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君とすれ違い
莉子side 2P
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「そうなの?それじゃあ、大河ももう帰ってるかな…!?」
もしかしたら、久々に大河に会えるかもしれない。
そう思っていたら――。
「…いや。大河はまだ練習中」
「え…?」
「後半は、レギュラーだけの特別メニューをするとかで。それ以外の部員は、こうして帰らされたってわけ」
「…そうなんだ」
大河がまだ残っていると知って、わたしはあからさまに肩を落としてしまった。
でも悠だって、本当ならこんなこと言いたくなかったはずだ。
なぜなら、自分はレギュラーじゃないと再認識させられているようなものなのだから。
「莉子、このあと時間ある?」
「…ん、あるよ?どこか行く?」
「ああ。小腹が空いたから、付き合ってや」
悠がそう言うから、わたしたちは近くのファストフード店へ入った。
わたしはシェイクだけにして、悠はハンバーガーセットを頼んでいた。
「それにしても、相変わらずよく食べるよね~」
このあと家に帰ってからも、まだ夜ご飯を食べるんでしょ?
いくら食べても太らないんだから、うらやましい。
「食べな体力つかへんし、体力なかったらあんな練習ついてけへんし」
「大河も言ってたけど、そんなに練習ってハードなんだっ」
「ハードどころちゃう!ほんま地獄やで」
悠が言うには、すでに何人か野球部を辞めた人もいるんだそう。
「あの練習をこなしたら、それでレギュラーを勝ち取れるならいくらでもする。…でも、必ずしもそうやないからな」
100人以上の野球部がいる中で、レギュラーになれるのは…わずか9人。
地道に練習をしていても、憧れのレギュラーになれなかったら、確かに心が折れてしまうだろう。
しかも、必ずしも2年生や3年生になれば、レギュラーになれる可能性が上がるわけではない。
野球の強豪校は、実力主義。
強い後輩が現れれば先輩後輩関係なしに、その地位はひっくり返されてしまう。
1年生の今の時期から、異例のレギュラー入りを果たした大河。
しかし、その一枠を奪われて涙を呑んだ先輩たちはたくさんいるはずだ。
「ほんま、大河はすごいわ。このままやと、夏の大会もレギュラー確実ちゃう?」
「…へ~、そうなんだ。意外とがんばってるんだ」
「あれ…?なんか他人事みたいな言い方やん」
「だって、大河からはなにも聞かされてないんだもん…」
メッセージだって、最近は【おはよう】、【おやすみ】くらい。
最後に直接話したのなんて、もういつのことだろうか。
「最近、うまくいってへんの…?」
「うまくいってないというか…。べつに、ケンカしてるわけでもないんだけどね」
だから、悠に愚痴ってしまった。
仕方のないことだけれど、大河が野球ばかりだということ。
それに、マネージャーの陰が気になるということ。
おそらく大河は、わたしよりもマネージャーと会話をしているほうが圧倒的に多いはずだ。
「マネージャーの先輩たちって、あんなに部員と距離が近かったり、ベタベタボディタッチするものなの?」
「…ああ~、あれな。人によると思うで」
「どういうこと…?」
「オレは、あんまりされへん。けど、大河は違う」
てっきり、わたしの勘違いだと思っていた。
…いや、そうであってほしかった。
部員とマネージャーが親しくなることは、自然なことだし。
でも、悠の話を聞くには、やっぱりわたしの勘違いなんかじゃなかった。
「そりゃ、1年でいきなりレギュラー入りって、だれがどう見たってかっこよく見えるやろ」
悠が見るには、あのマネージャーの先輩たちは、少なくとも大河に下心があるように思えるんだとか。
「でも、部内は恋愛禁止だよね?」
「そやで。やけど、引退すれば話は別」
野球部員とマネージャーが引退後に付き合うことは、あるあるなんだそう。
それに、どちらも引退というわけではなく、片方が引退や退部をして野球部でなければ、『部内恋愛禁止』という条件からは外れる。
「もしかしたら先輩たちは、自分らが引退したあとにってことも考えて、今から大河のことを狙ってるんとちゃうかな?」
大河が毎日一生懸命練習している中で、マネージャーの先輩たちはそんなことを考えていたなんて…。
どおりでマネージャーの仕事としては、行き過ぎてるような気もしていた。
「まあ、大河は先輩たちのそんな気持ちには、これっぽちも気づいてへんから大丈夫やって」
悠はそう言ってくれるけど、わたしの不安はさらに増すばかりだった。
だから、6月下旬のある日――。
ついに、抱えていた不安が爆発してしまったのだった。
今日は、練習がいつもより早く終わるとかで、そのあとに会う約束をしていた。
大河と会うのは、本当に久しぶりだ。
2週間前に、大河からこの日は空いていると教えてもらって、ずっと楽しみにしていた。
大河に会う前に、いつもはしないようなヘアアレンジに挑戦してみた。
少しでも、かわいいと思ってもらいたくて。
わたしの準備はバッチリ。
あとは、大河からの連絡を待つだけ。
待ち合わせのカフェで、わたしは何度もスマホを確認していた。
――すると。
~♪~♪~♪~♪
わたしのスマホが鳴った。
画面に表示されたのは、もちろん大河の名前。
〈もしもし、大河?練習終わった?〉
上機嫌で電話に出るわたし。
しかし、そのすぐあとに告げれられた言葉に、わたしは絶句してしまった。
〈…ああ、莉子?ごめんやねんけど、今日…会えへんくなった〉
…え……?
〈…どういうこと?〉
〈実は、今からマネージャーの先輩を家まで送らなあかんことになって…〉
野球部は、マネージャーを家まで送り届けることが決まりとなっている。
しかしそれは、3年生の役割のはずだ。
〈なんで大河が…?だって、大河には関係ないじゃんっ〉
〈それが…、送るはずやった3年生の先輩が急に用事があって先に帰らはって…。これもレギュラーの務めやって、その先輩にあとのことを頼まれてん〉
…なにそれ!?
大河だって、わたしと会うっていう先約があったじゃない…!
と、思わず口を突いて出てきそうになった。
〈先輩の頼みやから断われへんし…。ドタキャンで申し訳ないんやけど…、ほんまに…ごめんっ〉
電話越しの大河の口調から、本当に反省しているのだろうなというのが窺える。
3年生は、他にもたくさんいるはず。
だから、なぜ大河に任されたのかはわからない。
だけど、先輩の頼みだから断れないという大河の気持ちはわかる。
…だから、わたしがわがままを言ったら、大河を困らせることになる。
ここは、わたしが素直に身を引くしかなかった。
大河だって、本当はわたしと同じで残念に思っているに違いない。
そんなふうに考えたら、一瞬沸騰しかけた感情も徐々に落ち着いてきた。
――しかし。
〈ねぇ、大河~!まだ~?〉
大河との電話の向こう側から、女の人の声が聞こえた。
おそらく、野球部のマネージャーの先輩だ。
〈ちょっ…先輩!もうすぐ終わるんで、そんなに引っ張らないでください…!〉
〈だって、大河が遅いのが悪いんやから~!せっかく早く終わったことやし、これから2人でどっか寄ってく?〉
〈なに言ってんすか!あ、ごめん…莉子。そうゆうことやし、電話切るなっ…〉
〈う…うん――〉
大河はわたしの返事を最後まで聞くことなく、電話を切った。
ツーツーツー…という機械音が、わたしの耳元に虚しく聞こえる。
『引っ張らないで』って、またマネージャーの先輩に気安く触れられてるの…?
断ってはいたけど、先輩の頼みならこのあと2人でどこかへ行っちゃうんじゃないの…?
今日大河と過ごす時間は、本当は全部わたしのものだったのに…。
大河がわたしじゃないだれかと寄り添って歩く姿を想像するだけで、モヤモヤがイライラへと変わっていった。
その日の夜。
大河から電話がかかってきた。
『今日はごめん』って。
本来なら、「気にしないで!」と言ってあげるのが理想の彼女なのかもしれない。
だけど、今のわたしにはそんな余裕なんてなかった。
〈電話を切ってからずいぶんと連絡が遅かったけど、マネージャーの先輩とどこかに行ってたの?〉
〈そんなわけないやんっ。その先輩の家、マネージャーの中でも一番遠いから、送るのに時間がかかっただけや〉
〈…でも、本当にそうだったかなんて…証明できないじゃん〉
〈証明…?〉
…なんでわたし、こんな嫌味なことを言っているんだろう。
もしかしたら、久々に大河に会えるかもしれない。
そう思っていたら――。
「…いや。大河はまだ練習中」
「え…?」
「後半は、レギュラーだけの特別メニューをするとかで。それ以外の部員は、こうして帰らされたってわけ」
「…そうなんだ」
大河がまだ残っていると知って、わたしはあからさまに肩を落としてしまった。
でも悠だって、本当ならこんなこと言いたくなかったはずだ。
なぜなら、自分はレギュラーじゃないと再認識させられているようなものなのだから。
「莉子、このあと時間ある?」
「…ん、あるよ?どこか行く?」
「ああ。小腹が空いたから、付き合ってや」
悠がそう言うから、わたしたちは近くのファストフード店へ入った。
わたしはシェイクだけにして、悠はハンバーガーセットを頼んでいた。
「それにしても、相変わらずよく食べるよね~」
このあと家に帰ってからも、まだ夜ご飯を食べるんでしょ?
いくら食べても太らないんだから、うらやましい。
「食べな体力つかへんし、体力なかったらあんな練習ついてけへんし」
「大河も言ってたけど、そんなに練習ってハードなんだっ」
「ハードどころちゃう!ほんま地獄やで」
悠が言うには、すでに何人か野球部を辞めた人もいるんだそう。
「あの練習をこなしたら、それでレギュラーを勝ち取れるならいくらでもする。…でも、必ずしもそうやないからな」
100人以上の野球部がいる中で、レギュラーになれるのは…わずか9人。
地道に練習をしていても、憧れのレギュラーになれなかったら、確かに心が折れてしまうだろう。
しかも、必ずしも2年生や3年生になれば、レギュラーになれる可能性が上がるわけではない。
野球の強豪校は、実力主義。
強い後輩が現れれば先輩後輩関係なしに、その地位はひっくり返されてしまう。
1年生の今の時期から、異例のレギュラー入りを果たした大河。
しかし、その一枠を奪われて涙を呑んだ先輩たちはたくさんいるはずだ。
「ほんま、大河はすごいわ。このままやと、夏の大会もレギュラー確実ちゃう?」
「…へ~、そうなんだ。意外とがんばってるんだ」
「あれ…?なんか他人事みたいな言い方やん」
「だって、大河からはなにも聞かされてないんだもん…」
メッセージだって、最近は【おはよう】、【おやすみ】くらい。
最後に直接話したのなんて、もういつのことだろうか。
「最近、うまくいってへんの…?」
「うまくいってないというか…。べつに、ケンカしてるわけでもないんだけどね」
だから、悠に愚痴ってしまった。
仕方のないことだけれど、大河が野球ばかりだということ。
それに、マネージャーの陰が気になるということ。
おそらく大河は、わたしよりもマネージャーと会話をしているほうが圧倒的に多いはずだ。
「マネージャーの先輩たちって、あんなに部員と距離が近かったり、ベタベタボディタッチするものなの?」
「…ああ~、あれな。人によると思うで」
「どういうこと…?」
「オレは、あんまりされへん。けど、大河は違う」
てっきり、わたしの勘違いだと思っていた。
…いや、そうであってほしかった。
部員とマネージャーが親しくなることは、自然なことだし。
でも、悠の話を聞くには、やっぱりわたしの勘違いなんかじゃなかった。
「そりゃ、1年でいきなりレギュラー入りって、だれがどう見たってかっこよく見えるやろ」
悠が見るには、あのマネージャーの先輩たちは、少なくとも大河に下心があるように思えるんだとか。
「でも、部内は恋愛禁止だよね?」
「そやで。やけど、引退すれば話は別」
野球部員とマネージャーが引退後に付き合うことは、あるあるなんだそう。
それに、どちらも引退というわけではなく、片方が引退や退部をして野球部でなければ、『部内恋愛禁止』という条件からは外れる。
「もしかしたら先輩たちは、自分らが引退したあとにってことも考えて、今から大河のことを狙ってるんとちゃうかな?」
大河が毎日一生懸命練習している中で、マネージャーの先輩たちはそんなことを考えていたなんて…。
どおりでマネージャーの仕事としては、行き過ぎてるような気もしていた。
「まあ、大河は先輩たちのそんな気持ちには、これっぽちも気づいてへんから大丈夫やって」
悠はそう言ってくれるけど、わたしの不安はさらに増すばかりだった。
だから、6月下旬のある日――。
ついに、抱えていた不安が爆発してしまったのだった。
今日は、練習がいつもより早く終わるとかで、そのあとに会う約束をしていた。
大河と会うのは、本当に久しぶりだ。
2週間前に、大河からこの日は空いていると教えてもらって、ずっと楽しみにしていた。
大河に会う前に、いつもはしないようなヘアアレンジに挑戦してみた。
少しでも、かわいいと思ってもらいたくて。
わたしの準備はバッチリ。
あとは、大河からの連絡を待つだけ。
待ち合わせのカフェで、わたしは何度もスマホを確認していた。
――すると。
~♪~♪~♪~♪
わたしのスマホが鳴った。
画面に表示されたのは、もちろん大河の名前。
〈もしもし、大河?練習終わった?〉
上機嫌で電話に出るわたし。
しかし、そのすぐあとに告げれられた言葉に、わたしは絶句してしまった。
〈…ああ、莉子?ごめんやねんけど、今日…会えへんくなった〉
…え……?
〈…どういうこと?〉
〈実は、今からマネージャーの先輩を家まで送らなあかんことになって…〉
野球部は、マネージャーを家まで送り届けることが決まりとなっている。
しかしそれは、3年生の役割のはずだ。
〈なんで大河が…?だって、大河には関係ないじゃんっ〉
〈それが…、送るはずやった3年生の先輩が急に用事があって先に帰らはって…。これもレギュラーの務めやって、その先輩にあとのことを頼まれてん〉
…なにそれ!?
大河だって、わたしと会うっていう先約があったじゃない…!
と、思わず口を突いて出てきそうになった。
〈先輩の頼みやから断われへんし…。ドタキャンで申し訳ないんやけど…、ほんまに…ごめんっ〉
電話越しの大河の口調から、本当に反省しているのだろうなというのが窺える。
3年生は、他にもたくさんいるはず。
だから、なぜ大河に任されたのかはわからない。
だけど、先輩の頼みだから断れないという大河の気持ちはわかる。
…だから、わたしがわがままを言ったら、大河を困らせることになる。
ここは、わたしが素直に身を引くしかなかった。
大河だって、本当はわたしと同じで残念に思っているに違いない。
そんなふうに考えたら、一瞬沸騰しかけた感情も徐々に落ち着いてきた。
――しかし。
〈ねぇ、大河~!まだ~?〉
大河との電話の向こう側から、女の人の声が聞こえた。
おそらく、野球部のマネージャーの先輩だ。
〈ちょっ…先輩!もうすぐ終わるんで、そんなに引っ張らないでください…!〉
〈だって、大河が遅いのが悪いんやから~!せっかく早く終わったことやし、これから2人でどっか寄ってく?〉
〈なに言ってんすか!あ、ごめん…莉子。そうゆうことやし、電話切るなっ…〉
〈う…うん――〉
大河はわたしの返事を最後まで聞くことなく、電話を切った。
ツーツーツー…という機械音が、わたしの耳元に虚しく聞こえる。
『引っ張らないで』って、またマネージャーの先輩に気安く触れられてるの…?
断ってはいたけど、先輩の頼みならこのあと2人でどこかへ行っちゃうんじゃないの…?
今日大河と過ごす時間は、本当は全部わたしのものだったのに…。
大河がわたしじゃないだれかと寄り添って歩く姿を想像するだけで、モヤモヤがイライラへと変わっていった。
その日の夜。
大河から電話がかかってきた。
『今日はごめん』って。
本来なら、「気にしないで!」と言ってあげるのが理想の彼女なのかもしれない。
だけど、今のわたしにはそんな余裕なんてなかった。
〈電話を切ってからずいぶんと連絡が遅かったけど、マネージャーの先輩とどこかに行ってたの?〉
〈そんなわけないやんっ。その先輩の家、マネージャーの中でも一番遠いから、送るのに時間がかかっただけや〉
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