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第3章 城下町のモフモフの宿
イランコトシーナ3世
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そこに立っていたのは、見たことないくらい派手な服を着た女性だった。
光沢のある生地でできた真っ赤なミニ丈のドレスには、金の縁取りを施したフリルがふんだんにつけられている。大きく露出した胸元には赤い宝石のついた大ぶりのネックレス。髪は凝った形に結い上げ、ドレスと同じフリフリのリボンを飾っている。
派手な金魚のようで可愛いと言えなくもない服装だが、その女性はどう見ても40代だ。恐らくはランプの宿の女将と同じくらいの歳だろう。ほっそりとしていてスタイルはいいけれど、デザインといい、脚や胸の露出の多さといい、年齢にかなりマッチしていない。
「まだならうちの宿にお泊まりになって。この辺りではうちが一番の宿ですのよ」
そう言って厚化粧の顔につくり笑顔を浮かべる。粉をはたき過ぎてかえってシワが目立つ肌と、バチバチに重そうなつけまつ毛がなんだか悲しい。この世界にツケマがあることにもちょっと驚いた。
「すみません、もう宿は決まってるので」
そう答えてその場を立ち去ろうとしたが、女性はその細い眉を片方吊り上げて聞いてきた。
「まさか、ランプの宿じゃありませんこと?」
「え、そうですけど」
「んんんまぁああああああ!」
女性はつくり笑いを引っ込め、叫び声をあげた。ルリが私を守るように前へ出る。通りにいた人々が何ごとかと振り返った。
「あんなインチキ宿に泊まっちゃいけませんわ!!あそこは不衛生だし、食事はまずいし、ぼったくりだし。今からでもいいからうちの宿になさい!!」
ええ?そんなひどい言い方ってある?
私は腹が立った。女性の言っていることは根も葉もない中傷だ。場所が近いので商売敵なのだろうが、そんなウソをついてまで相手を貶めていい理由にはならない。宿主夫婦の人の良い笑顔を思い出した私は、つい女性に言い返してしまう。
「そんなことはありません!お部屋はきれいだし、食事も美味しかったです」
「はい、さすがに食事の美味しい宿ランキング5年連続1位なだけあります」
食べ物のことになると黙っていられないルリも参戦する。私たちのようすに人々は足をとめ、遠巻きにして見物をはじめた。そんな野次馬たちには目もくれず、女性はふんぞり返って腕を組み、バカにしたように私たちを見た。
「ご存じないようなので教えて差し上げるわ。あの宿はガイドブックにお金を払って、不正に1位の座を買ってるのよ」
「ウソよ!実際に美味しかったもの」
「あのガイドブックに不正などありません」
私とルリはまたそろって言い返した。でも女性には少しも響かないらしい。
「確かに料理人の腕は良いですわ。でもあの女将はケチだから、しょぼい食材しか使わせてもらえないそうですの。自分の腕が発揮できないって、彼はいつもワタクシに嘆いていますのよ」
女性は意味ありげな笑いを浮かべる。私とルリは顔を見合わせた。宿の料理には高級食材こそなかったが、どれも新鮮で品質の良いものだったと思う。そうじゃなきゃあの味は出せない。それに、あのご主人がこの変な女性に愚痴を言うとも思えなかった。
「だからあんな宿はおやめなさい。ワタクシがこの地域一番の高貴な宿に案内してさしあげますわ!」
私たちの沈黙をどうとらえたのか、女性は勝ち誇ったように後方の建物を指し示した。そこには金色のペンキを塗りたくった派手派手しい建物がたっていた。規模はかなり大きくて、ランプの宿の倍はありそうだ。
しかしよく見れば、壁はあちこちペンキが剥げて下地がむき出しになっている。明らかに手入れが行き届いていないようだ。入り口に掲げられた大きな看板には、これも金色の文字で「高貴な宿・金ぴか」と書かれていた。ダサい。
「「いえ、けっこうです」」
私とルリが声をそろえて断ると、女性の目がキリキリと吊り上がった。
「いいこと!?金ぴかはこの地域で一番の老舗の高級宿なの。お部屋のインテリアからお料理まで、すべてがこのワタクシ・・・」
女性はここで胸を張り、ツンと顎をあげる。
「イランコトシーナ3世の高貴なエッセンスを反映させてつくりあげましたのよ!」
イランコトシーナ3世!!!
なんじゃあそりゃ。
遠巻きにして私たちを見ていた野次馬のなかからも、「ブフォッ!」「クスクス!」と笑う声が聞こえてくる。イランコトシーナ3世は首をまわして野次馬たちを睨みつけ、腰に手をあてて怒鳴った。
「私は貴族の出身だし、王族の親戚なの!私をバカにするものは不敬罪で訴えるわよ!」
しかし、返ってきたのはヤジだった。
「ウソつけー!お前はあの宿の娘だろう」
「王族の親戚をかたるお前こそ不敬罪だ!」
「な、な、なんですってー!?」
形相を変えたイランコトシーナ3世は、声のした方へと憤然と向かっていく。かかわりを恐れた何人かが離れていくが、多くはとどまって面白そうに成り行きを見ている。
「沙世さま、今のうちに行きましょう」
彼女の注意が野次馬に向かったのを幸いに、私たちはそこから足早に立ち去った。
光沢のある生地でできた真っ赤なミニ丈のドレスには、金の縁取りを施したフリルがふんだんにつけられている。大きく露出した胸元には赤い宝石のついた大ぶりのネックレス。髪は凝った形に結い上げ、ドレスと同じフリフリのリボンを飾っている。
派手な金魚のようで可愛いと言えなくもない服装だが、その女性はどう見ても40代だ。恐らくはランプの宿の女将と同じくらいの歳だろう。ほっそりとしていてスタイルはいいけれど、デザインといい、脚や胸の露出の多さといい、年齢にかなりマッチしていない。
「まだならうちの宿にお泊まりになって。この辺りではうちが一番の宿ですのよ」
そう言って厚化粧の顔につくり笑顔を浮かべる。粉をはたき過ぎてかえってシワが目立つ肌と、バチバチに重そうなつけまつ毛がなんだか悲しい。この世界にツケマがあることにもちょっと驚いた。
「すみません、もう宿は決まってるので」
そう答えてその場を立ち去ろうとしたが、女性はその細い眉を片方吊り上げて聞いてきた。
「まさか、ランプの宿じゃありませんこと?」
「え、そうですけど」
「んんんまぁああああああ!」
女性はつくり笑いを引っ込め、叫び声をあげた。ルリが私を守るように前へ出る。通りにいた人々が何ごとかと振り返った。
「あんなインチキ宿に泊まっちゃいけませんわ!!あそこは不衛生だし、食事はまずいし、ぼったくりだし。今からでもいいからうちの宿になさい!!」
ええ?そんなひどい言い方ってある?
私は腹が立った。女性の言っていることは根も葉もない中傷だ。場所が近いので商売敵なのだろうが、そんなウソをついてまで相手を貶めていい理由にはならない。宿主夫婦の人の良い笑顔を思い出した私は、つい女性に言い返してしまう。
「そんなことはありません!お部屋はきれいだし、食事も美味しかったです」
「はい、さすがに食事の美味しい宿ランキング5年連続1位なだけあります」
食べ物のことになると黙っていられないルリも参戦する。私たちのようすに人々は足をとめ、遠巻きにして見物をはじめた。そんな野次馬たちには目もくれず、女性はふんぞり返って腕を組み、バカにしたように私たちを見た。
「ご存じないようなので教えて差し上げるわ。あの宿はガイドブックにお金を払って、不正に1位の座を買ってるのよ」
「ウソよ!実際に美味しかったもの」
「あのガイドブックに不正などありません」
私とルリはまたそろって言い返した。でも女性には少しも響かないらしい。
「確かに料理人の腕は良いですわ。でもあの女将はケチだから、しょぼい食材しか使わせてもらえないそうですの。自分の腕が発揮できないって、彼はいつもワタクシに嘆いていますのよ」
女性は意味ありげな笑いを浮かべる。私とルリは顔を見合わせた。宿の料理には高級食材こそなかったが、どれも新鮮で品質の良いものだったと思う。そうじゃなきゃあの味は出せない。それに、あのご主人がこの変な女性に愚痴を言うとも思えなかった。
「だからあんな宿はおやめなさい。ワタクシがこの地域一番の高貴な宿に案内してさしあげますわ!」
私たちの沈黙をどうとらえたのか、女性は勝ち誇ったように後方の建物を指し示した。そこには金色のペンキを塗りたくった派手派手しい建物がたっていた。規模はかなり大きくて、ランプの宿の倍はありそうだ。
しかしよく見れば、壁はあちこちペンキが剥げて下地がむき出しになっている。明らかに手入れが行き届いていないようだ。入り口に掲げられた大きな看板には、これも金色の文字で「高貴な宿・金ぴか」と書かれていた。ダサい。
「「いえ、けっこうです」」
私とルリが声をそろえて断ると、女性の目がキリキリと吊り上がった。
「いいこと!?金ぴかはこの地域で一番の老舗の高級宿なの。お部屋のインテリアからお料理まで、すべてがこのワタクシ・・・」
女性はここで胸を張り、ツンと顎をあげる。
「イランコトシーナ3世の高貴なエッセンスを反映させてつくりあげましたのよ!」
イランコトシーナ3世!!!
なんじゃあそりゃ。
遠巻きにして私たちを見ていた野次馬のなかからも、「ブフォッ!」「クスクス!」と笑う声が聞こえてくる。イランコトシーナ3世は首をまわして野次馬たちを睨みつけ、腰に手をあてて怒鳴った。
「私は貴族の出身だし、王族の親戚なの!私をバカにするものは不敬罪で訴えるわよ!」
しかし、返ってきたのはヤジだった。
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