異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

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第1章 旅立ち

海の神殿

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目を開けると、そこは頂上が平らになっている丘の上だった。丘の斜面は緑の濃い豊かな森でおおわれ、その向こうに美しい瑠璃色の海が広がっている。それは憧れていた南の島の景色そのものだ。

「本当に来たんだ」

知らぬうちに口から言葉が漏れる。まさか、いきなり異世界に飛ばされるとは思わなかった。信じがたいけれど、風が運んでくる潮の香りと照りつける日差しのリアルさが、ここが現実の世界なのだということを教えてくれる。

「暑いなぁ」

今の私はまだ、仕事用の紺色のジャケットをまだ着たままだった。とりあえずジャケットを脱いで腕に抱える。南の島で仕事着とか、これほど不釣り合いな格好はないだろう。

一度家に帰って支度をしてきたかったな。

そう思ったけど、考えたら南の島で過ごすような服も水着も持ってないんだっけ。海水浴なんて、まだ父が生きていたころに行ったきりだ。

「沙世さま、神殿はあちらです」

ルリはそう言いながら私の隣へきて、前方を指し示した。私たちの足元からまっすぐ続く、砂利の敷かれた道。その先の一段高い場所に神殿らしき白い建物が見える。あそこに「綺麗な金の玉」とやらがあるんだろう。

「参りましょう」

ルリにうながされて足を踏み出す。砂利だと思った道は、よく見れば小さな珊瑚のかけらが敷きつめられたものだった。珊瑚を踏みしめる軽やかな音とともに進みながら、私は神殿を観察する。

神殿は全体が白い石でできているようだ。大きさはちょうど学校の体育館くらいだろうか。ギリシャの神殿の遺跡によく似た形で壁がなく、何本もの太い柱が天井を支えるシンプルなつくりだ。人気はまったくないが寂れた様子はなく、南国の日差しを浴びて白く輝いていた。

「うわぁ!」

白い階段を上りきったとき、私は目の前に広がる光景に感嘆の声をあげた。神殿の床全体が、先ほど見た海と同じ深い瑠璃色をしているのだ。瑠璃色の天然石でつくったタイルが敷き詰められているらしく、まるで南国の海をそのままここに写し取ったよう。

神殿の美しさにバカみたいに見惚れていると、ルリが説明をはじめた。

「ここは島の人々に『海の神殿』と呼ばれています」

「すごく綺麗ね」

「綺麗」としか言えない自分の表現力を残念に思いながら、私は答える。

「ティーダル諸島の人々は島の美しい自然を心から愛しているのです。なので神殿を華美な装飾や偶像で飾ることはせず、自然を感じられるシンプルなつくりにしているのです」

自然をたたえることが、それをつくった女神さまをたたえることになる。そういう考えなのだ。

「でも神殿に仕える人はいないの?神官とかは?」

私の質問にルリは首を振った。

「ここは女神さまが最初につくったとされる、南端にある無人島です。年に数回、ティーダル国の国王が祈りを捧げに来る以外は、神聖な島として人の立ち入りが禁止されています」

神官とかじゃなくて、国王が自ら祈るのか。しかしそういうことは、ここは離島なんだな。私の考えを察したように、ルリは後方の海を指した。

「ティーダル本島はあちらになります。準備ができたら参りましょう」

背を向けていたから気づかなかったが、海上のそれほど遠くないところに陸地が見える。あちらがスクリーンで見た三日月型の大きな島なのだろう。

「分かった。それで、あそこのアレが、例の金の玉なのよね?」

私は神殿の中央あたりに浮かぶ金色の球体を指した。

「綺麗な金の玉です!!」

「す、すいません」

すごい剣幕で訂正されたので急いで謝る。この異世界で唯一の頼りであるツアコンの機嫌を損ねたくはない。しかし、その妙なこだわりはなんなのか。

「で、綺麗な金の玉を運ぶにはどうすればいいの?」

「あの綺麗な金の玉の下まで行っていただきまして、そこでこのようにして呪文を唱えます」

ルリはその場にひざまずくと、両手を広げて言った。

「おお!この世で最も美しい女神が与えし神の力、綺麗な金の玉よ!小さき光となって移りたまえ」

「それでどうなるの?」

呪文の一部にツッコミたい部分があるが、今はちょっと置いておこう。

「やっていただければわかります。すぐ済みますので大丈夫です」

ルリはそう言って私を綺麗な金の玉のもとへ行くように促す。ルリ自身はこれ以上近づけないらしい。私は仕方なくひとりで神殿の中央へ進み出た。

確かに綺麗な金の玉だわ。

それを見上げて私は思う。玉はバスケットボールくらいの大きさで、周囲に金色の光を放っている。見ていると何故か気持ちが和むような、ずっと見ていたくなるようなあたたかな光だ。私は綺麗な金の玉を見上げたまま、その場にひざまずいた。

「オオ、コノヨデモットモウツクシイ・・・」

両手を広げ、ルリに教わった呪文を棒読みで唱える。

シュン!!

呪文を唱え終わった瞬間、綺麗な金の玉は私の胸のなかに飛び込んできて消えた。

「ええええ!?!?」

驚いて胸に手をあててみるが、痛みとか熱とか、特に異変は感じない。神殿の隅に立ったままのルリを見やると、彼女はうなずいてこちらへ近づいてきた。

「お疲れさまです。無事に綺麗な金の玉が収納されました」

「しゅ、収納って、私の体に入ったんだけど!?」

「はい、沙世さまの体こそが綺麗な金の玉を安全に運ぶための収納箱なのです。ご安心ください、沙世さまに害はありませんし、普段通りお過ごしいただいて大丈夫です」

「本当に?」

そうは言われても心配である。しかし今のところ何の異変も感じないので様子をみることにした。もう入っちゃったんだから、どうにもならないし。

「それでこれ、どこまで運ぶんだっけ?」

「ティーダル島の北の端にここと似たような神殿があります。そちらへ行けば、綺麗な金の玉はまた沙世さまの体から出て定位置につきます」

「そこも離島なの?」

「いえ、本土の深い森のなかです。ただそんなに急ぐ必要はないので、北部神殿までの行程をゆっくり楽しんでいただければと」

そう言えば、南部、中部、北部と、それぞれ違った楽しみ方があるんだっけか。ここは南部ってことは、あの綺麗な海で遊べるんだよね。女神にも「バカンスを楽しんできて」って言われたし、ここは遠慮せずに思う存分楽しむことにしよう。

「じゃあ、まずは海で遊びたいな!」

泳ぐのはそれほど得意じゃないけど、浅いところでもカラフルな南国の魚を見られるんじゃないかしら。ウミガメとかイルカみたいな生き物もいるかもしれない。

「かしこまりました。ですが本土へ渡る前に、沙世さまの身支度と乗り物の準備をいたしましょう」

そう言ってルリが片手をあげる。空気をかき混ぜるようにその手をクルクルと動かすと、そこから小さな女の子がわらわらと湧いて出てきた。
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