ありがとう、ばいばい、大好きだった君へ

中小路かほ

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君の気持ち

大河side 1P

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青城中学に入学して、無我夢中で野球をしていたせいか、気づけば中学3年生になっていた。


去年の夏、先輩たちが引退してから、俺は野球部の部長に。

悠は、副部長に任命された。


バッテリーとしてだけではなく、2人で力を合わせて野球部を牽引していく。


悠は、的確なアドバイスをしてくれるか、すごく助かる。

そしてもう1人、俺の支えになってくれているのが――。



「なに、これ!また同じクラスなんだけど…!」


3年になった初日の登校日。

クラス分けの紙を見て、驚く1人の女子…。


胸くらいまである髪が、風でなびいている。


そう、莉子だ。

出会った当初は肩までしかなかった髪が、この2年の間にかなり伸びていた。



莉子とは、中1、中2と同じクラスで、しかも席替えもよく隣同士になるほどの腐れ縁。


「ほんまやんっ。さすがに、最後の年くらい離れたかったわ~」

「それは、こっちのセリフ。それに、悠もいっしょだしね」


今回は離れるだろうと思っていたら、またしても同じクラスになっていた。

でも、腐れ縁なのは悠も同じ。


『離れたかった』なんてことを莉子に対して言ってみるけど、実際はそんなことは思っていない。


莉子は、初めこそ消極的なのかと思っていたが、声をかけたらまったく違った。

意外と思っていることをズバズバと言うし、いっしょに話していたらなんだか清々しい気分になる。


そういうところがよかったのか、すぐに友達も増えていった。


俺も、女子の中では断トツに話しやすかったから、俺が野球部に入るとき、莉子もいっしょに誘った。


「俺、野球部に入るねんけど――」

「それは、言われなくてもわかるよ」

「…そうじゃなくて!もしあれやったら、莉子もどう?」

「…え、野球部?それって、男の子だけでしょ?」

「ちゃうちゃう!野球部のマネージャーなっ」


野球部は、女子のマネージャーも募集してた。

俺たち部員のサポートをしてくれる女子なら、なんでも話せる莉子がいいなと思った。


そして、莉子は俺の誘いもあって、野球部のマネージャーとして入部することになった。



「おい、大河っ。あのコ、お前が誘ってきたんやって?」


部活の休憩中に、野球部の先輩にひじで脇腹を突つかれる。


「莉子っすか?」

「そうそう、莉子ちゃん。東京から引っ越してきたんやっけ?」

「みたいっすね」

「なかなかかわいいコやん!お前、ああいうのがタイプなんや?」

「…はっ、はぁ…!?俺、べつにそんなつもりで野球部に誘ったんじゃ――」

「なに、慌ててんねんっ!動揺しすぎやろ~」


俺の反応を見て、先輩はケラケラと笑っている。


「まあ、莉子ちゃんかわいいし、野球部がパッと明るくなったって感じもあるから、連れてきて正解やったな!」

「そうっすか?それなら、よかったっすけど」


莉子は愛想もよくて仕事も一生懸命にしてくれるから、野球部の先輩にもマネージャーの先輩にもかわいがられていた。


「そういや、莉子ちゃんって彼氏とかいるんかなー?」

「…なんでそんな話になるんすかっ」

「だって、隙あらば狙っちゃおっかなって♪大河、莉子ちゃんに彼氏とか好きな男おるとか聞いといてーやー」

「浮いた話は聞いたことないっすけど、そんなの自分で聞いてくださいよ~…」


そんな莉子を狙う先輩も少なくはなかった。

そこに関しては、莉子を野球部に誘って正解だったかはわからない。


莉子は、俺の『仲間』みたいなもの。


だから、莉子に彼氏ができたとか、ましてやそれが同じ野球部の先輩だとか――。

そんな話は、あまり聞きたくはない。


なんとなく莉子に気があるんじゃないだろうか。

そんな感じの先輩や同級生は何人かいたが、結局告白したのかどうからわからない。


もしそれで、別れて気まずくなって、莉子が野球部を辞めるとか言い出したら困る…。

なんて思っていた。


しかし、俺の心配をよそに、莉子は毎日放課後の部活を楽しみにしてくれていた。


俺も、そんな莉子がいたから、さらに野球部で野球をすることが楽しくなった。



莉子のことを狙う先輩が引退、そしてまた引退して、今日から中学3年生になった俺たち。

先輩はいなくなっても、今度は莉子を狙う後輩が現れた。


だから、俺の心配がなくなることはなかった。


「なぁ、莉子!クラスどうやった?」


昇降口で靴を履き替えていたとき、この前まで同じクラスだった女友達が莉子に話しかけにきた。


「わたしは2組だったよ」

「ちなみに、大河と悠とは?」

「…それが、また同じクラスだったんだけど」

「ほんまに!?3人、どんだけ仲いいん!?」


大笑いされた。

べつに俺だって、好きで莉子と同じクラスになってるわけじゃ――。


「そんなに仲いいなら、どっちかと付き合えばいいやん!」


それを聞いて、俺はその隣で瞬時に振り返った。


……はぁ…!?

なんで、そんな話になるっ…!?


…いやいや。

こんなじゃじゃ馬娘と付き合うとか、こっちが勘弁――。


「やめてよー。野球バカと付き合ったら、バカが移るじゃん」


そう言って、莉子はケラケラと笑っている。


それを聞いて、莉子も俺と同じで、付き合うことなんてまったく考えていなくて…よかったような…。

でも、素直には喜べないような…。


なぜだか、そんな複雑な気持ちになった。



「そういえば、今日は部活ないんだよね?」

「ああ。やから、学校帰りに莉子ん家行こって、さっき悠と話しててん」

「…えっ!?なんで、わたしん家!?」

「だって、この前のゲームの決着、まだついてへんやんっ」

「まあ…いいけど。お母さんに連絡しておくっ」

「よろしく~」


莉子のお父さんがゲーム好きとかで、莉子の家には最新のテレビゲームやソフトがある。


初めは、それ目当てで遊びに行っていたけど、莉子のお父さんもお母さんもすごく優しくて、毎回もてなしてくれるから、すっかり居心地がよくなってしまった。

だから、頻繁に莉子の家に遊びに行くようになっていた。


莉子も、俺や悠の家に遊びにくることも多い。

女友達と遊ぶよりも、俺たちとつるむほうが多いんじゃないだろうか?


まあ、人の家にきてパンツが見えそうなくらいの大股を開いて、寝転びながらゲラゲラとマンガを読むような女子は、野郎といるほうが気が楽なのかもしれない。



その日の帰り。

俺と悠は、莉子の家へ行った。


「大河くん、悠くん、久しぶり~!」


莉子のお母さんが、玄関までパタパタと駆けてきて出迎えてくれた。


中からいい匂いがすると思ったら、どうやらこの前きたときに出されてうまかった、手作りクッキーを用意してくれていたらしい。


「莉子のお母さんのクッキー、めっちゃ好きなんすよ!」

「まあ、うれしい!たくさんあるから、どんどん食べてね~!」


ゲームしている間も、次から次へとクッキーが運ばれてきた。

まるで、無限クッキーだ。


でもうまいから、悠といっしょに口の中に放り込む。


「よかったら2人とも、晩ごはんもウチで食べていったら?」

「「いいんすか!?」」

「もちろん!今日は、お父さんも早く帰ってこれるから、2人に会える楽しみにしてると思うから」

「やった~!莉子のお母さんの料理、めちゃくちゃうめぇよなー」

「ああ。遠慮なくいただきまーす!」


莉子のお母さんは、お菓子作りだけでなく、手料理もうまい。

調理実習で失敗ばかりする莉子とは、大違いだ。


それに、莉子のお父さんもおもしろい人。

友達にプロ野球選手がいるとかで、その人の話を聞くのが毎回の楽しみだった。



晩ごはんのあと、俺は莉子の部屋にいた。

この前貸したマンガを返してもらうためだ。


「確か、ここに置いて…」


と、机の上を探す莉子。


しかし、見当たらない。


「あれっ…?こっちだったかな?」


莉子が自信なさげな声を漏らしながら、部屋の中を探している。

それを後ろから、心配そうに見てみる。


「おいおい。失くしたんとちゃうやろな~」

「そんなことないよ。だって、昨日見かけたし」


昨日見かけたなら、そのあたりに置いてありそうだけど、ぱっと見てはなかった。

だから、俺も仕方なくいっしょに探すことに。



そして、10分後。


「…あっ!思い出した!」


莉子はハッとした顔で立ち上がると、ベッドの横にある本棚へ向かった。


莉子の行動に視線を移していると、本棚の一番上の棚に莉子のマンガに混じって、俺のマンガの背表紙が見えた。


「そういえば、昨日本棚にしまったんだった…!」

「それにしても、…なんであんな高いところに」

「おもしろかったから、もう1回読み返そうと思って~」

「いや、あそこに置いてる時点で、借りパクしようと思ってたやろ」


なぜ、読み終わって借りたマンガを自分の本棚にしまう必要がっ…。


俺が目を細めて莉子を見ると、慌てたように顔の前で手をブンブンと横に振る莉子。


「…そんなことないよ!それに、大河だってわたしのマンガ、借りパクしてるじゃん!」

「あれは、まだ読んでへんねん」

「何ヶ月前に貸したと思ってるの~!?それこそ、借りパクだよっ」


確かに、莉子から借りたマンガをずっと持っていたまんまだった。


…くそっ。

そう言われたら、なにも言い返せない。



莉子は俺を押しのけると、本棚に手を伸ばした。


しかし、俺のマンガに莉子の指先が届くことはなかった。

莉子なりに、目一杯背伸びをしているみたいだけど。


なんでそこにしまえて、取るときには届かねぇんだよ。

踏み台かなんか使ったんじゃないのか?


そう思いつつも、本棚の一番上の棚は、俺にとってはそれほど高くはなかった。


――だから。


「じゃあ、返してもらうからな」


莉子に任していてもらちが明かないから、俺は莉子の後ろから本棚に手を伸ばした。


「よしっ、取れた」


プルプルと震える莉子の指先を飛び越えて、俺は軽々と本棚に挟まっていた自分のマンガを抜き取った。


――と、そのとき。


踏み込んだ足の裏に、なにか固いものが当たった。

それはまるで、足ツボを刺激するかのように、俺の足の裏にめり込む。


「…うわぁ!」


思わず、変な声が漏れる。


足の裏の微妙な痛みと不安定感で、俺は体のバランスを大きく崩してしまった。
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