異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

文字の大きさ
32 / 70
第3章 城下町のモフモフの宿

もちろん料理は美味しいです!

しおりを挟む
「沙世さま、あそこに見えるのがティーダル王国のお城です」

ルリの声に、私はワゴンの窓に顔をつけるようにして外をながめた。ワゴンは今、一時的に異次元空間との接続を絶って、座席があるだけの元の仕様に戻している。城下町は人が多いため、万が一にでも人に見られてしまうことを避けるためだ。

丘の頂上に建つ城は、午後の日差しを浴びて真っ白に輝いていた。丘の斜面に建つ家々も白で統一されていて、まるで南欧の海辺の町のようだ。

「お城も家も真っ白で、南部にあった建物とずいぶん違うね」

「はい、城下町では石やレンガで建てたものを漆喰で固めた家が多いです。狭い場所に家がたくさん建っているので、防災面からそうしているようです」

ルリの言うとおり、今ワゴンが通っている大通りの両脇にも家が店舗がひしめいていた。道を行きかうアヒルンゴワゴンや人の数も多い。店舗は黄色や赤などでカラフルに塗られている店も多く、それが通りをいっそうにぎやかに感じさせていた。王さまのお膝元の街らしい繁栄ぶりだ。

「ティーダル王国は大陸との貿易で繁栄してきた国です。城下町は上下水道の設備が整い、ガスも普及していますので、快適に過ごせると思います」

ルリの言葉に私はうなずく。今通っている大通りは石畳になっていて綺麗に整備されているし、両側にガス灯も並んでいる。夜でも不便なく出歩けそうな雰囲気だし、治安も悪くはなさそうだ。

「私たちの泊まる宿はお城のある丘の斜面にあるのよね?」

私は街並みの向こうの丘に目を戻して聞いた。斜面にある「良い宿」の予約がとれたので、この町では宿屋に泊まることになっていた。事前に聞いた話では、王城に近い辺りは貴族や官僚が住む高級住宅街だけれど、中腹から下はグレードの高い宿や店舗が多いのだそう。

「はい!全国の食事の美味しい宿ランキング5年連続1位の宿です!!」

ルリはいつものポシェットから一冊の本を出して言った。その表紙には「グルグルンティーダ」と書いてある。なんでもティーダル島で人気のグルメ情報誌なんだそうだ。きっと彼女の愛読書なのだろう。そうに違いない。

私としても食事が美味しいのは嬉しい。それに丘の斜面にあるのだから、きっと眺めもいいに違いない。ここは西海岸だから、きっと海に沈む夕日も眺められるだろう。南部では東海岸沿いにいたので、ここまで斜めに北上するかたちで陸路を進んできたのだ。

「人気なのでなかなか予約が取れないのですが、今回は3泊で予約が取れました」

「え?」

私の胸を嫌な予感が過ぎる。人気なのに空いてるとか、また変な幽霊とかいるんじゃないよね?「ちょっと待って」と背もたれから身を起こした私に、ルリが続ける。

「なんでも急なキャンセルがあったそうです。ラッキーでした」

「そっか」

今回はいわくつきではないようだ。ホッとしてまた車窓に目を戻す。過ぎていく景色を眺めるうちに、ワゴンは丘の坂道を上り始めた。

前方の小窓からアヒルンゴたちの様子をのぞくと、尻尾をフリフリしながら大きな黄色い足で坂道を登っていく。坂道は大変そうでいつも可哀そうな気がしてしまうのだけれど、アヒルンゴたちは力持ちだからこれくらいの坂はどうってことないらしい。

「さあ、つきました」

宿の前でワゴンを降りると、アヒルンゴたちはルリの指示にしたがって宿の駐車場へとワゴンを引いて去っていく。宿には専用の駐車場と、世話をする人がついたアヒルンゴ専用の小屋があるのだそうだ。宿に落ち着いたら、あとで労いに行くことにしよう。

隊長たちを見送ると、私は目の前の宿をじっくり観察した。入り口には「ランプの宿」と書かれた看板がかかげられている、思ったよりもこじんまりとした宿だ。

宿の壁は眩しいくらいに白く、ドアや窓の鎧戸は涼しげなターコイズブルーに塗られていた。敷地と道の境には、ブロックでつくった低い塀が設置されている。花の透かし模様が入った白い真四角のブロックは、ゆるい感じに境界を分けていた。

「「ばふばふばふ!」」

宿の異国的な雰囲気に見惚れていると、ブロック塀の影から小さな白い生き物が2匹走り出てきた。私たちの周囲を数回クルクルと回ると、2匹並んでお行儀よくお座りをする。

「わあ、可愛い!」

私は思わずその場にしゃがみこんで、その生き物たちを眺めた。これは犬だろうか?

サイズもちょうど小型犬くらいの大きさだ。垂れ耳で顔は犬に似ているけど、鼻は短くて扁平な顔をしている。全体的に白いフワフワの毛でおおわれていて、4つの脚は短くて太かった。後ろ脚がちょっと「がに股」だ。お尻にはウサギのような短くて丸い尻尾がついていて、今はそれがぴょこぴょこと動いている。

「これはブルシズという生き物で、沙世さまの世界の犬に近いものです。耳も鼻もよく利くので、セキュリティー対策として飼われているのでしょう」

つまりは番犬ということか。こんなに可愛いのに人間の役にも立つなんて、なんてパーフェクトな生き物なんだろう。モフりたいけど、番犬だというならむやみに触らない方がいいのかもしれない。いや、やっぱりモフりたい。

「「ばふぅ~」」

私が葛藤していると、2匹は「いらっしゃいませ」とでも言うように、そろって頭をさげた。そして立ち上がり、私たちを案内するように宿へ先導する。1階に併設されているレストラン脇の小さな青いドアが宿への入り口らしい。

「では参りましょうか」

ルリが開けてくれたドアを入ると、目の前には薄暗い石の階段があった。モフモフが短い脚でそこを駆けあがっていく。宿のフロントは2階なのだろう。

うわあ!

階段をあがりきって明るいロビーにでた私は息を飲んだ。

正面には大きく開いた3つのアーチ形の開口部があり、広いバルコニーにつながっていた。バルコニーの中央に噴水。その先に見えるのはどこまでも青い海だ。

外からは分からなかったけど、宿は海に面した崖っぷちに建っていたのだ。階段を登ったらロビーの中央へと出て、正面にこの景色が飛び込んでくるように設計されている。きっと階段が暗いのはわざとなのだろう。

「ここから綺麗な夕日が見れそうね!」

「はい、あの噴水のフチはベンチ代わりになるようです。時間になったら眺めに来ましょう」

ロビーには階段と平行の向きにカウンターがもうけられていて、壁は外壁と同じく真っ白、床には柄の入った青いタイルが敷きつめられていた。モフモフたちは役目が終わったとばかりに、壁に空いた小さな穴へと入っていった。あの子たち専用の出入口らしい。

「ようこそお越しくださいました。私がこの宿の女将でございます」

カウンターの奥のドアが開いて、40代くらいのふくよかな女性が姿をみせた。

え!?

その奇妙な姿に、私はあやうく驚きの声をあげるところだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

k-ing /きんぐ★商業5作品
ファンタジー
2023/5/26 男性向けホトラン1位になりました!  読みやすくするために一話の文字数少なめです!  頭を空っぽにして読んで頂けると楽しめます笑  王族は英才教育によって才能を開花する。そんな王族に生まれたアドルは成人しても才能が開花しなかった。  そんなアドルには友達と言える人は誰もおらず、孤独な日々を送っていた。  ある日、王である父親に好きに生きるようにと、王族から追放される。  ただ、才能に気づいていないのは王のみだった。  地図で一番奥にある辺境の島から、王国に戻りながら旅をしたら才能に気づくだろう。  そんなつもりで旅をしたが、着いた島は地図上にない島だった。  そこには存在しないと思われるもふもふ達が住む島だった。  帰ることもできないアドルはもふもふ達と暮らすことを決意する。  あれ?  こいつらも少し頭がおかしいぞ?

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

処理中です...