迷信聖女は不要らしいので、私は騎士と幸せを探しに行きます。

銀杏鹿

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37 キープ・ザ・カスタマー・サティスファイ◇-1

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◇◇◇◇◇◇◇◇

「何の用だ」

「通行料だ。魔導人形連れとなると、それなりに、分かるだろう?裕福な人間からちゃんと搾り取る、税と一緒だなぁ」

 ヘラヘラと笑う中肉中背のおじさん。

「第三王子の命令で最下層へ向かっている。邪魔をするなら、王族に逆らうも等しい」

「ここで王族も何も関係あるかよ、何様のつもりだ?」

「俺はマナ様の騎士、それ以上でも以下でもない」

「ここはお上品に一対一の決闘なんてしてくれないんだぜ?」

 ゾロゾロと集まってくる、ならず者達。

「知ってるさ、ここのやり方なんてな」

 オードの顔には、冷や汗一つ無かった。

「だったらどうするってんだよ!」

「こうするだけだ」

 オードは一歩で、瞬時に男まで間合いを詰める。

「へっ、脅かしやがって何も」

 次の瞬間、男の服は切り裂かれてバラバラになった。

「な、なんだぁあ!!」

「分からないか?」

「し、知るわけねぇだろ!騎士様なんてよ!」

「……見せたくなかったんだがな」

 嫌そうにフードを取ったオード。

「か、赫眼の──」

「今の俺はオード、マナ様の騎士だ。それ以上で、それ以外でも無い、いいな?」

「い、幾らでもお好きに!で、でも連絡させてくだせぇ!教えなかったら何をされるか」

 怯えた様子の男は急に態度を改めた。

 周りの人達も赫眼と呟いて、ざわざわとしていた。

「……俺から行く。案内してくれ、今の居場所は知らない」

「か、かしこまりましたっ!赫眼の旦那!」

「……なんだったの?オード?」

「……すぐに分かるさ」

 オードは心底面倒臭そうな顔をしていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「で、誰の許しがあって帰った?"息子"よ」

 真っ直ぐ切り揃えられた前髪、サラサラな長い黒髪で炎の様な赤い瞳に鋭い目つき、長身でスラッとした女性。

 彼女は深々と椅子に座り、私の薬によく似た煙を漂わせる管を咥えて、オードに聞いた。

「お母様…なの?」

「くく、柄じゃないな。なぁ?」

 薄く笑う。

「戻ってきた訳じゃない」

「それは良かった。戻ってきたら容赦しないところだった。で、そっちの……名前は?」

「私は、マナ…です」

「私はベストラ。ようこそ、と言いたいところだがマナ、ここは王族や可愛らしい子が遊びに来るようなとこじゃない」

「可愛い……?私?」

「言われたことないか?」

「お父様…以外…初めて」

「…褒め言葉の一つも知らんのか、息子よ」

「マナ様に向かってマナ様ですね、というようなものだ」

 私が私……?どう言う意味なんだろ。

「伝わらんね。で、陛下直属の騎士が──」

 ……私が私で?……私が?

「やめろ、俺はもう……違う」

「続かないのは死んだ父親の血か」

「残り半分は、あんたの血だ」

「知らなかった、初耳だね。じゃあ今の仕事は」

「俺はマナ様の騎士だ。今は第三王子の命令で、帝国を脱出する途中だ」

「……その子、聖女だろ」

「え…なんで…知ってる?」

「今、教えてくれたじゃないか?」

 また薄く笑うベストラさん。

「えっ……?えっ?」

「マナ様、こういう人だ…諦めろ」

「なら、バルバロッサ…陛下も亡くなったか」

「す、すごい」

「なら俺の言いたいことは分かるだろう?最下層の魔導列車を使いたい」

「……南の風車塔か、あいつの機海獣なら登っても直ぐに逃げられる、と」

「何でもお見通しか」

「家族のことなら、何だって」

「……そうか」

「止めはしないがね……ただ、どうしてそこまで」

「マナ様を守る、それが陛下が俺に命じたことだ」

「……はぁ……全く。鍵はくれてやる」

「助かる」

「ありがとうお母様、だろ?」

「柄じゃない」

 オードは苦笑いするだけだった。

◆◆◆◆◆◆◆◆

 
 オードが前日に消した焚き木の上に、枝のような珊瑚が生えていた。

 街は珊瑚に塗り潰され、生きた人間は一人残っていない。

 代わりに、生きているように動く珊瑚が寄生した人間のような何かが溢れかえっていた。

 彼らは何かに誘われるように、同じ方角へ歩く。

 そして、天より来る恐怖のパレードとして、その列を増やして行った。
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