97 / 123
第6章過去転移
96囚われの子供
しおりを挟む「私達も連れて行って……」
過去の異世界へと転移した蓮が、最初に話した相手は助けを請う奴隷の子供達であった。
◇◆◇◆◇◆◇
同じボロボロの服を着た子供達。
彼らは蓮に助けを求めてきた。
どうやら、蓮は奴隷として捉えられているあばら屋からの脱出を彼らに話していたらしい。
黙り込む蓮に対して、子供達は必死にせがんできた。
「このままだと私達、奴隷として売り飛ばされちゃう……」
ウルウルとした目が太陽の陽に照らされて悲しく反射する。
困った蓮が顔を背けると、ほかの子供達も同様に怯えていた。肩を震わせてこちらを見つめている。
奴隷としての末路を彼らは分かっているのだろう。
正直、蓮にとっては初めての世界だ。この世界のヒエラルキーも文化も分からない。
ただ予測出来ることがある。それは、こちらの世界にも【職業】という概念があるのだろうという事だ。
奴隷や王など、人々にはステータスが割り振られダンジョンが出没しているはずだ。
蓮のいた世界がこちらの世界に同化していたのならば……。
「わ、分かった。何とかする。でも教えてもらいたい事がある」
「何?! なんでも教えるよ! 私はソフィア」
蓮の返答に目を輝かせる少女。
銀色の長髪をたなびかせて抱きついてきた。他の二人の子供達も同様に近づいてくる。
それにビックリして後ずさる蓮。彼の反応を見てソフィアはクスっと笑った。
「何が聞きたいの?」
「この世界についてだ」
「へ?……」
今度はソフィアが驚いてしまった。
当然だろう。例えるならば、日本人が日本とはどういう国なのかも尋ねる様なものなのだから……。
記憶喪失で記憶が全くないか、哲学的な思考をしているのか、とりあえずこの質問は一般的ではない。
しかし、ソフィアはクスっと笑うと説明を始めた。
「お兄ちゃん変わってるね。お兄ちゃんが何日か前にここにきた時から、思ってたけど」
「は、はは」
何も分からない蓮はただ苦笑いをする他ない。
どうやら、ダンフォールがこのあばら屋についてから日はまだ浅いらしい。
「何を聞きたいのか分からないけど、職業とダンジョンについてかな?」
「うん」
蓮の顔が引き締まった。
やはり、と言うような顔つきである。彼の想像通りこの世界はゲームに似た異世界の様である。
真剣な眼差しの蓮を見て、ソフィアは驚いた様子だったが説明を続けてくれた。
「こ、この世界の職業はね。何種類かあるんだけど……私たちは奴隷、最弱の職業。お兄ちゃんもだよね?」
「そうだね。俺もそっち側だ」
「だからお兄ちゃんも、この奴隷商の小屋にいるんだもんね」
ソフィアはまたクスっと笑った。
ここから脱出できる、淡い希望のおかげで心に余裕が出来たのだろう。その瞳にもう絶望はない。
後ろにいる二人の子供も決意を固めた表情で、勇ましく立っている。
そんな様子を見て蓮は、にこやかに笑った。
「この世界についての質問は後にしよう。今はここからの脱出が優先だ。俺が君達を外に出そう、約束だ」
蓮がそう言うと子供達3人は互いに目を合わせて、さらに和かな表情になった。
ダンフォールはこの子供達を助けるつもりはなかったんだろうか?
そんな不可解な疑問を持ちながらも、蓮は腕を組んで考え始めた。
(どうやってここから出ようか?)
蓮は顎に手を当てて考えている。
ハッキリ言ってスキルを発動させ、攻撃力を上げてこのあばら屋を破壊すればいいだけなのだが、ダンフォールがそれをしなかったのには何か意図があるのだろうか。
ここからの脱出など簡単すぎるのだ。
それに、この場所がどこにあって周りがどうなっているのか?
川なのか、森なのか、それとも街の中なのか、それだけは確認しておきたい。
蓮は子供達の方を向いてゆっくりと口を開けた。
「なあソフィア。この小屋の周りはどうなっているんだ?」
「う~んとね。分かんない……」
「そうだよな」
やはり分からない様子である。
恐らく、この小屋に連れて来られる際も馬車の様なモノで輸送されたのだろう。
脱出を防ぐ為の常套手段である。そこで蓮はある事を考えついた。
それは……。
「ソフィア。この小屋には誰か見回りに来ないのか?」
「来るよ! 兵隊さんがいつも人数を確認しているの!」
「そうか……」
蓮は不敵にわらった。
そう。彼は考えついたのだ。看守にこの世界の事を……俺達がこれからどうすれば良いかを尋ねればいいと。
そして、その時は遠くなかった。
あばら屋の扉から、ガシャンッ……という鍵を開ける音が響いたからだ。
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる