チートスキルと無限HP!〜いじめられっ子は最弱職業だが、実は地上最強〜

ボルメテウス

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第5章崩れゆく世界

62 西園寺家

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 「この勝負のってやるよ」


 俺は西園寺を睨みつけたまま、首元に突きつけられた刀身をしっかりと握っていた。


【ポタッポタッ】

 刀身が徐々に俺の血に染まっていく……。
 それぐらい強く握って……。


 ◆◇◆◇◆◇


 俺が刀身を素手で握っている様子を見て氷華は驚いていたよ。何してるんだって。
 後ろでは声は出していないが火憐の顔が歪んでいるのが視界に入った。


「ちょっと蓮! 血が……」
「大丈夫だ。問題ない」


 俺は氷華と火憐を見て微笑(ほほて)むとスキルを発動させた。
 目を瞑って意識を集中させる。
 スキル発動、と。


ALL CHANGEオール・チェンジ発動します】
【HPの値をMP以外のステータス値に、10万ずつ移動させます】


 いつも通りの文字の羅列。
 それは、を瞑っていても表示されるんだ。まるでゲーム上の画面みたいに。
 でもまさか、ダンジョンに入る前にスキルを使うとはな。
 プレイヤーと戦うなんて、もう無いと思ってたのに。


「はぁ……」


 俺が少し悲しげな顔を見せると西園寺は今にも笑い出しそうな声を出して挑発してきた。


「ふ……貴様はずいぶんと馬鹿なようだな」
「……」
「無視か。全くいつまで、目を閉じているつもりだい?」
「ありがとう。もう大丈夫だ」


 俺がゆっくりと目を開けると西園寺が笑いながら話しかけてきた。
 俺のことを舐めているのだろう。人を馬鹿にしたような態度がそれをものがたっている。


「大丈夫だと? 何を言ってるんだ。その血だらけの右手、大丈夫なようには見えないが」


 少しイラついたが、俺は西園寺の発言に少しニヤついてからこう答えてやったんだ。


「今から見せてやるよ。大丈夫な所をな!!」
「威勢だけはいいようだが、どうするつもりだ?」
「まぁ、見てろって」
「言葉だけか。とりあえず、その右手を刀から離せ。指を切り落とすぞ」


 西園寺の目は本気だった。
 鋭い眼光で俺を見つめると、両手で柄(つか)を握りしめて腰を落として重心を下げたのだ。
 そのまま体重を利用して、刀を後ろへと引き抜くのだろう。
 そんな事をすれば俺の指は切断されるのにな。西園寺という男は何を考えているのやら。


「名前。西園寺だっけ?」
「あぁそうだ。なんだ? 命乞いか?」
「いや、先に謝っておこうと思ってな」
「心配するな。指を落としたとしても、我が西園寺家に仕(つか)える優秀な医者に繋(つな)げさせる。慰謝料の事は気にせず請求してこい」


「お前の家って金持ちなのか?」
「ふん。西園寺家を知らぬか。無知とは恐ろしいものよ。我が一族はかつて日本政治を支配した名門だ。僕はその跡取り西園寺さいおんじ武虎たけとら


「なんだ! 金持ちなのか。なら、心配はいらないな」
「そうだ。好きなだけ慰謝料を請求してこい。平民なんぞには想像も出来ないほど蓄えてある」


 そう言うと西園寺はさらに腰を落として重心を下げ、目を閉じた。
 西園寺から漏れ出る深い深呼吸の音が俺にも聞こえる。


 スーハー……スー……ハー……。
 スー……。


 西園寺が呼吸を止めると一気に目を開けて、俺めがけて前のめりに体重をかけてきた。
 予想外の動きに俺は動揺を隠せず、後ろへと後退(あとずさ)りする。
 おい。嘘だろ、西園寺こいつ。指を切断するだけじゃなかったのかよ。


 俺は咄嗟(とっさ)に体を後ろへと下げて、迫り来る切っ先から距離を取ろうとしたんだ。
 でも、それが西園寺やつの狙いだった。


 俺と西園寺の間に出来た、一定の間合い。
 それを確認すると西園寺は体重移動をやめて、今度は両手に力を込め、右向きに体をねじり出す。


 グググ……。


 スキルを発動させたはずなのに徐々に俺の指へと刃(やいば)が食い込む。
 滲(にじ)み出る血。それを見る西園寺の目は笑っているように目頭を上げた。


「貴様……随分と固いな。人間の指など紙切れのように切断できるはずなのだが僕の刀が錆(さ)びたのかな?」
「ははは。錆(さ)びてないよ。錆びてたら今の衝撃で折れるはずだから」


「折れる? 僕の刀が? 面白い事をいうね」
「やっぱ、折れたらマズいかな?」
「当たり前だ! 大人しく……切断されろ!!」


 西園寺の叫びと共に体重をかけられる刀……。


【パキッ……】


 不快な音ともに彼は体を一回転させた。
 刀と共に一回転したという事は指を切断した事だと、西園寺はそう思っているようだ。
 満足気まんぞくげな表情を浮かべて彼は心にも無い謝罪を俺に向かって言った。


 全く……西園寺って奴は早とちりな奴だな。謝る必要なんかないっていうのにさ。


「遂に、貴様の指を切り落としてしまったか。すまない」
「ん? 何謝ってるんだ? 謝るのは俺の方だ」


「なに?……んっ! なぜだ!!」



 驚く西園寺の顔。
 その目は俺の右手に釘付けにされていた。
 彼が驚くのも当たり前だ、俺の指は切断なんかされちゃいない。ちゃんとくっついているんだから。
 じゃあなんで、西園寺は刀ごと一回転できたのかって?
 簡単さ。


 折ったんだよ。刀身部分をね。


 だから、西園寺が手にしている刀は4分の3くらいの長さになった折れた刀だ。
 西園寺が力を込めた瞬間、俺が握りつぶした刀の上部分は、足元に散乱している。


 本当は西園寺あいつを殴った後の治療費について謝るつもりだったんだがな。装備品まで壊してしまうとは。
 俺は頭を掻(か)きながら西園寺に謝った。



「すまない。刀を折るつもりはなかったんだがな」


 俺が少しニヤついていると西園寺の様子が変わった。
 しばしの沈黙の後に大笑いを始めたのだ。会場全体の注目を浴びるくらいに。


「……ははははは」
「どうした?」
「……ははははは」


 不敵な笑みを浮かべる西園寺。
 折れた刀をゆっくり上げて自身の目線ほどの高さまでくると止め、開いた瞳孔でこちらを見つめる。


【カチャッ!】


 そして、西園寺あいつは折れた刀を俺に向けて、笑いながら語りかけてきたんだ。
 壊れた人形みたいに。


「ははは! 貴様を侮(あなど)っていたようだ。見せてやる! 西園寺家の本気を!……僕のスキルをな!!」
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