22 / 64
21 フェイキン・イット◇-2
しおりを挟む
◇◇◇◇◇◇◇◇
白骨を纏った青い鮫のような機海獣から、声が聞こえた。
「陛下の機体を強奪して逃げるとは、下手人は貴殿らか?」
「他をあたれ。こちらは第三王子の命令で行動している」
「なら何故我々から逃げる?」
「名乗れ、話はそれからだ」
「私は帝国騎士、七元徳が一人。《遁走曲》と申す。さて、こちらが名乗ったのだ、其方は?」
「……オード。ただの騎士だ」
「聞き違いでなければ、この間除名された──」
「俺はマナ様の騎士。それ以上でも以下でもない。ここは行かせてもらうぞ」
「そうか──ならば役割を果たさせて貰う!」
突然加速した鮫の機海獣が、私達に襲いかかる。
「掴まれ!」
オードが咄嗟に機体を急降下させて、鮫の牙から逃れた。
「一撃躱した程度で、このフーガから──」
「油を売っている暇はない」
急加速して引き離そうとする。
「逃げられると思うなよッ!」
けれど相手も手練れらしく、遅れる事なく追跡して来ている。
「騎士は、なんで…私達…追う?」
「誰かが俺達に罪を着せている……か、他の王子達がマナ様を利用しようとしているか……」
「なんで…私?」
「聖女は権力の象徴だからな」
「……そう」
この国に愛着なんてないし、他の兄弟姉妹なんて殆ど顔を合わせた事が無い。
私にはやらなきゃならない事があるんだから──
「──それで本気で逃げているのかッ!」
フーガとかいう人の声が響く。
機体に掠ったのか、座席は大きく揺れる。
「まだ付いてくるか……!」
「速度だけが取り柄の旧式が私の《モルス・ケルタ》から逃げられるとでも?」
「《死は確実》……か、嫌な名前だな」
私には分からなかったけれど、オードは知っている言葉らしい。
「お前達の死の名前だ!」
「寝言を──!」
鮫の牙を紙一重で躱したオードは、さらに加速させる。
凄まじい速度で空の景色が流れ、座席はさらに酷く揺れる。
「わっ、お、オード!」
「我慢してくれ!」
追手の機海獣から大量の何かが放たれるのが見えた。
それは光の尾を引く、小さい魚のような。
「オード!何か…来る!」
「捕鯨砲だ、当たれば捕まる」
「どうする?」
「遠距離武装があれば撃墜するところだが」
オードは額に少しだけ汗をかいていた。
それだけ集中しているんだろう。
「ない?」
「近接武器以外、全て外されている」
「じゃあ……」
もう無理……なの?
「……直接切る」
まだ方法はあったらしい。
渋っているのは間違いなさそうだけれど。
「……えっ」
「切る。他に一掃する手はない」
「できる?」
「俺を誰だと思っている」
言い切る彼は頼もしい。彼がそう言うなら、私は彼を信じよう。
「オードは、私…騎士」
私の騎士が出来るというのだから。
「……しっかり、掴まっててくれよ」
「何する…つもり?」
「見せてやるよ。ちょっとした曲芸を……な」
機体は上空に向かって上昇し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
白骨を纏った青い鮫のような機海獣から、声が聞こえた。
「陛下の機体を強奪して逃げるとは、下手人は貴殿らか?」
「他をあたれ。こちらは第三王子の命令で行動している」
「なら何故我々から逃げる?」
「名乗れ、話はそれからだ」
「私は帝国騎士、七元徳が一人。《遁走曲》と申す。さて、こちらが名乗ったのだ、其方は?」
「……オード。ただの騎士だ」
「聞き違いでなければ、この間除名された──」
「俺はマナ様の騎士。それ以上でも以下でもない。ここは行かせてもらうぞ」
「そうか──ならば役割を果たさせて貰う!」
突然加速した鮫の機海獣が、私達に襲いかかる。
「掴まれ!」
オードが咄嗟に機体を急降下させて、鮫の牙から逃れた。
「一撃躱した程度で、このフーガから──」
「油を売っている暇はない」
急加速して引き離そうとする。
「逃げられると思うなよッ!」
けれど相手も手練れらしく、遅れる事なく追跡して来ている。
「騎士は、なんで…私達…追う?」
「誰かが俺達に罪を着せている……か、他の王子達がマナ様を利用しようとしているか……」
「なんで…私?」
「聖女は権力の象徴だからな」
「……そう」
この国に愛着なんてないし、他の兄弟姉妹なんて殆ど顔を合わせた事が無い。
私にはやらなきゃならない事があるんだから──
「──それで本気で逃げているのかッ!」
フーガとかいう人の声が響く。
機体に掠ったのか、座席は大きく揺れる。
「まだ付いてくるか……!」
「速度だけが取り柄の旧式が私の《モルス・ケルタ》から逃げられるとでも?」
「《死は確実》……か、嫌な名前だな」
私には分からなかったけれど、オードは知っている言葉らしい。
「お前達の死の名前だ!」
「寝言を──!」
鮫の牙を紙一重で躱したオードは、さらに加速させる。
凄まじい速度で空の景色が流れ、座席はさらに酷く揺れる。
「わっ、お、オード!」
「我慢してくれ!」
追手の機海獣から大量の何かが放たれるのが見えた。
それは光の尾を引く、小さい魚のような。
「オード!何か…来る!」
「捕鯨砲だ、当たれば捕まる」
「どうする?」
「遠距離武装があれば撃墜するところだが」
オードは額に少しだけ汗をかいていた。
それだけ集中しているんだろう。
「ない?」
「近接武器以外、全て外されている」
「じゃあ……」
もう無理……なの?
「……直接切る」
まだ方法はあったらしい。
渋っているのは間違いなさそうだけれど。
「……えっ」
「切る。他に一掃する手はない」
「できる?」
「俺を誰だと思っている」
言い切る彼は頼もしい。彼がそう言うなら、私は彼を信じよう。
「オードは、私…騎士」
私の騎士が出来るというのだから。
「……しっかり、掴まっててくれよ」
「何する…つもり?」
「見せてやるよ。ちょっとした曲芸を……な」
機体は上空に向かって上昇し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました
夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。
全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。
持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……?
これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる