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臆病者の恋
4(了)
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ぴっ、とビニールのパッケージの破られる音がした。平沢が新しいコンドームを開けたのだろう。――今度は指ではなく、雄竿に装着するために。
俺はシャツを羽織ったままの上半身をベッドに投げ出して、その時を待った。指だけで何度もイカされ、身体からは力が抜けきっている。今までにないほどの連続絶頂を経験させられてしまった。よく知る相手だからこそ緊張していたが、知っているからこそ身を、いや、心を委ねられることもあるのだと初めて知った。たとえ前後不覚に陥っても、平沢になら自分の身を任せられる。そういう信頼感があった。見知らぬ奴相手にそうはいかない。
剣道で鍛えられた平沢の固い掌が尻肉を優しく揉んだ。それだけで俺の身体は震え、解された蕾が物欲しげにヒクついた。平沢という存在を受け入れてしまった身体は、もう嫌というほど正直になってしまっていた。だが、理性の方は未だに羞恥を覚えている。自分が漏らしてしまう気持ちの悪い声には強い抵抗があった。だから、なるべく殺していたのだが、そろそろ理性を保つのも限界に近いだろう。
「……挿れていい?」
熱い塊がぬるぬるとわななく蕾の上を前後する。俺は何度も頷き、衝撃に備えて目を閉じた。
「ふ、っ、ああ……」
意外にも平沢はゆっくりと入ってきた。もっと酷くしても大丈夫なのに、気遣うようにじわじわと侵入する。今までの見知らぬ男たちは俺が慣れていると知ると一気に貫いてきたし、そんなものだと俺も思っていた。張り出したカリがぬぽりと分厚い肉の輪を抜ける。平沢と俺は同時に深く息を吐いた。
「すごい……」
熱っぽく呟くと、じれったいほどにゆっくりと、平沢の肉竿が俺の中に再度割り入り始めた。力んで雄膣の入り口を開き、入りやすいように努める。肉襞をかき分け、熱い塊が奥へ奥へと進んでいく。その度に俺は小さな絶頂に震えた。しゃぶったときに確認した竿の中間の張り出した最も太い部分が蕾を押し開き、少し細くなった根元までぬるりと入り込んだ。生い茂る平沢の陰毛が尻に当たる。
「入った……」
平沢の声を背中に聞きながら、俺は、ほう、と熱い息を吐いた。体内に響く他人の鼓動。玩具では味わえない熱。俺はそれが好きだった。一度それを味わえばディルドやバイブなどでは物足りなさしか感じない。これを味わう為に抱かれていると言っても過言ではなかった。
引っ掛けていたシャツを平沢の手が脱がせていく。太腿に中途半端に降ろされたびしょびしょの下着だけを身につけて抱かれているのだと思うと、あまりの卑猥さに俺は震えた。
「あ、ごめん。寒い?」
「……っ、いや、大丈夫、だから」
勘違いしたのか平沢が顔を寄せて囁いた。この声もいけない。いつもは明るいトーンなのに、低めに囁いてくるから何気に美声だと気付かされてしまった。特に熱っぽい囁きなんて、脳だけで達してしまいそうなほどだ。やはり頭部は人間の器官の中で最もいやらしい部位なのだと思い知る。
「それよりも……動いてくれよ、な?」
きゅう、と意図的に雄膣を締めると平沢が熱い息を吐いた。腰が固い掌に鷲掴まれ、ゆっくりと肉茎が引き出されていく。ぞわぞわと背筋に甘い電流が走った。シーツを掴み、耐える。今度はゆっくりと押し入られ、先端がごりごりと好いところを抉りながら奥まで入り込んだ。
「……んっ、……ん、ん、ん……」
緩慢だった抽送は段々と加速する。突かれる度に身体の奥から声が漏れ、噛み殺すのに俺は必死だった。そんな中、ぎしりとベッドが揺れ、左に身体が傾いた。平沢が俺を貫いたまま片膝をベッドについたのだ。
「ひ、あっ、あ、あ、んんっ」
「こうしたら、涼介のいい所に当たるよね……?」
俺の身体の上に乗り上げた平沢が低い声で囁き、角度の変わった先端で何度も達して敏感になった好い所を抉った。頭の中が真っ白になるほどの衝撃に声を殺すことも忘れ、俺はただシーツを握りしめて喘いだ。その拳を平沢の大きな掌が握り込む。腰を振る度に、ん、ん、と平沢のかすかな喘ぎ声が耳元に吹き込まれ、ああ、こいつも気持ちがいいのだ、と分かると何だかひどく幸せな気分に包まれた。平沢の体臭、体温、鼓動、声、全てを快楽にとろけた身体全体で感じ取り、受け入れる。俺は何度目かもう分からない絶頂に打ち震えた。
「ごめ、俺もイクッ……!」
俺の手を握り込んだ平沢の手に力がこもり、中の屹立が膨れ上がったような気がした。びくびくと波打ち、震えた後、平沢が詰めていた息を大きく吐き出した。肩口に頭が落ちてくる。俺は首を曲げ、目の前にあった脈打つこめかみに口付けた。平沢の体臭を胸に吸い込み、今までに感じたこともないほどの多幸感に包まれていた。
愛おしい、というのはきっと、今この気持ちを言うのだろう。
平沢が顔をこちらに向けた。目が合う。自然と唇が合わさり、舌を絡ませあった。つい一時間前までは口付けなんて嫌いだと思っていたのが嘘のようだ。しばらく口付けを堪能した後、平沢の腕が濡れた下着を脱がせ、自由になった俺の片脚を抱え上げた。意図を察し、俺はうつ伏せていた片腕で平沢の首にしがみつき、繋がったまま何とか体勢を仰向けに変えていく。もう二度も射精したと言うのに、平沢の屹立は未だに硬度を失っていなかった。
「平沢って、……絶倫?」
「は?」
ぽかんと見下ろす平沢の顔が可笑しくてつい笑ってしまった。中に入ったままのモノを締め付けてやると、察して苦笑する。
「いや……俺もこんなの初めてだ」
「……したことは、あるんだ」
「うん……まあ、高校の頃の彼女と、何度か……」
「彼女、喜んだろ?」
「いや、俺、遅漏気味みたいでさ……。痛い、しつこい、ってフラれて……って何言わすんだよ」
気まずげに赤い顔を逸らせた平沢が唇を尖らせた。かわいいなこいつ。悪戯心が湧き起こり、俺は平沢の首に腕を絡めると、耳元で密やかに囁いた。
「俺はしつこいの、好きだよ」
ぶるっ、と腕の中の平沢が震え、目の前の耳がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「もっと、イカせてくれよ」
とどめに耳朶を甘噛みすると、平沢は猛ったように腰を打ち付け始めた。同時に、マメの名残ですっかり固くなった掌が身体中を撫で回す。これまでに経験のない感触の掌が、汗で湿った肌に今までと違った心地よさを伝える。
「あ、ンん、あう、っ……!」
太い指が乳首を乳輪ごとつまみ上げ、指の腹でくりくりと摺り合わせた。切ない疼きが身体の奥底から湧き出し、媚肉が中から突き上げる雄茎に絡みついた。疼きは突かれる度に大きくなり、そのまま絶頂へと駆け上がっていく。
「ひらさぁ……っ、また、俺、あ、イク……ッ」
「ん、いっぱいイッて……」
「ンんんっ……!」
しがみついたままの平沢の首筋に顔を埋めた。一突きごとに変な声が出てしまうが、止める余裕など俺にはもうなかった。腕も脚も平沢に絡め、意識はもう全て快楽を追っている。平沢の手が俺の後頭部を掴んで仰け反らせ、噛みつくように口付けた時も、平沢とのキスは気持ちがいいことを俺はもう知っていたから、気がつけば自ら積極的に舌を絡ませていた。口の端から涎が垂れたが気にも止めない。
どくどく、どくどく。汗ばんだ二人の身体が一つに混ざり合ったかのように、同じリズムの鼓動を刻む。口付けながら、あ、今これって上と下の両方で繋がってるんだなあ、とふと気付くともう駄目だった。絶頂の雷に打たれたように頭の中が真っ白になって、ただもう必死で目の前の平沢にしがみついて快楽の波をやり過ごすしかなかった。痙攣のような震えがようやく治り、俺はまるで救助された水難事故者のように荒い息をついていた。
「大丈夫?」
「……ごめ、邪魔、した……」
「ううん」
俺が強くしがみついたせいで動けなくなったのだろう、平沢がぴったりと身体を重ね合わせたまま俺の顔を覗き込んでいた。きっと涙や涎で酷い顔をしているに違いない。思わず俺は手の甲で顔を隠した。その仕草に平沢が目を細めて笑った。
「あ、すごい」
「……え?」
ようやく俺の腕から解放された平沢が身を起こし、何かに気付いたのか俺の薄い腹を凝視している。顔を隠したまま何事かと首を擡げると、下腹に横たわる俺の屹立から、いつの間にか少量の精液が漏れ出して腹を汚しているではないか。平沢が腹に貼り付いた肉竿を持ち上げると、下腹と鈴口の間にねっとりと白い糸が引いた。初めて経験するところてん式の射精に、ただ俺は狼狽え、耳まで熱くなるほどの羞恥を覚えた。
「……かわいい」
くつくつと平沢が笑う。大の男を捕まえて何がかわいいというのか――だが、俺もそういえば、さっきこいつに対してそう思ったからおあいこか。そんなことを反省していると抽送が再開され、まとまっていた思考は千々に乱れた。平沢の先端が好い所を突くと、たまにとろりと白い雫が垂れ落ち、ますます腹を汚していく。自分では止められない恥ずかしさに、手を伸ばして根元から屹立を握り込んだ。
「どうせなら、出しちゃいなよ。俺もそろそろ、イキそうだ……」
平沢のごつごつした手が俺の手の上に重ねられた。平沢が動く度に二人の手の中で屹立が擦られ、射精欲が高まり始める。こんなだらだらした漏らし方ではなく、思い切り吐き出してすっきりさせたい。中だけで達するのとはまた違う雄の快感もやっぱり好きだった。いつの間にか平沢の手は離れ、俺は一人、夢中になって自分の肉茎をしごいていた。
「はっ、あ……」
熱い精液が放出に向けて尿道を駆け上り始める。手の甲で顔を隠したまま、ちらりと平沢の方を見ると、俺のいやらしい姿を目に焼き付けんばかりに見つめている恍惚の表情の平沢と目があった。その瞬間、ぞくぞくと背筋が震え、きゅうきゅうと中の平沢を締め付けながら、俺は解放に身を任せる。
「あ、あ、イクッ、イク……ッ!」
「あ、涼介……っ、んんっ……!」
放物線を描いて飛び出した白濁が、俺の胸や腹に何本もの白線を描いた。平沢の雄竿も限界を迎えたのか、どくどくと脈打ち、ほぼ同時に達したことが媚肉越しに分かった。
「は、あ、すごい……」
平沢が荒い息を吐きながら、俺の中からずるりと自身を引き出した。半勃ち程度に萎んだ平沢の肉茎にへばりついたコンドームの中には、二回分とはいえ大量の精液が自重でずり落ちそうなほどに溜まり、先端を水風船のように膨らませていた。もし、あれをこの身の内に受けていたら、もっと気持ちよかったんだろうか……。身の内を巣食う未知の空虚が、そんな大それた思いを生ませたのだろう。俺は自分の抱いた無鉄砲な願いに小さく首を振った。今までずっと平沢の熱と鼓動を咥え込んでいた雄膣が寂しげにわなないていた。
「――それでさ」
腕を動かすのも億劫な俺に代わって、平沢が胸や腹の汚れた部分をウェットティッシュで清めながら言った。全身が心地よい疲れと満足感でふわふわとしていてひどく眠い。
「……俺、合格できた?」
「……合格も、クソも」
ここまでイカされたことはかつてない。俺の今のこの状態を見れば分かるだろう、と言いたいところだが、平沢は俺のいつものセックスのことなど知る由もないのだ。毎回毎回こんなにイッてると思われたらどうしようか。
――こんなのは初めてで。
――めちゃくちゃ良かった。
――最高だった。
正直に言おうと思うと心臓がばくばくと鳴り出し、声が出ない。まるで言葉の塊が喉に詰まったかのようだった。迷いに迷い、綺麗に拭かれた身体を丸める。顔を撫で、頭を掻き、それでも言葉は出てこなかった。自分の気持ちを言おうとすると立ち現れる厄介な羞恥心に煩悶していると、後ろに寝転んでいた平沢の固い手が背中を撫で、耳元に口付けられた。
「……今後は俺だけで満足してくれないか?」
……何だよそれ。それじゃまるで――。
「――告白みたいじゃないか」
「告白だよ。好きだって、言ったろ」
平沢の低い声が耳から入り込み、脳髄へとじんわりと染み渡る。振り返ると、平沢が目を細めて笑っていた。俺は腕を伸ばし、平沢の頭を胸に抱えた。行為の最中に感じたよりも強い多幸感に高鳴る音が聞こえるだろうか。恋に落ちる音というのはきっとこの拍動のことを言うのだ。
「……ありがとう。俺も好きだ」
消え入りそうな格好の悪いよれよれの声で俺は平沢の耳元に囁く。腕を緩めると、赤い顔をした平沢と目が合う。互いに唇を寄せ合い――、
ぐう、と腹が鳴った。
「……腹、減ったな」
「……体力使ったからな」
額と鼻先を擦り合わせ、シャワーを浴びたらピザでも頼もう、と二人で笑い合った。カーテンから射し込む陽光はいつの間にか赤く染まり始めていた。
(了)
俺はシャツを羽織ったままの上半身をベッドに投げ出して、その時を待った。指だけで何度もイカされ、身体からは力が抜けきっている。今までにないほどの連続絶頂を経験させられてしまった。よく知る相手だからこそ緊張していたが、知っているからこそ身を、いや、心を委ねられることもあるのだと初めて知った。たとえ前後不覚に陥っても、平沢になら自分の身を任せられる。そういう信頼感があった。見知らぬ奴相手にそうはいかない。
剣道で鍛えられた平沢の固い掌が尻肉を優しく揉んだ。それだけで俺の身体は震え、解された蕾が物欲しげにヒクついた。平沢という存在を受け入れてしまった身体は、もう嫌というほど正直になってしまっていた。だが、理性の方は未だに羞恥を覚えている。自分が漏らしてしまう気持ちの悪い声には強い抵抗があった。だから、なるべく殺していたのだが、そろそろ理性を保つのも限界に近いだろう。
「……挿れていい?」
熱い塊がぬるぬるとわななく蕾の上を前後する。俺は何度も頷き、衝撃に備えて目を閉じた。
「ふ、っ、ああ……」
意外にも平沢はゆっくりと入ってきた。もっと酷くしても大丈夫なのに、気遣うようにじわじわと侵入する。今までの見知らぬ男たちは俺が慣れていると知ると一気に貫いてきたし、そんなものだと俺も思っていた。張り出したカリがぬぽりと分厚い肉の輪を抜ける。平沢と俺は同時に深く息を吐いた。
「すごい……」
熱っぽく呟くと、じれったいほどにゆっくりと、平沢の肉竿が俺の中に再度割り入り始めた。力んで雄膣の入り口を開き、入りやすいように努める。肉襞をかき分け、熱い塊が奥へ奥へと進んでいく。その度に俺は小さな絶頂に震えた。しゃぶったときに確認した竿の中間の張り出した最も太い部分が蕾を押し開き、少し細くなった根元までぬるりと入り込んだ。生い茂る平沢の陰毛が尻に当たる。
「入った……」
平沢の声を背中に聞きながら、俺は、ほう、と熱い息を吐いた。体内に響く他人の鼓動。玩具では味わえない熱。俺はそれが好きだった。一度それを味わえばディルドやバイブなどでは物足りなさしか感じない。これを味わう為に抱かれていると言っても過言ではなかった。
引っ掛けていたシャツを平沢の手が脱がせていく。太腿に中途半端に降ろされたびしょびしょの下着だけを身につけて抱かれているのだと思うと、あまりの卑猥さに俺は震えた。
「あ、ごめん。寒い?」
「……っ、いや、大丈夫、だから」
勘違いしたのか平沢が顔を寄せて囁いた。この声もいけない。いつもは明るいトーンなのに、低めに囁いてくるから何気に美声だと気付かされてしまった。特に熱っぽい囁きなんて、脳だけで達してしまいそうなほどだ。やはり頭部は人間の器官の中で最もいやらしい部位なのだと思い知る。
「それよりも……動いてくれよ、な?」
きゅう、と意図的に雄膣を締めると平沢が熱い息を吐いた。腰が固い掌に鷲掴まれ、ゆっくりと肉茎が引き出されていく。ぞわぞわと背筋に甘い電流が走った。シーツを掴み、耐える。今度はゆっくりと押し入られ、先端がごりごりと好いところを抉りながら奥まで入り込んだ。
「……んっ、……ん、ん、ん……」
緩慢だった抽送は段々と加速する。突かれる度に身体の奥から声が漏れ、噛み殺すのに俺は必死だった。そんな中、ぎしりとベッドが揺れ、左に身体が傾いた。平沢が俺を貫いたまま片膝をベッドについたのだ。
「ひ、あっ、あ、あ、んんっ」
「こうしたら、涼介のいい所に当たるよね……?」
俺の身体の上に乗り上げた平沢が低い声で囁き、角度の変わった先端で何度も達して敏感になった好い所を抉った。頭の中が真っ白になるほどの衝撃に声を殺すことも忘れ、俺はただシーツを握りしめて喘いだ。その拳を平沢の大きな掌が握り込む。腰を振る度に、ん、ん、と平沢のかすかな喘ぎ声が耳元に吹き込まれ、ああ、こいつも気持ちがいいのだ、と分かると何だかひどく幸せな気分に包まれた。平沢の体臭、体温、鼓動、声、全てを快楽にとろけた身体全体で感じ取り、受け入れる。俺は何度目かもう分からない絶頂に打ち震えた。
「ごめ、俺もイクッ……!」
俺の手を握り込んだ平沢の手に力がこもり、中の屹立が膨れ上がったような気がした。びくびくと波打ち、震えた後、平沢が詰めていた息を大きく吐き出した。肩口に頭が落ちてくる。俺は首を曲げ、目の前にあった脈打つこめかみに口付けた。平沢の体臭を胸に吸い込み、今までに感じたこともないほどの多幸感に包まれていた。
愛おしい、というのはきっと、今この気持ちを言うのだろう。
平沢が顔をこちらに向けた。目が合う。自然と唇が合わさり、舌を絡ませあった。つい一時間前までは口付けなんて嫌いだと思っていたのが嘘のようだ。しばらく口付けを堪能した後、平沢の腕が濡れた下着を脱がせ、自由になった俺の片脚を抱え上げた。意図を察し、俺はうつ伏せていた片腕で平沢の首にしがみつき、繋がったまま何とか体勢を仰向けに変えていく。もう二度も射精したと言うのに、平沢の屹立は未だに硬度を失っていなかった。
「平沢って、……絶倫?」
「は?」
ぽかんと見下ろす平沢の顔が可笑しくてつい笑ってしまった。中に入ったままのモノを締め付けてやると、察して苦笑する。
「いや……俺もこんなの初めてだ」
「……したことは、あるんだ」
「うん……まあ、高校の頃の彼女と、何度か……」
「彼女、喜んだろ?」
「いや、俺、遅漏気味みたいでさ……。痛い、しつこい、ってフラれて……って何言わすんだよ」
気まずげに赤い顔を逸らせた平沢が唇を尖らせた。かわいいなこいつ。悪戯心が湧き起こり、俺は平沢の首に腕を絡めると、耳元で密やかに囁いた。
「俺はしつこいの、好きだよ」
ぶるっ、と腕の中の平沢が震え、目の前の耳がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「もっと、イカせてくれよ」
とどめに耳朶を甘噛みすると、平沢は猛ったように腰を打ち付け始めた。同時に、マメの名残ですっかり固くなった掌が身体中を撫で回す。これまでに経験のない感触の掌が、汗で湿った肌に今までと違った心地よさを伝える。
「あ、ンん、あう、っ……!」
太い指が乳首を乳輪ごとつまみ上げ、指の腹でくりくりと摺り合わせた。切ない疼きが身体の奥底から湧き出し、媚肉が中から突き上げる雄茎に絡みついた。疼きは突かれる度に大きくなり、そのまま絶頂へと駆け上がっていく。
「ひらさぁ……っ、また、俺、あ、イク……ッ」
「ん、いっぱいイッて……」
「ンんんっ……!」
しがみついたままの平沢の首筋に顔を埋めた。一突きごとに変な声が出てしまうが、止める余裕など俺にはもうなかった。腕も脚も平沢に絡め、意識はもう全て快楽を追っている。平沢の手が俺の後頭部を掴んで仰け反らせ、噛みつくように口付けた時も、平沢とのキスは気持ちがいいことを俺はもう知っていたから、気がつけば自ら積極的に舌を絡ませていた。口の端から涎が垂れたが気にも止めない。
どくどく、どくどく。汗ばんだ二人の身体が一つに混ざり合ったかのように、同じリズムの鼓動を刻む。口付けながら、あ、今これって上と下の両方で繋がってるんだなあ、とふと気付くともう駄目だった。絶頂の雷に打たれたように頭の中が真っ白になって、ただもう必死で目の前の平沢にしがみついて快楽の波をやり過ごすしかなかった。痙攣のような震えがようやく治り、俺はまるで救助された水難事故者のように荒い息をついていた。
「大丈夫?」
「……ごめ、邪魔、した……」
「ううん」
俺が強くしがみついたせいで動けなくなったのだろう、平沢がぴったりと身体を重ね合わせたまま俺の顔を覗き込んでいた。きっと涙や涎で酷い顔をしているに違いない。思わず俺は手の甲で顔を隠した。その仕草に平沢が目を細めて笑った。
「あ、すごい」
「……え?」
ようやく俺の腕から解放された平沢が身を起こし、何かに気付いたのか俺の薄い腹を凝視している。顔を隠したまま何事かと首を擡げると、下腹に横たわる俺の屹立から、いつの間にか少量の精液が漏れ出して腹を汚しているではないか。平沢が腹に貼り付いた肉竿を持ち上げると、下腹と鈴口の間にねっとりと白い糸が引いた。初めて経験するところてん式の射精に、ただ俺は狼狽え、耳まで熱くなるほどの羞恥を覚えた。
「……かわいい」
くつくつと平沢が笑う。大の男を捕まえて何がかわいいというのか――だが、俺もそういえば、さっきこいつに対してそう思ったからおあいこか。そんなことを反省していると抽送が再開され、まとまっていた思考は千々に乱れた。平沢の先端が好い所を突くと、たまにとろりと白い雫が垂れ落ち、ますます腹を汚していく。自分では止められない恥ずかしさに、手を伸ばして根元から屹立を握り込んだ。
「どうせなら、出しちゃいなよ。俺もそろそろ、イキそうだ……」
平沢のごつごつした手が俺の手の上に重ねられた。平沢が動く度に二人の手の中で屹立が擦られ、射精欲が高まり始める。こんなだらだらした漏らし方ではなく、思い切り吐き出してすっきりさせたい。中だけで達するのとはまた違う雄の快感もやっぱり好きだった。いつの間にか平沢の手は離れ、俺は一人、夢中になって自分の肉茎をしごいていた。
「はっ、あ……」
熱い精液が放出に向けて尿道を駆け上り始める。手の甲で顔を隠したまま、ちらりと平沢の方を見ると、俺のいやらしい姿を目に焼き付けんばかりに見つめている恍惚の表情の平沢と目があった。その瞬間、ぞくぞくと背筋が震え、きゅうきゅうと中の平沢を締め付けながら、俺は解放に身を任せる。
「あ、あ、イクッ、イク……ッ!」
「あ、涼介……っ、んんっ……!」
放物線を描いて飛び出した白濁が、俺の胸や腹に何本もの白線を描いた。平沢の雄竿も限界を迎えたのか、どくどくと脈打ち、ほぼ同時に達したことが媚肉越しに分かった。
「は、あ、すごい……」
平沢が荒い息を吐きながら、俺の中からずるりと自身を引き出した。半勃ち程度に萎んだ平沢の肉茎にへばりついたコンドームの中には、二回分とはいえ大量の精液が自重でずり落ちそうなほどに溜まり、先端を水風船のように膨らませていた。もし、あれをこの身の内に受けていたら、もっと気持ちよかったんだろうか……。身の内を巣食う未知の空虚が、そんな大それた思いを生ませたのだろう。俺は自分の抱いた無鉄砲な願いに小さく首を振った。今までずっと平沢の熱と鼓動を咥え込んでいた雄膣が寂しげにわなないていた。
「――それでさ」
腕を動かすのも億劫な俺に代わって、平沢が胸や腹の汚れた部分をウェットティッシュで清めながら言った。全身が心地よい疲れと満足感でふわふわとしていてひどく眠い。
「……俺、合格できた?」
「……合格も、クソも」
ここまでイカされたことはかつてない。俺の今のこの状態を見れば分かるだろう、と言いたいところだが、平沢は俺のいつものセックスのことなど知る由もないのだ。毎回毎回こんなにイッてると思われたらどうしようか。
――こんなのは初めてで。
――めちゃくちゃ良かった。
――最高だった。
正直に言おうと思うと心臓がばくばくと鳴り出し、声が出ない。まるで言葉の塊が喉に詰まったかのようだった。迷いに迷い、綺麗に拭かれた身体を丸める。顔を撫で、頭を掻き、それでも言葉は出てこなかった。自分の気持ちを言おうとすると立ち現れる厄介な羞恥心に煩悶していると、後ろに寝転んでいた平沢の固い手が背中を撫で、耳元に口付けられた。
「……今後は俺だけで満足してくれないか?」
……何だよそれ。それじゃまるで――。
「――告白みたいじゃないか」
「告白だよ。好きだって、言ったろ」
平沢の低い声が耳から入り込み、脳髄へとじんわりと染み渡る。振り返ると、平沢が目を細めて笑っていた。俺は腕を伸ばし、平沢の頭を胸に抱えた。行為の最中に感じたよりも強い多幸感に高鳴る音が聞こえるだろうか。恋に落ちる音というのはきっとこの拍動のことを言うのだ。
「……ありがとう。俺も好きだ」
消え入りそうな格好の悪いよれよれの声で俺は平沢の耳元に囁く。腕を緩めると、赤い顔をした平沢と目が合う。互いに唇を寄せ合い――、
ぐう、と腹が鳴った。
「……腹、減ったな」
「……体力使ったからな」
額と鼻先を擦り合わせ、シャワーを浴びたらピザでも頼もう、と二人で笑い合った。カーテンから射し込む陽光はいつの間にか赤く染まり始めていた。
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