【完結】偽聖女として追放され婚約破棄された上に投獄された少女は、無慈悲な復讐者になる

銀杏鹿

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第2部

31 酒宴-2

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 一人でも全然大丈夫だと、思っていた時期が私にもありました。

「その歳で……ほれ、おいちゃんのくれてやる!」

 カエルのような、巨大な目のお爺さんには、酢漬けのニシンを押し付けられた。

「え、あの、ありがとうございます」

「おいちゃんの舌にゃ、酸っぱすぎるだ」

 カエルのような舌を出して、ゲラゲラと笑う。

「お爺さんも、生肉がいいのですか?」

「生肉?そんなもの食えるわけない。生魚に限るね」

 ……それは一体、どう違うんだろう。



「あら、可愛らしい、10歳くらいかしら?はい、どうぞ、甘い物あるわよ、こちらへいらっしゃいな」

 顔の半分以上が縦に裂けた口のご婦人(?)からは、得体の知れない棒状の物を渡され、婦人らの席に引きずり込まれ。

「あらまあ、こんな所に。ねえ、この子は何才なの?」

「さぁ?10くらいなんじゃないの?」

「そんな歳で……まあ、この時代に生まれた事を恨むのね」

 変異したご婦人方に揉みくちゃにされる。

 誰も、人の顔の形は留めていなかった。

「……16……いえ、26です」

「あら、そういう変異?お気の毒ね。みんなもう顔なんて気にしないから、身体が武器だっていうのに」

「はぁ……まあ、困らないので……」

「そんなのダメ、いつ死ぬかも分からないのよ、思い出の一つや二つは、ね?」

「そんな事言われても……"そういうこと"はした事もありませんし……」

「いいじゃない、どうせ死んじゃうんだし、後悔する前に味わっておきなさいよ」

「……考えたこともありませんでした」

「さっき一緒にいたあの鎧の男なんかいいんじゃないの?」

「──っ!な、何をいうのですか!」

「あらら、お顔が真っ赤。やっぱり10歳なんじゃないの?」

「ち、違います!だいたい彼は──」

「じゃあ、私が貰っていいのね?」

「っ!ダメです!」

「ふふ、なら頑張りなさいな」

 何故か無性に腹が立った。



「ほれ!飲め飲め!ここじゃ歳なんて関係ねぇ!」

「いやだから私は……」

 巨大なザクロから手足を生やしたような物体が、私にワインを注ぐ。

「酒を飲め、二度とかえらぬ世の中だ!」

 途中から合流してきた詩人が、腹の六弦を鳴らしつつ、酒を呷る。

「いいぞー!飲め飲め!」

「ああ!これぞ生命よ!」

 果実が美味しそうに、果実酒を飲んでいる光景は物凄く不可思議だ。

「……そんなに美味しいのでしょうか?」

「青春は君に巡った!それが、その身の幸だ!さあ!」

 詩人は酒盃を差し出して朗々と歌う。

「……じゃ、じゃあ──っ苦い!苦いです!」

 一気に口に含んだ酒精の苦味、それは舌の上に登ると、口の中いっぱいに苦味を残して、その次は喉を焼いた。

「はっはっ!嬢ちゃんにはまだ早かったか!」

「たとえ苦くても、君、咎めるな。苦いのが道理、それが自分の命だ!」

「なんですかそれっ!ひどい!」

 理不尽だ。

「それが人生の姿だ!」

 なお一層、理不尽だ。
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