迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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34 エルフィン・ナイト◆◇-1

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 書き終えた日記を閉じる。

 微かな寝息が聞こえる。

 俺の側に横たわり、夜の闇に眠っているその白銀の髪。

 それは穏やかな風に揺れ、月明かりに輝きを映す。

 彼女の眠りを守る為、耳を澄まし、感覚を研ぎ澄ませる。

 東に空が白む前に、移動しなければならないだろう、起こさないようにゆっくりと。

 これは夢でも幻覚でもない、そうだったらどんなに楽だっただろうか。

 俺はいつまで偽り切れるだろうか。

 僅かに震える手を押さえ、また自分に言い聞かせる。

 朝が来れば、恐れを知らないように振る舞うことしかできない。

 寄るべない彼女の為に。

 もう、夜明けはすぐそこで待っている。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 曇っていた空は、私が目覚めるとすっかり晴れ渡っていた。

 照りつける日差しが強く、暖かい……むしろ暑いくらい。

 風が涼しいからそこまで気にならないけど、これが夏ってやつなのかな。

 町外れを行くオルキヌスの上から、空を眺めていると、私の視界に不思議な光景が映った。

「見て!オード!あれ!」

「マレルター……ラッコって言った方が分かりやすいか?」

 中空に小さな獣の群れが仰向けで漂っていた。その背中に飛沫のようなイムラーナの光が、ほんの少し見える。

「ラッコ……?飛ぶ……?」

「ああ飛ぶ」

 ラッコって飛ぶの?海に浮かぶ動物じゃなかったの?また機海獣なのかな。

「……あれ、書く」

「日記か?」

「書く、忘れない」

 オードから貰った手帳には、私が描いた帝国の街並みや、食べ物の絵が並ぶ。

 その隣に空を流れていくラッコ達を描き加えていく。

「絵、上手くなったな」

「本物…見る…今。前…見てない」

「見れて、よかったな」

「日記…たくさん…書くこと、ある。紙…足りる、ない」

「……文字も練習すればもっと書けるぞ」

「難しい」

 聞くのは簡単だったけれど、書くのはどうにも難しい。

「……でも、あれ、なんで、飛ぶ?」

「言われてもな……アレも機海獣だろう……多分な」

「多分?」

「誰が作ったのかも分からないし、小さ過ぎて乗れない。空を漂っているだけだ。風に流されて何処かへ行って、朝になると同じ場所へ帰ってくる……それ以外は何も分からない。勝手に増えるしな」

「増える……」
 
『あれは使者です』

 足元にいたスカールがそう言った。

『何か知ってるの?』

『アレは我々と似たような者です、主人は違いますが』

「スカールは何て言ったんだ?」

「あれ…スカール…仲間…似てる…だって」

「……スカール達が何者か分からないんだが……」

『失礼な、我々はマナ様の鼓笛隊という明確な存在ですが』

『その"鼓笛隊"ってなんだ?』

 オードが私達の言葉で聞く。

『フカミル語が多少……いえ、我々はマナ様の安らかな眠りを守る為にいるのです』

「眠り……ね、『俺も仲間だな』」

 そう言ってオードは手を差し出す。

『お守りして頂いている恩義はありますから、加えてやっても良いでしょう、見習いですが』

 応じるスカールは苦笑いだった。

「……言ってることが全部分かるわけじゃないが、言いたい事は分かるさ、まあよろしくな」

『ですが、目覚めは訪れた。こうなった以上、貴方はいずれ選ばなけらばならないでしょう』

「……?どういう意味だ……?」

『スカール?目覚めってなに?何を選ぶの?』

 分からなかったオードに代わって私が聞く。

『マナ様、その時はまもなく訪れる事でしょう……ですが、私から申し上げることが出来ないのです、お許しください』

 深々と謝罪するスカール。なんか誤魔化されている気がしなくもないけれど……

『……分かるなら別にいいんだけど』

 オードが何を選ぶって言うんだろう。

 分からないことばかり。

 まあ、これから知っていけば、大丈夫かな。

 彼が一緒なら、多分。


◇◇◇◇◇◇◇◇
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