11 / 95
第1部
11 慚死
しおりを挟む
どこかも分からない牢屋。
私は湿った石の床に、鎖で繋がれていた。
意識だけがはっきりしていて、身体は重く、まるで動かない。
「ふ、ふふ、漸く貴女を投獄できました、長かったなぁ」
牢の中で、笑みを浮かべるアリア。
「ここに光が灯るのは、私が食事を持ってくる時だけ。わかります?」
髪を掴まれて、頭を持ち上げられる。
「手足の感覚ないでしょう?それ感覚が、じゃなくて、もう"無い"んですよ、だから随分軽くなっちゃって……ふふっ芋虫さんですね!いえ、少し残ってるから豚さんでしょうか?ぶひぶひ~」
あまりにも現実味がない。
「傷が塞がらないようにしてますから、血で濡れますけど、どのみち糞尿で汚れますから、いいですよね!」
そんな状態なら、すぐにでも死ねる、これ以上苦しまずに済む。
「もちろん、"壊れたり"しないように、全力の再生魔術をかけてあげますね--っと、その前に」
スプーンを取り出すアリア。
「これは……記念です」
それは左目に突き立てられた。
「欲しかったのですよ!……この綺麗な紫色の瞳──」
◆◆◆◆◆◆◆◆
私はもう、生きていたくなかった。
名誉も、家族も何もかも失ってしまった。
生きている理由がなかった、むしろ手足を失って生かされている事の方が不自然に思えた。
神の意志が勤勉でない信徒を気まぐれに見逃す様に、何故か私は未だに生きている。
暗闇の中、果たしてどのくらい時間が経ったのかも、わからない。
時折アリアが持ってくる食べ物は毒物か、あるいは汚物だった。
喉を通るわけがない。
私が吐いたり残したりしたものは、全て牢屋に投げ捨てられ、酷い臭いが充満している。
魔物や毒虫、獣の死骸、得体の知れない骨、血、液体、体液、ヘドロ、廃油、残飯、まだ形が残ってるだけでも随分と見えた。
最初、私は食事を拒んで餓死しようとした。
例え自殺が最大の罪となるとしても、もう関係がなかった。誰一人として救えもしなかった私が神の国へ行く事など、決してあり得ないのだから。
そう考えた。でも死ねなかった。身体が死ぬ寸前で再生し続けている所為なのか、どれだけ空腹になっても、意識はそのまま。ただ苦しいだけだった。
水審の時のように、途中から生きようとなんてしていない。
最初から最後まで私は死ぬつもりだった。
人がどれくらいで餓死するのかは、分からないけれど、食事が運ばれてくる回数で換算して、3ヶ月以上過ぎた時、もう餓死は諦めた。
次に試したのは窒息。
溜まりに溜まった汚物を含んで息ができなくなるまで詰め込んでいった。
これも結局ダメだった。
お手上げだった。手足のない私にできる自殺は方法は、もう思いつかなかった。
アリアを挑発して殺させようとしても無意味だった。
私に死ぬ方法があるとすれば、それはもう病気か、老衰くらいしかない。でも、多少の病気程度は回復してしまうだろう。やはり老衰しかない。気の長い話だけど。
回復魔術でも、老化までは癒す事が出来ない。それが可能なら、祖母は老化などしなかった筈。
ただ、そもそも身体にどう作用してるかわからないから、可能な限り健康でいないと。
--確実に老衰で死ぬ為に。
私は湿った石の床に、鎖で繋がれていた。
意識だけがはっきりしていて、身体は重く、まるで動かない。
「ふ、ふふ、漸く貴女を投獄できました、長かったなぁ」
牢の中で、笑みを浮かべるアリア。
「ここに光が灯るのは、私が食事を持ってくる時だけ。わかります?」
髪を掴まれて、頭を持ち上げられる。
「手足の感覚ないでしょう?それ感覚が、じゃなくて、もう"無い"んですよ、だから随分軽くなっちゃって……ふふっ芋虫さんですね!いえ、少し残ってるから豚さんでしょうか?ぶひぶひ~」
あまりにも現実味がない。
「傷が塞がらないようにしてますから、血で濡れますけど、どのみち糞尿で汚れますから、いいですよね!」
そんな状態なら、すぐにでも死ねる、これ以上苦しまずに済む。
「もちろん、"壊れたり"しないように、全力の再生魔術をかけてあげますね--っと、その前に」
スプーンを取り出すアリア。
「これは……記念です」
それは左目に突き立てられた。
「欲しかったのですよ!……この綺麗な紫色の瞳──」
◆◆◆◆◆◆◆◆
私はもう、生きていたくなかった。
名誉も、家族も何もかも失ってしまった。
生きている理由がなかった、むしろ手足を失って生かされている事の方が不自然に思えた。
神の意志が勤勉でない信徒を気まぐれに見逃す様に、何故か私は未だに生きている。
暗闇の中、果たしてどのくらい時間が経ったのかも、わからない。
時折アリアが持ってくる食べ物は毒物か、あるいは汚物だった。
喉を通るわけがない。
私が吐いたり残したりしたものは、全て牢屋に投げ捨てられ、酷い臭いが充満している。
魔物や毒虫、獣の死骸、得体の知れない骨、血、液体、体液、ヘドロ、廃油、残飯、まだ形が残ってるだけでも随分と見えた。
最初、私は食事を拒んで餓死しようとした。
例え自殺が最大の罪となるとしても、もう関係がなかった。誰一人として救えもしなかった私が神の国へ行く事など、決してあり得ないのだから。
そう考えた。でも死ねなかった。身体が死ぬ寸前で再生し続けている所為なのか、どれだけ空腹になっても、意識はそのまま。ただ苦しいだけだった。
水審の時のように、途中から生きようとなんてしていない。
最初から最後まで私は死ぬつもりだった。
人がどれくらいで餓死するのかは、分からないけれど、食事が運ばれてくる回数で換算して、3ヶ月以上過ぎた時、もう餓死は諦めた。
次に試したのは窒息。
溜まりに溜まった汚物を含んで息ができなくなるまで詰め込んでいった。
これも結局ダメだった。
お手上げだった。手足のない私にできる自殺は方法は、もう思いつかなかった。
アリアを挑発して殺させようとしても無意味だった。
私に死ぬ方法があるとすれば、それはもう病気か、老衰くらいしかない。でも、多少の病気程度は回復してしまうだろう。やはり老衰しかない。気の長い話だけど。
回復魔術でも、老化までは癒す事が出来ない。それが可能なら、祖母は老化などしなかった筈。
ただ、そもそも身体にどう作用してるかわからないから、可能な限り健康でいないと。
--確実に老衰で死ぬ為に。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる