう声をかけると、古関先輩がこちらを向いてにっこりと微笑んでくれた。
次の次鋒戦では、見事勝利。
そのおかげで、こっちに流れがきた。
と思ったのもつかの間――。
中堅戦はあっという間に負けてしまい、再びいやな空気が流れる。
青中は、あと1勝で優勝。
そんな大事な副将戦。
任されたのは宗治だった。
相手は、青中剣道部の副部長。
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