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幕末剣士、デートの尾行へ
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宗治は絶対負けない。
そう思っていたけど、あの人相手じゃもしかして…。
そんな不安が頭をよぎった。
なんとか、大将の古関先輩までまわして…!
わたしは固唾を呑んで、宗治の背中をまっすぐに見つめた。
…だけど。
わたしの不安は無駄なものだったとすぐにわかることとなる。
試合開始と同時に、宗治はすばやい動きで相手を攻めたてる。
それはもう見ていて気持ちがいいほどに。
おもしろいくらいに宗治の技が決まり、力の差は歴然だった。
あの副部長の人は、小学生の頃から剣道をしている。
でも思えば、宗治は剣士として物心ついたときから刀を握っている。
そんな宗治に勝てる相手なんていない。
見事宗治は、優勝への望みを繋げた。
「春日井くんなら、やってくれると思っていたよ」
「あと頼みます。古関先輩」
古関先輩と宗治は、拳と拳を合わせた。
エース2人のその姿に、観客席のファンたちが沸き立つ。
宗治の圧倒的な強さの勝利に、流れが一気にこちらに傾いた。
最後は、いよいよ大将の古関先輩の登場だ。
この1戦…。
これですべてが決まる。
――そして。
〈優勝は、青柳中学校です。おめでとう!〉
閉会式。
満面の笑みで優勝旗を受け取ったのは、古関先輩ではなかった。
大将戦の試合は、ほぼ互角だった。
一歩も引かない試合展開の中、なんとか古関先輩が優位に。
このままいけば古関先輩の勝ちだと思ったとき、決定的な一本を取られてしまった。
これまで、優勝する先輩たちの背中を見てきた古関先輩。
しかし、最後の最後で神様は先輩には微笑まなかった。
閉会式後、3年生の先輩たちはみんな悔し涙を流していた。
もちろんそんな先輩たちを見て、わたしたち後輩も泣かずにはいられない。
「優勝は逃したけどっ…、このメンバーで3年間剣道ができてよかった…!」
目に涙を浮かべながら語る古関先輩。
自分の手で優勝をつかみ取ることができず、無念だったことだろう。
だけど、すべてを出し切った古関先輩の表情は、次第に清々しい笑みへと変わっていった。
その帰り。
わたし、宗治、古関先輩は同じ電車の車両に乗っていた。
「…いや~。青中、強かったな」
隣で、つり革を握って立っている古関先輩がつぶやく。
「ごめんな、高倉。かっこいいところ見せてやれなくて」
「そんなことありません…!古関先輩は試合だけじゃなくて、部長としてとても頼りがいがあって、それだけでとってもかっこよかったです」
「ありがとう。そう言ってもらえると、この3年間のすべてが報われたような気がするよ」
古関先輩はわたしに向かって微笑むと、わたしの隣にいる宗治に視線を移す。
「オレたちが達成できなかった優勝は、来年春日井くんに託すよ」
「…え?俺ですか?」
「ああ。キミの副将戦で、どれだけ勇気づけられたことか。その強さなら、来年だって敵なしだろうから」
…『来年』。
古関先輩は気づいていないだろうけど、その言葉に一瞬宗治の顔が曇った。
それまでに、満月の夜と重なった桜の狂い咲きが起これば、宗治は元の時代へタイムスリップする。
そうなれば、もう二度とこちらの時代には帰ってこない。
できることなら、来年宗治が優勝旗を手にする姿を見てみたい。
だけど、都子姫のそばに早く戻りたい宗治の気持ちを考えたら、宗治は来年ここにいないほうがいい。
「そうっすね。来年…、そうなったらいいですね」
そう言って、宗治は切なげに微笑んだ。
わたしたちを乗せた電車は、そのあと最寄り駅に到着した。
「そうだ、高倉。…たいしたことじゃないんだけど、またあとでメッセージを送ってもいいかな?」
「メッセージですか?はい、待ってますね」
なぜか、古関先輩の顔が赤いような気がする。
ここじゃ話せないようなことなのかな?
その夜。
古関先輩からメッセージが届いた。
【高倉に相談したいことがあるんだ】
相談したいことって…なんだろう?
そう思いながら、連投で送られてきた次のメッセージに目を移す。
【ずっとお世話になっている人にプレゼントを渡したくて…。でも、なにをあげたらいいかわからないから、いっしょに選んでもらえないかな?】
わたしなんかが、大事なプレゼントを選んでもいいのだろうか。
そんなことを考えたけど、古関先輩がこう言ってくれていることだし――。
数日後。
「高倉、今日はきてくれてありがとう」
「わたしでお役に立てたらいいんですけど…」
わたしたちは電車に乗って、繁華街にやってきた。
制服と剣道着姿しか見たことがなかったから、デニムにTシャツのシンプルな私服を着た古関先輩が新鮮に感じる。
「メッセージに書いてあったお世話になっている人って、女の人ですか?」
「ああ。“女の人”…というか、“女の子”だね。だから、なにをあげたらいいのかわからなくて」
「先輩からなら、なんだってうれしいと思いますよ!」
もし古関先輩のファンだったら、喜びのあまり失神してしまうのではないだろうか。
「オレ、剣道ばっかりだったから、そういう女の子が好きそうなものには疎くて――」
「…ハックション!!」
そのとき、後ろから大きなくしゃみが聞こえた。
…宗治だっ。
古関先輩と出かけるとはいえ、宗治と離れるわけにはいかないから、宗治もいっしょに行ってもいいかと事前に先輩に話した。
でも、なぜか2人だけでお願いしたいと言われて。
かと言って、宗治を家に置いて離れてしまったら消えてしまう。
だから仕方なく、宗治には古関先輩に見つからないようについてきてもらうことにした。
わたしたちの少し後ろをキャップ、サングラス、マスクをつけて追ってくる宗治はぱっと見、不審者だ。
宗治が尾行していることも先輩にバレるわけにはいかないのに、いきなり大きなくしゃみをするなんて。
「…今のくしゃみ――」
「くしゃみ…!?そんなの聞こえましたかっ!?それより、早く行きましょ!」
わたしは半ば強引に先輩の腕を引いた。
人混みということもあって、とりあえず宗治がバレることはなかった。
わたしたちは、ショッピングモールへ。
ここは、若者向けのショップがたくさん入っている。
買い物と言ったらここで、七海と遊ぶときによくくる場所。
「先輩。そのお世話になっている人って、どんな人なんですか?」
「そうだなぁ…。真面目でまっすぐで、いつもなにかに一生懸命なんだ。剣道しているオレのことも応援してくれて、その人がいたからがんばれたかな」
そう話す古関先輩の表情は、少し照れながらも頬がゆるんでいた。
だから、勘づいてしまった。
「もしかして、その人って…古関先輩の好きな人ですか?」
わたしが尋ねると、先輩は顔を真っ赤にしてこくんとうなずいた。
「ずっと支えてもらっていたのに、オレはなにも返せてなくて…。だから、せめてプレゼントをと思って」
古関先輩は、その人のことをとても大事に想っていることがわかる。
学校一モテる古関先輩の好きな人って、一体どんな人なんだろう。
きっと素敵な人なんだろうな。
「…でも、その人はオレの気持ちにはまったく気づいてないんだ。1年も前からずっと好きなんだけどね」
そう言って、切ない表情でわたしに目を向ける古関先輩。
わたしも先輩の気持ちに少し共感して、胸がギュウっと締めつけられた。
わたしも宗治のことが好きだけど――。
宗治はわたしの気持ちなんて知るわけないから。
「じゃあ、プレゼントを渡したら、さすがに古関先輩の気持ちにも気づくんじゃないですか?」
そう思っていたけど、あの人相手じゃもしかして…。
そんな不安が頭をよぎった。
なんとか、大将の古関先輩までまわして…!
わたしは固唾を呑んで、宗治の背中をまっすぐに見つめた。
…だけど。
わたしの不安は無駄なものだったとすぐにわかることとなる。
試合開始と同時に、宗治はすばやい動きで相手を攻めたてる。
それはもう見ていて気持ちがいいほどに。
おもしろいくらいに宗治の技が決まり、力の差は歴然だった。
あの副部長の人は、小学生の頃から剣道をしている。
でも思えば、宗治は剣士として物心ついたときから刀を握っている。
そんな宗治に勝てる相手なんていない。
見事宗治は、優勝への望みを繋げた。
「春日井くんなら、やってくれると思っていたよ」
「あと頼みます。古関先輩」
古関先輩と宗治は、拳と拳を合わせた。
エース2人のその姿に、観客席のファンたちが沸き立つ。
宗治の圧倒的な強さの勝利に、流れが一気にこちらに傾いた。
最後は、いよいよ大将の古関先輩の登場だ。
この1戦…。
これですべてが決まる。
――そして。
〈優勝は、青柳中学校です。おめでとう!〉
閉会式。
満面の笑みで優勝旗を受け取ったのは、古関先輩ではなかった。
大将戦の試合は、ほぼ互角だった。
一歩も引かない試合展開の中、なんとか古関先輩が優位に。
このままいけば古関先輩の勝ちだと思ったとき、決定的な一本を取られてしまった。
これまで、優勝する先輩たちの背中を見てきた古関先輩。
しかし、最後の最後で神様は先輩には微笑まなかった。
閉会式後、3年生の先輩たちはみんな悔し涙を流していた。
もちろんそんな先輩たちを見て、わたしたち後輩も泣かずにはいられない。
「優勝は逃したけどっ…、このメンバーで3年間剣道ができてよかった…!」
目に涙を浮かべながら語る古関先輩。
自分の手で優勝をつかみ取ることができず、無念だったことだろう。
だけど、すべてを出し切った古関先輩の表情は、次第に清々しい笑みへと変わっていった。
その帰り。
わたし、宗治、古関先輩は同じ電車の車両に乗っていた。
「…いや~。青中、強かったな」
隣で、つり革を握って立っている古関先輩がつぶやく。
「ごめんな、高倉。かっこいいところ見せてやれなくて」
「そんなことありません…!古関先輩は試合だけじゃなくて、部長としてとても頼りがいがあって、それだけでとってもかっこよかったです」
「ありがとう。そう言ってもらえると、この3年間のすべてが報われたような気がするよ」
古関先輩はわたしに向かって微笑むと、わたしの隣にいる宗治に視線を移す。
「オレたちが達成できなかった優勝は、来年春日井くんに託すよ」
「…え?俺ですか?」
「ああ。キミの副将戦で、どれだけ勇気づけられたことか。その強さなら、来年だって敵なしだろうから」
…『来年』。
古関先輩は気づいていないだろうけど、その言葉に一瞬宗治の顔が曇った。
それまでに、満月の夜と重なった桜の狂い咲きが起これば、宗治は元の時代へタイムスリップする。
そうなれば、もう二度とこちらの時代には帰ってこない。
できることなら、来年宗治が優勝旗を手にする姿を見てみたい。
だけど、都子姫のそばに早く戻りたい宗治の気持ちを考えたら、宗治は来年ここにいないほうがいい。
「そうっすね。来年…、そうなったらいいですね」
そう言って、宗治は切なげに微笑んだ。
わたしたちを乗せた電車は、そのあと最寄り駅に到着した。
「そうだ、高倉。…たいしたことじゃないんだけど、またあとでメッセージを送ってもいいかな?」
「メッセージですか?はい、待ってますね」
なぜか、古関先輩の顔が赤いような気がする。
ここじゃ話せないようなことなのかな?
その夜。
古関先輩からメッセージが届いた。
【高倉に相談したいことがあるんだ】
相談したいことって…なんだろう?
そう思いながら、連投で送られてきた次のメッセージに目を移す。
【ずっとお世話になっている人にプレゼントを渡したくて…。でも、なにをあげたらいいかわからないから、いっしょに選んでもらえないかな?】
わたしなんかが、大事なプレゼントを選んでもいいのだろうか。
そんなことを考えたけど、古関先輩がこう言ってくれていることだし――。
数日後。
「高倉、今日はきてくれてありがとう」
「わたしでお役に立てたらいいんですけど…」
わたしたちは電車に乗って、繁華街にやってきた。
制服と剣道着姿しか見たことがなかったから、デニムにTシャツのシンプルな私服を着た古関先輩が新鮮に感じる。
「メッセージに書いてあったお世話になっている人って、女の人ですか?」
「ああ。“女の人”…というか、“女の子”だね。だから、なにをあげたらいいのかわからなくて」
「先輩からなら、なんだってうれしいと思いますよ!」
もし古関先輩のファンだったら、喜びのあまり失神してしまうのではないだろうか。
「オレ、剣道ばっかりだったから、そういう女の子が好きそうなものには疎くて――」
「…ハックション!!」
そのとき、後ろから大きなくしゃみが聞こえた。
…宗治だっ。
古関先輩と出かけるとはいえ、宗治と離れるわけにはいかないから、宗治もいっしょに行ってもいいかと事前に先輩に話した。
でも、なぜか2人だけでお願いしたいと言われて。
かと言って、宗治を家に置いて離れてしまったら消えてしまう。
だから仕方なく、宗治には古関先輩に見つからないようについてきてもらうことにした。
わたしたちの少し後ろをキャップ、サングラス、マスクをつけて追ってくる宗治はぱっと見、不審者だ。
宗治が尾行していることも先輩にバレるわけにはいかないのに、いきなり大きなくしゃみをするなんて。
「…今のくしゃみ――」
「くしゃみ…!?そんなの聞こえましたかっ!?それより、早く行きましょ!」
わたしは半ば強引に先輩の腕を引いた。
人混みということもあって、とりあえず宗治がバレることはなかった。
わたしたちは、ショッピングモールへ。
ここは、若者向けのショップがたくさん入っている。
買い物と言ったらここで、七海と遊ぶときによくくる場所。
「先輩。そのお世話になっている人って、どんな人なんですか?」
「そうだなぁ…。真面目でまっすぐで、いつもなにかに一生懸命なんだ。剣道しているオレのことも応援してくれて、その人がいたからがんばれたかな」
そう話す古関先輩の表情は、少し照れながらも頬がゆるんでいた。
だから、勘づいてしまった。
「もしかして、その人って…古関先輩の好きな人ですか?」
わたしが尋ねると、先輩は顔を真っ赤にしてこくんとうなずいた。
「ずっと支えてもらっていたのに、オレはなにも返せてなくて…。だから、せめてプレゼントをと思って」
古関先輩は、その人のことをとても大事に想っていることがわかる。
学校一モテる古関先輩の好きな人って、一体どんな人なんだろう。
きっと素敵な人なんだろうな。
「…でも、その人はオレの気持ちにはまったく気づいてないんだ。1年も前からずっと好きなんだけどね」
そう言って、切ない表情でわたしに目を向ける古関先輩。
わたしも先輩の気持ちに少し共感して、胸がギュウっと締めつけられた。
わたしも宗治のことが好きだけど――。
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「じゃあ、プレゼントを渡したら、さすがに古関先輩の気持ちにも気づくんじゃないですか?」
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