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第3章 城下町のモフモフの宿
仲間が増えた
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女将が回復した翌日、私たちはランプの宿を発つことにした。元の予定よりも長居してしまったので、ここからは無駄な寄り道せずに、北の神殿に向かってキャンプしながら進むつもりだ。
私は綺麗な金の玉を運ぶ役目をきちんと果たしたいし、宿の夫婦の息子が早く見つかるように、女神さまにお願いしたいと思っているからだ。
アヒルンゴワゴンを宿の前に停め、ルリは荷物を積んだりと出発の準備に忙しい。宿の主人に頼んで、ちゃっかりお昼のお弁当もつくってもらっていた。すごく大きな包みだったから、きっとコルーのピリ辛焼きをまた大量に注文したのに違いない。
「準備ができましたので、いつでも出発できる、のですが」
「ああ、うん、そうだね」
歯切れの悪い会話を交わしながら、私とルリはワゴンの前方を見やる。そこには、見送りに出てきてくれた宿主夫婦にモーレツに懐くアヒルンゴ隊長の姿があった。残りの2頭がちょっと引きながらそれを見ている。
「クワックワ!クワ!クワクワッカ!」
「ま、まあまあ、ずいぶん懐かれちゃったこと」
隊長は羽根のなかに女将を抱き込むようにして、何ごとかを熱心に話して(?)いる。女将もそんな隊長が可愛いらしく、困惑した表情を浮かべつつも顔のあたりを優しくなでなでしていた。
「あれって何て言ってるの?」
「沙世さま、さすがにアヒルンゴの言葉は分かりません」
ルリはため息をひとつつくと、隊長のそばに歩み寄った。その太い首をむんずとつかんで、言い聞かせるように命令する。
「さあ出発です!ちゃんと仕事をしなさい。まずは食料調達のために市場へ行きますよ」
「クワックワ!」
隊長は「了解!」と言うようにひと声鳴くと名残惜しそうに女将を放し、いつもの先頭のポジションについた。なんだかいつもより表情がキリッとしている気がする。隊長の後に隊員アヒルンゴ2頭がつき、いつもの三角形をつくる。どうやら出発できそうだ。私は夫婦に別れの挨拶をした。
「では出発します。お世話になりました」
「いえ、お世話になったのは私たちのほうです。本当にありがとうございました」
主人が答えて、夫婦そろって頭をさげる。私は女将さんの手をとった。
「女将さん、息子さんが一日も早くみつかるように、女神さまにお祈りしております」
「まあ、ありがとうございます!私もおふたりの旅路が安全で快適であるように、心からお祈り申し上げます」
「ありがとうございます」
いろいろ事件はあったけれど、食事は美味しいし、ランプを使った内装は素敵だし、眺めは素晴らしいし、良い宿だった。もう2度と来ることはできないのだと思うと残念でならない。私は名残惜しい気持ちを抱えたまま、ルリとともにワゴンに乗り込んだ。
「クワックワー!!」
アヒルンゴ隊長が雄叫びのような声をあげ、ワゴンは静かに動き出した。よく分からないがすごく張り切っているようだ。車窓から顔を出して、私は見送ってくれる夫婦に手を振る。
その姿もとうとう見えなくなり、私は窓を閉めて向かいの席に座るルリに向きなおった。彼女の横にはお弁当の大きな包みが置いてある。そして、そのまた隣にあり得ないものを発見し、私は目をしばたたかせた。
「ええっと、ルリ。その横に置いてあるのは?」
「お昼にいただくお弁当です。あと、市場では売っていない食材を少し分けてもらいました」
「・・・食材」
その言葉に、私は顔から血の気が引くのを覚えた。
「ウソでしょ?まさかこれ、食べるつもりじゃないよね!?」
私は立ち上がって、弁当の隣で寝ていたきいろちゃんを抱き上げた。胸にしっかりと抱え込むと、彼女は寝ぼけたような顔でこちらを見上げて、ひと声鳴いた。
「ばふぅ?」
そう、ワゴンのなかに何故かきいろちゃんがいるのだ。
まさかとは思うが、ルリの場合「ブルシズは唐揚げにすると美味なのです!」とか言い出しかねない。あのなかで一番肉付きのいいのを連れてきているのも恐い。
「ああ、それですか」
腕のなかのきいろちゃんを見て、ルリは思い出したように言った。
「女将がそのブルシズの引き取り手を探していたので、もらい受けたのです。沙世さまに報告するのを忘れていました」
きいろちゃんの成長が著しく、宿の通路を通れなくなるのも時間の問題だと思った女将は、別の飼い主を探すつもりでいたようだ。
「北部の森には危険な獣もいます。もちろん私がお守りしますが、ブルシズがいればそれらをいち早く察知することができます」
「そっか、番犬みたいな感じで連れて行くんだね」
食材じゃなくてよかったと、私は胸をなでおろす。
「はい。それに好みのモフモフがいれば、沙世さまが喜ぶと思いまして」
「ルリー!」
私は感激した。確かにきいろちゃんがいれば、旅はより楽しいものになるだろう。ルリがそこまで考えてくれていたなんて。「食べるつもりでは?」と心配したさっきの自分を殴ってやりたい。
「ありがとうね、ルリ」
礼を言って、きいろちゃんを床に降ろす。彼女は珍しそうにワゴンの床を動き回り、私やルリの足元をクンクン嗅いだりしている。
可愛い!癒されるわ~!
そのようすをニマニマしながら眺めていたら、ふいにルリが話しかけてきた。
「沙世さま」
「え?」
「さっき『食べるつもりじゃないよね?』とか言っていましたけど、私がこれを食べると思ったのですか?」
ルリがこちらをジッと見てくるので、私は困って目を泳がせる。
「え、ええっと、なんと言うか、そのぉ」
「沙世さま!」
「はい!」
思わず背筋を伸ばした私に、ルリは少しガッカリした顔で言った。
「残念なことに、ブルシズの肉は食用には向かないそうです」
ぜんぜん残念じゃないし!
私は心のなかでツッコんだ。
私は綺麗な金の玉を運ぶ役目をきちんと果たしたいし、宿の夫婦の息子が早く見つかるように、女神さまにお願いしたいと思っているからだ。
アヒルンゴワゴンを宿の前に停め、ルリは荷物を積んだりと出発の準備に忙しい。宿の主人に頼んで、ちゃっかりお昼のお弁当もつくってもらっていた。すごく大きな包みだったから、きっとコルーのピリ辛焼きをまた大量に注文したのに違いない。
「準備ができましたので、いつでも出発できる、のですが」
「ああ、うん、そうだね」
歯切れの悪い会話を交わしながら、私とルリはワゴンの前方を見やる。そこには、見送りに出てきてくれた宿主夫婦にモーレツに懐くアヒルンゴ隊長の姿があった。残りの2頭がちょっと引きながらそれを見ている。
「クワックワ!クワ!クワクワッカ!」
「ま、まあまあ、ずいぶん懐かれちゃったこと」
隊長は羽根のなかに女将を抱き込むようにして、何ごとかを熱心に話して(?)いる。女将もそんな隊長が可愛いらしく、困惑した表情を浮かべつつも顔のあたりを優しくなでなでしていた。
「あれって何て言ってるの?」
「沙世さま、さすがにアヒルンゴの言葉は分かりません」
ルリはため息をひとつつくと、隊長のそばに歩み寄った。その太い首をむんずとつかんで、言い聞かせるように命令する。
「さあ出発です!ちゃんと仕事をしなさい。まずは食料調達のために市場へ行きますよ」
「クワックワ!」
隊長は「了解!」と言うようにひと声鳴くと名残惜しそうに女将を放し、いつもの先頭のポジションについた。なんだかいつもより表情がキリッとしている気がする。隊長の後に隊員アヒルンゴ2頭がつき、いつもの三角形をつくる。どうやら出発できそうだ。私は夫婦に別れの挨拶をした。
「では出発します。お世話になりました」
「いえ、お世話になったのは私たちのほうです。本当にありがとうございました」
主人が答えて、夫婦そろって頭をさげる。私は女将さんの手をとった。
「女将さん、息子さんが一日も早くみつかるように、女神さまにお祈りしております」
「まあ、ありがとうございます!私もおふたりの旅路が安全で快適であるように、心からお祈り申し上げます」
「ありがとうございます」
いろいろ事件はあったけれど、食事は美味しいし、ランプを使った内装は素敵だし、眺めは素晴らしいし、良い宿だった。もう2度と来ることはできないのだと思うと残念でならない。私は名残惜しい気持ちを抱えたまま、ルリとともにワゴンに乗り込んだ。
「クワックワー!!」
アヒルンゴ隊長が雄叫びのような声をあげ、ワゴンは静かに動き出した。よく分からないがすごく張り切っているようだ。車窓から顔を出して、私は見送ってくれる夫婦に手を振る。
その姿もとうとう見えなくなり、私は窓を閉めて向かいの席に座るルリに向きなおった。彼女の横にはお弁当の大きな包みが置いてある。そして、そのまた隣にあり得ないものを発見し、私は目をしばたたかせた。
「ええっと、ルリ。その横に置いてあるのは?」
「お昼にいただくお弁当です。あと、市場では売っていない食材を少し分けてもらいました」
「・・・食材」
その言葉に、私は顔から血の気が引くのを覚えた。
「ウソでしょ?まさかこれ、食べるつもりじゃないよね!?」
私は立ち上がって、弁当の隣で寝ていたきいろちゃんを抱き上げた。胸にしっかりと抱え込むと、彼女は寝ぼけたような顔でこちらを見上げて、ひと声鳴いた。
「ばふぅ?」
そう、ワゴンのなかに何故かきいろちゃんがいるのだ。
まさかとは思うが、ルリの場合「ブルシズは唐揚げにすると美味なのです!」とか言い出しかねない。あのなかで一番肉付きのいいのを連れてきているのも恐い。
「ああ、それですか」
腕のなかのきいろちゃんを見て、ルリは思い出したように言った。
「女将がそのブルシズの引き取り手を探していたので、もらい受けたのです。沙世さまに報告するのを忘れていました」
きいろちゃんの成長が著しく、宿の通路を通れなくなるのも時間の問題だと思った女将は、別の飼い主を探すつもりでいたようだ。
「北部の森には危険な獣もいます。もちろん私がお守りしますが、ブルシズがいればそれらをいち早く察知することができます」
「そっか、番犬みたいな感じで連れて行くんだね」
食材じゃなくてよかったと、私は胸をなでおろす。
「はい。それに好みのモフモフがいれば、沙世さまが喜ぶと思いまして」
「ルリー!」
私は感激した。確かにきいろちゃんがいれば、旅はより楽しいものになるだろう。ルリがそこまで考えてくれていたなんて。「食べるつもりでは?」と心配したさっきの自分を殴ってやりたい。
「ありがとうね、ルリ」
礼を言って、きいろちゃんを床に降ろす。彼女は珍しそうにワゴンの床を動き回り、私やルリの足元をクンクン嗅いだりしている。
可愛い!癒されるわ~!
そのようすをニマニマしながら眺めていたら、ふいにルリが話しかけてきた。
「沙世さま」
「え?」
「さっき『食べるつもりじゃないよね?』とか言っていましたけど、私がこれを食べると思ったのですか?」
ルリがこちらをジッと見てくるので、私は困って目を泳がせる。
「え、ええっと、なんと言うか、そのぉ」
「沙世さま!」
「はい!」
思わず背筋を伸ばした私に、ルリは少しガッカリした顔で言った。
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私は心のなかでツッコんだ。
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