6 / 14
06 オークション戦
しおりを挟む『奴隷商会』とは、かつて禁忌とされた奴隷制度を国家が許可し特別に人身売買を行なっている商会である。
猫耳族やウサ耳族など人間以外の種類を奴隷としてもよい。
国立図書館内のオークション会場で月に1回ほど開かれ、その日1日ので動く金は年間の国家予算並みの規模だという。
「本当にごめんなさい。もうすぐオークションが始まってしまう」
捕らえられた黒い人は頭を地面に押し付けて許しを請うていた。
「全く……ところでオークション会場はどこなんだ? 案内してくれ」
「いいのかゴールド。解放すればこいつは逃げ出すかもしれないぞ」
「フォーレンさん、もう時間がないんだ」
苦々しい顔をして視線を逸らしたが手を上に掲げて解放の呪文を唱える。
黒い人にかけた魔法をとくつもりだ。
その後すぐに魔法は解かれ自由に動けるようになった。
「この恩は忘れません。では私についてきて下さい」
「分かった! 行くぞみんな」
4人は全速力で走り、オークション会場である国立図書館へ向かう。
「フォーレンさん」
「ん? なんだ」
「オークション会場に来るのが王族なら事情を話せば助けてくれるんじゃないですか?」
「無理だな。王族にもまともなのはいるが、オークション会場に来るような奴らにまともなのがいると思うか」
「なるほど……王族にも色々あるんですね」
「最近は、後継争いも酷くてな。政治が全く機能していない」
「この世界も大変なんですね」
「え? この世界?」
「いや、この国も大変なんだなぁって」
実はゴールド前世の記憶が残っていることを未だに誰にも話していない。
仮に話したとしても、信じる者などいないだろう。
ましてや前世の記憶が残ったままで異世界へ転生してきた者など自分くらいだけだと決めつけていた。
「ママどうなるの?」
先程まで黙り込んでいた女の子が勇気を出して話に割り込む。
「大丈夫ですよ。依頼はきっちりと遂行しますから」
「本当に? ありがとう」
今日一番の笑顔を見せてくれたおかげでゴールドだけでなく魔道士もついついニヤけてしまった。
「お金以外のことでニヤけることってあるんですね」
「うるっさいな! てかゴールド、私はお前より年上なんだからな。最近いじりすぎだぞ」
「まぁまぁ、見た目は同じ年齢なんですし」
「くっ……。母親と似て口が達者だな」
走りながら話しているとは思えないほど楽しそうに話す2人を、女の子は不思議そうな顔をして見ている。
まるで痴話喧嘩のようだと。
話しているうちに目の前に大きな建物が見えてきた。立派な装飾を施したドーム型の巨大な建造物だ。
「デカイな。ここがオークション会場か」
「そうです。もう始まっているようですから受付に私から話を通しておきます! 三人は早く会場へ入って」
先頭を走っていた黒い人は受付に向かって一人で走り、残りの三人は大きな入り口に向かっていった。
大きな講堂にたどり着いた三人は絶句する。
巨大な舞台の上に鎖を繋がれてボロボロの服を着ている奴隷達と、横で司会をしている小綺麗なピエロ。
そしてそれを見る観客達は、皆豪華な装飾を施した衣装を着て笑いながらオークションを見ている。
「すごいなこれは。おれ達、物凄い目立ちそうだ」
「そうだな。こんな身なりでは途中で追い出されるぞ。全く……」
魔道士は大きなため息をつくと杖を取り出し円を描くように動かす。
すると三人の衣装が一瞬で貴族が着ているかのような銀色の装飾が施された衣服に変わっていた。
「これで問題ないな」
「ありがとう。フォーレンさん」
「この身なりなら、大金を持っていても怪しまれずに済むだろう」
「お姉ちゃん大好き!」
女の子は喜びを抑えられなくなったのか魔道士に飛びつく。
「ははは。これくらい何ともないよ」
ニヤつきながら頭を撫でるその姿はまるで犯罪者だ。
「二人とも、この位置に座ろう」
ゴールドは真ん中の列の少し上方向に席を取る。
観客席自体は大量にあるのだが実際オークションに手を出せる財力を持つ者は少ないため、観客席はまばらだ。
「お母様のオークションが、まだ終わってなければいいんだけど……」
「堂々としてろゴールド、きっと大丈夫だ」
「ママ……」
三人は椅子の肘掛を強く握りしめる。
依頼者の母がオークション会場に出品されるのをひたすらに待った。
待ちに待った末にオークション終盤で遂にお母様らしき奴隷を見つける。
「お兄ちゃん! ママがいた! 96番って書いてある」
「よし。ゴールドすぐに右手を上げろ!」
「分かっていますよ」
興奮気味の三人は、身を乗り出して会場の舞台をじっと見つめ、ゴールドは右手を勢いよく上げようとした。
その時だった。
「100万ゴールド! 96番!」
突然響いた大きな声に観客はどよめく。
「ただの奴隷に100万ゴールドも払うのか?」
「気でも狂ったのかしら」
どよめく観客達のざわめきに、ゴールド達三人の声も入っていた。
「誰が手を挙げたんだ」
ゴールドが動揺している間に、魔道士がその声の主の姿を捉ると足を組んで唇を噛みしめ始める。
「厄介な相手ね。王族かと思ったけど違うわ。奴隷商会代表のジーン・バッカスよ」
急いで声の方向に目をやると、そこには貫禄のある高齢の人物ではなく20後半ほどの若く美しい女性の姿があった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる