迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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27 サムウェア・ゼイ・キャント・ファインド・ミー◇◆-1

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◇◇◇◇◇◇◇◇

 夢を見た。

 私の庭園が海底の様に、色取り取りの珊瑚で飾られ、埋め尽くされている夢だった。

 壁に描いた海の生き物達が、絵から飛び出して泳ぎ回り、庭園の扉へ押し寄せて破り、外へ流れ出て行く。

 扉から溢れた水流と波は、回廊を駆け巡って宮殿を満たし、宮殿はまるで海に沈んだ様に、海藻や珊瑚に覆われる。

 宮殿にいた人々はその海の中で、それぞれ魚や海獣に変わって泳ぎ出す。

 景色は蒼く染められ、波が宮殿から滝の様に溢れ出して降り注ぐ。

 私の描いた庭園が外の世界に混ざり合っていく。

 私はそれを眺めていた。

 けれど、やがて泳ぎ回っていた者達から、珊瑚が生えて固まり、動かなくなった。

 宮殿は静寂に包まれていった。

 珊瑚は灰になって砕け散った。

 宮殿は灰色の埃に塗れた。

 陸の上では生きていけないのだと、言われている様だった。


 残ったのは寂寞だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「……様……」

 誰かが私を呼んでいるような気がした。

「ん……?」

「マナ様!」

 目を開けると、オードが私を心配そうに、覗き込んでいた。

「オード……?どうしたの……?」

「落ちた時の衝撃で二人とも気絶したらしい。俺は先に起きたんだが…マナ様が起きなくてな……」

「ここ…どこ?」

「下層の中間、旧首都だ」

 起き上がると、辺りは乱雑に積み上げられた鉄屑やら、何かの部品で埋め尽くされたガラクタの山だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ここが…」

 マナ様の目は相変わらず眠たげな目をしているが、いつもより少しだけ声色が明るく聞こえた。

「……外」

 俺達が身を隠した場所は、積み上がったガラクタで雑然としていて、綺麗とは言い難い。

「……」

 裸足のままスタスタと歩き回る彼女は、地面を足で突いたり、転がった鉄屑を触ったりしていた。

「危険だからあまり不用意に……」

「…大丈夫…私は、子供…違う…」

 俺にとって見慣れたガラクタの山でも、彼女にとっては見た事の無い光景なのだろう。

「あ……ケトス……」

 瓦礫の前で眠っていた機海獣──今は俺達に襲い掛かった時の竜の姿──に気がつくと、マナ様は、その黒い装甲を撫でた。

「柔らかい…ない」

「◾︎◾︎……?」

 機海獣は首を持ち上げ、マナ様を見た。

「大丈夫…これ?」

「問題ない、言う事を聞いてくれている」

 原因は全く分からない。マナ様とあの光に何か関係があるのだろうか?

「そう…よろしく…ね」

「◾︎◾︎◾︎」

 機海獣は返事をするように唸ると、再び眠り始めた。

「オード…外は、みんな…同じ?」

「ここは……魔導具が捨ててあるだけだ。もっと綺麗な場所を見せたかったが……この機体……《オルキヌス》は"ここ"だと飛べないからな」

「…飛べない?…何で?」

 マナ様は機海獣……オルキヌスを眺めて首を傾げた。

「帝国の下層はイムラーナの流れが弱い。だから、大きい機海獣は殆ど飛べない。追手も直ぐには来られないがな」

「◾︎◾︎……」

 鈍く唸るオルキヌス。イムラーナの力が弱い場所では彼らの力は発揮できない。

「そう…じゃあ…これから…どうする?」

「飛べる場所まで行く。上空にイムラーナを集めている風車塔にな」

「飛べる場所は、高い位置?…追手…くる?」

「使われていない風車塔まで行かないとならない……だが、下層から上に登る道は帝国の監視がある」

「どうやって…行く?」

「まだ魔術があった頃の通路を使う」

「魔術……」

 そう呟いて、彼女は首に下げた暗い虹色の宝石を眺めた。

「どうしたんだ?」

「何でもない」

 宝石を見つめる彼女の瞳。

 俺はその意味をすぐに理解することが出来なかった。
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