ナメクジ

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欲と欲が繋ぎ合えば愛となる

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「………」
声が出なかった。先程の発言を撤回するのに最良の言葉が見つからない。というより、元からそんなものは存在しない。私はお姉様に、どれだけ徳を積んだとしても許容されることのない思いを抱いていること。この事実が発言の根底にある限り、私が発言を撤回するということは、私が私を否定することになってしまう。でも、撤回しないと未来永劫お姉様に嫌われたまま灰色の人生を送ってしまう。虚空の中に手を突っ込み必死に言葉を掴み取ろうとするも、当然、何も得られず結局無言を貫いてしまう。

「雪。」
私が俯いたまま沈黙していると、お姉様は私の名前を呼ぶと同時に、春の曙光のような温情を纏った腕で私を抱き締めた。
「お、お姉様。これは…」
私の顔に血の気が戻っていく。
「大丈夫、大丈夫。私は雪を受け止めることが出来るから。」
お姉様は、私の頭を優しく撫でながら救済を説く女神の様に慈愛に満ちた口調で言う。
「嘘です。だって、血の繋がった姉妹に邪な気持ちを抱くことは世の理に背いているから。」
そんなお姉様に、私は自棄気味に反論してしまう。
「確かに、姉妹に情欲を催すのは一般の価値観では受け入れ難いことかもしれない。でも、それが基準って訳じゃない。過去、現在、未来、時間の変遷を辿るだけでも観測不可能な程、価値観というものは形状を変化させているし、普遍の価値観なんて存在しない。一般なんてただの平均に過ぎないの。だから、雪が異常だなんて非難する人間はいない。いたとしても、平均を自らの基準に変換するしか能のない自我が迷子の低俗な木偶人形。気にする必要はない。」
溜まった涙が一粒の滴となり、煌きの尾を伸ばしながら頬を伝う。
「お姉様、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
お姉様の腕の中で先程の非礼、そして今まで卑屈な思考を一つの感情に着していた愚を何度も、何度も詫びる。

「雪、愛してるよ。」
突然、耳元に口を近づけて、お姉様は静かに囁いた。
「うぇっ!?お、お姉様、それは…」
「勿論、姉妹としてじゃなく、一人の女の子としてね。」
お姉様の甘い吐息が、敏感になった耳を愛撫する。微小な刺激が私を情欲の花園へと誘う。
「んぅっ!お姉様っ!ぁんっ!」
「子どもの頃から好きだった。だから雪も私に好意を寄せているってわかって嬉しかった。私も雪の手で身体の色んな部分に触れて欲しいし、雪の身体に触れたい。」
これは、お姉様への愛を拗らせすぎた故に聞こえる幻聴だろうか。脳が、激しく昇温する熱によって蕩けていく。今にも意識が断線しそうだ。
「だから雪…雪?」
「あ、あへぇ…」
あぁ、目の前の景色が霞んでいく…。蓋が緩くなってしまった蜜壺から官能の蜜液が甘美な芳香を拡散させ、悦びを感じながら溢れ出ていく。
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