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幕末剣士、未来へ
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そのすぐあとに、バタバタと階段を駆け上がる複数の足音が。
「「都美…!?」」
血相を変えて部屋に飛び込んできたのは、お父さんとお母さんだった。
そのあとに、遅れておじいちゃんとおばあちゃんもやってくる。
「目が覚めたんだな!」
「なんともない…!?痛いところとかは!?」
あれやこれやと質問攻めで…状況が把握できない。
とりあえず、いったん落ち着いて話を整理すると――。
なんとわたしは、1ヶ月もの間眠っていたらしい…!
幕末にタイムスリップした次の日にこっちに戻ってきたとのことだったけど、それからずっと今まで眠り続けていたとか。
救い人の力を使い果たした後遺症のようなものだと。
だから、家族のみんなはわたしが目覚めるのを今か今かと心配しながらも待ってくれていた。
朔もあんなことを言っていたけど気にしてくれていたらしく、あれは照れ隠しなんだとか。
「…都美、戻ってきてくれたのね」
涙ぐむお母さんがわたしを抱きしめる。
「おかえり、都美」
「ただいま、お母さん…!」
わたしもお母さんの背中に手をまわした。
「そうか。宗治くんは元の時代へ帰ったんじゃな」
「よくやった、都美。さすが、ワシらの孫じゃ」
「都美も、よく無事に戻ってきてくれた」
お父さんがわたしの頭をなでる。
…でも、……あれ…?
なんで『無事』なの?
宗治が都子姫と結婚したら、わたしはこの世に生まれないんじゃ――。
わたしは、慌てて家の蔵から古びた我が家の家系図を引っ張り出してきた。
その家系図をたどると、都子姫の隣にある夫となった名前には――。
【壱】と書かれてあった。
「なんで壱さんのままなの…!?」
…いや。
壱さんはとってもいい人だし、結婚相手の候補だったから都子姫と結ばれたっておかしくはないんだけど…。
じゃあ、宗治はどうしたっていうの…?
宗治が都子姫と結婚したら、わたしたちは存在しなくなること。
でも、家系図は変わっていないこと。
そのことをおじいちゃんとおばあちゃんに伝えたけど、その理由は「わからない」とのことだった。
ただ言えるのは、おそらく宗治は都子姫とは結婚しなかったということ。
…あのバカっ。
わたしがどんな想いで別れを告げたのかも知らないで、なにやってるのよ…!
だけど、それを探る手立ては現代にはなにも残されていない。
1ヶ月もの間眠っていたわたしは、その後念のため自宅で療養することに。
とくに健康状態に問題はなさそうだったので、久しぶりに学校へ行くことができた。
「都美~…!!心配したんだからっ!」
登校してすぐに、わたしを見つけた七海が抱きついてきた。
「聞いたよ…!?インフルにかかって、そのあとノロにもなって大変だったんだってね…」
そんなことにはなっていないし、そんな設定だったことも今初めて聞かされたけど、そういうことでわたしは1ヶ月学校を休んでいたことになっていたようだ。
教室に着いて、久々に自分の席に座る。
――だけど。
「…あれ?宗治の席は?」
わたしの隣だったはずなのに、今は違うクラスメイトが座っていた。
すると、七海は不思議そうに首をかしげる。
「…宗治?…って、だれ?」
キョトンとする七海。
「なに言ってるの、宗治だよっ。春日井宗治!」
「かすがいそうじ…?」
七海は他のクラスメイトとも顔を見合わせるけど、そんな生徒は知らないとでも言いたそうに首を横に振る。
「…えっ……」
まるで狐につままれたような感覚だ。
「高倉!元気になったのか?」
お昼休みには、古関先輩も会いにきてくれた。
しかし、先輩に宗治のことを尋ねても首をかしげられた。
宗治は現代には存在していなかったかのように、宗治の席も宗治が使っていた剣道の防具もなにもかも残されていなかった。
それに、いっしょに写っていたはずの写真には、宗治の姿はなかった。
どうやら宗治のことを覚えているのは、わたしとわたしの家族だけのようだ。
たしかに、宗治はこの時代にいたのに――。
みんな覚えてくれていない。
その日以降、心にぽっかりと穴が空いたような虚しい日々を送った。
しかし、思いもよらない出来事が起こる。
それは、3年生に進級後初の剣道個人戦の大会の日。
応援にきていた七海がわたしの肩をたたく。
「ねぇ、都美。前にさ、『春日井宗治』っていう名前言ってたっけ?」
「…あ、うん。それがどうしたの?」
「『宗治』じゃないけど、青中に似たような名前の選手がいて、今あっちで試合してるよ?」
「…え?」
わたしは七海に教えてもらって、ライバル校である青柳中学校の偵察も兼ねて、その試合を覗きにいった。
そこには、すばやい動きで技を繰り出し、ひときわ目立つ1人の選手が。
名前は、『春日井宗馬』。
たしかに宗治と名前が似ている。
…だけど、名前が似ているだけで宗治のはずがない。
肩を落として、戻ろうとしたとき――。
試合が終わり、面を取ったのその顔は……宗治と瓜二つだった!
驚いて、二度見するほど。
青中にあんな選手…いたっけ。
いたら、絶対気づくはずだけど…。
しかもその選手は、圧倒的な力で勝ち上がっていき、ついに決勝戦で神代中学のエースと対戦することとなった。
古関先輩たち3年生が引退したあとの、ウチの新たなエース。
これまで難なく勝ち進んできたから、そう簡単に負けるはずがない。
――しかし。
宗治似の選手との力の差は歴然だった。
ウチのエースが…手も足も出ない。
そうして、優勝したのは青柳中学校の春日井宗馬だった。
また青中に負けて悔しい。
でもあの動き…、宗治とそっくりだった。
一体、何者なの…?
目を細めながら見つめていると、急にその宗治似の選手が振り返った。
一瞬目が合って、わたしはとっさに顔を背けた。
他人のそら似に違いない。
無理やりそう思うことにして、わたしは家に帰った。
「おかえり、都美。悪いけど、ちょっと庭の掃き掃除してきてくれる?」
「いいよ」
ほうきを持って庭に出ると、御神木の桜の木の前にだれかが立っていた。
紺色のブレザーに、グレーのズボン。
…青中の制服だ。
でも、どうしてこんなところに青中の生徒が…?
と思いつつも、その場を通り過ぎようとした――そのとき。
「無視かよ」
突然そんな声が聞こえた。
びっくりしたー…。
…背中に目でもついてるの?
「も…もしかして、わたしに言ってますか…?」
「お前以外、だれがいるんだよ」
そう言って振り返ったのは、あの…春日井宗馬だった!
なんで…ここに。
「せっかく会いにきてやったっていうのに」
外見は宗治と瓜二つなのに、声と口調までも宗治とそっくりだ。
「会いにきたって言われても、わたし…あなたとは初対面だと思うんですけど…」
「そんなことねぇだろ、都美」
ニッと笑うその表情。
それは、宗治そのものだった。
それに、今…『都美』って。
でも、ライバル校同士なんだし、マネージャーのわたしの名前を知っている可能性だってある。
「なんだよ、その俺を疑うような目。…だったら、“びぃ”。こっちのほうがしっくりくるか?」
その言葉に、わたしの胸がドキッと高鳴る。
…『びぃ』。
わたしのことをそんなふうに呼んでいたのは、現代ではただ1人しかいない。
「…宗…治?」
「気づくのが遅ぇよ」
その瞬間、目の奥がじわっと熱くなって…。
涙がとめどなくあふれ出した。
「…なんで?…どうして!?本当に宗治なの…?」
「そうだよ、俺だよ」
「「都美…!?」」
血相を変えて部屋に飛び込んできたのは、お父さんとお母さんだった。
そのあとに、遅れておじいちゃんとおばあちゃんもやってくる。
「目が覚めたんだな!」
「なんともない…!?痛いところとかは!?」
あれやこれやと質問攻めで…状況が把握できない。
とりあえず、いったん落ち着いて話を整理すると――。
なんとわたしは、1ヶ月もの間眠っていたらしい…!
幕末にタイムスリップした次の日にこっちに戻ってきたとのことだったけど、それからずっと今まで眠り続けていたとか。
救い人の力を使い果たした後遺症のようなものだと。
だから、家族のみんなはわたしが目覚めるのを今か今かと心配しながらも待ってくれていた。
朔もあんなことを言っていたけど気にしてくれていたらしく、あれは照れ隠しなんだとか。
「…都美、戻ってきてくれたのね」
涙ぐむお母さんがわたしを抱きしめる。
「おかえり、都美」
「ただいま、お母さん…!」
わたしもお母さんの背中に手をまわした。
「そうか。宗治くんは元の時代へ帰ったんじゃな」
「よくやった、都美。さすが、ワシらの孫じゃ」
「都美も、よく無事に戻ってきてくれた」
お父さんがわたしの頭をなでる。
…でも、……あれ…?
なんで『無事』なの?
宗治が都子姫と結婚したら、わたしはこの世に生まれないんじゃ――。
わたしは、慌てて家の蔵から古びた我が家の家系図を引っ張り出してきた。
その家系図をたどると、都子姫の隣にある夫となった名前には――。
【壱】と書かれてあった。
「なんで壱さんのままなの…!?」
…いや。
壱さんはとってもいい人だし、結婚相手の候補だったから都子姫と結ばれたっておかしくはないんだけど…。
じゃあ、宗治はどうしたっていうの…?
宗治が都子姫と結婚したら、わたしたちは存在しなくなること。
でも、家系図は変わっていないこと。
そのことをおじいちゃんとおばあちゃんに伝えたけど、その理由は「わからない」とのことだった。
ただ言えるのは、おそらく宗治は都子姫とは結婚しなかったということ。
…あのバカっ。
わたしがどんな想いで別れを告げたのかも知らないで、なにやってるのよ…!
だけど、それを探る手立ては現代にはなにも残されていない。
1ヶ月もの間眠っていたわたしは、その後念のため自宅で療養することに。
とくに健康状態に問題はなさそうだったので、久しぶりに学校へ行くことができた。
「都美~…!!心配したんだからっ!」
登校してすぐに、わたしを見つけた七海が抱きついてきた。
「聞いたよ…!?インフルにかかって、そのあとノロにもなって大変だったんだってね…」
そんなことにはなっていないし、そんな設定だったことも今初めて聞かされたけど、そういうことでわたしは1ヶ月学校を休んでいたことになっていたようだ。
教室に着いて、久々に自分の席に座る。
――だけど。
「…あれ?宗治の席は?」
わたしの隣だったはずなのに、今は違うクラスメイトが座っていた。
すると、七海は不思議そうに首をかしげる。
「…宗治?…って、だれ?」
キョトンとする七海。
「なに言ってるの、宗治だよっ。春日井宗治!」
「かすがいそうじ…?」
七海は他のクラスメイトとも顔を見合わせるけど、そんな生徒は知らないとでも言いたそうに首を横に振る。
「…えっ……」
まるで狐につままれたような感覚だ。
「高倉!元気になったのか?」
お昼休みには、古関先輩も会いにきてくれた。
しかし、先輩に宗治のことを尋ねても首をかしげられた。
宗治は現代には存在していなかったかのように、宗治の席も宗治が使っていた剣道の防具もなにもかも残されていなかった。
それに、いっしょに写っていたはずの写真には、宗治の姿はなかった。
どうやら宗治のことを覚えているのは、わたしとわたしの家族だけのようだ。
たしかに、宗治はこの時代にいたのに――。
みんな覚えてくれていない。
その日以降、心にぽっかりと穴が空いたような虚しい日々を送った。
しかし、思いもよらない出来事が起こる。
それは、3年生に進級後初の剣道個人戦の大会の日。
応援にきていた七海がわたしの肩をたたく。
「ねぇ、都美。前にさ、『春日井宗治』っていう名前言ってたっけ?」
「…あ、うん。それがどうしたの?」
「『宗治』じゃないけど、青中に似たような名前の選手がいて、今あっちで試合してるよ?」
「…え?」
わたしは七海に教えてもらって、ライバル校である青柳中学校の偵察も兼ねて、その試合を覗きにいった。
そこには、すばやい動きで技を繰り出し、ひときわ目立つ1人の選手が。
名前は、『春日井宗馬』。
たしかに宗治と名前が似ている。
…だけど、名前が似ているだけで宗治のはずがない。
肩を落として、戻ろうとしたとき――。
試合が終わり、面を取ったのその顔は……宗治と瓜二つだった!
驚いて、二度見するほど。
青中にあんな選手…いたっけ。
いたら、絶対気づくはずだけど…。
しかもその選手は、圧倒的な力で勝ち上がっていき、ついに決勝戦で神代中学のエースと対戦することとなった。
古関先輩たち3年生が引退したあとの、ウチの新たなエース。
これまで難なく勝ち進んできたから、そう簡単に負けるはずがない。
――しかし。
宗治似の選手との力の差は歴然だった。
ウチのエースが…手も足も出ない。
そうして、優勝したのは青柳中学校の春日井宗馬だった。
また青中に負けて悔しい。
でもあの動き…、宗治とそっくりだった。
一体、何者なの…?
目を細めながら見つめていると、急にその宗治似の選手が振り返った。
一瞬目が合って、わたしはとっさに顔を背けた。
他人のそら似に違いない。
無理やりそう思うことにして、わたしは家に帰った。
「おかえり、都美。悪いけど、ちょっと庭の掃き掃除してきてくれる?」
「いいよ」
ほうきを持って庭に出ると、御神木の桜の木の前にだれかが立っていた。
紺色のブレザーに、グレーのズボン。
…青中の制服だ。
でも、どうしてこんなところに青中の生徒が…?
と思いつつも、その場を通り過ぎようとした――そのとき。
「無視かよ」
突然そんな声が聞こえた。
びっくりしたー…。
…背中に目でもついてるの?
「も…もしかして、わたしに言ってますか…?」
「お前以外、だれがいるんだよ」
そう言って振り返ったのは、あの…春日井宗馬だった!
なんで…ここに。
「せっかく会いにきてやったっていうのに」
外見は宗治と瓜二つなのに、声と口調までも宗治とそっくりだ。
「会いにきたって言われても、わたし…あなたとは初対面だと思うんですけど…」
「そんなことねぇだろ、都美」
ニッと笑うその表情。
それは、宗治そのものだった。
それに、今…『都美』って。
でも、ライバル校同士なんだし、マネージャーのわたしの名前を知っている可能性だってある。
「なんだよ、その俺を疑うような目。…だったら、“びぃ”。こっちのほうがしっくりくるか?」
その言葉に、わたしの胸がドキッと高鳴る。
…『びぃ』。
わたしのことをそんなふうに呼んでいたのは、現代ではただ1人しかいない。
「…宗…治?」
「気づくのが遅ぇよ」
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