異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

文字の大きさ
42 / 70
第3章 城下町のモフモフの宿

出会いたくない人に出会う

しおりを挟む
「ですが、毛虫もブルシズも毛だらけのモフモフには変わりないでしょう?なぜ毛虫はいけないのですか?」

右手に屋台で買ったブリンブリン入り特大サンドイッチを、左手にアグルの串焼きを2本持ったルリが納得いかないように聞いてくる。

あのあと、ルリが押しつけてくる毛虫を必死でお断りし、屋台が並ぶ散策エリアへとお昼を食べに移動してきたのだ。

ちなみに毛虫は花畑に帰してもらった。あれはあそこに飛んでいた黄色い蝶の幼虫らしい。どうりで大きいはずだ。

「別に毛虫がいけないってワケじゃないんだけど」

まだちょっと食欲がわかない私は、フルーツジュースを片手に言いよどむ。

毛虫に罪はないし、世の中には毛虫を可愛いって思う人もいるだろう。ただ、私は可愛いと思えないしモフりたくないということだ。私はしばらく考えてから、こう続けた。

「ルリ、毛が生えてれば何でも可愛いく感じるってわけじゃないのよ。要は好みの問題だと思うんだけど」

毛さえ生えていれば可愛いなら、私は歯ブラシをペットにしている。

「好みですか?メイパルは揚げ物と刺身のどっちが好きかとか、そういうことでしょうか?」

「う、うん、そうかな?」

私は首をひねる。同じような、違うような。

「つまりは毛虫は沙世さまの好みではなかったということですね?」

どうやら分かってくれたらしい。でもルリの気持ちは嬉しかったので、彼女に感謝の気持ちを伝える。

「残念ながら今回はそうだったけど、私に可愛いものを見せてくれようとしたルリの気持ちは嬉しいよ」

「分かりました」

ルリはうなずくと、私に串焼きをもった手をつき出した。彼女は別に怒っていたわけではなく、毛虫の何がいけなかったのかが純粋に分からなかっただけらしい。

「沙世さまもちゃんと食べてください」

「うん」

私は彼女がかじっていない方をもらって食べる。甘辛いタレに漬けたアグルは豚バラ肉に似た味わいで、噛むと口のなかで肉汁があふれた。

「美味しいね!」

「はい、中央公園の屋台は絶品ぞろいです!」

そのあとも私たち、というか主にルリが、屋台のB級グルメを思う存分堪能した。屋台をめぐりながらけっこう移動したので、私たちは公園のかなり端にまで来てしまったようだ。

「それほど遠くないので、このまま市場まで歩いていきましょう」

そういえば、女将が公園と市場はつながっていると言っていた。市場には生鮮品から日用品、観光客向けのお土産を扱っている店まで、さまざまな店舗が並んでいるのだという。

「じゃあ腹ごなしに歩こうか」

そこから5分も歩くと市場が見えてきた。石畳の広場に屋台のような簡易的な店舗がぎっしりと並んでいて、各店が日よけのために設置した布が色とりどりに風にはためいている。通路は買い物客でいっぱいで、その頭上を呼び込みの声が飛び交っていた。

「お土産が安いよー!」

「そこの旦那さん、ちょっと見ていってくださいよ!」

「本日お鍋が半額でーす!」

店頭に果物が山盛りに並べられた店。ピカピカの鍋がたくさんぶら下げられた店。色とりどりの布に囲まれた店。見ているだけでも楽しい。

私たちはカラフルな山がいくつも並ぶスパイス専門店で、いくつかのスパイスを買った。北部へ向かえばまたキャンプが多くなるので、そのとき使おうと思ったのだ。買ったスパイスの袋を私に見せながらルリが言う。

「沙世さま、この青い袋のスパイスは疲労回復にいいので、疲れたときにお茶にいれて飲むといいです。赤い袋の方は腹痛に効きますので、覚えておいてください」

スパイスには薬に似た作用を及ぼすものがある。この世界でも不調を治すために使うことがあるのだろう。

「でも、ワゴンはいつも清潔で快適だし、チビルリちゃん達がいつも気を使ってくれるから大丈夫よ」

なんせ毎日温泉に入れるのだ。仕事も家事もしなくていいし、体調は今までにないほど絶好調である。

「そうなのですが、念のためです」

さっきの鳥の予言のせいだろうか、なんだか少し心配そうだ。きっと他人が見たら無表情に見えるだろうが、私はずっと一緒にいるせいか、最近は彼女のこういった微妙な表情の変化が分かるようになっていた。

「分かった、覚えておくわ。ねえ、次は魚介を売る店に行ってみようよ」

いい魚があったら宿で料理してもらうのだ。生鮮品は市場の奥のほうにあるらしいので、また人ごみのなかを進んでいく。すると前方に知っている顔を見つけた。

「あっ、ランプの宿のご主人だ」

どうやら食材の仕入れに来たようだ。肉屋の前で誰かと話している。その人物が誰か気がついた私たちは、思わず足を止めた。その人物とは、私がティーダル王国で会いたくない人ナンバーワンのイランコトシーナ3世である。

あろうことか宿の主人の腕に自分の腕をからめ、親し気に体を寄せている。彼女の本日のお召し物は、胸の谷間がバッチリ見える紫のミニのドレスである。フリルがたくさんついたそれは相変わらず派手で露出が激しい。そして絶望的に彼女に似合っていない。

「あの女にかかわるのはよくありません」

彼女から距離をとろうとルリが私の手を引いたけれど、私は動かなかった。

「だけど、昨夜のこともあるし、あのふたりがどういう関係か知りたくない?あの嫌がらせを解決する手がかりになるかもよ」

「ですが」

「大丈夫、イランコトシーナはあのご主人しか見てないもん。気づかれないように近づいて、何を話しているのか聞いてやろうよ」

私がそう言うと、ルリは「仕方ないな」という顔をする。そして周囲を警戒しながらポシェットに手を突っ込み、ツバの広い帽子を2つ出した。

「ならば変装しましょう」

そう言いながら帽子を目深にかぶったので、私もそれにならう。

「沙世さま、しゃくれてください」

「え?なに??」

私は意味が分からずに聞き返した。

「こうして下あごをつき出してしゃくれるのです」

ルリは手本を見せるように、しゃくれてみせる。

「な、なんで、そんな顔するの?」

「変装でふ!こうしていると、こちらの顔を知っている人にもバレにくいのでふ。よく似た他人だと思ってくれまふ」

しゃくれたまま話すので言葉が変だ。

「本当に!?」

「実証済みでふ!」

実証済みって、いったいいつそんな機会があったのか。仕方ないので言われたとおりにしてみせると、ルリは満足そうにうなずいた。

こうして私とルリはしゃくれたまま、主人とイランコトシーナ3世の会話が聞こえる場所までそーっと近づいたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

k-ing /きんぐ★商業5作品
ファンタジー
2023/5/26 男性向けホトラン1位になりました!  読みやすくするために一話の文字数少なめです!  頭を空っぽにして読んで頂けると楽しめます笑  王族は英才教育によって才能を開花する。そんな王族に生まれたアドルは成人しても才能が開花しなかった。  そんなアドルには友達と言える人は誰もおらず、孤独な日々を送っていた。  ある日、王である父親に好きに生きるようにと、王族から追放される。  ただ、才能に気づいていないのは王のみだった。  地図で一番奥にある辺境の島から、王国に戻りながら旅をしたら才能に気づくだろう。  そんなつもりで旅をしたが、着いた島は地図上にない島だった。  そこには存在しないと思われるもふもふ達が住む島だった。  帰ることもできないアドルはもふもふ達と暮らすことを決意する。  あれ?  こいつらも少し頭がおかしいぞ?

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...