王子に婚約を迫られましたが、どうせ私のスキル目当てなんでしょう?ちょっと思わせぶりなことしないでください、好きになってしまいます!

宮村香名

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17:期限

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 王妃のサロンを後にして、一旦部屋に戻ったエルシーは昼食を終えてまた刺繍に取り掛かっていた。無心で縫い進めていると、また部屋の扉がノックされる。

「お嬢様、ライナス王子殿下がお呼びとのことです」

 扉の向こうで、フィルが軽く会釈した。

 ◇
 
 執務室に着くと、ライナス、トレイシー、カーティスが揃っている。以前と同じように、エルシーはソファのトレイシーの隣に腰掛ける。

「さて、ではこれまでの経緯をエルシーと共有しましょう」
「お願いします」

 ライナスは執務机の上で手を組んで、エルシーに視線を向けた。
 
「まず、ダルネル・ラブキン卿は亡くなりました。現場は、私とフィルとカーティスで確認したのですが、他殺の可能性を疑っています」
「誰かに口封じで殺されたと?」
「血生臭い話になるので、あまり詳しくは話しませんが」
「詳しくは大丈夫です。それが、私を屋敷に戻せない理由なのですね」
「そうです。どこに本当にこの計画を企てた者がいるか分からない。しばらくは腕の立つ護衛を使用人としてつけますから、何かあった時のために城内で過ごして欲しい」
「分かりました」
「朝から一緒に部屋にいる使用人が護衛を兼ねています。なるべく彼女と行動を共にしてください」
「はい。それで、ダルネル様を殺した犯人に目星はついているのでしょうか?」

 エルシーの質問に、カーティスが口を開く。

「昨日の夜、一緒に馬車に乗った男がいたようです。そいつが怪しいですが、全く見つかる気配なしですよ。ダルネルも、もっと早い時間に城を出てくれればたくさん目撃者がいたでしょうに」
「まあ、ユージン殿下を次期皇太子にして、権力を手に入れたいと考えている貴族は他にもいるでしょう。その全てを疑い、調査するにはまだ時間がかかりそうです」

 トレイシーは溜息をつきながら、眼鏡を中指で押し上げた。エルシーを呼ぶまでにいろいろと手配をしていたのだろう。疲れているのが伝わってくる。

「今回の事件に関しても、厳しく緘口令を敷いて、信頼できる人員のみで処理をします。エルシーのご家族には、式典に向けて本格的に準備を始めるため、急遽、城で過ごしてもらうこととなったと連絡させました」
「分かりました。ありがとうございます。あの、式典というのは……?」
「あと二ヶ月で、私も成人となります。今回の事件のこともあって、すぐに皇太子の任命式を執り行うと父上より話がありました」
 
 この国では成人した者だけが皇太子になれる。次期皇太子候補と目されていたライナスもついに成人の日を迎え、その権利を得るのだ。
 普通であれば、誕生日を祝って落ち着いてからの任命式となるはずだが、命が狙われている以上、早く皇太子としての地位を持たせて、ライナスを狙う貴族を黙らせようということなのだろう。

「それまでにこの騒動を解決し、エルシーを解放できるように努力します。その後は契約書通りにしましょう」
「はい……私もできる限り、殿下をお手伝いします」

 淡々と伝えられた期限に、エルシーは胸がずきりとしたのを気づかないふりをしてやり過ごした。

「そういえば、殿下、観劇の件をクルック嬢にお伝えしなければでは?」
「あぁ、そうだな」

 トレイシーの言葉に、ライナスは頷く。エルシーは首を傾げた。

「実は、ひと月後に、隣国から大層人気だという歌劇団が来ることになっていてね。親交の証にと、私に招待状が届いているんです」

 エルシーは、隣国の歌劇団という言葉に、ニナとの茶会でそんな話を聞かされたことを思い出す。隣国で本当にあった出来事をもとに、切ないラブストーリーが展開され、熱狂的な人気を誇っているのだとか。

「パートナーもぜひとのことで、エルシーと一緒に観に行きたいと思っているのですが、どうです?」
「殿下の婚約者候補として、役割を全ういたします」
「よかった。ありがとう」

 堅苦しい返事を返したエルシーに、ライナスはいつものように微笑みかける。

「では、その日は一日、私に付き合ってくださいね。こんな状況ですが、せっかくですから楽しまなければ」
「あの、殿下、こんな状況なのですから、緊張感をお持ちくださいね……」
「もちろんです」

 エルシーはほんとにわかってる?と声に出したいのをこらえて、楽しそうなライナスから視線を逸らした。

 カーティスが生ぬるい視線をライナスとエルシーに投げかける。エルシーはその視線に気づき、なんとなく居心地が悪くなった。

 トレイシーは、小さな声でスケジュールを考えねば、と呟き、フィルは扉の近くで空気のように無表情で待機している。

 ライナスを諌めてくれる人はいなさそうだと、エルシーは小さく溜息をついて、少しだけ楽しみになってしまう自分を心の中で叱咤した。
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