85 / 123
第5章崩れゆく世界
84総力戦
しおりを挟む氷華と俺が力を合わせればリリアンにも勝てる――。
そんな淡い期待は、乾いた断裂音とともに消え去った。成人の姿に変わったリリアンは氷華の武器である剣をたたき折ったのだ。
涼しい顔をしながら氷華のを見つめる瞳は、悪意に満ちていた。
◆◇◆◇◆◇◆
「嘘……でしょ?」
氷華の顔は失意と驚きに満ちていた。折れた剣を自身に近づけて今にも泣きそうな目で見つめている。
その悲しそうな姿に王としての威厳は存在しない。
しかし、彼女には醜態を晒す時間すら与えられないのである。
「氷華しっかりしろ! まだあいつの攻撃は終わってない」
「え?」
氷華が視線を折れた剣に向けている時も、俺はリリアンから目を逸らさなかった。
あいつは……あの化け物は、何をしでかすか分からない。
そう。今も折れた剣先が地面に突き刺さる程の時間しか与えられなかったのだ。
リリアンは左手を氷華の顔目掛けて伸ばしてきた。
「そんなに怖がらなくていいのよ。王様」
氷華を見つめるリリアンは不敵に微笑んでいる。頭を鷲掴みにするつもりなのだろうか、手をめいいっぱい開けて襲ってくるのだ。
恐ろしい表情は氷華のすぐ後ろにいた俺も気づいている。
(ヤバい……)
リリアンの攻撃から氷華を救う方法は一つしかない。【王】の剣ですら止められなかったのだ。
避ける以外に方法はない。
「氷華!!」
俺は叫ぶと氷華を後ろから抱きしめて、後ろに下がった。
お陰でなんとか間に合ったようだ。リリアンの左手は氷華の頭を掴むことが出来ずに空を切る。
残念そうな顔をしながらリリアンは欠伸をした。
「また避ける気? さっきまで戦えるって言ってたじゃない」
「お前が前の姿のままだったらな」
「自分達は2人して戦うのに、私も奥の手を使ってもいいでしょう?」
「奥の手って……なんで最初からそうしなかったんだ」
俺の質問に対してリリアンは少し黙ると、つまらなそうな顔をしてこう答えた。
「暇だから」
その表情に笑顔はなかった。
もう俺達に興味はない、という事だろうか。確かに先程の攻撃も確実に氷華を殺しにきていた。
少しでも遅れていれば殺されていただろう。
そんな本人の氷華は震えた声でリリアンに質問する。
「あなたは、なんでこんな事するの? 一般人を襲って……自衛官まで」
氷華は俺の腕から離れると、胸に手を当ててリリアンを問いただした。
しかし、真摯な姿勢とは裏腹にリリアンの返答はあっけないものだった。
「特に意味なんてないわよ」
冷たい表情のリリアン。
氷華はギリッと歯を噛み締めると折れた剣を両手で持って、前に構えた。
「あら~。諦めないんだ」
「当たり前でしょ。あなたは許さない」
「お好きにどうぞ」
氷華は真剣な眼差しでリリアンを見つめる。
しかし、リリアンの標的はもう彼女では無かったのだ。少し微笑むと俺の視界から消えたのだ。
やはり、パワーだけではなくスピードも強化されている。さっき俺がリリアンのスピードについていけたのは、わざとだ。
氷華の剣では防げない、と絶望を与えるためにそうしたのだろう。
(あいつ今どこに?……)
俺が顔をしかめたその時であった。
すぐ目の前に現れたのだ、何も俺に感じさせる事もなく。
「え」
「バイバイ。お兄ちゃん」
リリアンは俺の左胸に右手を近づけてくる。この至近距離だ。
もう間に合わない――。
俺が諦めかけた時、意識が途切れた。
彼が強制的に変わったのだ。地下鉄に入ってから一言も声を発しなかった彼が。
「呪怨……発動……」
俺は無意識に声を出していた。
そして、黒い炎のようなものを纏った手でリリアンの手首を握っていたのだ。
それを見てリリアンは驚いている。
「え、なんで?……」
リリアンは顔を歪ませて、こちらを見つめた。
すると彼は俺の体を借りてこう言った。
「少年を虐めないでくれるかのう?」
そう。ダンフォールさんが俺の体に乗り移ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる