63 / 70
第4章 神殿を目指して森を行く
不要なアレが役に立つとき
しおりを挟む
だけど逃げるにしても、アヒルンゴたちと合流できないとダメだろう。月明かりを頼りに周囲を見回すけど、見るかぎりアヒルンゴの姿はない。陸上ではあまり早く走れない動物だから、アガチー母さんに振り切られてしまったのかもしれない。
きぃちゃんならワゴンまで戻る道が分かるかな?
私は巣のなかにいるきぃちゃんを見た。さっき私が食べ残した赤い実をムシャムシャと食べている。その顔はいかにものんきそうで、いまいち不安だ。
でも、と思いなおす。さっきは自分の何十倍もあるワラバーアガチーに立ち向かって、私を守ってくれようとした。尻尾にかじりついて、ここまでついて来てくれたのだ。きぃちゃんはちょっと食いしん坊なだけで、ブルシズとしては優秀なのだ。たぶん。
私はアガチー母さんを見上げて、わざとらしくアクビをしてみせた。ワラバーアガチーの子供がアクビをするのか分からないけど、眠たがっていると思ってもらいたかったのだ。
「ぐぅうう」
思惑通りに私は巣へと戻された。アガチー母さんは優しい手つきで私を寝かせると、まだ口をモグモグさせているきぃちゃんをつまんで側に置いた。人間のお母さんが子供にお気に入りのぬいぐるみを渡すような感じだ。
きぃちゃんを抱きしめて私は目を閉じる。しばらく見守ったあと、アガチー母さんはひとつ高いところの枝に登って食事を始めた。果物を食べているので草食のようだ。
「ねぇ、きぃちゃん」
小さな声で呼ぶと、きぃちゃんは目を開けた。
「ここからワゴンへ戻る道は分かる?」
「ばふ!」
小さい声ながらも「YES」と分かる返事だ。
「じゃあこの木から降りることができたら逃げるよ」
「ばうっ!」
私たちはスキを見て逃げることに決めた。だけど木が高すぎて、きぃちゃんを抱いて降りるのは難しそうだ。
なんとか降りれないかしらと頭をひねっていたら、チャンスは向こうからやって来た。
私はトイレに行きたくなって巣のなかでモゾモゾしていたのだが、アガチー母さんはすぐに察したようだ。トイレをさせるために私を抱いて木から降りたのだ。もちろん私はきぃちゃんをしっかり抱いていった。
やった、逃げるなら今だわ!
きぃちゃんを地面に降ろして用を足した私は、目で合図を送って駆け出す。だけど3歩も行かないうちに捕まってしまった。
「ぐぅうう!」
叱るようにうなった母さんは、私たちを連れてまた木に登った。
困ったなぁ。
巣に戻されてしまった私は考える。そう言えば、ルリが「ワラバーアガチーは過保護で子供から目を離さない」と言っていた気がする。だから皆逃げられないのだろう。
うーん、どうしよう。
でも、明日になればエサを探しに行くはず。そのときも子供を連れて行くのだろう。エサを探しに地上に降りたなら、まだチャンスはあるのではないだろうか?
例えば、次に下に降りたら何か音が出るものでも投げて、そちらへ気を逸らせているうちにどこかへ隠れるのだ。そして逃げる。都合の良い隠れ場所があるか分からないけど、朝になって明るくなったらもう少し周囲のようすが分かるかもしれない。
何か気を逸らせられるものがあるといいんだけど。
巣のなかや周囲を手で探ってみる。もちろんそんな都合の良いものはないのだけれど、何気なくパジャマのポケットに手を入れた私は、そこにあるものを入れっぱなしだったことを思い出した。
これ使えるんじゃない?
私はポケットから古びた指輪を取り出して、自分の指にはめてみた。あのタコパーマがおいていった、「つけた人が壁の花になる」呪いの指輪だ。その指輪をつけた人を周囲は認識はするけれど、まったく関心を持たなくなる。まさにパーティーの壁の花状態になるのだ。
試しにきぃちゃんにこんなことを頼んでみた。
「ちょっと吠えてみてくれる?」
でも、きぃちゃんは私をチラと見ただけで無視をする。こんなことは初めてだ。
私は指輪を外してもう一度同じことを頼んだ。今度は「まかしとけ」とばかりに立ち上がって吠えた。
「ばうばうばう!」
私はもう一度指輪をはめると、大声で「え~ん」と泣きマネをしてみせた。子供がよくやるヤツだ。ちょっと恥ずかしいけど、今はアガチー母さんがどう反応するか確かめるほうが大事だ。
これだけ騒げば、過保護なアガチー母さんなら何かしらのアクションを起こすはず。ついでにきぃちゃんに対する反応も見ることができる。
アガチー母さんは、上の枝からこちらを見ることは見た。でもこれまでのように何かしようと動くことはなく、すぐに視線を逸らしてしまう。まるで無関心なようだ。私は内心で手を叩く。
やった!これはきっと使える。
作戦はこうだ。
夜が明けて明るくなったら、トイレのふりをしてアガチー母さんに下に降ろしてもらう。きぃちゃんには合図をしたらワゴンに向かって走るように言っておく。合図を出したあと、私は指輪をしてそのあとを追いかける。
さっきの反応を見ると、アガチー母さんにも指輪の呪いは有効なようだから、指輪をつけた私が逃げても追いかけてこないだろう。きぃちゃんのことはどうでもいいと思っているらしいので、これも同じだ。
よし、これで大丈夫。きっと逃げられるわ!
私はまた横になると、きぃちゃんを抱きしめて目を閉じた。明日はどのくらいの距離を走るのか分からないのだ。眠れるか分からないけれど、明るくなるまでに少しでも体を休めておかなければならない。
きぃちゃんならワゴンまで戻る道が分かるかな?
私は巣のなかにいるきぃちゃんを見た。さっき私が食べ残した赤い実をムシャムシャと食べている。その顔はいかにものんきそうで、いまいち不安だ。
でも、と思いなおす。さっきは自分の何十倍もあるワラバーアガチーに立ち向かって、私を守ってくれようとした。尻尾にかじりついて、ここまでついて来てくれたのだ。きぃちゃんはちょっと食いしん坊なだけで、ブルシズとしては優秀なのだ。たぶん。
私はアガチー母さんを見上げて、わざとらしくアクビをしてみせた。ワラバーアガチーの子供がアクビをするのか分からないけど、眠たがっていると思ってもらいたかったのだ。
「ぐぅうう」
思惑通りに私は巣へと戻された。アガチー母さんは優しい手つきで私を寝かせると、まだ口をモグモグさせているきぃちゃんをつまんで側に置いた。人間のお母さんが子供にお気に入りのぬいぐるみを渡すような感じだ。
きぃちゃんを抱きしめて私は目を閉じる。しばらく見守ったあと、アガチー母さんはひとつ高いところの枝に登って食事を始めた。果物を食べているので草食のようだ。
「ねぇ、きぃちゃん」
小さな声で呼ぶと、きぃちゃんは目を開けた。
「ここからワゴンへ戻る道は分かる?」
「ばふ!」
小さい声ながらも「YES」と分かる返事だ。
「じゃあこの木から降りることができたら逃げるよ」
「ばうっ!」
私たちはスキを見て逃げることに決めた。だけど木が高すぎて、きぃちゃんを抱いて降りるのは難しそうだ。
なんとか降りれないかしらと頭をひねっていたら、チャンスは向こうからやって来た。
私はトイレに行きたくなって巣のなかでモゾモゾしていたのだが、アガチー母さんはすぐに察したようだ。トイレをさせるために私を抱いて木から降りたのだ。もちろん私はきぃちゃんをしっかり抱いていった。
やった、逃げるなら今だわ!
きぃちゃんを地面に降ろして用を足した私は、目で合図を送って駆け出す。だけど3歩も行かないうちに捕まってしまった。
「ぐぅうう!」
叱るようにうなった母さんは、私たちを連れてまた木に登った。
困ったなぁ。
巣に戻されてしまった私は考える。そう言えば、ルリが「ワラバーアガチーは過保護で子供から目を離さない」と言っていた気がする。だから皆逃げられないのだろう。
うーん、どうしよう。
でも、明日になればエサを探しに行くはず。そのときも子供を連れて行くのだろう。エサを探しに地上に降りたなら、まだチャンスはあるのではないだろうか?
例えば、次に下に降りたら何か音が出るものでも投げて、そちらへ気を逸らせているうちにどこかへ隠れるのだ。そして逃げる。都合の良い隠れ場所があるか分からないけど、朝になって明るくなったらもう少し周囲のようすが分かるかもしれない。
何か気を逸らせられるものがあるといいんだけど。
巣のなかや周囲を手で探ってみる。もちろんそんな都合の良いものはないのだけれど、何気なくパジャマのポケットに手を入れた私は、そこにあるものを入れっぱなしだったことを思い出した。
これ使えるんじゃない?
私はポケットから古びた指輪を取り出して、自分の指にはめてみた。あのタコパーマがおいていった、「つけた人が壁の花になる」呪いの指輪だ。その指輪をつけた人を周囲は認識はするけれど、まったく関心を持たなくなる。まさにパーティーの壁の花状態になるのだ。
試しにきぃちゃんにこんなことを頼んでみた。
「ちょっと吠えてみてくれる?」
でも、きぃちゃんは私をチラと見ただけで無視をする。こんなことは初めてだ。
私は指輪を外してもう一度同じことを頼んだ。今度は「まかしとけ」とばかりに立ち上がって吠えた。
「ばうばうばう!」
私はもう一度指輪をはめると、大声で「え~ん」と泣きマネをしてみせた。子供がよくやるヤツだ。ちょっと恥ずかしいけど、今はアガチー母さんがどう反応するか確かめるほうが大事だ。
これだけ騒げば、過保護なアガチー母さんなら何かしらのアクションを起こすはず。ついでにきぃちゃんに対する反応も見ることができる。
アガチー母さんは、上の枝からこちらを見ることは見た。でもこれまでのように何かしようと動くことはなく、すぐに視線を逸らしてしまう。まるで無関心なようだ。私は内心で手を叩く。
やった!これはきっと使える。
作戦はこうだ。
夜が明けて明るくなったら、トイレのふりをしてアガチー母さんに下に降ろしてもらう。きぃちゃんには合図をしたらワゴンに向かって走るように言っておく。合図を出したあと、私は指輪をしてそのあとを追いかける。
さっきの反応を見ると、アガチー母さんにも指輪の呪いは有効なようだから、指輪をつけた私が逃げても追いかけてこないだろう。きぃちゃんのことはどうでもいいと思っているらしいので、これも同じだ。
よし、これで大丈夫。きっと逃げられるわ!
私はまた横になると、きぃちゃんを抱きしめて目を閉じた。明日はどのくらいの距離を走るのか分からないのだ。眠れるか分からないけれど、明るくなるまでに少しでも体を休めておかなければならない。
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる