64 / 70
第4章 神殿を目指して森を行く
本当のひとりぼっち
しおりを挟む
木のうえで過ごす夜は不安で長かった。ウトウトしたと思えばハッとして目を覚ますを繰り返した私は、空がようやく明るくなり始めたのに気づいて決心を固める。寄り添うように寝ているきぃちゃんをそっと起こした。
「いい?きぃちゃん。下に降りて私が合図をしたら、ワゴンのある方角に向かって走るのよ」
「ばふっ!」
「私が声をかけるまでは何があっても走るのをやめないで、まっすぐワゴンを目指してね」
「ばう!」
まかせてと言うように吠えるきぃちゃん。指輪をしたらきぃちゃんも私の存在をスルーするだろうから、置いて行かれないように頑張ってついて行かないといけない。道もない森のなかを走るのはかなり大変そうだけど頑張るしかないのだ。
そうこうするうちに辺りがだいぶ明るくなってきた。私がもそもそ動きながら見上げると、察してくれたようでアガチー母さんは私を抱えて木を降りた。昨夜と同じ場所で用を足し終えると、立ち上がってきぃちゃんにGOサインを出す。
「走って!」
「ばふっ!」
元気よく鳴いて左前方へ駆け出すきぃちゃん。私は急いで指輪をはめると、その後を追って走り出した。
10メートルくらい走ったところでチラと後を振り返るけど、アガチー母さんは追いかけてはこない。何となくぼんやりとした感じで巣のある木の下に立っている。もしかしたら「あれ?私何であの子の世話してたんだっけ?」とか思っているのかもしれない。
だけどまだ安心はできないので、私は指輪をはめたままきぃちゃんの後姿を追った。慣れない森のなかはブルシズでも走りにくいらしく、追いつけないほどのスピードは出ていない。もっとも宿でも重たそうに走っていたから、これがきぃちゃんの限界なのかもしれないけど。
だけどこの指輪って、使いようによっては役に立つんじゃない?
ぴょこぴょこ跳ねるむっちりヒップから目を離さないように注意しつつ、私は妄想する。例えばだけど、夜道を歩くときに着けていればチカンとかの犯罪にあう心配がなさそうだ。仕事で帰りが遅くなった日でも安心じゃないか。しつこくナンパされてるときとかにも役立ちそう。まあそんな経験はないんだけど。
コツン!
そんな余計なことを考えていたせいか、私は土から出ていた木の根につまづいて前のめりに転んでしまった。ズズッと地面をこすってしまい、手のひらと膝に痛みが走る。
「あ痛たたた!」
私は地面に倒れたまま顔をしかめた。土で汚れた手のひらにうっすら血がにじんでいるが、その土を払う間もなく私は立ち上がる。
いけない、きぃちゃんとはぐれちゃう!
しかし、顔をあげたときにはもう、きぃちゃんの姿は見えなくなっていた。私は大声で彼女の名を呼ぶ。
「きぃちゃん!!」
ここで気づいて指輪を外した。これを着けていたら声が聞こえてもきぃちゃんは戻ってこないだろう。ここまで離れればもうワラバーアガチーに捕まる心配はないはずだ。指輪をポケットにしまうと、口に手をあてて叫ぶ。
「きぃちゃん!きぃーちゃーん!!」
だけど何度呼んでもきぃちゃんは戻ってこない。私は立ちすくんで周りを囲む木々を見やった。360度同じ景色でどちらがどの方角かも分からない。
どうしよう、本当にひとりになっちゃった。
不安と恐ろしさに足が震える。異世界の森で、何にもできない自分がどうやって神殿まで行けばいいんだろう?
私はしばらく考えたあと、きぃちゃんが向かったであろう方角に向かって足を踏み出した。森でずっとつっ立っていても何も解決しない。きぃちゃんの痕跡を追っていけば、少なくともワゴンに向かって進んでいることになる。
うん、大丈夫。きっと大丈夫。
そう自分を励ましながら歩いたけど、もちろん大丈夫じゃなかった。
「はあ、はあ、はあ、喉が渇いた・・・」
きぃちゃんとはぐれて半日くらいは歩いただろうか?太陽はかなり上のほうから森の木々を照らしていた。昨夜アガチー母さんにもらった果物を少しかじっただけなので喉がカラカラだ。どこかに湧き水でもないかと探しながら歩いているけど、アヒルンゴたちのようにはいかないようだ。
「ああ、もうダメかも」
私はその場にへたり込む。慣れない森のなかを歩いてかなり疲れたし、なにより水が飲みたい。
最初のうちはきぃちゃんの足跡を探して追いかけようと思った。でも、そうそう都合よく足跡など残っていないのだ。それでとにかく同じ方角にまっすぐに進むようにしていたのだけれど、大きな木や岩を避けているうちにそれも分からなくなった。
つまり完全に森で迷子になっているのである。
これだったらアガチー母さんの子供でいたほうがまだマシだったかもしれない。きぃちゃんがちゃんとワゴンに戻れたのかも心配だ。アヒルンゴたちは?ルリは帰ってきたのだろうか?
座っているのさえ辛くなって、私は土のうえにゴロンと寝転がった。もう全身泥だらけなので、今さら汚れを心配することもない。むしろひんやりとした土の感触が気持ちよく、私は目を閉じた。
もうここで死ぬのかな。
お母さん、ごめんなさい。
私は冷たくて暗い闇の底へと沈んでいく。もう渇きも痛みも感じなくなった。
「いい?きぃちゃん。下に降りて私が合図をしたら、ワゴンのある方角に向かって走るのよ」
「ばふっ!」
「私が声をかけるまでは何があっても走るのをやめないで、まっすぐワゴンを目指してね」
「ばう!」
まかせてと言うように吠えるきぃちゃん。指輪をしたらきぃちゃんも私の存在をスルーするだろうから、置いて行かれないように頑張ってついて行かないといけない。道もない森のなかを走るのはかなり大変そうだけど頑張るしかないのだ。
そうこうするうちに辺りがだいぶ明るくなってきた。私がもそもそ動きながら見上げると、察してくれたようでアガチー母さんは私を抱えて木を降りた。昨夜と同じ場所で用を足し終えると、立ち上がってきぃちゃんにGOサインを出す。
「走って!」
「ばふっ!」
元気よく鳴いて左前方へ駆け出すきぃちゃん。私は急いで指輪をはめると、その後を追って走り出した。
10メートルくらい走ったところでチラと後を振り返るけど、アガチー母さんは追いかけてはこない。何となくぼんやりとした感じで巣のある木の下に立っている。もしかしたら「あれ?私何であの子の世話してたんだっけ?」とか思っているのかもしれない。
だけどまだ安心はできないので、私は指輪をはめたままきぃちゃんの後姿を追った。慣れない森のなかはブルシズでも走りにくいらしく、追いつけないほどのスピードは出ていない。もっとも宿でも重たそうに走っていたから、これがきぃちゃんの限界なのかもしれないけど。
だけどこの指輪って、使いようによっては役に立つんじゃない?
ぴょこぴょこ跳ねるむっちりヒップから目を離さないように注意しつつ、私は妄想する。例えばだけど、夜道を歩くときに着けていればチカンとかの犯罪にあう心配がなさそうだ。仕事で帰りが遅くなった日でも安心じゃないか。しつこくナンパされてるときとかにも役立ちそう。まあそんな経験はないんだけど。
コツン!
そんな余計なことを考えていたせいか、私は土から出ていた木の根につまづいて前のめりに転んでしまった。ズズッと地面をこすってしまい、手のひらと膝に痛みが走る。
「あ痛たたた!」
私は地面に倒れたまま顔をしかめた。土で汚れた手のひらにうっすら血がにじんでいるが、その土を払う間もなく私は立ち上がる。
いけない、きぃちゃんとはぐれちゃう!
しかし、顔をあげたときにはもう、きぃちゃんの姿は見えなくなっていた。私は大声で彼女の名を呼ぶ。
「きぃちゃん!!」
ここで気づいて指輪を外した。これを着けていたら声が聞こえてもきぃちゃんは戻ってこないだろう。ここまで離れればもうワラバーアガチーに捕まる心配はないはずだ。指輪をポケットにしまうと、口に手をあてて叫ぶ。
「きぃちゃん!きぃーちゃーん!!」
だけど何度呼んでもきぃちゃんは戻ってこない。私は立ちすくんで周りを囲む木々を見やった。360度同じ景色でどちらがどの方角かも分からない。
どうしよう、本当にひとりになっちゃった。
不安と恐ろしさに足が震える。異世界の森で、何にもできない自分がどうやって神殿まで行けばいいんだろう?
私はしばらく考えたあと、きぃちゃんが向かったであろう方角に向かって足を踏み出した。森でずっとつっ立っていても何も解決しない。きぃちゃんの痕跡を追っていけば、少なくともワゴンに向かって進んでいることになる。
うん、大丈夫。きっと大丈夫。
そう自分を励ましながら歩いたけど、もちろん大丈夫じゃなかった。
「はあ、はあ、はあ、喉が渇いた・・・」
きぃちゃんとはぐれて半日くらいは歩いただろうか?太陽はかなり上のほうから森の木々を照らしていた。昨夜アガチー母さんにもらった果物を少しかじっただけなので喉がカラカラだ。どこかに湧き水でもないかと探しながら歩いているけど、アヒルンゴたちのようにはいかないようだ。
「ああ、もうダメかも」
私はその場にへたり込む。慣れない森のなかを歩いてかなり疲れたし、なにより水が飲みたい。
最初のうちはきぃちゃんの足跡を探して追いかけようと思った。でも、そうそう都合よく足跡など残っていないのだ。それでとにかく同じ方角にまっすぐに進むようにしていたのだけれど、大きな木や岩を避けているうちにそれも分からなくなった。
つまり完全に森で迷子になっているのである。
これだったらアガチー母さんの子供でいたほうがまだマシだったかもしれない。きぃちゃんがちゃんとワゴンに戻れたのかも心配だ。アヒルンゴたちは?ルリは帰ってきたのだろうか?
座っているのさえ辛くなって、私は土のうえにゴロンと寝転がった。もう全身泥だらけなので、今さら汚れを心配することもない。むしろひんやりとした土の感触が気持ちよく、私は目を閉じた。
もうここで死ぬのかな。
お母さん、ごめんなさい。
私は冷たくて暗い闇の底へと沈んでいく。もう渇きも痛みも感じなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜
k-ing /きんぐ★商業5作品
ファンタジー
2023/5/26 男性向けホトラン1位になりました!
読みやすくするために一話の文字数少なめです!
頭を空っぽにして読んで頂けると楽しめます笑
王族は英才教育によって才能を開花する。そんな王族に生まれたアドルは成人しても才能が開花しなかった。
そんなアドルには友達と言える人は誰もおらず、孤独な日々を送っていた。
ある日、王である父親に好きに生きるようにと、王族から追放される。
ただ、才能に気づいていないのは王のみだった。
地図で一番奥にある辺境の島から、王国に戻りながら旅をしたら才能に気づくだろう。
そんなつもりで旅をしたが、着いた島は地図上にない島だった。
そこには存在しないと思われるもふもふ達が住む島だった。
帰ることもできないアドルはもふもふ達と暮らすことを決意する。
あれ?
こいつらも少し頭がおかしいぞ?
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる