異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

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第3章 城下町のモフモフの宿

小事が大事に

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「いったい何があったのですか!?」

駆け寄った私たちに、宿主夫婦は頭をさげてこう説明した。

「お騒がせして申し訳ありません。実は1階の私どもの居室から火が出ました」

「火事ですか?」

聞いたルリに主人が答える。

「ちょっとしたボヤでして。ご近所の皆さんが駆けつけて一緒に消火してくれたので、もう鎮火しました」

夫婦は消火に協力してくれた人々に礼を言っていたのだ。見る限りケガ人もいないようなので、私はホッとする。

「たいしたことはないのですね?」

「はい、お客さまのお泊りにも支障はありませんので、どうぞご安心ください」

女将がそう言って塔のように高い頭をさげた。実際にボヤ騒ぎは落ち着いたようで、駆けつけたなかで一番年長と思われる男性が声をかける。

「では私たちは帰りますけど、くれぐれも気を付けて」

うなずくふたりに、ほかの人々からもあたたかな声が飛ぶ。

「何かあったら大声で呼んでくださいよ!」

「そうだぜ、遠慮することはねえからな!」

どうやらふたりとも近所の人々から好かれているらしい。何者かに執拗な嫌がらせを受けているのも、きっと知っているのだろう。

「「本当にありがとうございます」」

近所の人々が去っていく姿に、宿主夫婦はいつまでも頭をさげていた。その光景を見守っていた私たちのまえに、ブルシズが2匹やってきてちょこんとお座りをする。1匹は昨日のポッチャリちゃんだ。

「ばふっ、ばふぅ~」

2匹がそろって頭をさげる。

「ふふふ、ただいま」

その愛らしい姿に自然に笑みがこぼれた。昨日ここへ着いたときのように、2匹は私たちを先導して階段を駆けあがっていく。ポッチャリちゃんは体が重いせいかちょっと遅いけど、ムチムチのお尻が可愛いからモーマンタイである。

私たちは部屋に戻らずに、そのままロビーのバルコニーへ向かった。涼しげに水しぶきをあげる噴水のフチに腰かける。

「おいで」

試しに両手を出してみせると、ポッチャリちゃんが「はぁ~い」というようにやってきて、抱っこさせてくれる。もう1ぴきは仰向けに寝ころんで警備体制に入った。この子は職務に忠実らしい。

ルリはバルコニーの手すりから身を乗り出して外を確認してまわった。昨夜のこともあるし、私の安全が心配なのだろう。

「沙世さま、私は念のため1階を確認してきます。周囲に怪しい気配はありませんが、もし何かあったら大声で呼んでください」

「うん、ブルシズちゃん達もいるし大丈夫よ」

ずっしりと重いポッチャリちゃんを膝にのせた私は、ムチムチのモフモフを堪能しながら返事をした。いざとなったら神力を持ったルリがいるし、私はそれほど不安を感じていなかった。膝のうえのブルシズに声をかける。

「夕日が綺麗だねぇ」

「ばふぅう」

夕日は地平線にかなり近づいていた。瑠璃色の海に太陽の光が反射して、1本の道のように見える。夕日は少しずつ海へと近づきながら、空と海とを茜色に染めていった。私はブルシズを撫でながら、その美しい光景を堪能した。モフモフと夕日は両立できるのだ。昨日もこうすればよかった。

やがて夕日が完全に海の向こうへと沈んだ。名残の光線が空をオレンジやピンクに染めている。天頂をあおげば、星がまたたいていた。

なんて綺麗なんだろう!

私はなんだか感激してしまって、膝のうえのモフモフをギュッと抱きしめた。

そこへちょうど、ルリが女将と一緒に戻ってくる。心なしか女将の顔色が悪いが、あんなことがあった後なのだから仕方ないだろう。

「沙世さま、夕食にしましょう」

「まあ、この子ったら、お客さまの膝のうえに乗るなんて!」

女将は「申し訳ありません」と謝ると、私の腕からポッチャリちゃんを引き取った。ポッチャリちゃんは「ばふっ」と不満そうに鳴く。なかなかにふてぶてしいようだ。

「いえ、私が抱っこしたかったんです」

「でも重かったでしょう?この子は食いしん坊なものですから、どんどん大きくなっちゃって」

やっぱり食いしん坊なんだ。ルリみたいだわ。

「ふふ、可愛いくていいじゃないですか。ブルシズ達に名前はついてるんですか?」

女将はポッチャリちゃんを床に降ろしながら答えた。

「名前と言うか、首輪の色で呼び分けてるんです。全部で7匹なので、虹の七色にしています」

7匹もいるのか。ポッチャリちゃんは黄色い首輪をしているので、この子は「きいろちゃん」だ。きいろちゃんは女の子で、まだ1歳になったばかりなのだそう。

「まだ3歳くらいまでは体が大きくなるので、このままだと専用通路が通れなくなってしまいますわ」

女将は困った顔で言った。そう言えば、昨日もお尻がちょっと引っかかっていた。これ以上大きくなったら確かに通路に詰まりそうだ。

「沙世さま、早くしないとレストランが混んでしまいます」

もっとブルシズの話を聞きたかったけど、ルリが夕食に行きたそうに私を呼んだので、レストランへと降りることにした。1階のレストランは宿泊客以外も利用できるが、宿主夫婦がふたりで切り盛りする小さな店なため、時間によってはテーブルが空くまで待たされるそうだ。

しかし、ルリはさっき大盛り3杯の麺料理を食べたと思うのだけど、夕飯もしっかり食べる気なんだろうか?

そう、当然しっかり食べるのだ。

「グルングルンメートナパリパリウントコサー の揚げ物とアグルの煮込みを3人前ずつ。コルーのピリ辛焼きを5人前」

それだと全部で11人前である。恐い。でも昨日からルリの食べっぷりを見ていた女将は、何でもないような顔をして注文を受けている。凄い。

ルリは女将が注文を伝えに厨房に向かったのを確認すると、声をひそめて言った。

「沙世さま、どうやら今日のボヤは放火のようです」

「え!?どういうこと?」

とても驚いたけど、周囲の注意を引かないように、私はとっさに声を抑えた。

「さきほど見に行ったとき、ちょうど消防団員が調査に来ていまして」

この国にも消防の役割をする公共機関があって、ボヤであっても鎮火の確認や出火原因の調査に火元を訪れるのだそうだ。その調査員が不審なものを見つけたのだという。

「出火場所は夫婦の寝室で、そもそもガスランプ以外に火の気はない場所なのです。ランプの火災はわりと多いので今回もそうかと思われていたのですが、調査で不審なランプの残骸が見つかりました」

一部が燃え残ったそのランプの残骸は、夫婦には覚えのないものだったという。さらには部屋の窓が外から割られた形跡があった。何者かが窓を割って部屋にランプを放り込み、それが出火の原因になった可能性が高いそうなのだ。

「調査員が言うには、周囲に火が燃え広がるように小型の携帯用ランプを改造した『着火ランプ』というものがあって、放火によく使われるのだそうです」

「ひどいことを考えるわね」

きっと火炎瓶みたいなものなのだろう。そんな悪質なものがこの世界にもあるとは、悪いヤツっていうのはどこにでもいるようだ。私の脳裏にチラとイランコトシーナ3世の顔が浮かんだけど、彼女がそこまでするかどうかは分からない。泥団子と放火では悪質度が違う。

「放火の調査をするには、あまり詳しい情報を公表しないほうがやりやすいようなので、この話は口外しないようにとのことでした」

「分かったわ」


ガッシャーン!!

そのとき、皿が割れる盛大な音が店内に響いた。話しに夢中になっていた私たちはハッとして顔をあげる。ほぼ満席だった店内のあちこちから、悲鳴があがった。

「キャー!!」

「女将さん!?」

何ごとかと立ち上がった私の目に飛び込んできたのは、床に散らばった料理と横たわる女性の姿だった。テーブルに料理を運ぼうとしていた女将が、皿を持ったまま床に倒れたのである。

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