【完結】偽聖女として追放され婚約破棄された上に投獄された少女は、無慈悲な復讐者になる

銀杏鹿

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第2部

30 酒宴

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「酒を飲め、それこそ永遠の命だ!また青春の唯一のしるしだ!花と酒、君も浮かれる春の季節に、楽しめその一瞬を!それこそが、真の人生だ!」

 変異なのか、腹部から突き出た六弦の楽器を搔き鳴らし、遥か東方の詩を口にしながら、練り歩く詩人。

 街はどこもかしこも、熱に浮かされたようなお祭り騒ぎで、飲食店は路肩に席がはみ出し、露店と区別も付かず、そこら中から玉ねぎやニンニク、羊や豚肉、そして香辛料の香ばしい香りが漂う。

「こ、この匂いは!宮廷で使うような香辛料をそこらで使っているだと!」

 獣はひどく驚いた様子で匂いを嗅いでいる。

「宮廷……?……ああ、胡椒の事ですか?今は"百姓のソース"って言われてますよ?」

「二百年の間に一体何が……」

「……疫病の予防に香草が効くと考えられた結果だそうです、東方への侵攻はそれ以外にも、様々な物をもたらしたとか何とか」

「なるほど……じゅるり」

 真面目に考え込む獣、しかし、その姿に似合わず何かを啜るような音を鳴らした。

「お腹が空いたのですか?」

「……俺の鼻には効きすぎるのだ。あいつらのように欲に負けているわけでは……ない」

 兜の下で見えてはいないけど、ヨダレを垂らしそうになったんだろう。

「さぁ!散財だ!派手に捨ててしまえ!いくら築いても!あの世まで持って行けるものではない!聞けぃ!俺の奢りだぁ!!食え!飲めぇ!」

「ありがとうよ!流石だぜぇ!皆!奢りだぁ!」

「おおぉぉぉぉ!!」

 酔っ払った商人の声に歓喜する人々。その身体には、様々な動物や無機物を混ぜたような変異を抱えている。

 ある者は顔の半分が虫のようになり、ある者は工具と腕が混ざっている、またある者は、ねじれた木のような胴体をしているものもいれば、背中からもう一つの顔を生やしているものすらいる。

「何ぼけっとしてるんだ!さぁ!食え!飲め!」

「えっ、あの、その」

 男は辺りを眺めていた私に、何か得体の知れない串料理や、ワインの瓶を押し付ける。

 その男は何故か、後ろ向きに歩き、頭の半分から上はなかった。

「……う、後ろ向きに歩くと危ないですよ」

「大丈夫だ!俺の目はこっちにもあるからよ!」

 去っていく男は首に付いた目を見開くと、後ろ向きに、またどこかへ去っていく。

「……持ってくる時には瞑ってませんでした?」

「酔っ払いの言うことだ。間に受けるな……」

 獣は当たり前のように、私から串を受け取り、兜を開いて食みながら言い切った。

「それ、食べれますか……?」

「……悪くはないな。やはり香辛料は素晴らしいものだ。……まあ、今の俺には生が一番だが」

 やっぱり生がいいんだ……?身体の中身も狼のようになってるんだろうか。

「生肉はどうだ!どうせ死ぬんだ!食える内に食ってけ!」

 喧騒の中からそんな呼び声が聞こえる。

「……少しいいか、少し離れるだけだ。ほんのちょっとだけだ」

「……いいですよー。ここら辺でウロウロしてるので、探してください。匂いでわかるでしょう?」

 生肉は流石に食べられない。

「……不可能ではない、すぐに戻る」

「はいはい、いってらっしゃい」

 別に、酔っ払いのカラミ程度なら私一人で十分の筈だ。

 ……筈だった。
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