迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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29 サムウェア・ゼイ・キャント・ファインド・ミー◆-3

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 
 階段を降りきって到着したのは、レンガや、石造りの建物が立ち並ぶ、古くからの街並みだった。

 いくらイムラーナの力を借りているとはいえ、結局は空に物を浮かべる程度のことしか出来ない、それだって元々魔術で浮かべていたものだ。

 誰しも魔術が使えたわけでもないが、それでも生活には欠かせなかった。

 それが無くなった以上、俺達の生活というものは……よく言えば古き良き時代へと戻った。

 魔術や魔導具が無く、全てが自分達の手で作られていた時代へと。

 だが、魔術によって栄え、増えた人口を支えるにはそれでは到底及ばない。

 その歪みは下層の更に下へと沈殿して隠されている。

 俺達は結局、魔術があった時代の遺産を食い潰しながら、その上に生きているだけだ。

「人…沢山…いる…」

 マナ様は行き交う人々を見て、ぽかんと口を開けていた。

「街だからな、人がいない街なんて……まあ、無いこともないが」

「……?いない…街?いるの…街?」

 混乱させてしまったらしい。

「気にしないでくれ。いてもいなくても街だ」

 あってるのかあってないのか、よく分からないが。

「そう、なんだ」

 納得した顔をしているマナ様。

 ……教える、というのは案外難しいものだ。

 あまりいい加減なことは言えない。

「あ!……オード!あれ!」

 何か見つけたのか走って行くマナ様。

「お、おいあまり急に」

「いい…匂い」

 マナ様は芳ばしい香り漂う屋台へ向かっていった。

 どうやら揚げ物の屋台らしい。

「お、そこのお嬢ちゃん、旅行か?一つどうだい?」

 マナ様に気がついた屋台の店主が威勢よく尋ねる。

「……うん!」

 疑うこともなく、笑顔で答えるマナ様。

「ほらよ、旧首都名物ポンフリだ、冷めない内に食えよ」

 店主が包みに入れられた芋の揚げ物を差し出す。

「……食べる…?」

 首を傾げるマナ様。

「冷えたら美味くないぞ」

「……ああ!これ…食べ物……!」

 ……そもそも食べ物だとすら理解してなかったらしい。

「あっ…あふいっ!……む!…おいひい!」

 熱がって顔をしかめたり、美味しそうに顔を綻ばせたり忙しいマナ様。

「ははっ!そりゃそうだ!俺の店は旧首都で一番だからな!元祖ポンフリよ!」

 などと言っているが、元々別の国から流れてきた料理である上に、名前も外国語なのだが、それを言うと発祥の地論争が始まるので俺は口を噤んだ。

「ありがとう!」

 お礼を言ってその場を離れようとするマナ様。

「ちょっと待った!お代を貰ってないぜ?」

「お代……?それは……?食べ物……?」

「おいおい、食い逃げか?これだから外国人は……衛兵の──」

「ま、待った、俺が払う!これでいいな!それじゃ!」

 小銭をまとめて置く。

「あ、ありがとよ」

 店主は俺の剣幕に面食らっていた。

「あっ、…オード?」

 マナ様を回収してオルキヌスの中へ乗り込み、

「疲れてるだろうが走ってくれ!オルキヌス!」

 その場から逃げる。

「お代……なに?」

 困惑したマナ様が聞いてくる。

「食べ物を買う…貰うにはお金がいるんだ……食べ物だけじゃない、人と何かを交換するにはお金が」

「あ!それ…知る……アンナ…課題…見た……宮殿…物は?」

 てっきり、第二王女の宿題やらを処理していたから、金銭くらいは理解しているのだと思い込んでいた。

「宮殿のは……陛下に捧げられた物と陛下が買った物だ」

「……私、分からなかった」

 少し落ち込ませてしまったらしい。

「大丈夫だ、貴族街にも知らない人くらい、いるさ、一番偉い場所にいたマナ様が知らなくてもおかしくない」

「私、煙…じゃない…違う」

「……一緒じゃないさ……俺が知ってる」

 ほんの少し座席は静かになった。

 オルキヌスはそんな俺達に何も言わず、運んでいた。


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