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君と出会った
莉子side 1P
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「莉子、もうすぐ着くわよ」
そう言って、お母さんが助手席から後部座席に座るわたしに顔を向ける。
「…は~い」
そんなお母さんに対して、気の抜けた返事を返す。
「なんだ莉子、その返事はっ」
それに反応したお父さんが、ルームミラー越しにわたしに目を向ける。
「…だって、やっぱりなんか。心の準備が…」
「まだそんなこと言ってるのか~。まあ…それもわかるが、『住めば都』って言うからな」
「そうよ、莉子。それに、みんなで決めたことでしょ?それとも、お父さんと離ればなれで暮らすほうがよかった?」
「そりゃ…そっちのほうがいやだけど。でも、なんか別世界にきたような気がして…」
わたしは膨れっ面で、車の窓から外の風景を眺める。
高速道路の上からでも、よくわかる。
なにもない街だと。
見える風景は、山と田んぼと畑。
それに、ちょこっと家が建っているくらい。
プリクラが撮れそうなゲームセンターもないし、スタバも見当たらない。
そんななにもないところに、わたしは今日、こうして引っ越してきた。
お父さんが運転する車は、徐々にスピードを落としていき、高速道路の下り口へ差しかかる。
…ああ、本当に着いてしまったんだと憂鬱すぎて、さっきからため息しか出ない。
わたしの名前は、桜庭莉子。
この春から、中学1年生になる。
生まれてから12年間住んでいた東京を離れ、お父さんの仕事の都合で、今日こうして関西に越してきた。
わたしはこの日を迎えるのが、とても嫌で嫌で仕方がなかった。
なぜなら、仲のいい友達とは離れることになるし、東京と比べたらなにもない。
それに、なんだか関西弁って…こわいイメージがある。
さっきのサービスエリアでは、ほとんどの人が関西弁で話していたけど、どれも怒っているみたいな口調に聞こえる。
普段あまり聞き慣れないせいか、…なんだか違和感でしかなかった。
そんなところに、これからわたしは放り込まれるわけだ。
憂鬱以外のなにものでもない。
「ここもここで、いいところよ~。関西のおじいちゃんおばあちゃん家とも近くなるしねっ」
わたしと違って、お母さんはどこかうれしそうだ。
それもそのはず。
お母さんは、関西出身。
大学入学のときに上京したらしいから、人生の半分以上は東京で暮らしいていることになるけど。
お母さんの実家…、つまりおばあちゃん家は、わたしたちが住む市の隣の市にある。
これまでは、お盆やお正月休みを使って年に一度ほど、新幹線に乗って遊びにいくくらいだった。
だけど、これからは電車でひと駅の距離になるのだ。
関西のおじいちゃんおばあちゃんにすぐに会えるって言われたって、今までも頻繁に会っていたわけじゃないし、すごく楽しみ!というほどでもない。
それこそ、わたしが小さいときは「おじいちゃん、おばあちゃんとバイバイしたくない~!」なんて言って、泣いていた記憶はあるけど…。
わたしも、…もう中1だしね。
今のところ、関西に引っ越してきたことに対するわたしのメリットは……ゼロに等しい。
そして、わたしたちが住むマンションに到着した。
今年建ったばかりの駅チカの新築マンションとかで、そこに関してはよかった。
部屋からの眺めもよい。
…山しか見えないけど。
「ちなみに、新しい学校までは歩いて15分もかからないみたいよ」
「新しい学校かぁ…。友達…できるかな」
「莉子なら大丈夫よっ」
まあ、どうせ友達ができたとしても、中学3年間だけの付き合いなんだけどね。
なぜなら、お父さんの今回の転勤は3年の期間となっている。
そのあとは、また東京に戻る予定となっているのだ。
だから、この3年をなんとか我慢して、高校受験では東京の学校を志望する。
そして、晴れて3年後は家族みんなで東京へ戻るという計画だ。
「莉子、どこ行くの?」
「ちょっと散歩~」
「1人で大丈夫…?お母さんも、このあと買い物に行くつもりだから、そのときにいっしょに――」
「もう小学生じゃないんだから、大丈夫だよ。迷ったら、スマホのマップ見ればいいだけなんだしっ」
「そう?じゃあ、気をつけてね」
「は~い。いってきます」
わたしは、引越し業者からの荷物が届くまでの間、暇だからマンションの周りを散策することにした。
マンションのエントランスを出ると、駅に直結する歩道橋がある。
それを、駅とは逆の方向へ下っていった。
その先を行くと、小さな川があった。
橋の上から覗き込むと、魚やカメが泳いでいるのが見えた。
…そこは、ちょっと驚き。
東京の水路のような川は、淀んでいて魚なんて見えないし、カメじゃなくてゴミが浮いているくらい。
なにもないけど、なにかしらいいところはあった。
――そう思っていたんだけど。
わたしは、スマホの地図アプリを見て…愕然。
なぜなら、徒歩圏内にスタバがなかったからだ。
この辺りに住んでいる人は、どうやってスタバに行くのだろうか…。
調べたら、車で30分ほど走ったところにあるショッピングモールの中にあるスタバが、ここから一番近い店舗だった。
…うそでしょ。
フラペチーノ飲むのに、車が必要なわけ…!?
普通、歩いてすぐとか、駅に併設してたりするものじゃないの…!?
コンビニが徒歩圏内にあるのは唯一の救いだけど、近くにファストフード店もない。
あるとすれば、駅と川くらい。
その事実に、すでにわたしは東京に帰りたくてたまらなかった。
なにもないけど、せっかく出てきたことなんだし、わたしは近くのコンビニに立ち寄った。
アイスカフェオレを買って、カウンター席のイートインスペースに腰かける。
周りにカフェっぽいお店もないし、ここがこれからわたしの憩いのカフェになるのかもれしない。
そんなことを考えながら、ため息をついていると――。
「いや~。今日の筋トレも厳しすぎ!」
「あれ、腹筋バキバキになるんちゃう?」
「ノックもやばかった!」
そんな声が聞こえて目を向けると、同じ格好をした6人組の男の子がコンビニに入ってきた。
黒髪短髪、キャップに、白のストライプが入った紺色のユニフォーム。
どこからどう見ても、どこかの学校の野球部だということがわかる。
地元民感溢れる6人組の野球部は、今のわたしにとっては恐怖でしかない。
早く出ていってくれないかな~。
と思っているけど、いろいろと買い漁っていて、そんな雰囲気ではない。
――しかも。
「オレ、腹減ったから、ここで食ってくわっ」
…なんと、お会計を済ませたものをわたしと同じイートインスペースで食べ始めた!
パンにおにぎりに、スイーツまで…!?
今、お昼の2時だけど、そんなに食べるの!?
しかも最悪なことに、他の部員もイートインスペースを利用しだした。
「晩メシまでなんもないとか、無理っ」
「それな。練習終わったら、とりあえずなんか食わな気がすまへんし~」
わたしと反対側の席から、徐々に埋まっていく。
…と、ここで気づいた。
イートインスペースのカウンター席は、全部で6つ。
今、わたしの真隣の席に1人が座った。
入ってきた野球部は、全員で6人。
ということは、わたしがここに座っていたら、最後の1人が座れないということだ。
「大河~!お前もこっちで食べるやろ~?」
「ああ」
ほら、やっぱりもう1人きたっ…。
「…あっ。でも、大河の席空いてへんかったわ」
「それなら、オレといっしょに座ったらいいやん!」
そんなやり取りが、隣から聞こえてくる。
べつに、わたしが先にここを利用していたんだし、「席を替われ」と言われたわけでもない。
だから、わたしが動く必要はないんだけど…。
6席中、5席を野球部で埋め尽くされていたら、嫌でも無言の圧がかかっているような気がして、どうにも落ち着かない。
わたしは急いでカフェオレを飲み干すと、両耳にイヤホンをつけ、慌てて席を立った。
――そのとき。
…ドンッ‼
わたしは、ちょうど真後ろにいた人にぶつかってしまった。
おそるおそる振り返ると、わたしよりも頭半分ほど背の高い…6人目の野球部の男の子だった。
体格もいいし、まるで壁のようだ。
「す…すみませんでした…!」
わたしは頭を下げると、逃げるように野球部たちに背中を向けた。
なにもされてないけど、知らない土地で、同じくらいの歳の男の子の団体に遭遇するなんて…ちょっぴりこわい。
できることなら、関わりたくない。
そう言って、お母さんが助手席から後部座席に座るわたしに顔を向ける。
「…は~い」
そんなお母さんに対して、気の抜けた返事を返す。
「なんだ莉子、その返事はっ」
それに反応したお父さんが、ルームミラー越しにわたしに目を向ける。
「…だって、やっぱりなんか。心の準備が…」
「まだそんなこと言ってるのか~。まあ…それもわかるが、『住めば都』って言うからな」
「そうよ、莉子。それに、みんなで決めたことでしょ?それとも、お父さんと離ればなれで暮らすほうがよかった?」
「そりゃ…そっちのほうがいやだけど。でも、なんか別世界にきたような気がして…」
わたしは膨れっ面で、車の窓から外の風景を眺める。
高速道路の上からでも、よくわかる。
なにもない街だと。
見える風景は、山と田んぼと畑。
それに、ちょこっと家が建っているくらい。
プリクラが撮れそうなゲームセンターもないし、スタバも見当たらない。
そんななにもないところに、わたしは今日、こうして引っ越してきた。
お父さんが運転する車は、徐々にスピードを落としていき、高速道路の下り口へ差しかかる。
…ああ、本当に着いてしまったんだと憂鬱すぎて、さっきからため息しか出ない。
わたしの名前は、桜庭莉子。
この春から、中学1年生になる。
生まれてから12年間住んでいた東京を離れ、お父さんの仕事の都合で、今日こうして関西に越してきた。
わたしはこの日を迎えるのが、とても嫌で嫌で仕方がなかった。
なぜなら、仲のいい友達とは離れることになるし、東京と比べたらなにもない。
それに、なんだか関西弁って…こわいイメージがある。
さっきのサービスエリアでは、ほとんどの人が関西弁で話していたけど、どれも怒っているみたいな口調に聞こえる。
普段あまり聞き慣れないせいか、…なんだか違和感でしかなかった。
そんなところに、これからわたしは放り込まれるわけだ。
憂鬱以外のなにものでもない。
「ここもここで、いいところよ~。関西のおじいちゃんおばあちゃん家とも近くなるしねっ」
わたしと違って、お母さんはどこかうれしそうだ。
それもそのはず。
お母さんは、関西出身。
大学入学のときに上京したらしいから、人生の半分以上は東京で暮らしいていることになるけど。
お母さんの実家…、つまりおばあちゃん家は、わたしたちが住む市の隣の市にある。
これまでは、お盆やお正月休みを使って年に一度ほど、新幹線に乗って遊びにいくくらいだった。
だけど、これからは電車でひと駅の距離になるのだ。
関西のおじいちゃんおばあちゃんにすぐに会えるって言われたって、今までも頻繁に会っていたわけじゃないし、すごく楽しみ!というほどでもない。
それこそ、わたしが小さいときは「おじいちゃん、おばあちゃんとバイバイしたくない~!」なんて言って、泣いていた記憶はあるけど…。
わたしも、…もう中1だしね。
今のところ、関西に引っ越してきたことに対するわたしのメリットは……ゼロに等しい。
そして、わたしたちが住むマンションに到着した。
今年建ったばかりの駅チカの新築マンションとかで、そこに関してはよかった。
部屋からの眺めもよい。
…山しか見えないけど。
「ちなみに、新しい学校までは歩いて15分もかからないみたいよ」
「新しい学校かぁ…。友達…できるかな」
「莉子なら大丈夫よっ」
まあ、どうせ友達ができたとしても、中学3年間だけの付き合いなんだけどね。
なぜなら、お父さんの今回の転勤は3年の期間となっている。
そのあとは、また東京に戻る予定となっているのだ。
だから、この3年をなんとか我慢して、高校受験では東京の学校を志望する。
そして、晴れて3年後は家族みんなで東京へ戻るという計画だ。
「莉子、どこ行くの?」
「ちょっと散歩~」
「1人で大丈夫…?お母さんも、このあと買い物に行くつもりだから、そのときにいっしょに――」
「もう小学生じゃないんだから、大丈夫だよ。迷ったら、スマホのマップ見ればいいだけなんだしっ」
「そう?じゃあ、気をつけてね」
「は~い。いってきます」
わたしは、引越し業者からの荷物が届くまでの間、暇だからマンションの周りを散策することにした。
マンションのエントランスを出ると、駅に直結する歩道橋がある。
それを、駅とは逆の方向へ下っていった。
その先を行くと、小さな川があった。
橋の上から覗き込むと、魚やカメが泳いでいるのが見えた。
…そこは、ちょっと驚き。
東京の水路のような川は、淀んでいて魚なんて見えないし、カメじゃなくてゴミが浮いているくらい。
なにもないけど、なにかしらいいところはあった。
――そう思っていたんだけど。
わたしは、スマホの地図アプリを見て…愕然。
なぜなら、徒歩圏内にスタバがなかったからだ。
この辺りに住んでいる人は、どうやってスタバに行くのだろうか…。
調べたら、車で30分ほど走ったところにあるショッピングモールの中にあるスタバが、ここから一番近い店舗だった。
…うそでしょ。
フラペチーノ飲むのに、車が必要なわけ…!?
普通、歩いてすぐとか、駅に併設してたりするものじゃないの…!?
コンビニが徒歩圏内にあるのは唯一の救いだけど、近くにファストフード店もない。
あるとすれば、駅と川くらい。
その事実に、すでにわたしは東京に帰りたくてたまらなかった。
なにもないけど、せっかく出てきたことなんだし、わたしは近くのコンビニに立ち寄った。
アイスカフェオレを買って、カウンター席のイートインスペースに腰かける。
周りにカフェっぽいお店もないし、ここがこれからわたしの憩いのカフェになるのかもれしない。
そんなことを考えながら、ため息をついていると――。
「いや~。今日の筋トレも厳しすぎ!」
「あれ、腹筋バキバキになるんちゃう?」
「ノックもやばかった!」
そんな声が聞こえて目を向けると、同じ格好をした6人組の男の子がコンビニに入ってきた。
黒髪短髪、キャップに、白のストライプが入った紺色のユニフォーム。
どこからどう見ても、どこかの学校の野球部だということがわかる。
地元民感溢れる6人組の野球部は、今のわたしにとっては恐怖でしかない。
早く出ていってくれないかな~。
と思っているけど、いろいろと買い漁っていて、そんな雰囲気ではない。
――しかも。
「オレ、腹減ったから、ここで食ってくわっ」
…なんと、お会計を済ませたものをわたしと同じイートインスペースで食べ始めた!
パンにおにぎりに、スイーツまで…!?
今、お昼の2時だけど、そんなに食べるの!?
しかも最悪なことに、他の部員もイートインスペースを利用しだした。
「晩メシまでなんもないとか、無理っ」
「それな。練習終わったら、とりあえずなんか食わな気がすまへんし~」
わたしと反対側の席から、徐々に埋まっていく。
…と、ここで気づいた。
イートインスペースのカウンター席は、全部で6つ。
今、わたしの真隣の席に1人が座った。
入ってきた野球部は、全員で6人。
ということは、わたしがここに座っていたら、最後の1人が座れないということだ。
「大河~!お前もこっちで食べるやろ~?」
「ああ」
ほら、やっぱりもう1人きたっ…。
「…あっ。でも、大河の席空いてへんかったわ」
「それなら、オレといっしょに座ったらいいやん!」
そんなやり取りが、隣から聞こえてくる。
べつに、わたしが先にここを利用していたんだし、「席を替われ」と言われたわけでもない。
だから、わたしが動く必要はないんだけど…。
6席中、5席を野球部で埋め尽くされていたら、嫌でも無言の圧がかかっているような気がして、どうにも落ち着かない。
わたしは急いでカフェオレを飲み干すと、両耳にイヤホンをつけ、慌てて席を立った。
――そのとき。
…ドンッ‼
わたしは、ちょうど真後ろにいた人にぶつかってしまった。
おそるおそる振り返ると、わたしよりも頭半分ほど背の高い…6人目の野球部の男の子だった。
体格もいいし、まるで壁のようだ。
「す…すみませんでした…!」
わたしは頭を下げると、逃げるように野球部たちに背中を向けた。
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