異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

文字の大きさ
18 / 70
第2章 南部のビーチリゾート

幽霊の事情

しおりを挟む
幽霊は名をアキノというそうだ。私が頼むと、ルリは案外あっさりとテュルリ村に寄ることを承知してくれた。多少寄り道になるが、北部へ向かうルートからはそれほど大きく外れないから「まあいいでしょう」とのこと。

「ただし、あなたが女神さまの御許に参るのを拒否したり、沙世さまに危険が及んだりする場合には、私の判断で即刻消滅させます」

ルリはアキノだけではなく、私にも聞かせるように言った。もっともな話なので、私とアキノはそろってコクコクとうなずく。

「ではワゴンに戻りましょうか」

そう言って、貝がたっぷり入ったバケツをポシェットに押し込んだ。

「え?そこに私の服も入ってるんだよね?」

私はちょっと待ったと言うように手のひらをルリに向けた。ポシェットのなかには私が彼女に預けた通勤着が入っているのだ。なのに海水や泥のついたバケツを入れて大丈夫なのか。帰ったらまた着るんだから大事にして欲しいんだけど。

「なかで仕分けしているので大丈夫です」

「どうやって?」

するとルリは肩からポシェットを外し、こちらに向けて口をガバッと開いて見せた。

「おお!」

大きく開いた口のなかに大きな倉庫のような空間が見えたので、私は感嘆の声をあげた。アキノも後ろで「すごーい、こんなの見たことなーい!」とはしゃいでいる。たくさんある棚にはさまざまなものが収納され、私の通勤着はハンガーにかけて吊るしてあった。これなら汚れる心配はなさそうだ。

「もしかして、冷蔵庫もこうなってるの?」

「はい」

だから長いブリンブリンも入ったのか。納得できたので、道を引き返してワゴンへと向かうことにした。今朝のブリンブリンの味を思い出したら、急にお腹が空いてきたのだ。幽霊騒ぎで忘れていたが、ランチの時間はとっくに過ぎてるはず。

ルリが先頭に立ち、アキノは私のすぐ後ろをフワフワと漂うようについてくる。洞窟の外に出ると、日光が容赦なく照りつけてきた。振り向けば、アキノの姿は洞窟内にいたときよりも姿が儚げになっている。体を通して向こう側の景色がバッチリ透けているのだ。

「太陽の光を浴びても大丈夫なの?」

心配して聞いた私に、アキノはケロリとして答えた。

「むしろ気持ちいいわ!洞窟の外に出るのはあそこにたどり着いて以来初めてなの」

深呼吸をするように両手を広げ、日の光を気持ちよさそうに受けている。本当に大丈夫らしい。口調も気さくになって、生きていたころの地が出てきたようだ。

「私は子供のころから外で体を動かすのが大好きだったの。年頃になっても真っ黒に日焼けしてたから、村でクイーン・オブ・メラニンって呼ばれてたんだ」

「なによそれ!」

私は思わず吹きだした。洞窟で見た時はびしょ濡れなうえに青白い顔で怖かったけど、そもそもは元気で明るい人柄らしい。幽霊になってもその性質を保っているのは、きっと気にかかっている未練が恨みではないからだろう。

石だらけの道を歩いてワゴンまで戻ると、昼寝をしていたアヒルンゴたちがいっせいに目を覚ました。ルリが元のビーチに戻るように指示を出す。アキノの事情をもっと聞いておきたいので、テュルリ村に行くのは明日以降にすることにしたのだ。

アヒルンゴたちは幽霊を警戒するでもなく、何ごともないように大人しくワゴンにつながれている。もしかしたら見えてないのかもしれない。

「うわーっ、豪華!こんな部屋見たことないわ」

ワゴンに入ったアキノは大はしゃぎしていた。まあそれも仕方がない。異次元空間だし、神力が使われてるし、彼女から見れば異世界仕様の内装だし。彼女に見せていいのかルリに聞いたけど、幽霊だから良いらしい。

「どうせ女神さまの御許に参るか、消滅するかですから」

そう言った彼女の目は冷ややかで怖かった。当の本人に聞こえてないらしかったのは幸いだろう。

「えええ!部屋のなかに木が生えてる!?」

リビングのヤシやブーゲンビリアを見てさらに驚くアキノ。匂いを嗅いで本物かどうか確認している。手でも触って感触を確かめようとしていたが、幽霊にはできないらしく、手が物質を通り抜けてしまっていた。

「ひぇえええ!この冷たいクローゼットは何!?」

私が冷たい飲み物を探しにキッチンへ行くと、冷蔵庫を発見してまた叫び声をあげる。やっぱりこの世界に冷蔵庫はないようだ。しかし、側でずっと騒がれるのは辛い。彼女は私に憑りついているので、あまり離れることができないらしい。

いいかげんうるさいし、仕事をするチビルリちゃんたちにも迷惑だぞと思っていたら、ルリが地を這うような声で注意した。

「いいかげんに静かにしないと、今ここで消しますよ」

「す、すみません」

アキノはシュンとして、身を縮めるように私の背後に隠れた。ルリのことはちょっと苦手らしい。

「はあ、疲れた」

洞窟内をけっこう歩いたせいか、思ったよりも疲れていたようだ。私がソファの背もたれにもたれると、アキノは当然のように隣に腰かけた。今の彼女は外にいたときほど透けていないので幽霊っぽさは薄れているが、相変わらずびしょ濡れだ。

アヒルンゴワゴンは海のうえを進んでいるけど、私はリビングでお昼ご飯をいただくことにした。今日は魚や野菜、芋を揚げたフライをご飯にのせて丼にするらしい。天丼みたいな感じだろうか。魚はあのグルングルンなんとかかんとかだ。

一応はアキノも食べるか聞いてみたのだけれど、やっぱり食べられないらしい。見られているのも落ち着かないので食事をさっさと済ませると、私は改めて彼女に話を聞いた。

「それで、あなたは何歳で亡くなったの?あの洞窟にいたのは何で?」

「ええっと、死んだのは22歳のときで、たぶん5年くらい前?だと思うんだけど」

ソファに座ったアキノはそう答えた。全身びしょ濡れなのだが、彼女が接しているソファも床も濡れないのは不思議だ。ルリが言うには、そもそも実体は無いので濡れてるのはイメージでしかないそうだ。溺れて死んだので、本人が濡れてると思い込んでるからそういう姿で出てくるらしい。

「村の近くにある崖から海に落ちて死んじゃって、誰にも発見されないまま流れ着いたのがあの洞窟で」

その流れ着いた遺体はしばらくして発見されたが、どこの誰だか分からないので、近くの村に「名無し」として葬られた。それ以来、あの洞窟に縛られたようになって、ずっとあそこにいたという。

「村に戻りたくても戻れないし、洞窟に来た観光客に助けを求めても無視されちゃうし」

アキノは愚痴る。たまに気づく人がいても、皆驚いて逃げてしまったのだとか。それを繰り返すうちに、洞窟を訪れる人がだんだん減ってしまったという。

まあ、幽霊が出るんじゃ人も近づかなくなるよね。

観光名所というわりには寂れていた島の様子を思い浮かべる。それにしても22歳で亡くなったというのは気の毒だ。家族は未だにアキノが生きてるか死んでるか分からないんじゃないのだろうか?まだ彼女の帰りを待っているのかもしれない。

「アキノは結婚してなかったの?」

この島の結婚適齢期とかは知らないが、妹が結婚する歳なら姉だって結婚してておかしくないだろう。

「わっ、私はその、結婚とか興味なくて!ぜんっぜん、興味なくて!!」

なぜか大慌てで否定するアキノ。

「私はその、そそっかしいし、美人でもないし。その点、3歳下の妹は器量も気立ても良くて、私の自慢の妹なの!」

「妹さんとは仲良しだったんだね。でもアキノだって可愛いよ?」

正直な感想を言ったのだけど、彼女は「とんでもない」と両手を振って謙遜する。美人とは言えないかもしれないが、目がパッチリとしていて愛嬌のある顔だ。性格も明るいのだから、モテないことはなかったと思うんだけど。

「じゃあご両親と妹さんと暮らしてたんだね」

「うん、お婆ちゃんもいたよ。家は農家をしていて、いろんな果物を育てて暮らしてたんだ」

アキノの故郷の村はフルーツが名産なのだそうだ。男の子がいないから、アキノか妹のどちらかが婿をとって農家をつぐ予定にしていた。妹の結婚相手は村の幼なじみで、婿に入ることをこころよく承知してくれたそうだ。

「だから今は、妹と幼なじみが私の家族を支えてくれているはず」

アキノは少し悲しそうな顔をする。自分が若くして死んでしまったので、残してきた両親のことを心配しているのだろう。残された家族の悲しみを知っている私は、彼女の家族のことを思って辛くなった。

アキノが亡くなったことや彼女の想いを、なんとか家族に伝えられないかな?

私がそれを知っていることを、不自然に思われずに伝えるにはどうしたらいいだろう?まさか「あなたの娘に憑りつかれまして」って言うわけにはいかないしなぁ。

うまい言い訳が思いつかないけど、とにかくそのテュルリ村に行ってみないことには始まらない。

「ルリ、やっぱり今からテュルリ村に行くことにしない?」

「そうですね、早いほうがいいでしょう」

ルリも賛成してくれたので、私たちはワゴンの行先を変更し、テュルリ村へ向かうことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

k-ing /きんぐ★商業5作品
ファンタジー
2023/5/26 男性向けホトラン1位になりました!  読みやすくするために一話の文字数少なめです!  頭を空っぽにして読んで頂けると楽しめます笑  王族は英才教育によって才能を開花する。そんな王族に生まれたアドルは成人しても才能が開花しなかった。  そんなアドルには友達と言える人は誰もおらず、孤独な日々を送っていた。  ある日、王である父親に好きに生きるようにと、王族から追放される。  ただ、才能に気づいていないのは王のみだった。  地図で一番奥にある辺境の島から、王国に戻りながら旅をしたら才能に気づくだろう。  そんなつもりで旅をしたが、着いた島は地図上にない島だった。  そこには存在しないと思われるもふもふ達が住む島だった。  帰ることもできないアドルはもふもふ達と暮らすことを決意する。  あれ?  こいつらも少し頭がおかしいぞ?

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

処理中です...