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第2部
31 酒宴-2
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◆
一人でも全然大丈夫だと、思っていた時期が私にもありました。
「その歳で……ほれ、おいちゃんのくれてやる!」
カエルのような、巨大な目のお爺さんには、酢漬けのニシンを押し付けられた。
「え、あの、ありがとうございます」
「おいちゃんの舌にゃ、酸っぱすぎるだ」
カエルのような舌を出して、ゲラゲラと笑う。
「お爺さんも、生肉がいいのですか?」
「生肉?そんなもの食えるわけない。生魚に限るね」
……それは一体、どう違うんだろう。
◆
「あら、可愛らしい、10歳くらいかしら?はい、どうぞ、甘い物あるわよ、こちらへいらっしゃいな」
顔の半分以上が縦に裂けた口のご婦人(?)からは、得体の知れない棒状の物を渡され、婦人らの席に引きずり込まれ。
「あらまあ、こんな所に。ねえ、この子は何才なの?」
「さぁ?10くらいなんじゃないの?」
「そんな歳で……まあ、この時代に生まれた事を恨むのね」
変異したご婦人方に揉みくちゃにされる。
誰も、人の顔の形は留めていなかった。
「……16……いえ、26です」
「あら、そういう変異?お気の毒ね。みんなもう顔なんて気にしないから、身体が武器だっていうのに」
「はぁ……まあ、困らないので……」
「そんなのダメ、いつ死ぬかも分からないのよ、思い出の一つや二つは、ね?」
「そんな事言われても……"そういうこと"はした事もありませんし……」
「いいじゃない、どうせ死んじゃうんだし、後悔する前に味わっておきなさいよ」
「……考えたこともありませんでした」
「さっき一緒にいたあの鎧の男なんかいいんじゃないの?」
「──っ!な、何をいうのですか!」
「あらら、お顔が真っ赤。やっぱり10歳なんじゃないの?」
「ち、違います!だいたい彼は──」
「じゃあ、私が貰っていいのね?」
「っ!ダメです!」
「ふふ、なら頑張りなさいな」
何故か無性に腹が立った。
◆
「ほれ!飲め飲め!ここじゃ歳なんて関係ねぇ!」
「いやだから私は……」
巨大なザクロから手足を生やしたような物体が、私にワインを注ぐ。
「酒を飲め、二度とかえらぬ世の中だ!」
途中から合流してきた詩人が、腹の六弦を鳴らしつつ、酒を呷る。
「いいぞー!飲め飲め!」
「ああ!これぞ生命よ!」
果実が美味しそうに、果実酒を飲んでいる光景は物凄く不可思議だ。
「……そんなに美味しいのでしょうか?」
「青春は君に巡った!それが、その身の幸だ!さあ!」
詩人は酒盃を差し出して朗々と歌う。
「……じゃ、じゃあ──っ苦い!苦いです!」
一気に口に含んだ酒精の苦味、それは舌の上に登ると、口の中いっぱいに苦味を残して、その次は喉を焼いた。
「はっはっ!嬢ちゃんにはまだ早かったか!」
「たとえ苦くても、君、咎めるな。苦いのが道理、それが自分の命だ!」
「なんですかそれっ!ひどい!」
理不尽だ。
「それが人生の姿だ!」
なお一層、理不尽だ。
一人でも全然大丈夫だと、思っていた時期が私にもありました。
「その歳で……ほれ、おいちゃんのくれてやる!」
カエルのような、巨大な目のお爺さんには、酢漬けのニシンを押し付けられた。
「え、あの、ありがとうございます」
「おいちゃんの舌にゃ、酸っぱすぎるだ」
カエルのような舌を出して、ゲラゲラと笑う。
「お爺さんも、生肉がいいのですか?」
「生肉?そんなもの食えるわけない。生魚に限るね」
……それは一体、どう違うんだろう。
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「あら、可愛らしい、10歳くらいかしら?はい、どうぞ、甘い物あるわよ、こちらへいらっしゃいな」
顔の半分以上が縦に裂けた口のご婦人(?)からは、得体の知れない棒状の物を渡され、婦人らの席に引きずり込まれ。
「あらまあ、こんな所に。ねえ、この子は何才なの?」
「さぁ?10くらいなんじゃないの?」
「そんな歳で……まあ、この時代に生まれた事を恨むのね」
変異したご婦人方に揉みくちゃにされる。
誰も、人の顔の形は留めていなかった。
「……16……いえ、26です」
「あら、そういう変異?お気の毒ね。みんなもう顔なんて気にしないから、身体が武器だっていうのに」
「はぁ……まあ、困らないので……」
「そんなのダメ、いつ死ぬかも分からないのよ、思い出の一つや二つは、ね?」
「そんな事言われても……"そういうこと"はした事もありませんし……」
「いいじゃない、どうせ死んじゃうんだし、後悔する前に味わっておきなさいよ」
「……考えたこともありませんでした」
「さっき一緒にいたあの鎧の男なんかいいんじゃないの?」
「──っ!な、何をいうのですか!」
「あらら、お顔が真っ赤。やっぱり10歳なんじゃないの?」
「ち、違います!だいたい彼は──」
「じゃあ、私が貰っていいのね?」
「っ!ダメです!」
「ふふ、なら頑張りなさいな」
何故か無性に腹が立った。
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「ほれ!飲め飲め!ここじゃ歳なんて関係ねぇ!」
「いやだから私は……」
巨大なザクロから手足を生やしたような物体が、私にワインを注ぐ。
「酒を飲め、二度とかえらぬ世の中だ!」
途中から合流してきた詩人が、腹の六弦を鳴らしつつ、酒を呷る。
「いいぞー!飲め飲め!」
「ああ!これぞ生命よ!」
果実が美味しそうに、果実酒を飲んでいる光景は物凄く不可思議だ。
「……そんなに美味しいのでしょうか?」
「青春は君に巡った!それが、その身の幸だ!さあ!」
詩人は酒盃を差し出して朗々と歌う。
「……じゃ、じゃあ──っ苦い!苦いです!」
一気に口に含んだ酒精の苦味、それは舌の上に登ると、口の中いっぱいに苦味を残して、その次は喉を焼いた。
「はっはっ!嬢ちゃんにはまだ早かったか!」
「たとえ苦くても、君、咎めるな。苦いのが道理、それが自分の命だ!」
「なんですかそれっ!ひどい!」
理不尽だ。
「それが人生の姿だ!」
なお一層、理不尽だ。
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