異世界のチート錬金術師 〜元無職が送るのんびりスローライフ〜

ボルメテウス

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07 商会vs錬金術師

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 奴隷商会代表『ジーン・バッカス』。
 通称は奴隷の女王、彼女は一代で奴隷商会を現在の大規模組織に成長させた天才である。
 そんな天才を相手に、オークションで競争しなければならないと分かったフォーレンは苛立っていた。


「まずい、まずいわよゴールド」
「急に慌ててどうしたんですか、相手が奴隷商会代表だからって」
「おれのスキルがあるじゃないか? とでも言う気かしら?」
「そ、そうですけど」
「勘違いしてるわね。向こうは奴隷商会代表。彼女は欲しいものの為なら法も犯すって噂よ」
「どういうことですか?」


 ゴールドは目を見開いて見つめ、その額にはビッショリと汗が滲み出ていた。
 想定外の出来事とフォーレンの動揺ぶりから事の危険性に感づいているのだろう。


「向こうも無限の金額を提示できるってことよ。どうせ商会内で処理すればいいんだから、本当に金銭を商会に払ったかどうかなんて証明しなくていいの」
「そんな、じゃあオークションが終わらないじゃないですか」
「お兄ちゃん大丈夫なの?」


 2人の不安な様子を見て依頼人である小さな女の子がゴールドの膝にしがみついてきた。
 もし母親が奴隷として連れていかれたら彼女はどうやって暮らして行くのだろうか?
 想像すると悲惨な情景しか思い浮かばなくなって気分が悪くなる。
 何も考えたくない。目を閉じて落ち着こうとしたその時だった。


「100万ゴールド! この値より吊り上げるという方はいませんね、ではこれにて……」


 オークションは心を休息させる時を与えてはくれないようだ。
 舞台横にいたピエロが落札者を決定させようとしている。


(やばい、早く声をあげなきゃ……あれ? 声が出ない)


 極度の緊張は人を硬直させる。
 自身のスキルを過信していたゴールドはこの硬直がモロに出ていたのだ。
 あともう少しでピエロが落札者決定の鐘を鳴らそうとした瞬間。


「待ったぁぁぁぁぁ」

 大きな声が会場内を響き渡った。これにより再度会場内がざわつく。


「やっぱり今日は変な人が多いのね」
「一体いくら吊り上げるつもりなんだ」


 今回、ゴールド達は困惑する側に入っていない。なぜなら声を上げたのはフォーレン。
 彼女も『何でも屋商会』の従業員なのだから。


「フォーレンさん。ありがとうございます!」
「お前がいつまで経っても声を出さんから慌てたぞ」


 余裕そうに振舞ってはいるが、フォーレンも大量の汗をかいており極度の緊張状態のようだ。
 常に金欠の魔道士が数百万単位の競争をするなど滅多にないだろうから当たり前かもしれない。
 二人はあたかも大仕事をやったかのような感覚に襲われたが、まだ何も成し遂げていないのだ。
 その事を舞台のピエロから教えられる。


「はい! そこの方! いくらまで値を吊り上げますか?」


 陽気な口調で喋るオークション進行役はフォーレンの席を指で指しながら尋ねた。


「あ。じゃあ、1000万Gで」
「はい、1000万頂きました! って、え? 1000万?」


 流石の陽気な進行役もこの額になると冷静さを失うようだ。
 次の言葉が出てこない。
 対する1000万Gと声をあげたフォーレンも震えていた。


「フォーレンさん! なんで一気に額を吊り上げるんですか」
「ふふふ。いいじゃないか、どうせスキルで無限に出せるんだし。一回言ってみたかったんだよな」
「お姉ちゃんやった! みんな驚いて、だれも手をあげてないよ」


 依頼人の女の子は再び笑顔を見せてくれる。
 実際に混乱していた進行役は何も聞かずに、そのまま落札の鐘を鳴らそうとしている。
 流石に1000万Gを提示すれば馬鹿らしくなって相手も諦めるだろう。
 これで依頼完了、そう思っていた。
 だが世の中は甘くなかったのだ。
 無情にも奴隷の女王の席から再び冷淡な声が聞こえた。


「進行役、終わらせるな!   私は2000万G出すぞ」


 ピエロを含めて全員が奴隷商会代表『ジーン・バッカス』の方を向く。
 この奴隷オークションはまだ終わらないようだ。
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