迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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10 パート・オブ・ユア・ワールド◆-3

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 だが、言葉が多少分かるからと言って、それで全て解決するわけでもないらしい。

『異端者がまた◾︎◾︎◾︎!』

『よし、◾︎◾︎だ』

 俺を見るなり、棒切れを持って駆け寄ってくる小人達。

『いけませんよ、エーリカ、トスチャ。客人は◾︎◾︎に◾︎◾︎して◾︎◾︎◾︎◾︎なくては』

 執事風のスカールが二人を止める。

『じゃあ、◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎!』

『◾︎◾︎に◾︎◾︎返すのです』

『わかった◾︎◾︎に◾︎◾︎◾︎』

 スカール達は、何処からか持ってきた塗料で俺の服に落書きを始めた。

 今の俺には、彼らが何を言ってるのか大体でしかわからない。

 聖女様が見聞きしている世界の一端はこう言うものなのだと、教えられている気がした。

『お前達は、何がしたい?』

 覚えたばかりの言葉で尋ねる。

『あ、また◾︎◾︎に◾︎◾︎!異端者なのに!』

『少し、覚えた』

『◾︎◾︎にしては◾︎◾︎がありますが、◾︎◾︎の言葉を知っただけで、姫を◾︎◾︎◾︎できるなどと、思い上がりも◾︎◾︎しい』

『◾︎◾︎◾︎を知る◾︎◾︎』

 別に悪戯(?)をされたり、悪態(らしき言葉)を吐かれるのは大した問題じゃないが、彼らと和解するのは、暫く先になりそうだった。

『オード?』

 絡んでくる小人達を眺めて苦笑いする俺を、不思議そうな顔で見る聖女様。

『何でもない。聖女様』

『そう。皆も◾︎◾︎にしてよ。オードは◾︎◾︎な◾︎◾︎◾︎なんだから』

『◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎に』
『わかったわ!◾︎◾︎にするわ!』
『◾︎◾︎!』

 ……彼らの言葉で話す時の聖女様は複雑な会話も普通に交わしているようだった。

 幽閉されて学習する機会が殆どなかったにも関わらず、だ。

 第二王女の宿題を難無くこなしていたことから見ても、彼女は。

『すごいね、オードは。◾︎◾︎に話せるようになるなんて』

 微笑む聖女様。

 彼女がこういう風に自分達の言葉を交わして会話できる相手、というのは果たしてどのくらい、存在しているのだろうか。

 意味不明な言葉を話したという彼女の母親は、とうに姿を消し、唯一の肉親である陛下はこの場所へ姿を見せる事はない。

 彼女の抱える孤独がどれほどのものだったのか、俺には想像がつかなかった。

『そうでもない……ちゃんと、分かってない』

 これが彼女の世界なのだろう。

 庭園は海で。

 イルカや鯨、サメがいて。

 不思議な小人達がいて。

 俺達と違う言葉を話す。

 一体何が起きているのかは、まるで分からないが、ほんの少しだけ彼女に近づけたような気がした。

 ……だが、そのお陰でもう一つ悩みが増えてしまった。

 彼女は、"分からない"訳じゃないからだ。

 子供を諭すように、"外へ出る為に"薬を制限しようと言ってしまっている。

 結局、陛下の許しが無ければ、外に出ることなんて夢のまた夢でしかない。

 俺がやっていることは、ただの気休めで、中途半端な希望を与えているだけなんじゃないか、とすら思う。

 また、俺は余計なことをしているんじゃないかと。

 "夢"は美しくとも、現実は残酷なのだから。

『私、海に行きたいの』

『海に?』

『お母様に会いに行くの!』

 無邪気に笑う聖女様の顔を見て、俺は。
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