チートスキルと無限HP!〜いじめられっ子は最弱職業だが、実は地上最強〜

ボルメテウス

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 退屈だ――。
 人は誰でも平穏を退屈だと感じたことはないだろうか?
 俺も昔はそう思っていたんだ。
 だけど、今は違う。
 平穏な学校生活に戻してくれ、と心の底から思っている。


 そう。俺は学校で虐められているのだ。
 学校へ行く度に私物が1つや2つ無くなる事は当たり前。
 でも、何故か増えるものがあるんだ。まぁ、痣(あざ)なんだけど。


 俺を虐めるのはヤンキー男子の『鮫島さめじま弘樹ひろき』、いつも会う度に肩をど突かれる。
 パシリもやらされるし、財布の中はいつもすっからかんだ。


 そして、もう1人が令嬢の『松尾まつお火憐かれん』だ。親が金持ちらしくて学校にベンツに乗って登校している。
 彼女は、俺が虐められている所を眺めているだけなので許そう。
 全く、こっちは動物のショーをやっているわけじゃないのに。
 他のクラスメイトも似たようなもんだ、見て見ぬ振りをするだけで何もしてくれないんだから。


「あぁ……学校に行きたくない……」


 自室のベッド上に寝転がっている俺が、現在高校2年生の『市谷いちがやれん』だ。
 中途半端な長さの髪、自信のなさそうな目、そして普段はメガネをかけている、一言で言えば地味な見た目だな。


(はぁ……このままずっとベッドの上で横になりたい……)


 けど、母親が許してくれないんだ。


「ちょっと、蓮! 氷華ひょうかちゃんが迎えに来たわよ」
「はーい! 今すぐ行くから」


 全くお母さんてば、朝から大きい声を出しちゃってさ、ご近所迷惑になるよ。
 え?なに?……虐められているのに、学校へ行かせようとするなんて酷いんじゃないかって?
 ははは。それなら大丈夫だよ。


 だって、母さんには虐められているって伝えてないからね。
 物を取られた時はいつも失くしたって事にしている。
 そのせいで家族の中では天然キャラ扱いされるようになったけど。


 あと俺には、学校へ行かなきゃならない理由があるんだ。幼馴染の存在があるから。


「ヤバい。もうこんな時間か」


 俺は急いで制服に着替えると、2階にある自室から玄関へと走った。


 〈ガッガッガッガッ〉


「ちょっと蓮! そんなに慌てて階段降りないの」
「氷華ちゃんもう待ってるんでしょ? なら早くしなきゃ!」
「……それもそうね。あっ、朝ごはんはいる?」
「いらないよ!」


 〈ガチャッ〉


 俺が勢いよく玄関を開けると、彼女が目の前で待っていた。
 幼馴染の『安藤あんどう氷華ひょうか』が腕を後ろに組んで、口を膨らまして怒っている。


「もう~。遅いよ」


 茶髪でショートの彼女は一見するとスポーツ女子である。
 というか、バレー部で主将を務めているので普通にスポーツ女子かな。
 いやそんなことより、幼馴染が家の前で待ってくれるって凄くないか?
 しかも、元気に話しかけてくるんだ。


 太陽みたいな子ってさ、彼女の事を指すのだと思う。
 沈んだ気持ちが毎朝一気に舞い上がるんだ。
 彼女の顔を見ると俺は毎朝、自然と笑顔になる。


「何ニヤけてるのよ。早く学校行こ」
「分かった!」


 彼女の言葉から始まる俺の一日、最高だ。
 え?なに?彼女は、俺が虐められているのを知ってるのかって?
 そんな事当然、知ってるわけ無いじゃないですか。
 俺、学校で人気者って事にしてるから、ある意味当たってるし。


「ねぇ、そう言えばさ蓮」
「え? 何?」


 ほら~。そんな事考えているから今日も学校に関する質問が多くなったじゃないか。
 氷華は俺が虐められてるって知らないからさ、毎日高校についての質問をしてくるんだ。まぁ、高校生が登校中に話す内容としては普通か。


「最近、そっちの高校はどうなの?」
「あぁ……最近は球技大会があって、俺のクラスがソフトボールで優勝したんだ!」
「へ~。蓮は球技大会で何やってたの?」
「お、おれ? ん~。ソフトボールやってた」
(練習の時に、球拾いさせられてただけだけど……)


「すごいじゃん!」
「ま、まぁ俺もヒットの一本くらい打ったからね。ははは」


 可愛い幼馴染と、高校での架空の出来事を話す。俺にとってはこの時が一番楽しいのだ。
 でも楽しい時間にもすぐ終わりがやってくる。俺達の高校は違うからね。


「じゃあね~蓮。また明日の朝ね」
「うん! じゃあまた明日」


 登校途中の分かれ道で、俺達は綺麗に真横に別れるんだ。
 俺は偏差値35のヤンキー高校へ。一方の幼馴染は、偏差値70越えの進学校へと進んでいく。
 こんな不釣り合いな関係……俺も心の何処かで分かってはいるんだ。
 幼馴染と話すのはもう数年だと。


 俺と全く違う環境へ進学するんだろうなぁって…最近はこんな事ばかりずっと考えている。
 そうだな、馬鹿な虐められっ子が幼馴染だと氷華(ひょうか)にも迷惑掛かるかもしれないし。
 高校卒業したら、連絡取るのやめようか。


 最近の登校中はさ。
 そんな悲しい事を考えながら、足を進めることが多くなったよ。
 虐めっ子が待つ高校への道中ずっとだ。


 〈ガララ……〉


 そんな嫌な事を考えていると、すぐ学校へ着く。
 そして俺は、高校のクラスにたどり着くと必ず最初に、ゆっくりとクラスのドアを開けるんだ。
 ゆっくりとだぞ……誰にも気づかれないように、ゆっくりと。


 なんでそんな事をするのかって?……はは。もちろん、鮫島が来ていないか確認するためだよ。
 もし来ていたらトイレで時間を潰して、授業ギリギリまで粘るのが日常なのさ。
 でも、今日はそんな事しなくてもよさそうだ。


「よし。今日は居ないみたいだな」


 教室内を見回しても、鮫島も松尾もいないじゃないか。
 今日は、最高の学校生活を歩めるかもしれない。
 そう思うと口元の筋肉が緩くなる。
 だってしょうがないだろ。
 あいつらが居ないだけで、俺のストレスはオールフリーになるんだから。


 でもねこの時、俺はもう少し用心をしておくべきだった。
 なぜなら……鮫島の奴、背後にいやがったんだ。
 急に、あの声が聞こえた時はびっくりしたよ。しかもいきなり蹴られるんだから。



「はよ入れや!!」


【ガッ!ガッ!】
 鈍い音が響いた。アイツの蹴りが背中に2発、そして振り向いた後に腹へ3発決められたからね。


「うぐっ……か、かはぁ……」


 俺はワケがわからなかった。
 朝っぱらから人の体を攻撃しやがって。
 突然の出来事で混乱していたのと、単純に拳が腹に入った事が合わさって、上手く呼吸が出来なくなった。


「い……息ができ……ない……」


 情けない事に俺はその場で崩れ落ちてしまったんだ。
 こんな姿、氷華や母さんに見せられない。
 それくらいみっともない姿だったと思う。
 でも、鮫島は容赦なく罵声を浴びせてきたんだ。



「ふん。雑魚め」


 なんていう奴だ。いや……鮫島だけじゃない。なんて奴らだ。
 それを見ているはずのクラスメイトは、誰も声をかけてこないし助けに来ない。
 近づいてくれる人といったら、後から歩いてくる松尾火憐まつおかれんくらいだ。
 まぁ、蹴られるんだけどね。


「邪魔よ。貧乏人が」
「うぅぅぅう……」


 俺は腹部を抑えたままその場にうずくまったよ。
 泣き声を隠すように唇を噛み締めて……この時は、強く噛みすぎて出血しちゃったかな。
 悔しさもあったけど、単純に痛かったんだ。
 無防備なみぞおちを蹴られたわけだから、当たり前かもしれないけど。


「い……痛い」



 俺は結局、痛みに耐えかねてそのまま自宅に帰ってしまったんだ。
 蹴られた箇所を押さえながらね。


 ……え?こんな姿を母親に見られたら大問題になるって?
 はは。大丈夫だよ。


 母親は仕事で外出のはずだ。
 痛みに苦悶くもんする俺を見る事はないだろう。



 〈ガチャガチャ〉


 ほら鍵が掛かっている。これで安心して部屋で寝られるんだ。
 あの時は急いで階段を上がって自室に着くと、ベッドへ横になって天井をひたすらに見つめてたっけな。
 痛みは寝れば治る。
 けど、こんな生活いつまで続くんだろ……終わりが見えないんだ。
 俺はいつまで弱いままなんだろ……って考えていたら自然と涙が出ていたよ。


「ゔっ……うっゔゔ」


 虐められている事は辛い。
 でも、それだけじゃないんだ……親や幼馴染に嘘をつき続けている事の方が辛い。   
 自分の事を素直に言えればいいのに、なぜか背伸びして会話をしてしまう。


 そんな自分が嫌いだったんだ……俺が強ければ……賢ければ……こんな事にはならなかったのにって。
 そうやって、悲しみにふけている時だったかな。
 目の前がボンヤリとして視界が狭くなっていったのは。


 涙で視界がボヤけているわけではないよ。
 何故か、強烈な睡魔(すいま)が俺を襲(おそ)ったんだ。
 いつもなら、こんな時間に眠る事はないんだけどね。
 痛みと疲労もあって、俺はそのまま眠気に逆らわないようにゆっくりと瞳を閉じたんだ。


 ――深い深い暗闇に意識を落とし込んで。
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